335
「アスカ氏、龍神に会ってどう思いました?」
「桁違いだな。俺とは全く力の次元が違う」
さて、シャクティとルシリスが龍神の加護を受け、俺と同じジエンドクラスに限りなく近いレジェンドクラスに至った訳で、またまた、終わった後で大波乱が起きるのが確定の試練が始まろうとしているんだけども、その前に、俺は明日香氏に気になっていたことを尋ねてみた。
「恐らくだけど、俺の力を1としたら、龍神のの力は軽く1万を超える。それだけの力の差があったな。いや、実際はもっと差は大きいかも知れない。あまりに力の差があり過ぎて正確には判らない」
最低でもアスカ氏の1万倍以上の力か・・・・・・。
桁が違い過ぎて理解不能の領域だな。しかし、そうなるともう龍神や天獣のような存在は、ジエンドクラス、Ωランクよりも空に飢えに位置するのは確定だよ。
まあ、宇宙の中印に存在する高位次元生命体なんて、更にその比ではない存在なんだろうけど・・・・・・。
「しかし、こう言っては何だが、彼らの存在は確かにこの世界の真の守護者が存在する事実そのものだが、同時に彼らと同様の力を持つ、魔物の世界の守護者とでもいうべき存在が居る事の証明でもある」
「まあ、Ωランクよりも更に上の力を持つ魔物が居る事が、これで確定した訳ですからね」
こちらの世界にだけ龍神や天獣の様な絶対者が居るとは考えられない。彼らと等しい力を持った存在が、魔物の世界にも存在すると考えて良いだろう。
いや、確実に存在する。その存在が、龍神らが龍神や魔人と言った種族を生み出したように魔物にとって祖たる存在であるかまでは判らないが・・・・・・。
「ひょっとしたら、俺たちと魔物の戦いは、龍神らとその存在の戦いの前哨戦に過ぎないのかも知れませんね」
「その意味も確かにあるな」
アスカ氏は苦笑しながら同意する。
ある意味で、龍神らが魔物の脅威に対して積極的に動かないのは、魔物が彼らが相対するに相応しいだけの力を持たない弱者に過ぎないからだろう。
龍神が語った真の戦いとは、その魔物を統べる、或いは魔物の上位種たる存在との戦いを指しているんじゃないだろうか?
そんな絶対者同士の激突が10万年に1度繰り返されていると・・・・・・。
うん。今の所まったく入り込む余地がないね。俺は勿論、アスカ氏だって完全に置いてきぼりの領域だ。
だけど、10万年前の転生者たちはその戦いに係わっていたんじゃないだろうか?
そして、それすらも10万年前の転生者たちの真の目的とは異なる。
果たして、10万年前の転生者たちがいったいなにを目指していたのか?
そして、どうして目的を果たす事が出来なかったのか?
疑問は尽きないけど、とりあえず今は目の前の事に集中しよう。
「どうやら試練が始まりそうですね」
「そうみたいだな」
今俺たちは、ドラグレーンでシャクティの試練が始まるのをも待っている。
ルシリスもまた、ゲヘナで試練が始まるのを待っているけど、本人曰く、
「ゲヘナの魔域は活性化を起こし、しかもその時の戦いの影響で魔素がすべて失われています。それからと来も経っていない現状で、試練の後にジエンドクラスが現れるだけの余力はないかと」
との事だった。
確かにその通りだ。実際、未だにゲヘナの魔域は力を弱めているらしく。Sクラスの魔物が現れる頻度も、以前の100分の1以下にまでなっているらしい。
まあそれね後1年もしない内にもとに戻るだろうと言う事だけど、今回、試練の後にジエンドクラスを呼び出すような事はまず不可能だろう。
まあ、それでも万が一何かあった時のために、レオシルスがついているので、ルシリスの方も問題ない。
なんて考えながら、魔域へと向かうシャクティの後に続いて、ヒュペリオンで俺たちも魔域に向かう。因みに、アスカ氏は何か起こった時にすぐに動けるように生身で外に居る。
「ルシリスから連絡。こちらの試練は無事終了。その後、なに事も起きる様子はないので、こちらに合流するって」
「了解。て言うかお疲れ様ルシリス。それとありがとうレオシルス」
連絡と同時に転移して隣に現れた2人を労う。
「試練の方は予想通りの展開だったから、疲れるほどじゃなかったですよ」
「この程度の事で礼は不要。それより、シャクティ嬢の試練は?」
「どうやら始まるみたいですよ」
辿り着いた魔域の中心部で、今まさに、漆黒の筺体が砕け散ろうとしていた。
そして、現れるのはやはりヤマタノオロチ・スサノオか?
