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「それじゃあウナギを食べようか」
「アベルさんなら絶対に獲って来るだろうと思ってましたけど、まさかこんなに沢山」
500匹以上も取って来るとは予想もしてなかったみたいで、シオンどころかレイまでも呆れている。
「なんと言うか、キミは相変わらずだね」
「はい。もうアベルさんはアベルさんなのだからと、割り切るしかありません」
なにかディスられてる気がするんだけど?
まあ良いか、何か気にするだけムダな気がして来たし。それよりも。
「ああそうだレイ。魔域にレジェンドクラスの魔物が居た。見付けたのは討伐して来たけど、ひょっとしたらまだ居るかも知れない」
「レジェンドクラスの魔物が?」
「そうコレ」
論より証拠とばかりに、巨大なメタリックなカエルを見せる。
「これは、ラセツカワズ。本当にレジェンドクラスの魔物が」
「ひょっとしたら、この前の試練の影響か何かかもしれないので、注意した方が良いかと。キリアの方も後で国に伝えて注意を促した方が良いかもね」
また何か状況が悪化している気がするんだけどね。
まあ、アシュラにはレイが居るし、応神の国にはあの暑苦しい兄弟が、キリアの鬼たちがいるので一応警戒しておけば問題ないだろう。
「判った。警戒しておこう」
「任せた」
それよりも今はウナギだ。サックとさばいてくし打ちしていく。
そして炭火で焼いていく。香ばしく焼けたところでタレをつけてさらに焼く。
因みに蒲焼きのタレは以前から使っていたものだ。これまでに結構な数のウナギを焼いているので、ウナギの油や旨味をたっぷり含んで、なかなかの仕上がりになているのだけども、ケイト・ウナギを焼く事でこのタレもさらにランクアップする事は間違いない。
「さあ焼けてきたよ。うーん。この香り。最高だね」
本気で殺人級に良い匂いが食欲を直撃する。歓迎パーティー用に用意とした料理も大半が食べつくされた後で、今はみんなお腹一杯に近いくらい食べた後のハズなのに、全員揃て、焼かれるウナギから目が離せないようだしね。
よだれを垂らして見入っているメンバーもいるし。
「はい焼き上がり、後は串を抜いて切り分けてご飯に乗せればうな丼の完成」
ご飯の方は最高のものをサクラさんが用意してくれている。最高級の米を羽釜で炊いた炊き立てご飯だ。それを30センチくらいある、ボールみたいな大きさの丼にたっぷりよそったら、丼の大きさに合わせて切ったウナギを載せて出来上がり。
「さあ、遠慮なく食べろ」
出来上がった丼を、先ずはクレハにシオン、そしてレイに渡す。さらにキリアにサクラさん。
因みに、2メートル越えのケイト・ウナギは開いて蒲焼きにすると、30センチ大の大きさの丼でも8杯分にはなる。500匹以上あるので、4000杯はうな丼ができる事になる。
なるんだけども、できれば全部蒲焼きのうな丼じゃなくて、白焼きでわさび醤油でも少し食べたいと思っている。
白焼きがこれまた清酒と合うんだよ。
「ちなみに1人当たり三杯までな」
「そんなっ!!」
「いや、それで十分だろ。とってきたウナギ全部食べ尽すつもりか」
と言うか、クレハたち新入りは、すでにお腹一杯食べた後なので、超大盛りのこのうな丼は一杯でもキツイだろう。まだまだ、食べる量もそんな大した事ないハズだし。
いや、クレハなんかはすでにBランクの実力があるし、結構食べるかな?
それにしても、すでにBランクの力を持つに至っていながら、まだ戦うことに納得できていないんだな。
まあ、それもある意味仕方がないけどね。だけど、ひとつだけ言える事は、前世の日本人としての感覚を何時までも引きずってはいけないと言う事だ。
この世界にはこの世界の人たちの常識があり、ルールがあり、社会が成り立っている。そこに日本人の常識や価値観を押し付けることは許されない。
だけど、転生者だから戦わなければいけないのかと疑問に思うのは当然のことだ。
それに、この世界に生まれた者がすべて戦いの道を選ばなければいけない訳でもない。
にも拘らず、展性者は生まれながらに戦うことを強制される立場に必ず生まれる。つまり、こちらの都合に関係なく生まれた時から戦いを強制されてくるのだ。
その、お前たちは戦うためだけに居るんだとばかりの転生者の在り方に不満を持つのは無理もない。
明らかに、この世界に俺たちを転生させているシステム、或いは何者かは俺たちを戦わせようという明確な意思を持っているのだから。
或いは、転生者が戦う事に何らかの意味があるのかもしれないけれども、それも今のところ俺たちには判らない。
その答えも、カグヤに辿り着けば得ることができるのだろうか?
