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「アスカ氏、そろそろこの世界の真実を話していただけませんか?」

「流石に今回の件は気になるよな」


 ロキの語った内容は余りにも衝撃的過ぎた。これを気にするなと言う方がムリだ。

 俺たちの前に少しずつピースが揃い始めているこの世界の真実。このまま行けばいずれ辿り着けることは間違いない。

 だけども、俺たちの前にはその真実を知る人物がいる。だからこそ、彼に全てを語って欲しい。


「キミの気持ちも判るけどね。やはり真実は、俺が語るのではなく、キミたち自身が辿り着くべきだよ。今、ここで俺が語ってしまったんじゃあ意味がない」

「自分たちで真実に辿り着く事に意味があると?」

「そう言う事。キミたちもまたカグヤに至るつもりなんだろう。ならばそこで、真実と向き合うと良い」


 全てが知りたければ、自分たちの手でカグヤに至って見せろと言う事か。

 しかしカグヤか・・・・・・。

 10万年前の転生者たちはどうしてすべての謎をカグヤに残したのだろう?

 地上の遺跡に真実の欠片を少しずつ残しながら、肝心の真実にはカグヤに至らなければ決して辿り着けない様にしている。

 それは、カグヤに残された真実が迂闊に知られてしまわれてはいけない危険なモノだからか、それとも、真実を求める者をカグヤに至らせるためか。


「或いは、ロキのような魔物に真実を語られるかも知れませんけどね」

「それもあるかもな。あのロキと出会えたのはまさに幸運だった。あの時ほど、この世界に生まれた事を感謝した時はない」


 ロキ、魔物でありながらごく自然に俺たちと会話をした稀有な存在。

 恐らく彼は、はじめからこの世界を滅ぼすつもりはなかった。この世界に自分より強い存在。アスカ氏が居る事を知り、ただ戦う事だけを目的にしていた。

 正直、あんな魔物が居たこと自体が驚きでしかない。


「6万年前。俺はカグヤに至り、真実を得るためだけに強さを求めた。結果、俺はカグヤへと至り真実を知る事が出来た。だが、真実を知った俺は、俺自身には何も出来ない事を同時に思い知る事になった。全ては6万年後になってからなのだからな」

「だから、コールドスリープで6万年もの時を眠りについたんですか」

「ああ、上手く行く保証のない賭けだったけどな。だけど、それだけじゃない。俺が眠りについたのは、当時の世界に俺の居場所がなかったからでもあるんだよ」


 自傷気味に語られた真実は初耳だ。

 6万年前の世界にアスカ氏の居場所がなかった?


「当時の俺は強くなる事だけを考えて、周りの一切を気にしていなかった。周りなんか気にも留めていなかったんだ。結果、ジエンドクラスへと至った俺を周囲はただ恐怖の対象として見ていた」

「恐怖の対象ですか?」

「そうだ。目的を遂げて、世界の真実を知った俺がカグヤから戻った時、俺に向けられたのは世界中からの恐怖と不審だった」


 当時の事を思い出しながらアスカ氏は続ける。


「それも当然だな。当時の俺は強くなる事、目的を遂げる事にしか興味がなく、周りを一切気にしていなかった。そんな俺は恐怖の対象にしかならない」


 親しい友人をつくるでもなく、社会活動をするでもなく、ただ新実に至るために強さだけを求めていたアスカ氏は、彼自身後から気付いたが、当時の世界ではあまりにも異端であり、その強さから恐れられていたそうだ。


「まあそれも当然さ。ジエンドクラス。そんな隔絶した力を持ち、しかもその力を何時自分たちに向けるかも知れない存在なんだからな」


 魔域の活性化の戦いなどに参加する事もあっても、それもただ強くなるための修行の場としか考えていなかった。だからこそ、当時の人たちはアスカ氏を唯々恐れたそうだ。


「完全に自業自得なんだけどな。だからこそ、俺は少しでも俺への恐れを和らげるために、当時不毛の地として人々から見捨てられていた今のベルゼリアの地に国を興した」


 ベルゼリアのある値は当時、魔物の侵攻と同時に瘴気の汚染に晒され、人の住める地ではなくなってしまっていたそうだ。

 それをアスカ氏はジエンドクラスの最高位のΩランクの常軌を逸した力を持って、瘴気を祓い、魔物を一掃して人の住める地へと戻し国をつくったそうだ。

 因みに、建国までにかかった時間はわずか半年足らずらしい。

 半年で魔物に情臨され廃墟となった地に都市を建設し、防衛線を構築し、人の住める環境をつくりだしたそうだ。

 うん。チートだね。


「だが、それでも当時の世界に俺が異物である事に変わりはなかった。当然だな。俺は当時は必要とされない常軌を逸した力を持っていたんだから」


 当時のネーゼリアの全戦力を合わせてもアスカ氏には届かない。それ程の隔絶した力を周りの目を気にも留めずに自由に振るっていたんだから、むしろ恐れられない訳がなかったそうだ。


