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「美味しいっ」
「こんな美味しいもの食べた事ない」
さて、現在鬼人の転生者の子たちの歓迎会の真っ最中。
用意した料理を食べてみんな喜んでいる。
それは良いのだけども、まだ、鬼人の転生者の子たちの怯えが解けきれていない。
「あの、アベルさん」
「どうかしたかな。クレハ」
そんな中で意を決したように話しかけて来たのは最年長の女の子。いや、20歳になるんだからもう女性と言うべきか。
腰にまで伸びる黒髪とキリリとした黒目のやや童顔の大和撫子て言う感じの子で、名前はクルルギ・クレハ。身長もやや低めなので、実の所俺と同年代と言っても通用しそうな感じで、だからこそ何となく女の子って感じで接してしまう。
芯の通ったシッカリした子なんだけどね。
「正直に伺います。私たちはこれからどうなるのですか?」
「別に、俺の元で修行をして強くなってもらうだけだよ」
「戦うためにですか・・・・・・」
やはり、まだ自分たちが何故戦わなければいけないのかと言う部分を消化しきれていないみたいだ。
「転生者だから戦わなければいけないのが、納得できないのかな?」
「はい。この世界が、これまでずっと転生者によって守られてきたと聞きましたけど・・・・・・」
「確かにね。転生者の力によって成り立っているこの世界は、そもそも成り立ちが破綻していると言っても良いからね。でも、実際にこれまで幾度となく、転生者が護り続けて来た世界である事は確かなんだよ」
実際、この世界の10万年周期の戦いが何時から続いているのかは判らないけど、少なくても数百万年、長ければ数千万や下手をしたら数億年と戦いが続いているだろう。
その長い時の中を、転生者たちが命懸けの戦いで守り抜いて来たからこそ、今もこの世界は存続し続けているとも言える。
ただまあ、その戦いの、存続の為の守りの要に転生者の存在を組み込んでいる時点で、やはりこの世界はどうかしている。例えるなら、定番の魔王の登場やら何やらで、世界の危機に陥る度に異世界から勇者やら聖女やらを召還して、どうかこの世界を救ってくださいなんて言う様な、ありえない世界と同じなのだから。
「とは言っても、実際に召還勇者の立場に立たされれば、憤るのも当然だけど」
「はい。この世界はどこかおかしいと思います」
「でもね。転生してこの世界に生まれた時点で、俺たちももうこの世界の住人なんだよ。だから、自分たちの生きる世界を護るために戦う事は当然なんだ」
「それは、そうかも知れませんが・・・・・・」
「ヤッパリ納得しきれない?」
「はい・・・・・・」
まあ仕方がないよね。
と言うか、イキナリ全部納得しろっていう方がムリだよ。そもそも、本当の意味で自分たちの置かれている状況を把握しきれてすらいないんだから。
これが、10万年前の転生者たちがカグヤに隠した真実が全て判っていて、自分たちがどんな状況に置かれているのか、自分たちが何をしたらいいのかが判っているのならまた違ったんだろうけど。
今の所、俺たちはおろか、アスカ氏まで含めて自分たちが本当は何をしたらいいのか判らない、迷子の状況だからね。そんな中でタダ世界を護るために戦えって言われても困るよ。
まあ、10万年前の転生者たちだって初めから何をしたらいいのかなんて判らなかったと思うけどね。
だから、今の俺たちの状況は、これまで10万年周期の戦いをくり抜けてきた転生者たちと同じなんだろうけど。
じゃあいったいどうしろって言えば、さっつと力を付けてカグヤに至るしかないんだよね。
「まあ、それは仕方がないね。俺自身、自分が置かれている状況を理解しきれていないし」
「それなのに戦うんですか?」
「この世界に大切な者がたくさん出来たからね。大切な者を護るために戦うのは当り前だよ。それに、俺には戦う為の力があるからね」
「大切な者のために・・・・・・」
どうやら少しは納得してくれたみたいだね。
「別にそんなに深く考えなくていいよ。とりあえず今は、自分の身を護るための力を得るために強くなるって思えば良い。その上で、実際に戦うかを決めれば良いさ」
「戦わなくても良いんですか?」
「別に転生者だからって、絶対に戦わなければいけないなんて法はないよ。自分自身の思う様にすればいいんだよ」
実際、俺自身も転生者なのだからと戦いを強制されたならば拒絶していた。
今俺が戦うのは、メリアたちやユリィたち、愛すべき、守るべき存在が居るからだ。彼女たちと共に戦い、そして彼女たちを護るために俺は戦うし、どこまででも強くなってみせる。それこそ、何が相手でも守れる様に。
「とりあえず、そんなに難しく考える事はないよ。今はただ、自分の身を護れる力を付ければ良いだけだから」
「それなら、この子たちにあまり厳しい修行を課さないでくださいね」
とここでシオンが話に参加してきた。
「いえ、この子たちの修行は私がつけます。ですからアベルさんは口を出さないでください」
