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エイシャ視点です。

 アレッサさんに続いて、新しく二人の仲間が増えた。ユリィとケイ。この国では、ヒューマンの居住域では珍しいエルフとドワーフの二人組。

 新たにレジェンドクラスに至るかも知れないアベルの、世界を揺るがす火種になりかねない人物のお目付け役としてきたと言う。

 千年ぶりのレジェンドクラス候補であるアベルの重要性は判っているつもりだったけど、今回の件で認識が甘かったと痛感した。

 まさか、エルフとドワーフの王族に連なる人がお目付け役に来るなんて、それに、これから更に各種族からも派遣されて来るのは確実と言う。

 判っていた事だけど、何とも言えずモヤモヤする。


 これも、まだ私たちとアベルの関係が師弟を超えていないからだと思う。

 私たちは、私も、メリアも、リリアも、シャリアも、アリアも、アレッサさんもアベルが好きだ。もう、魅了されて虜になってしまっていると言ってもいい。

 だけど、アベルの方がどう思っているのかは判らない。大切に思われているのは確かだ。

 だけど、それが異性としての好意なのかは判らない。

 実際、アベルはまだ十二歳に過ぎないし、どんなに才能があったとしても、その若さであらほどの力を手にしているのは、これまで訓練に集中して、特訓漬けの日々を送ってきたからだと思う。

 だからだろうか、常識の治外のSクラスとかとは関係なく、アベルは男女の機微とかに鈍感と言うか、自分に向けられる行為に全く気付ていない気がする。

 それならいっそ、私たちの方から自分の気持ちをしっかりと伝えた方が良いんじゃないかとも思うけど、私たちとアベルは出会ってからまだ間もない。想いを告げて、その想いに応えられないと言われたらどうしようと悩んでしまう。

 もっと、お互いの事をよく知って、お互いに今よりももっと強い信頼を築けてからの方が良いのではないだろうかとも思ってしまって、どうにも積極的になれない。

 私たちもそうだけど、アベルの方もどうなのだろう。

 彼は私たちの事を本当にどう思っているのだろう?

 大切に思われているのは判る。判るけれど、それがどんな思いなのかが解らない。

 彼にとって私たちはただの弟子に過ぎないのか?

 それとも、もっと特別な存在だと思ってくれているのか?

 知りたいけれども聞くのも怖くてできない。

 これが恋をしていると言う事なのかも判らないけれども、上手く言葉に出来ない自分の胸の内に、何だかモヤモヤする感じがする。

 こんなに悩むくらいなら、いっそ、既成事実をつくってしまえば良いと、皆で話し合っていると出る事もあるけれども、それは流石にアベルの年齢的にもダメだろうと言うくらいの理性は働く。

 それと、もう一つ私たちが積極的になれない理由が、例のベイル元王子の一件。

 何とも言い様の無いバカな自業自得で廃嫡されてしまった彼は、王位を狙う余り焦ってしまっていたのも確かだけど、婚約者たちに煽られた結果の暴走だったことが判明しているらしい。

 私たちは話に聞いただけなので詳しくは知らないけれども、正室と側室として第四王子に嫁ぐ予定だった四人の女性たちが、未来の王妃の座を夢想して、ベイル元王子を煽っていたと、彼が王位に固執していたのも、婚約者たちに唆されていたのが大きかったと後の調べて分かったと、レイル王子がアベルに漏らしていた。

 そして、その彼女たちは、ベイル元王子が失脚すると掌を返したように離れて行って、ただの冒険者として生きて行くベイル元王子について行く者は一人もいなかったどころか、無能で愚かな王子のせいで婚約破棄にまで遭い、自分たちはどうしようもなく不幸だと、全ての責任を擦り付けていたらしい。

 そうして、実家に戻って、貴族令嬢として気楽に生きて行こうとしていた彼女たちは、ベイル元王子の失脚によって実家そのものが没落し始めている事を理解できていなかったらしく、また、後で起きた不正の一掃に際して、不正を行っていた事が明らかになって、取り潰しを受けて騒ぎ立てていたりするらしい。

 場合によっては、彼女たちはレイル王子が引き取る事になっていたらしいけれども、一連の醜態で立ち消えになったと、あんな愚かな者を取り入れずに済んでホッとしたとレイル王子が漏らしていた。

 そんな事があったばかりだから、アベルが女性に不信感を抱いてしまっていないかとか不安に思ってしまって、中々行動できなくなっている。


 アベルの周りにはこれからも多くの人が集まってくる。これは変えようもない事実だ。たまたま、一番初めにそばにいる事が出来た幸運に胡坐をかいて、何もしないまま黙っていたら、私たちとアベルの関係は何の進展もしないまま、逆に離れて行ってしまう事になるのも判っている。

