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 ケイの試練も無事終了。これで、後は明日の転生者との対面だけだなと思った瞬間。

 魔域の中心部に更なる異変が起きる。

 試練の続きではない。瞬間的にそう確信する。これまでに起きた事がない異常だ。魔域の中心部。こちら側と魔物の世界を繋ぐ時空の歪み、ゲートが激しく慟哭する。その激しい異変にケートの要であるエリアマスターのジエンドクラスの魔物が、苦痛の咆哮をあげている。


「これは、なんだ、魔域に何が起こっている?」


 明らかな異常事態。だからこそ警戒し、何が起こっても即座に対応できるように万全の準備をしていく。


「ユリィ、ケイ。2人はすぐにこの異常を知らせに戻れ、そしてヒュペリオンで援軍を連れて来てくれ」


 消耗しているケイをここにど留まらせておくのは危険だ。ユリィに安全な場所に退避させてもらうのが一番だ。ついでに言えば、この事態、俺1人でどうにか出来るレベルか極めて疑問だ。即座に、用意できる限りの最大戦力を集結させるべきだ。


「判った。アベルも気を付けて」

「ムリはしないで」


 2人は即座に状況を理解して行動に移る。

 魔域の中心部から最大速度で離れ、転移可能な領域に出ると即座に転移する。

 さて、問題は2人がそう炎を連れて戻って来るのにどれくらいの時間がかかるかだ。早くても10分はかかると思った方が良いだろう。


「問題は、その10分を、俺が持ち堪えられるかか・・・・・・」


 魔域の異変は更に加速度的に進んでいる。

 普段は決して姿を現すことのない時空の歪み、ゲートがハッキリとその姿を現している。そして、異変が進むにつれてエリアマスターの負担もさらに強まっているようだ。

 エリアマスターの魔物、ドラゴン系の最上位たるカオス・ドラゴンだと思われる、全長100キロを超える漆黒のドラゴンは、苦痛に喘ぎ身を捩らせ、端末魔にも似た咆哮をあげている。

 そして、露わになった次元の歪みのゲートから、この異変の元凶たる魔物が姿を現す。

 それは、一言で言えば悪魔。或いは堕天使とでも呼ぶべき存在。7対の漆黒の翼を持つ。禍々しい漆黒の天使。

 慎重に精々2メートル程。ごく普通の人と何ら変わらない姿にも見える。或いは天人と勘違いしてもおかしくないくらいに、その姿は人と変わらなかった。

 だけども、そんな勘違いなんて決してするハズもないと断言できる程に、その姿は禍々しかった。

 決して悍ましいのではなくて、ただひたすらに禍々しい。

 なによりもそう感じさせるのが、その手に持った漆黒の大剣。堕天使ルシファーが持つとされる剣をほうふつとさせる。

 正しく悪魔。或いは魔王と呼ぶにふさわしい魔物。そして、そんな魔物に心当たりがあった。


 サタン・ソウル。悪魔系最上位種。魔王種とも呼ばれる絶対者。


 確か、カオス・ドラゴンよりも2つランクが上の魔物だったハズ・・・・・・。

 そして、その2つの差がどれだけの違いを持つかは、目の前の光景からも明らかだ。

 コイツは今まで戦って来た度の魔物よりもはるかに強い。ゲヘナでの活性化の戦いで、ベルハウゼルで倒したジエンドクラスの魔物たち、その全てが目の前の存在の前には霞んで見える。

 

 ・・・・・・同じジエンドクラスの魔物でもここまで差があるのか。


 絶望に囚われてしまいそうになる心を何とか奮い立たせて、ゲートから出てきた瞬間。こちらの世界に現れた瞬間に必殺の一撃を叩き込む為の準備をする。

 魔晶石を使った全魔力の30倍の魔力を込めたアイン・ソフ・オウル。

 もしも、の一撃が効かなかったなら、俺に対抗する手段はない。

  

 遂に、魔域の異変は終わりの時を迎える。

 エリアマスターのカオス・ドラゴンが、遂に口から血を吐いて崩れ落ち、同時にサタン・ソウルがこの世界に現れる。

 この魔物がこの世界に顕現したのは、間違いなく10万年ぶりだろう。

 なんて考えている暇はない。

 避けられたら終わりだなんて事も視野に入れずに、顕現した瞬間に必殺の魔法が相手に炸裂するように放つ。

 俺が今使える中で最強の攻撃。ヤマタノオロチ・スサノオなど眼ではなく、並みのジエンドクラスの魔物ならば確実に仕留められる自信がある。

 その一撃がサタン・ソウルに直撃し、瞬間。


「カッアァァァァァァァァァァァァ」


 圧倒的な力で掻き消される。

 打つ手なしか・・・・・・。

 こうなる事も覚悟していた。だけども、実際に現実を突き付けられると堪えるモノがある。

 そもそも、未だレジェンドクラスに過ぎない俺が、ジエンドクラスの魔物を倒せるなんて増長する方がおこがましいんだけども・・・・・・。


 とりあえず、俺にできるのは少しでも時間を稼ぐ事だけだとハッキリした訳だ。


 そう認識すべきだろう。

 問題は、みんながヒュペリオンでここに駆け付けるまで、このバケモノを相手に生き延びられるか。


 攻撃を受けた事でサタン・ソウルは俺を敵として認識した。

 その双眸が俺を捉える。

 今まで感じたことのない濃密な殺気が俺を包む。正直、心臓が止まらなかったのが奇跡みたいだ。

 そして、大剣を持っていない左腕が無造作に俺に向けられ、圧倒的な力の奔流が、強力な闇魔法が放たれる。

 防御障壁で受けきる事は不可能。反射魔法で跳ね返す事も不可能。

 つまり、俺に選択肢は避ける以外に残されていない。光の速さを明らかに超えた闇魔法の一撃を辛うじて避け蹴る。目標を失った闇の力の奔流は、そのまま宇宙にまで突き進んでいく。そして、宇宙に漂う小惑星にでも当たったのだろう、遥か宇宙からここにまで届く大爆発を引き起こす。


 本気でシャレになっていない・・・・・・。

 もし、今の一撃が地上で炸裂していたらどうなっていただろう?