「シオンが望むならそれでいいよ」
シオン自身、もう俺と同等の力を持っている訳だしね。
「俺もしばらくは10万年前の遺跡の調査に集中しないといけないし。それにアシュラの観光もしたいし、色々と仕入れたいモノも多いから」
「観光に仕入れですか?」
「そう。元日本人の転生者ならわかるだろ。この国にはいろいろと欲しいモノが多いからさ」
あとこの国特有の魔物を狩るのも忘れてはいけない。
この国の魔域は海と地上の両方に面していて、魔域の中心機丁度その中間の海岸線にある。まあされはさて置きとして、その為にこの国では山の幸と海の幸、両方を魔物を狩る事で得られる。
そして、この国に来て絶対に逃せない獲物はウナギだ。正確にはウナギの魔物。
SSSランクの魔物でありながら、2メートル程度の大きさしかない素の魔物は、極めて凶悪で討伐が困難であるけれども、その困難さに見合う、いやそれ以上の味だと言う。
「特にケイト・ウナギは絶対に確保しないと」
「ケイト・ウナギ。聞いた事があります。この国で、この世界で一番美味しいウナギの大様だと」
「確かに、アレは絶品ですね」
当然だけどシオンは食べた事があるんだね。
因みにケイトとは計都星の事、九陽星のひとつ。
SSSランクの魔物で、2メートルサイズとか本来ありえないんだけども、そのおかげで普通に調理して蒲焼にするのにちょうどいい。因みに、関西風の蒸さずにそのまま焼く方が良いらしい。
「まあそれは、アシュラに滞在している内に確実に仕留めて、食べさせてあげるから、キミも今は俺が用意した料理を食べてよ。お勧めはヤッパリドラゴンカレーだよ」
「あっカレー。スゴイ久しぶりです」
カレーの魅力には勝てなかったらしく、クレハもすすめるとスゴイ勢いで食べ始める。
因みに今日のお勧めとしては牛丼もそう。使っている肉はヘビモスのだけどね。とは言え、カレーと違って牛丼は普通にアシュラで食べられるから、今の所そこまでの人気にはなってない。
うん。こうなるとどうしてカレーだけヒューマン以外では食べられていないのかが本気で謎。
「と言うかアベルさん。ケイト・ウナギを獲って来て、ココで出せばよかったんじゃないですか?」
「それはひょっとして、シオンも久しぶりに食べたいとか?」
「勿論です」
「成程ね。それじゃあ少し魔域に行って、とって来るとしようかな」
普通、SSSクラスの魔物なんて魔域に行ってもそう簡単に枯れるモノじゃないんだけどね。
まあ、そこは何とかしてみせると言う事で、そのまま魔域に転移してみる。何か突然の事にクレハがもの凄く驚いていた気がするけど気にしない。
さて、アシュラの魔域の内部には海へ繋がる川がいくつかある。仲には川幅10キロを超える大河もあるけれども、そんな川の中の魔物を総ざらいして討伐して行く事にする。
正確には川の中にいる魔物を目の前まで強制転移させて、一匹残らず全て討伐する。
やってることが我ながら滅茶苦茶だと思うけど、鋼でもしないとケイト・ウナギを確保できないだろう。
そんな訳でさっきから次々と魔物が俺の目の前に現れる。イヤ、俺が強制的に転移して連れて来ているんだけどね。
川魚に川エビ。それに沢蟹。なんかの魔物が次から次へと現れる。Sクラスの魔物も結構いる。で当然、そのSクラスの魔物は最低でも10メートル越えの大きさ。うん。こうしてみるとSクラスの魔物はヤッパリどれも大きい。その中で2メートルサイズのケイト・ウナギはやっぱりおかしいね。
気にしても仕方がないけどね。そんな訳で、気にせずに魔物をどんどん殲滅して行く。
うん? 今の500メートル級のメタリックなカエルはレジェンドクラスの魔物だったような?
それまでのザコと同じ攻撃をしたら跳ね返せれて、割と本気のアイン・オフ・ソウルで仕留めたから間違いないね。何故にレジェンドクラスの魔物が居るかね?
まあこれも気にしても仕方がないね。後でサクラさんにでも報告しておこう。
と次はと思ったら、目の前には2メートルの巨大にウナギ。
おお、割と簡単に手に入ったなって事で瞬殺して確保。次はと、アレ? コレもケイト・ウナギ?
こんなに簡単に手に入るものなのか? とりあえず疑問は後にして確保していく。
「思ったより大量に手に入ったな」
結局。魔域にある川と言う川を全ての魔物を一掃した結果、500匹を超えるケイト・ウナギが手に入った。SSSクラスの魔物の魔物がこんな大量にいて良いのかと思わないでもないけど、まあ、とりあえず殲滅したし問題ないだろう。
この調子だと、陸上や海にもSクラスの魔物が大量にいそうだから、後で少し狩っておいた方が良い気もするけどね。
でも今は、何はともあれウナギだ。蒲焼きだ。
最高の米を最高の状態で炊き上げて出来た銀シャリの上に載せてうな丼だ。
うん。コレがこの世界の楽しみなんだよな。
不謹慎な気もしないでもないけど。多分、レイだって何処からかかぎつけてウナギを食べに来るに違いないし。生きる事を楽しむのは悪い事じゃないよね。