 判っているのだけれども、今の曖昧だけど確かに深い繋がりが感じられる関係が心地よくて、それを壊してしまうかも知れないのが怖くなってしまう。

 本当に、どうしたらいいんだろうと思うのだけれど、結局何も出来ないままでいる。


 そんな私たちにとって、初めての海外と言うのは良いキッカケになるかも知れない。

 それに、古代の未発見の遺跡と言うのも何が出てくるのか本当に楽しみだ。

 まだ十二歳でしかないのに、絶対的な実力もそうだけど、どうしてアベルはそんな事まで知っているのだろうと不思議に思う。偶然手にした古文書に書かれていたと言う事だけど、伝説に名を残す、偉大な超越者たちが残した物で、彼らが使っていた言語で記されていると言う。

 今のレジェンドクラスの方々すら及びもつかない、史上最強の超越者たち、今のアベルなど足元にも及ばないどころか、比べるのもおこがましいほどの力の差があると言う。

 正直、私にはピンとこない。私たちにとってはアベルは想像を絶する力を持った絶対者だ。それをはるかに上回る。隔絶した力を差を持つ者達と言われても、想像もつかない。

 だけど、アベルの強さの、凄さの秘密が少しだけ判った気がする。

 どうして、その言語が解るのかは本人も判らないとの事だけど、やっぱり、アベルは特別なんだと思う。



 飛行艇を降りると目にの前に広がる光景は、当たり前だけどマリージアとはまるで違っていた。

 同じ魔域に接する防衛都市でも、海岸線に位置するマリーレイラと違い、火山地帯のすぐ傍のリスリルでは、街並みもそれに対するために違っているのは当然だけど、リゾート地といった雰囲気のあるマリーレイラとは対照的な、質実剛健とした街並みは灼熱の火山と合わさって見事に映えている。

 当然、リスリルでも最高のホテルに泊まり、最高のもてなしを受ける。

 アベルやユリィにケイは当然だけど、私たちまでこんな待遇を受けていいのか未だに慣れないけれども、アベルに言わせれば、彼の弟子になった時点で決まっている事なんだから、慣れるしかないとの事。

 それに、どの道、私たちもすぐに超一流と呼ばれるB-ランク以上になるのだから、今から慣れておかないとの事。立場に応じたランクのお店を選ぶ必要も出て来るので、B-以上になれば、どうしてもこういう高級店に通わなくてはいけなくなると言うのは、正直、煩わしいし、面倒くさいけれども、こればかりは仕方ないらしい。

 ランクが上がれば、得られるお金の桁も飛躍的に上がる事は、ここのところイヤと言うほど理解させられているし、得たお金を貯めるばかりでなく還元しなくてはいけない事も判っている。

 そして、得たお金を使おうとしても、額が多すぎて中々使いきれないのも嫌と言うほど実感させられた。

 だから、こうやって高い高級店を利用する事で少しでもお金を落とせるようにしている一面もある。

 それは解ったけれども、だからと言ってこの待遇に慣れるものでもない。

 私だけでなく皆、アレッサさんまで少し居心地が悪そうにしている。

 やっぱり、今まで体験した事も無い超一流の待遇に慣れれるものでもない。


「やっぱりまだ慣れないようだな。まあ、ご飯にすればそれも少しはマシになるな」


 そんな私たちの様子をアベルは面白そうに見ている。


「ご飯でどうにかなるような問題じゃないよ」

「それは、実際に食べてみてからのお楽しみ」


 ご飯を食べれば落ち着くだろうなどと言われて、アリアが文句を言うが、アベルは意にも返さない。

 実際、多分そうなるだろうと判っているから、私も文句を言いたいところだけれども言えない。

 貴族や王族なども泊まる最高ランクのホテルは、出される食事も当然ながら各国のトップが口にするのに見合った、超一流の極上の美味が揃えられている。

 マリーレイラでアベルと同じホテルに泊まるようになって、出される食事の余りのおいしさに腰を抜かしたように、ここでも、至上の美味が待ち受けているのは間違いなくて、至福の時に緊張も忘れ去られるのは目に見えている。

 多分、食事が終われは私たちは至福の余韻に浸ってリラックスしているだろう。

 実際、食事の前に出されたティータイムのお茶とケーキの味の素晴らしさに、思わず酔いしれて、緊張が紛れているのも事実なのだから、どうやったって否定のしようがない。


「まあ、今はこのケーキでも食べて落ち着くと良い」


 そう言ってアベルは自然にアリアに自分のザッハトルテをフォークに刺して差し出した。所謂、アーンだけれども、アベルはまるで気にした様子もない、アリアの方は、差し出されたケーキに固まってしまって、顔を真っ赤にしているのにそれにも気づいていない様な、

