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そんな訳でまずはデートをする事になったのだが、正直いって初めての国、初めての街でどんな風にデートしたら良いのかなど全く分からん。
だからデートしようにもどうしたらいいのかも判らないと伝えたのだが、それなら一緒に街を探検して周ればいいと朗らかに返された。
そんなデートも一興だと言うのは確かにその通りだと思うが、だからどうして、そこで俺とデートになるのかがサッパリ判らん。
それでも、とりあえず何とか無難にデートをする事は出来たと思う。女の子の喜びそうな事など全く、何一つ判りはしないのだから不安ではあるが、それはもう、気にしても仕方がないと諦めるしかないだろう。
「こんなのでデートと言えるのかイマイチ不安ではあるけどね」
ぶっちゃけ、ただ一緒に街を散策しているだけのデートとも言えない様なモノに満足してもらえているのか非常に気になる所ではあるが、
「そんな事ないよ。こうして二人で何気なく街を歩くのも楽しいでしょ?」
無邪気に笑うアリアの言う通り、ただの散歩に近い気もするデートはそれなりに好評だし、俺も確かに楽しかったりする。美少女と二人でお出かけなのだから、楽しくないハズがない。
食事はホテルで聞き出したおすすめの店でランチにするか、ホテルで作ってもらった弁当を見晴らしのいい場所で食べるかのどちらかだが、どちらも至上の一時を味わえる。
「俺は確かに楽しいけど、アリアも楽しめているのか?」
「勿論。私も楽しいよ。こういう何でもない平和な時間は、すごく幸せだと思う」
中々に深い返事を返されてしまった。
だけど確かにその通りで、何気ない平和な一時こそ何よりも幸福で、何よりも価値のあるモノだろう。
「それに、マリージアに居た頃は何かと忙しくて、あまりこうやってアベルくんと一緒に静かに、他愛もなく過ごすことも出来なかったしね。お互いの事をよく知る意味でも、こうして二人でデートするのは良いと思うよ」
「それは、まあ確かに・・・」
僅かに頬を赤められながらそんな事を言われると、何とも言えなくなってしまう。
本当にどうしたのだろう?
こうしてデートをするのは二度目だけど、この前と違って彼女たちがどうしてデートをしようとしたのがまるで分らない。お互いの事をもっとよく知るためにのも確かだろうけれども、アリアたちがどうしてもっとお互いに知り合いたいと思ったのかが解らない。
結局、アリアたちがどうして俺とデートするのかが解らないのが、一番の問題だろう。とは言え、流石に本人たちにどうしてと聞くほど馬鹿じゃない。
なんとなく察せれぱ一番なのだけれども、女の子の想いをなんとなくで判れるようなスキルは無い。
「私は、この前のと今回ので、アベルくんの事がなんとなく判った気がするよ。まず、アベルくん女性への免疫が実は全然ないよね」
それは鋭い観察。まあ、ジックリ見れば明らかにもろバレだろう。気付くなと言う方が無理だ。
家族以外の女性と接点を持ったこと自体がほとんどない。
前世も合わせて三十年以上生きているが、誰かと付き合った事もないし、学校でクラスメートと会話をする事ぐらいはあったが、異性の友人がいた訳でもない。こちらに転生してからは、ひたすらの様に己を鍛える事に集中していたので、同世代の同性の友人すらいない。
ようするに、俺に女性の機微が解るようになれと言うのが無理なのだ。
「まあ、確かに、今まで家族以外の女性と接する事もあまりなかったしな」
「ずっと、力を付けるのに集中してたから?」
「そうだな、自分の好きに生きて行くためには、いや、単に生きて行くために、まずは自分を守れるだけの実力が必要だったからな」
騎士の家に生まれた時点で、どう生きるにしても、純粋に力がなければ生きて行く事も出来ない。
それがこの世界の厳しさであり、宿命だ。
だからこそ俺は、まず何に変えても強くなる必要があった。
強くなければ話にならない。世界の現実は転生したと気付いた瞬間から、イヤと言うほど思い知らされてきた。生きて行くために必死だったと言っても良い。
それも、俺が転生者として、前世の記憶というハンデを、重荷を背負っていたからだ。異世界転生物では現在知識チートなどと転生した後の役に立つことが多いが、俺自身転生した結果は、前世の良識や常識がどうしても生きて行く上での重しになると言う、深刻な問題だけだった。
この問題は生死を分ける程に深刻で、何度これのせいで死にかけたかは数える気もしない。
「騎士の家って、貴族や王族って本当に大変なんだね」
「まあ、俺自身何度死にかけたか判らないしな」
「えっ! うそっ!? 本当? 信じられないよ・・・」
「俺だって初めから強かった訳じゃないからな。強くなるまでにどれだけ危険な目に遭ったかしりゃしれないよ」
しみじみとアリアは生まれながらに戦う事を義務づけられている苦労を感心する。
そんな事に関心されても困るのだが、それよりも俺が死にかけたのに対する反応の大きさが気になる。俺だって初めから強かった訳じゃない。ゲームキャラで転生して、始めから夢想モードならともかく、どれだけ才能があって、鍛えればいくらでも強くなったとしても、始めは弱いのだから強くなるために命懸けの特訓をしなければいけないのは、物語でも現実でも同じで、俺も命懸けの特訓を続けて、どれだけ死ぬ思いをしたことか、
「ああ、それもそうだね。何かアベルくんが弱かった頃が想像できないから、イマイチぴんと来ないけど、アベルくんだって私たちと同じクラスの実力の時だってあったハズだしね・・・?」
