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さて、ゴーレム指揮要塞とでも言うべき“ヘカトンテインの”、遺跡の調査は無事に終了した訳だけども、問題は自立型ゴーレムを起動させるかだね。
因みに要塞とその周りに居たゴーレムは全て回収済み、今度魔域の活性化が起きた時にはかなりの戦力として活躍してくれるだろう。
うん。通常のゴーレムはね。
問題は自立型ゴーレムの方。
自立型ゴーレムは人口の魂こそないけれども、事実上エイルと、ヴァルキュリアシリーズなどの性体兵器と同質の存在と言える。
搭載された人工知能は人間とほぼ同じ知性と能力を持っていて、更に、独立型ゴーレムは外見上もほとんど人間と変わらない姿をしている。
正確には、その体はオリハルコンとアダマンタイトを合わせてつくられた錬金術製の液体金属性出て来ているのだけども、その質感も見た目もまるで本当に人間のようだ。
「なんでここまで外見に拘ったんだろ?」
問題と言うか、疑問はそこだ。
どうして、10万年前の転生者たちは自立型ゴーレムの外見を、完全に人間と区別がつかないまでに仕立てたのだろう?
「この子も、ある意味じゃエイルの姉妹なのかな・・・・・・」
因みに、目の前の独立型ゴーレムは女の子の姿をしている。
と言うか、確認した独立型ゴーレムは全部が女性型だった。何故か男性型ゴーレムは存在しなかった。
10万年前の転生者たちが、何を持って独立型ゴーレムを決定したかについては深く考えない方が良いかも知れないと思うのは気の所為かな?
とりあえず、間違いなく目の前の独立型ゴーレムは正真正銘の美少女だ。感じとしてはドワーフの女の子と言ったところだろうか。
若干ケイに似ている感じもしなくもない。銀色の髪を肩の長さで切り揃えていて、顔つきも整っていてい可愛らしい。華奢な体付きで戦闘用につくられたゴーレムとは思えない所も、ある意味でエイルとよく似ている。
いや、そんな事よりこの子を起こすかどうかなんだけど・・・・・・。
起こすべきだろうな、色々と情報を持っている可能性もあるし、そうでなくても、なんとなくこのまま眠らせたままにするべきじゃないと思う。
流石に、起こすのはこの子だけで、ヘカトンテインの中にあった全ての、2000を超える独立型ゴーレムを起こすつもりは、起動させるつもりはないけどね。
因みに、何でこの子だけを起動させるかと言うと、あからさまに他のゴーレムとは違う場所に、しかも最重要ブロックにポツンと置かれていたから。
まさに、さあ起こすが良いとばかりの配置の仕方だった。
「そんな訳でとりあえず起動」
独立型ゴーレムが眠っているカプセルの再起動スイッチを入れると、即座に再起動プロセスが起動して、10秒もしないでカプセルが開いて、中に居た独立型ゴーレムが動き出す。
「キチンと起きたみたいだね」
「はい。貴方が新しいマスターですね。私はヘカトンテイン所属の独立型ゴーレム。セイレーンシリーズがナンバー00539FA。ウラヌスです」
「ウラヌス。それがキミの名前か」
「はい。私の識別コードです」
識別コードと来たか、まあ確かにそうなるんだろうけどね。
それにしても、やっぱりと言うか、出会ったばかりの頃のエイルに似た雰囲気があるね。感情が抑制された無機質な感じとか。
「それは10万年前の転生者たちが、キミを造った人たちが?」
「はい。私の名前だと与えてくださいました。私たちセイレーンシリーズは、創造主であるマスターよりそれぞれに認識コードを与えられています」
「成程ね。それは認識コードじゃなくて、キミたちに与えた名前だね」
なんだろう。この遺跡を造った転生者の執念が感じられる。
そう言えば、この遺跡を造ったらしい転生者のメッセージが残っていたけど、アレが本当ならこの遺跡ってとある転生者がたった1人で造り上げているんだよ。
メッセージを読んだ時は半信半疑だったけど、ウラヌスの話を聞いて確信した。この遺跡は間違いなく1人の転生者が自分のためだけに造り上げたものだよ。
なんとも言えない展開に力が抜けるんだけど・・・・・・。
「そうかも知れません。マスターは私たちを自分の娘だと仰っていらしましたので」
「本当に自分のためだけにココを造ってみたいだね。その人」
なんだろう。もの凄く脱力して来るんだけど・・・・・・。
いや、この世界を護るのと同時に、自分の欲望、夢を実現しちゃいけないなんて事はないんだけどね。それでも脱力してしまうよ。
「それよりも、マスターと同じ転生者である貴方が私を再起動させたと言う事は、マスター共に戦ったあの戦いより、十万年の時が過ぎたと言う事ですね」
「ああ、魔物の侵攻は激しさを増して、ジエンドクラスの魔物も姿を現すようになって来ている」
「そうですか、では、今度こそ私たちの造られた本懐を果たせるかもしれません」
造られた本懐? どういう事だ?