 そんなアベルの様子に、アリアは不満そうに頬を膨らませてからケーキに齧り付く。

 何と言うか絵になると言うか、思わず変な趣味に目覚めてしまいそうになるくらい可愛らしい光景だと思う。

 何だろう、一部の人に見られたらそれこそ、大変な騒ぎになるような気がする・・・。

 次々とケーキを差し出していくアベルと、それを啄むアリアの姿を見ていると、何かピンク色の空気が漂っているような、おかしな気分になってくる気がする。

 本当に、これは一体何なのだろう?

 判るような、解ってはいけないような、非常にモヤモヤする感覚に襲われる。


「アベルさん、アリアも、それくらいにしておかないと夕食が食べられなくなりますよ」


 どうして良いのか判らずに狼狽えていると、アレッサさんが止めてくれてとりあえず落ち着く事が出来た。

 やっぱり、アレッサさんは流石だと思う。私たちではああは出来ない。

 親子ほども年の離れた私たちともごく自然に親しく接してくれるし、優しくて穏やかで、理想の女性像だと思う。

 だから、実は少し私はアレッサさんに嫉妬している。

 私たちとは違った大人の女性。アベルとも私たちよりも親しく、親密に付き合えていると思う。

 私たちに無いモノを持っている、私たちに出来ない事が出来る彼女が羨ましくて、知らない内に嫉妬してしまっていた。

 本当に、自分の心一つ儘成らないものだと思う。

 アベルに会ってから、自分でも判らない感情に振り回されぱなしだ。

 そう思うと、なんだか沸々と怒りの様な物が湧き上がってくる。

 どうにか出来ないだろうと思っている内に、自分でも思いもしない行動をとってしまった。


「やっぱりここのケーキも美味しいよね。アベル。アリアだけズルいよ。私にも食べさせてよ」


 私は一体何を言っているんだろうか?

 イヤ、判っている。アーンを催促したのだ。

 私の突然の行動に、周りが静まり返っているけれども、今更どうしようもない。

 出来るなら、少しでも早くこの羞恥プレイを終わらせてくれと願うだけ。

 

 突然の私の行動にアベルもビックリしたのか固まっているのは、或いはささやかな仕返しが出来たのかも知れない。 

 ほんの一瞬の静寂なのに、私には永遠に近く感じられる。

 硬直がら脱したアベルが何も言わずにケーキを差し出してくれてホッとする。

 差し出されたレアチーズケーキを一思いに食べる。

 極上の美味しさのハズなのに、緊張と余りの照れ臭さに全く味を感じる事も楽しむことも出来なかったのは私だけの秘密。


「んっ、美味しいね。ありがとうアベル。誰かに食べさせてもらうのも良いモノだね」


 私はもう二度とごめんだけど、絶対に心臓が持たない。こんなことを何度も続けていたら恥ずかしさと嬉しさで死んでしまう。

 本当に、何だろう。この羞恥プレイは、


「メリアもどう? 食べさせてもらうのも良いモノだよ?」


 自分で何を言っているのか判らない。

 勧めてどうする?


「えっ? いや、私は良いよ。もうすぐ夕食だし、あまり食べ過ぎるのもなんだから・・・」


 当たり前だけどメリアもしどろもどろになっている。本当にごめん。私は一体何をしているのだろう。


「はいはい、そこまでにしましょう。本当にあまりケーキを食べ過ぎてもしょうがないですからね。それよりもそろそろ、いったん部屋に戻って落ち着きませんか? 夕食までまだ少し時間もありますし」


 次に進められても困るとリリアなどがちゃっかり逃げ出そうとしている中、アレッサさんがにっこりと笑って収めてくれる。

 本当に救いの女神に見える。


「そうだな。少し休むとするか」


 アベルもどうしていいのか判らなかったらしく、アレッサさんの提案に乗ってそそくさと立ち去っていく。

 うん。お願いだから早く立ち去ってください。もう耐えられません。

 アベルが立ち去ると同時に私は崩れ落ちて、羞恥にのたうちまわる。


「ゴメン。皆、本当にごめん」


 心の底から謝る私をユリィとケイを含む全員が優しく慰めてくれた。

 本当に、こんな事はもう二度とごめんだ・・・。






 だけど、いつかまたしてほしいかも知れない・・・。

何とも言えない、極甘な話になってしまいました。

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