「そこまで言うのなら、俺が命の危険を感じた特訓メニューをやってもらってもいいけど?」
「ううん。それは絶対に遠慮するよ」
ニコヤカに進めてみると、慌てて全力で拒否してくる。まあ、当然だけれども、そこまで怯えなくてもいいだろうに、いや、当然か、誰だって死にたくはないに決まっている。
「冗談はさておき、そろそろお茶にしようか?」
「うん。それが良いね。私楽しみだよ」
いく店は決まっているので、先に行っただけかから話は聞いているのだろう。チョコレート菓子の名店で、一口大のチョコレート菓子が一つ千リーゼを超える、正直引くほど値段の高級店だが、味はその値段に引けを取らない最高の逸品ぞろいである。
正直、チョコレート菓子を好きに買っていたら、会計が日本円で数百万円を軽く超えるのにまだ納得できていないのだけど、異世界なのだから常識も違うと納得するしかないだろう。
収入が飛躍的に伸びてきたとはいえ、まだ、アリアたちではなかなか手が出しづらい品ばかりだ。
今回は当然、俺が全額だすので、気兼ねなく楽しめるチャンスでもある。
俺に払わせる事については、俺の収入を知っているので気にしない事にしたらしい。収入が多すぎて、それに見合うだけの出費をするのも難しい、普通に考えたならばこれ程おかしな事も無いだろう状況なので、彼女たちの為に仕えるのなら大歓迎だ。
そう思って店に向かう途中、ショーウインドーに飾られたドレスが目に留まる。
所謂、ゴスロリ。ゴシック・ロリータと言われる黒地に純白のレースがふんだんに飾られたフリフリのドレスで、ネーゼリアに来てからは初めて見る。
続いて隣のアリアを見る。実年齢よりも若干幼く見える可愛らしい美少女。
脳内でアリアの姿にゴスロリのドレスを重ねてみる。うん。間違いない。黄金の組み合わせだ。是非とも着てみて欲しい。あのドレスはアリアに着てもらうためにあるモノだ。
「どうしたのアベルくん?」
突然、立ち止まった俺を不思議そうに見てくるアリア。
「いやなに、あそこのドレスがアリアに似合いそうだなと思っただけだよ」
「ドレスってあれ? 珍しいドレスだね」
やっぱり、ネーゼリアではゴスロリは一般的ではないらしい。イヤ、別に地球で一般的な服装だった訳では決してないが・・・。
「と言う訳で、これからのデートはあのドレスに着替えてにしないか?」
「何が、と言う訳なのかまるで分らないよ?」
「いや、アリアに似合いそうだから、俺がプレゼントしたいんだよ。それで、そのドレスを着て、デートの続きをしないかと思ってね」
「むう・・・・・・」
自分があのゴスロリドレスを着ている姿を思い浮かべたのか、アリアは小さく唸って押し黙る。
「その、嬉しいけど・・・、私だけなんて悪いよ」
ふむ。自分一人だけドレスを買ってもらうのは悪い気がすると、だけど、問題ない。
「あのドレスはアリアに似合うからアリアにプレゼントする。他の皆にも似合うドレスを見付けたらプレゼントするつもりだし、何の問題も無い。後でまた、今度は皆できて、それぞれに似合うドレスを選んでも良いしな」
確か、この後、皆でデートもする予定になっていたので、その時に門何に会う服を選んでも良い。
本当に、なんでそんなことをすることになったのだろう?
心の底から疑問に思わなくもないが、まあ、どうせ客観的には女の子同士のお出かけにしか見えない。少なくても、一人の男が八人もの美人、美少女を連れている、ハーレム状態とはだれも気が付かないだろう。
どう見ても男に見えないのは、本来なら心底不満なのだけれども、この状況では助かってもいる。飽くまで師弟の関係なのだから、ハーレムでもなんでもないのだが、そんな事が解るハズもない周りからは、もし俺が普通に少年らしい姿をしていたのなら、ガキの癖にハーレム状態だとふざけるなと、嫉妬と怨嗟の視線が集中していたに違いない。
そんな事を考えていたので、俺はアリアが顔を真っ赤にしながらも嬉しそうにしているのに気付かなかった。
「もう、アベルくんたら、女の子のこと解っていないくせに、喜ばせるのは上手なんだから」
何か聞き捨てならないのが聞こえた気がするが、余りにも嬉しそうなアリアの様子に聞き返すことも出来ない。
何か、たらし的な事を言われた気がするのだが? 気のせいだろうか?
「プレゼントさせてもらえるかな? お嬢様」
気にせずアリアに問い掛ける事にする。
俺の問いにアリアは嬉しそうに「はい。喜んで」と答える。
そのままドレスが飾られている ブティックに入り、ゴスロリドレスをアリアに着てもらう。
「うん。思った通りだ。本当によく似合っているよ」
「ありがとうアベルくん。だけど、なんだか恥ずかしいね・・・」
着替えたアリアはやっぱり似合っていて、何とも言い難い不思議な魅力がした。
その証拠に、店員は目を輝かせているし、他の客の視線もアリアに釘付けになっている。
なんだろう、同性も魅了する。思わず抱き締めたくなってしまうような保護欲を沸き立たせられる感じだろうか? 物語の中のお姫様、いや、それよりも、可憐な妖精の方があっているか? とにかくそんな感じだ。うん。可愛い。思った通りバッチリだ。
「それでは、デートの続きをしましょう。可憐な妖精さん」
「はい・・・・・・」
俺が手を差し出すと、アリアは消えそうな声で答えて手を握り返してくる。
恥ずかしそうにしながらも嬉しそうなアリアとのデートを楽しみ、ゴスロリのドレスを着たままのアリアを連れて帰ると、当然だけどみんな驚いて、その可憐さに思わず抱き締めていた。
そして、当然だけど俺が全員分のドレスを買う事になって、何故だか俺が選ばなければいけない事になった。
・・・ドレスの事なんて全く分からないのだが、