「造られた本懐とは?」
「私たちセイレーンシリーズは、この世界で果てなく繰り返される魔物との争いに終止符を打つべく、マスターによって造られた存在です」
「戦いに終止符を打つために?」
「はい。と言っても、私たち自身、どのようにして終止符を打つのか、その為のどのような機能が私たちに搭載されてるのかは判りませんが」
ここに来てまた話が大きくなったし・・・・・・。
この遺跡と自立型ゴーレム、転生者が趣味丸出しで造っただけのモノじゃなかったのかよ・・・・・・。
どうもかなり重要な役割を持っていそうだよ。それなら、どうしてカグヤにではなく、地上に残されているのかって謎もあるけどね。
「成程ね。じゃあそれは置いておいて質問だけど、キミたちは10万年前、どんな戦いをしていたんだい?」
「その質問な応える事は出来ません」
「何故?」
「マスターより、10万年前の戦いの情報の秘匿を命じられています。戦闘データなどについては全て情報にブロックが成されて今かので、提示する事は出来ません」
ヤッパリか・・・・・・。
まあ予想はしていたんだけどね。
と言うのも、これまでに10万年前の転生者たちが使っていた兵器を数多く発掘しているのに、その中に10万年前の戦いに関する情報が一切残されていなかったからだよ。
明らかに、10万年前の転生者たちが意図的に戦いに関するデータを消去している。
これまでは、それがどうしてだか分らなかったけれども、龍神らと会って、話を聞いてようやく判った、真の戦い。10万年周期の真の戦いの情報を秘匿する為だ。
消去された情報も、多分全部カグヤの方にバックアップされているんだろうし、ウラヌスのブロックもカグヤに連れて行けば自動的に解除されるんだろうけど、どうしてそこまでして情報を隠すのかが判らない。
「どうしてそこまでして、10万年前の転生者たちは真実を隠そうとするのかね」
「その理由はいずれ知る事になります。貴方が真にこの世界と向き合うのであれば。そして、本当の意味で真実を知った時、貴方はマスターたちの成さった事の糸を理解する事となるかと」
「つまりキミは、キミのマスターが自分の記憶にロックをかけたのは、正しい判断だと思う訳だね?」
「はい。今の貴方はまだカグヤに至っていませんのでね真実を知る資格がまだありません」
真実を知る資格ね。どうも、それは端にカグヤに至れるだけの力があると言うだけではない気がするな。
最低でもジエンドクラスの実力がなければ話にならないのは当然として、どうもそれだけじゃないようだ。
だからこそ、アスカ氏はカグヤに辿り着いても真実の全てを知る事が出来なかったんじゃないかな?
彼にもまた、まだ足りないものがあったからこそ、カグヤに至っても全てを知る事が叶わなかった、
つまりはそういう事だろう。
でも、それなら10万年前の転生者たちは、俺たちに何を望んでいる?
自分たちの後を引き継ぎ、10万年後の世界で戦う事になる俺たちに、本当の意味で何を望んでいる?
それが判れば、彼らが俺たちに何をさせようとしているのか、彼ら自身が本当は何をしようとしたのかの真実が少しずつでも見えて来るはずだ。
「全ては貴方次第です。貴方が本当の意味でこの世界と向き合うのなら、おのずと答えは見えて来るはずです」
「全ては俺次第ね。まあ良いさ、出来る限り期待に応えられるように頑張ってみるよ」
どう頑張ったら良いのか判らないのが問題なんだけどね。
「はい。穴田が出すこたえを見守らせていただきます」
そう言った時、ウラヌスははじめて、本当に少しだけども笑った気がした。そして、そのほんの小さに笑顔はエイルによく似ていて、ああ、やっぱり彼女たちは終いなんだなと思った。
その意味でも、ウラヌスとは結構うまくやっていけそうだ。