 答えは簡単だ。直径数千キロに近い巨大なクレーターが生まれていただろう。そこにあった全てを灰燼に帰してだ。

 今の一撃は、確実に北アメリカ大陸と同等の領域をを完全に消滅させる威力があった。

 そんな非常識な一撃をあんなにも無造作に、いともたやすく放ってみせたのだ。

 しかも、俺の攻撃を消し飛ばし、今の一撃を放った程度では、全く消耗した様子もない。

 つまり、あの攻撃はいくらでも撃てる。攻撃されたので反射的に無造作に返した、ただの様子見の一撃に過ぎなかったと言う事だ。


 冗談じゃない。


 そう思う理由はいくらでもある。

 ただとりあえず、ひとつ確実に言えるのは、相手に下手に攻撃をされる訳にはいかないと言う事だ。

 地表に向けて攻撃される訳にもいかない。そんな事になったらこのあたり一帯が完全に消し飛んでしまう。下手をしたらエリアマスターが討たれてしまい、魔域の解放が起きてしまいかねない。

 とは言え、同時に戦場を移す訳にはいかない。こんな化け物が魔域の外に出たらどれだけの被害が出てしまうか判らない。最悪、レイザラムが亡ぶどころか、この大陸自体が消滅してしまいかねない。

 なんとしても、ここに押し止めてケイたちが増援に戻って来るまで持ち堪えないといけない。

 

 とりあえず、ひとつ確定なのは俺は相手よりも常に上に一度ラないといけない事だ。

 そうすれば基本、攻撃は上に向いて放たれるので、地上に炸裂する確率を大きく減らす事が出来る。

 その上で、万が一の場合に備えて保険も用意しなければならない。

 先の攻撃、アイン・ソフ・オウルと同じように、全魔力の30倍の魔力を込めて防御障壁を展開する。これでさっきの攻撃くらいなら何度か防げるハズ。

 次いで、残りの魔晶石でのない服可能な異数に気を付けながら、限界ギリギリまで魔力を込めた反射魔法も何時でも発動できる状態にしておく。

 攻撃に使う魔力はそもそも考慮に入れない。だいたい、いくら攻撃した所で全くダメージを負わせられないのだから意味がない。

 それでも、相手の気を引いたり、ほんの僅かな隙をつくる事も辛うじてできるので、闘気による攻撃を動きに影響が出ない範囲でしていく。


 そんな俺の動きに対して、いい加減煩わしく思ったのか、サタン・ソウルは100を超える魔法を1度にはなってくる。

 光速を超える速さの上、避けてもまた俺を標的として来るホーミング性を持った魔法。しかも、追加の魔法が次々と放たれ続ける。

 予測演算を未来予知から未来視にまで引き上げて、攻撃の通貨ポイントとタイミングを全て把握し、最善の動きで回避する事で攻撃を避け続けるけれども、それももう長くは続かないのは明らか。 

 それでも、まだ俺が耐えられているのは、相手が手を抜ていてるからに過ぎない。

 完全に掌の上で弄ばれている。

 それでも良い。少しでも時間が稼げるのなら。

 避けきれなくなて来た攻撃を防御障壁で相殺し、いくつかの魔法は反射魔法で別の魔法に向かって跳ね返し相殺させていく。

 残念だけども、サタン・ソウルに向かって反射させる余裕はない。もし、仮に反射できたとしても何の意味もないだろうけど・・・・・・。

 俺にとっては一撃必殺の凶悪なこの魔法の嵐も、アイツにとっては単なる遊びに過ぎない。

 

 ここまで差があるか・・・・・・。


 防御障壁も既に限界だ。後1回でも攻撃を受ければ砕けてしまう。魔晶石による魔力の回復ももう限界に来ている。これ以上、無理やり魔力を回復させようとしたら、俺の体が持たない。

 余りにも高度に予測演算を使い続けている所為で、脳への負担も既に限界を超え来ている。未来予知が可能な時間は後1分もない。

 全力以上を出し切り、120パーセントどころじゃない力で臨んでも、辛うじて奇跡的に生き延びられているだけ、それも相手が本気を出さずに遊び半分でいたぶっているだけだから・・・・・・。

 流石に此処まで実力差のある魔物と戦ったのは、相対したのは初めてだ。

 人間となら、アスカ氏と相対したことがあるけど・・・・・・。

 と言うか、あの体験がなかったら確実に死んでいた。まさか、こんな形で感謝する事になるなんて夢にも思わなかった。

 本当なら、感謝なんてしたくもないんだけども・・・・・・。

 相当数を相殺させても、既に俺に向かい来る魔法の数は1000に近い。予測演算ももう限界だ。

 それでも、最後の瞬間まで決して諦めない。

 そんな俺の態度が気に入らないのか、サタン・ソウルは全ての魔法をいったん止め、俺を覆うように展開し、そして全周囲から、完全に逃げ場のない。回避不可能な形で放ってくる。

 そう来たか、これで俺に対抗手段はなくなった。

 

 だけども、その為に時間をかけてくれたおかげで俺は助かった。

 向かい来る魔法は全てが消し去られる。

 そして、ヒュペリオンの純白の船体が戦場に舞い降りる。

 これで、ようやく戦える準備が整った。これからは、さっきまでのような遊びでは済まないぞ。サタン・ソウル。


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