「結局。6万年前の世界には俺の居場所はなかった訳だ。そして、6万年前の世界には俺が存在する理由もなかった。世界の真実を知った俺は、それと相対する事を求めた。だが、それは6万年後の未来に起こる話だ。当然ながら、本来なら俺に出番はない」


 Ωランクに至ったと言っても、その寿命は1万年が精々。魔法や何やらを駆使して寿命を延ばす事は可能だけども、それでも2万年が限界だろう。流石に普通に6万年を生きる方法はない。


「だからこそ、俺はコールドスリープで眠りにつく事にした。6万年後の世界で、世界の真実と相対する為に、そして、今度は俺自身の手でキチンと自分自身の居場所を造るためにな」

「それがアスカ氏が6万年もの眠りについた理由ですか」


 そうか、アスカ氏は今の時代で新しくやり直したかったのか。


「だからこそ、今この世界で新たにオマエたちと出会えたことに感謝している。そして、なによりも俺自身が求め手に入れた力が必要とされる事が嬉しいし、俺と同じ高みに至る者が既に現れ始めているしな」


 余りにも強過ぎる力は、それが必要とされる状況でなければ振るう事すら許されない。

 何故なら、振るわれたその力が世界を滅ぼしてしまう可能性すらあるからだ。


「そして、俺は初めて心から敬意を表する事の出来る敵と会いまみえた」

「ロキは確かに、敬意を表するに値する魔物でしたね」


 間違いなく、ロキは初めからこの世界を滅ぼすつもりはなかった。

 アレは、二つの世界に住む者が互いに相いれぬ敵同士である、世界の理に自らの意思で背き、世界の破壊者となる事を自ら拒否したんだ。


「ロキが例外的であった可能性もある。だけど、アレを知れば10万年前の転生者たちが、魔物の世界に逆侵攻をかけて、魔物の世界ごと滅ぼしてしまわなかった理由も判る。世界の真実云々以前に、魔物は本当の意味で俺たちの敵対者としてしか存在しえない訳じゃない」

「いずれ、魔物と、魔物の世界と共存することも出来ると?」

「その答えは、オマエたちが世界の真実に辿り着けば判るさ」


 いくらなんでもあり得なくないかと思う。魔物と共存?

 何十万年、何百万年、或いはそれよりもはるかに長いどれだけの時かすら判らない長い時間、魔物の侵攻に晒され続けて来たこの世界だ。

 そんな、この世界の天敵である魔物と、何時か共存する時が来るかも知れない?

 普通に考えてありえない。だけども、そのありえないハズの事が起こりうると、そう確信できる程の何かが世界の真実にはあると言う事だろう。

 いったい、カグヤにはどんな秘密が隠されていると言うのだろう。


「だから、これからも何かあれば力を貸す。しかし、カグヤに至るのはオマエたちが自分たち自身の力で成しえる事だ。だから、それに関しては一切力を貸すつもりはない」

「自分たちの力で辿り着き、そして全てを理解した上で、自分たちの意思でどうするかを決めろと言う訳ですか」

「そういう事だ。精々頑張りな」


 そう言い残すとアスカ氏は転移で姿を消す。

 本気で自由気侭だなあの人・・・・・・。

 6万年前は今よりもっと気ままに生きてたんだろうか?

 うん。そりゃあ恐れられるのも当然だよ。むしろ、当時の人たちに同情するよ。


 それにしても、魔物との共存か・・・・・・。

 今まで考えもしなかったフレーズが湧いて来たな。

 10万年前の転生者たちも、ひょっとしてそれを望んでいたんだろうか?

 彼らはいったい何を成そうとして、失敗したのだろう?

 カグヤによる封印により、魔物の侵攻からこの世界を守る事は、本当に彼らがしたかった事とは別なのだろう。

 恐らく、それだけに専念していれば、彼らは多くの犠牲者を出す必要はなかったんじゃないかと思う。

 彼らが命を賭してまで成そうとしたのはいったい何なのか?

 その全ての答えがカグヤに残されている。


 その事実が、どうしようもない程に俺を焦らす。

 今の俺にはカグヤに辿り着けるだけの力がない。だからこそ、真実がそこにあるのが判っていても、指を咥えてみている事しか出来ない。

 すぐにでも真実を知りたいと言う欲求が俺の中に膨れ上がる。

 完全にアスカに煽られているな・・・・・・。

 まあ良いさ、俺がカグヤに隠されている新実に辿り着かないといけないのは事実なんだし。



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