いや、荒られたのは体長10メートル程の巨人。
「データ照合。アレはキシン・スサノオです」
「力はヤマタノオロチ・スサノオと変わらない。むしろ上回るか」
うん。コイツもジエンドクラに届きそうな力を持っているね。
それでも、シャクティの倒せない相手じゃない。ただし、ヤマタノオロチ・スサノオと比べて遥かに小さいので、その分、むしろ手強い。
ただし、戦い方が一撃必殺なのも、現れた瞬間に回避不能な攻撃を叩き込んで、確実に殲滅すると言うやり方も何一つ変わらない。
そして、シャクティは見事にそれを実行し、現れた瞬間にキシン・スサノオは倒された。
うん。卑怯と言いたいのなら言えば良い。
そんな言葉には意味はないのだよ。
命を賭けた戦いに正々堂々なんて言葉は存在しない。不意打ちや先制攻撃など当然で、如何に相手に何もさせずに殲滅する過去素が至上命題。
「問題はこの後か、それとすまないけどルシリス。シャクティを迎えに行ってくれ」
「判りました」
シャクティも既に此方に向かってきているので、その出迎えをルシリスに頼む。
さて、ルシリスに続きシャクティも無事に試練を終えたけれども、問題はこの後。
ふと見れば既にアスカ氏が魔域の中心部で臨戦態勢に入っている。
そして、当然のように異変が始まる。魔物の世界とのゲートが姿を現し、エリアマスターが苦悶の咆哮をあげる。
そして、ゲートから本来現れるハズのない魔物が姿を現す。それはまるであらゆるものを飲み込む大蛇。
胴回りの太さだけで100キロを超え、その全長は1万キロに及ぶだろう。そして、特徴的なのは3つの頭を有している事。余りにも常軌を逸した巨体を誇るソレはアジ・タカーハ・アエーシュマ。
アジ・タカーハはゾロアスター教の魔竜。
そして、アエーシュマとはアジ・タカーハを含む悪魔を生み出す源となったとされる悪神の事。
自らが生まれ落ちる源となった悪神の名を冠した魔竜。その力はロキすらも上回るか、それとも・・・・・・。
考える間もなくアスカ氏が動く。
躊躇いもなくアスカ氏が動いたと言う事は、アジ・タカーハ・アエーシュマの実力は少なくともロキと同等以上と言う事。
つまり、この時点で俺たちの出番は既にない。
「アスカさんが動いたのね」
「ああ、俺たちは彼の邪魔にならない様に距離を置こう」
ルシリスに連れられたシャクティがブリッジに来た。その瞳は、真っ直ぐに恐るべき魔物の姿を捉えている。
そして、それは俺も同じ。これから先の戦いの全てを見逃さないために、全神経を集中している。
アスカ氏が動く。
その手にはロキを屠った、彼の最大奥義でもある魔力と闘気を集束させた剣がある。勿論、アジ・タカーハの巨体を切り裂くためにその刀身も相応の長さになっている。
その、アスカ氏の体からは余りにも大きすぎる刃を振るい、必殺の一撃を放つ。だが、その一撃をアジ・タカーハ・アエーシュマは迎え撃つ。
3つの頭が同時に口を開き、瞬間、魔域内部を1000の魔法が荒れ狂う。全てを焼き尽くす地獄の業火。全てを飲み込み破壊し尽す大津波。大地は激しく震え巨大な溝を生み出し、やがてその溝はソコに墜ちた全てを押し潰しながら元へと戻って行く。雷が絶えず豪雨の様に降り注ぎ、地獄の業火を孕んだ竜巻がすべてを飲み込んでいく。
それはまさに地獄絵図。アジ・タカーハ・アエーシュマが放った魔法は、一瞬で魔域内にあった全てを破壊し尽していく。
あとに残るのはアジ・タカーハ・アエーシュマとアスカ氏、そして俺たちを乗せたヒュペリオンとゲートを護るエリアマスターだけ。
一瞬で、魔域は何もない虚無の空間へと変貌してしまった。いや、この猛威は果たして魔域の内部だけで収まっているのか?
場合によっては、防衛都市にまで被害が及んでいる可能性もある。
「魔域を覆って張っていた結界が破壊されやがった。これだから火力バカは嫌なんだよ」
アスカ氏の悪態が聞こえる。
どうやらアスカ氏は、何かあった時のために魔域の外にまで被害が及ばないように結界を張っていたようだ。
その結界のおかげて、今の攻撃による魔域の外の被害は皆無だが、同時に結界も砕けてしまった訳だ。
つまり、次の攻撃は魔域の外にまで被害が及んでしまう・・・・・・。
それが判っているからか、アスカ氏はアジ・タカーハ・アエーシュマが次の行動に移る前に全力の攻撃を叩き込む。
巨大な魔力と闘気の剣。魔闘剣を袈裟懸けに叩き込むも、アジ・タカーハ・アエーシュマは防御障壁でその一撃を防ぐ。
イヤ、アレは本当に防御障壁か?
どうやったらあの一撃を防ぐ事が出来る?
俺の驚愕を余所に、アスカ氏は魔闘剣の全ての力を使い切り防御障壁を砕き、同時に展開していた魔法を放つ。
アレは、アイン・オフ・ソウル。しかも、込められている魔力はアスカ氏のほぼ全魔力と同じ。
何時の間に魔晶石による魔力の回復をしていたのか、俺には全く気付けなかった。
しかも、放たれたアイン・オフ・ソウルは2つ。
ひとつを囮にし、それの回避にアジ・タカーハ・アエーシュマは全力を注ぐが故に、隠されたもう1つに気が付けず、何が起こったのかも理解出来ぬままに散った。
・・・・・・これが、アスカ氏の全力の、本気の戦い。
俺はその圧倒的な力と、確実に勝利を収める戦略に驚愕していた。
その差は、余りにも大きすぎたから・・・・・・。