なんて考えても仕方がないので俺もうな丼を食う。
開いた身は肉厚で、厚さ5センチ以上ある。その割に皮は薄めで、炭火で焼かれてパリッとした触感がある。だが、何よりもその脂ののった身だ。ぷりぷりと柔らかく。噛んだ瞬間に旨味が口の中一杯に広がる。
「・・・・・・至福だ。こんなに美味しいウナギは初めてだ」
「やっぱり美味しい。ウナギはケイト・ウナギが一番だ」
「こんなに美味しい物を頂いて良いんでしょうか?」
「気にしなくて良い。そうだな、転生者に生まれた特典くらいに考えておけば良いよ」
実際、後は全魔法特性くらいしか特典ないし、このくらいの贅沢を味わうくらい問題ない。
「さてと、蒲焼きを堪能したところで、次は白焼きだね」
「やぱり白焼きも行くつもりだね」
「当然。これで清酒を行かせてもらうよ」
「判っているね。なら、清酒は私が取って置きを出そう」
レイのとっておきの酒か、これは楽しみだ。
さて、蒲焼を焼いた時の炭はどかして、新しい炭で今度は白焼きを焼く。
白焼きは単にタレに付ける前の状態のウナギではない。蒲焼きのウナギとはまた別なのだ。
串に刺して炭火で焼く。ただそれだけであるけれども、ただそれだけだからこそ、最高の一品を作り上げるのには熟練の腕を必要とする。
ウナギの油を程よく落とし、それでいて決して落とし過ぎない焼き方、焼き加減を見極める必要がある。
食材の質がおがれば上がるほど、食材の持つ旨みを最大限引き出すために必要となる料理人の腕もより一層に高く求められる訳だよ。
あくまで俺は冒険者で、料理人ではないんだけどね。
「それとアベル。さっきのラセツカワズを少し貰ってもいいかな? アレも酒の肴に最高なのだよ」
「良いけど、レイも料理をするの?」
「当然。これでも2000年以上料理をしてきた訳だからね。腕前はキミに負けはしないよ」
と言うか、間違いなく俺なんか比べ物ならないレベルの料理人だ。そんな例がどんな料理を作るのか興味津々だよ。
早速ラセツカワズを渡すと、先ずは解体して来るとの事で転移して姿を消すけど、ほんの10分足らずで帰って来る。
「解体は終わったよ。料理に使う分と私が個人的に欲しい分以外はキミに返すよ。私が欲しいぶんの費用は、解体の手間賃と相殺と言う事で」
「それは構わないけど、いったい何をつくるつもり?」
「梅肉和えだよ。コレはしゃぶしゃぶの様にさっと湯がいて、出汁醤油で説いた梅干しに和えると最高なんだよ。勿論、肉に会うだけの最高の梅干しじゃないといけないけどね」
それは中々美味しそうだ。カエルの肉は基本的には鶏肉に近い味わいで、俺もこっちに来てから魔物のカエルを討伐して、その肉を食べた事が結構あるけど、どれも美味しかった。
ただし、基本的には鶏肉に近いといった様に、種類によっては全く違う味わいのカエルもいる。さて、このラセツカワズはどんな味わいなのかな?
梅肉和えに合うと言うのなら、鶏肉に近い感じかなとも思うけど。
なんて考えている内に白焼きも完成。
「出来た。これはわさび醤油で食べてもらおう」
出来立ての白焼きを切り分けて、わさび醤油で食べてもらう。勿論、用意した醤油もワサビも最高の物だ。
「こちらも出来た。さあ、先ずは味わってもらおう」
レイの方のカワズの梅肉和えも出来たみたいだ。うっすらとピンク色を残した上品な白さのカワズの肉の薄切りに、赤い梅干しが合わさって見た目も実に良い。
「あの、鰻と梅干しの食べ合わせはダメだって」
「ああ、それは迷信だよ」
実際に鰻と梅干を一緒に食べちゃダメなんて事は実はなかったりする。
そもそも、この世界じゃあ実際に食べ合わせが悪いモノ同士を食べたとしても、魔法ですぐに治せるから問題ないし。
「そして、これが私のとっておきの酒。大吟醸シラヌイだよ」
どんっと取り出した酒を盃に注ぎ、白焼きを肴にグイッと行く。ついで、梅肉和えを肴に残りを飲み干す。そして、至福の吐息を吐き出す。
「うん。実に美味しい。ほら、アベルも」
「それじゃあ」
レイに促されて、差か付になみなみと注がれた酒を持ち、先ずは梅肉和えから行く。
口にするとまずラセツカワズの肉の旨みが口の中一杯に広がるけど、これは肉よりもむしろ魚に、それも河豚に近い味わいだ。そして、梅干しの酸っぱさと塩気がその味を更に引き立てている。
本気で美味しい。
思わず唸ると同時に、無意識の内に盃に口を付けていた。そして、レイ秘蔵のシラヌイの辛口に味わいが、料理の味を更に引き立て、同時に料理が避けの味を最大限に引き立てる。
「至福」
俺だけじゃない。白焼きと梅肉和えを肴にシラヌイを飲んだ全員が思わず漏らす。
「これは、徹底的に飲むしかありませんね」
「母上はどうか程々に」
既に三杯目の盃を空にしたサクラさんをシオンがなだめているけど、アレは効果が薄そうだな。
と言うか、シオン自身も今日は飲む気満々みたいだし。
まあ、鬼人は竜人やドワーフと並んで酒好きの種族だから仕方がないか、なんて思いながら盃を重ねて、気が付いたら全員が飲み潰れていたのは内緒で・・・・・・。




