339
何はともあれ、まずは試練をどうにかしないといけない。
キリアの試練にはアスカ氏が、シオンの試練にはレイが同行する。
その上で俺たちなんだけども、二手に分かれてそれぞれに同行する事になった。俺とユリィにケイ、それにルシリスがシオンに、ミランダとシャクにティクリス、ヒルデがキリアに着く事になった。、
ミランダはヒュペリオンを、俺たちはそれぞれ専用機を駆って備える事になるけれども、果たして4人で対抗できる程度の魔物が現れるかどうかは不明。
これまでの戦闘データを洗い流して、今回、再びロキが現れたとしたならば、今度は対等に近い戦いが出来るまでの準備を整えてはいるけれども、実際にどこまでやれるかは不明。
「と言うか、何時の間にか格上との戦いが当たり前になってしまったんだよな」
「普通ならありえないんですけどね」
「なんでアベルまだ生きてるの?」
最後のキリアの発言はひどいようだけども、紛れもない事実だ。
本当に、どうして俺まだ生きていられているんだろう?
普通に死んでておかしくないっていうか、死んでない方がおかしいような有様なんだけど・・・・・・。
「いやまあ、それは俺だけじゃないけどね」
「確かに・・・・・・」
「本当に私たちトンデモナイ事になってるよね」
「これも全部、10万年前の転生者たちの計画通りなんですよね」
「そう思うと、なんだか腹立たしいです」
気持ちは判るけどね。これも少しずつ状況に慣れて行けるようにとの配慮だから、決して10万年前の転生者たちも悪気があってやってる訳じゃないハズ。間違っても楽しんでたりとか、四苦八苦する様子をおもしろがるためにこんな風にした訳じゃないハズだから。
「とは言え、現状で俺たちが、なんとかジエンドクラスの魔物を相手に、対抗出来ているのは間違いなく彼らのおかげだから」
「確かにそうなんですけどね・・・・・・・私たちがこうして強くなれているのも、その為の方法を残してくれていたからなんですけど」
「何故か知らないけど、どうしても納得できない」
どうにも、10万年前の転生者たちへの不満と言うか、不信感が高まってきているな。
「まあ、彼女たちが不満に思うのも仕方がないよ。実際の所、俺も不審に思った事があったしね」
「アスカ氏もですか?」
「ああ、彼らは余りにも多くの秘密を残し過ぎているだろう? そして、その秘密はカグヤに至らない限り何ひとつ解ける事はない。その徹底した秘密主義が、どうしても不信につながってしまうんだよ。更に言えば、今は俺の時とは比較にならないくらい状況が悪いし」
確かに、この世界の秘密、10万年前の転生者たちが本当は何をしようとしていたのか、それこそ限りないくらいに疑問はあるのだけども、その全ては真実はカグヤに至らない限り辿り着けないのだから、モヤモヤするなと言う方がムリだ。
まあ、彼らとしても理由があるからこそ、全ての謎の答えを隠したんだろうけれども、と言うか、間違いなく意図的にカグヤに封印している。
地上にある遺跡に、謎だけを残してその答えはカグヤに隠している。
宇宙の中心部に高位次元生命体が存在する事な、ネーゼリア以外にも文明が存在する星がある事とか、色々と情報を小出しで出しながら、肝心のの情報は一切残していないのだから、これが意図的でないハズがない。
「でも、アスカ氏はカグヤに行って、情報を隠していることに納得したんですね」
「それはね。事実を知れば納得するしかないよ。確かに、カグヤに至る事も出来ない様では、知ってしまう事こそが害でしかない真実ばかりだったからね」
「つまり、今の俺たちはまだ知るべきではないと?」
「そうだ。今のキミたちでは、真実を知ったところで何も出来はしないのだからね」
つまりは、真実を知りたければそれに見合うだけの力を付けろと言う事だ。
まあ、間違いなく真実の中には、ジエンドクラスすら超える力を持つ存在の事なども含まれるので、確かに今の俺たちが知った所でどうしようもないだろう。
「まあひとつだけ言えるのは、真実を知ればキミたちは、力を持つ者の義務というものを、本当の意味で知る事になるという事だよ」
「つまり、今の俺たちは力を持つ事の意味を本当の意味で理解していないと?」
「さあどうかな」
自分たちで考えろと言う事か、だけども、力を持つ者の義務なんてそれこそハッキリしているハズだ。それを本当の意味ではまだ理解していないなんて事がありえるんだろうか?
「まあ悩むがいいさ。悩んで考え抜いて、自分で少しずつ答えに辿り着こうとする努力が、オマエたちを成長させていくんだからな」
「なんと言うか、情報を小出しにしながら答を示さないやり方が、10万年前の転生者たちとそっくりなんですけど」
既に答を知っている。先を行く者の余裕と言うのだろうか、なんとも思わせぶりなやり方をしてくれる。
「世界の真実、10万年前の転生者たちが残した謎の答えか、確かに興味はある。しかし、それに囚われすぎるのもどうかと思うぞ」
そんな俺たちにレイがストップをかける。
「確かに、これから先、魔物との戦いが厳しさを増す中で、世界を護るためにはカグヤにいたり、真実を知らなければならぬのもまた事実なのだろう。しかし、キミたちはまだまだ力不足だ。カグヤに至るまでにはまだまだ時間がかかる。それならば、今は足元を見てシッカリと、一歩一歩進んでいくべき時だよ」
今できる事をまずはシッカリやれとのお叱りですね。
確かに、今すぐカグヤに行ける訳でもないのに悩んだ所でどうしようもない。それなら、少しでも早く、カグヤに至れるだけの力を得られるように努力した方が良いに決まっているル
「それに、今集中するべきなのは、シオンとキリアの試練と、その後に続くキミたちの試練の事だよ」
「確かにそうですね」
これまたごもっともです。
現状で答のでない事を文句を言った所で何の意味もない。それよりも、これからの戦いに集中するべきだ。
そのくらいの事は言われるまでもなく判っているハズなのに、こうして文句を言ってしまったりしたのは、戦いを前にしながらもアスカ氏やレイが居る事に甘えて、油断してしまっていた証拠かもしれない。
それではダメだ。もっと緊張感を持たないといけない。
「なんて言っている内に始まったみたいだね。まずはゲヘナ、ルシリスからだね。それじゃあ、行くとしようか」
「では行ってきます」
そう言うとルシリスとアスカ氏ら同行するメンバーが転移でいなくなる。
「始まったみたいですね。それじゃあ、こちらもそろそろでしょうか?」
「多分ね。ああ、今更だけど緊張してきた。あっそうだ。シオンは試練が終わったらすぐに退避するんだよ。力を使い果たしてしまっているんだから、その場にいたら危険だから」
「出来れば、私も戦いを見たいのですが」
その気持ちも判らないでもないけどね。ジエンドクラスの魔物との戦いなんて、無防備で観戦できるような代物じゃないよ。
「それは大丈夫。アベルたちが戦う場合は、私がシオンを守ってあげるから、気にしなくて良いよ。逆に私が戦う場合には、キミたちは観戦しようと思わないですぐに退避した方が良いよ」
「レイ様が戦われるのならそれこそ問題はないのでは?」
「違うよ。逆に私が戦う方が危険なんだよ」
・・・・・・ええっと、いったいどんな戦い方をするんだろうかこの人?
俺の印象では、ミミールとは正反対の、元レジェンドクラスの4人の中では一番良識的な人だったんだけど、戦い方は過激なのかな?
「どうやらこちらも始まったみたいね」
「では、行きましょう」
聞こうと思ったら丁度コッチでも始まったみたいだ。
早速魔域にまで転移し、すぐに中心部に向かう。その間に、俺たちはそれぞれ専用機に乗り込む。
しかし、今更ながら俺はこの専用機、ラグナメヒルの性能も全く引き出せていないんだよな。
ここまで来ればまず間違いなく、ラグナメヒルなどの10万年前の転生者たちが自身の専用機としていた機体は、ジエンドクラスを超える存在と戦う事を前提として造られている。
と言うか、ジエンドクラスの魔物と戦う為だけに造られていると考える方が不自然だ。その意味でも、この機体は装機竜人と言う枠組みを逸脱した兵器なのだろう。
まあ、それこそ今更だけどね。
ついでに言うと、これは本当は10万年前の転生者たちの専用機ではないのではないかとも思う。
つまり、これらの機体は10万年前の転生者たち以外の、ジエンドクラスを超える力を持ちえない者でも、ジエンドクラスを超える存在と対抗できるようにするために造られた兵器。むしろ、そう考える方が妥当だろう。
まあ、それも考えた所で答は出ないけどね。
それよりも、今はシオンの試練だ。
辿り着いた魔域の中枢には、何時もの如く漆黒の球体がある。そして、それが砕け散って現れたのは9つの尾を持つキツネ。白面九尾。頭の先から尻尾の先までで100キロを超える9尾のキツネは、その名が示すように全身を純白だった。
だけども、決して美しいとは思わない。その姿を見て感じるのは悍ましいの一言だろう。
事実、その実には常軌を逸したほどの瘴気を纏っていて、現れた瞬間からあたりを穢し始めている。
「アイン・オフ・ソウル」
だけど、その瘴気が魔域を穢すよりも早く、シオンがその命を刈り取る。
先手必勝。一撃必殺。まさにその言葉の通りに全魔力を込めた必殺の魔法で、相手が行動に移る前にケリを付ける。それこそ戦いの真理。
そして、シオンの試練が終わった以上。これから俺たちの試練が始まる。




