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「我、ケイレーン・グランドル・レイザラムの名の元に、試練に臨む」


 ケイの宣言と共に、霊廟の天井部から光が降り注ぐ。

 そして、光が消えるとそこにはオーガに似た魔物の様な何かが居た。

 全身を漆黒のフルプレートで覆った、5メートルを超える一つ角の鬼。両手に身長と変わらぬ長さの大剣を持っている。視ただけで判る。間違いなくこれはBクラスのオーガと同格程度の存在じゃない。


「これが試練の相手っ」

「気を付けろケイ。コイツ、下手をしたらレジェンドクラス級の力があるぞ」


 間違いなく、オーガ系最上位種とされるSSクラスのカオス・オーガよりもはるかに格上だ。と言うか、旅に出たばかりの俺じゃあ相手にもならないと、ハッキリと理解させられるだけの力を感じる。


「ガァァァァァァァァァァツ」


 現れると同時に咆哮をあげてケイに向かっていく漆黒のオーガ。二振りの大剣による攻撃は、予め展開されていたケイの防御障壁によって防がれるが、その唯の一撃だけでかなりの消耗を強いられているのがハッキリと判る。

 連撃で攻撃を受ければ全力で展開した防御障壁ですらも一瞬で破壊されてしまいかねない。そうなればケイを護るモノはない。ただの一撃で命を奪われてしまう事になる。

 だからこそ、こちらも一撃に全力を込め、一瞬で敵を殲滅する。一撃必殺。敵のレベルが高くなれば高くなる程に、その重要性は増してくる。

 京も当然それは判っている。だからこそ、方向と共に相手が攻撃を仕掛けて来ると同時に、既に攻撃の準備を始めている。

 必殺の一撃となる攻撃。それは浄化魔法だ。

 最強のアストラル魔法ではなく、浄化魔法を使うのは相手が、瘴気によって生み出された存在だからだろう。

 だからこそ、証紙を浄化する浄化魔法を使うべきだと判断したんだ。

 魔晶石を使いながら、込められるだけの魔力を込めて浄化魔法を、相手が次の攻撃に移ろうとするタイミングで放つ。見事だ。そのタイミングが一番攻撃を当てやすい。

 攻撃が来ると判っていても、既に攻撃のためのモーションに入ってしまっている為に避けるなどの行動に瞬時に移れないからだ。

 一撃必殺が基本だからこそ、何処までも確実性が要求される。当然だ。必殺の一撃を避けられれば今度はこっちが危険になるのだから。

 本当に、刹那の命懸けの攻防が勝敗を決する。そして、ケイはその勝利を無事に手繰り寄せた。

 放たれた浄化魔法は漆黒のオーガを撃ち抜き。その全てを破壊し、浄化して行く。


「グアァァァァァァァァァァァァッ」


 断末魔の咆哮をあげながら、肉体を構成する瘴気が浄化された事で崩壊して行く漆黒のオーガ。

 だけども、それでもケイは警戒を解かない。これで試練が終わったとは限らないからだ。警戒しながらも、魔晶石で消費した魔力を回復し、万全の態勢で戦える状況を整える。

 そして、予想通り試練はアレで終わりではなかったようで、再び霊廟の天井から光が降り注ぐと、今度は10メートルを超える漆黒のサイコロプスが現れる。

 漆黒の鎧に全身を包み、その手に巨大な戦鎚を持ったひとつ目の巨人。


「カアッ」


 叫ぶと同時に、瞳から漆黒の閃光を放つ。いや、アレは集束された瘴気そのもの?

 だとしたら危険だ。あんなものを受けてしまったら、人間なんてひとたまりもなく瘴気に飲まれてしまう。そして、瘴気そのものであるとすれば、アレは防御障壁では防げない可能性もある。

 本気で、この試練は過酷すぎるぞ。

 いくら、浄化魔法と言う明確な弱点があるとはいえ、レジェンドクラスに匹敵する相手との連戦なんて早々簡単にクリアできるものじゃない。

 いったい、この試練に失敗してどれだけの人数が今まで犠牲になってきたんだろう?

 思わずそう思わずにはいられない程に、国を背負う王族の資格を示す為のこの試練は過酷すぎる。

 だけども、そんな俺の心配を吹き飛ばす様に、ケイは放たれた瘴気を防ぎ、浄化してみせる。恐らく、防御障壁に浄化魔法も組み込んでいたのだ。

 しかし、あれだけの圧縮された瘴気を浄化するには、かなり強力な浄化の力がが必要なハズだ。いったいどれだけの魔力を込めて、あの浄化防御障壁を展開しているのやら。

 だけど、良い判断だ。浄化の力を宿したあの防御障壁は、瘴気によって生み出されてた今回の相手に対して攻防一体の強力な切り札となる。

 実際、漆黒の閃光が防がれたのを確認すると共に放たれた、サイコロプスの戦鎚の攻撃を防ぐと共に、瘴気の塊でもあるその戦鎚を浄化し、ボロボロに砕いて行っている。


「カアァァァァァァ」


 だけども、安心はできない。サイコロプスの攻撃は、さっきのオーガとは比較にならない程に激烈だ。浄化の防御障壁によって浄化され、崩壊しながらも確実に障壁を削っている。このままだと浄化しきるより先に障壁が砕かれるのは明らかだ。

 もっとも、それはケイがこのまま何もしなかったらだけども。


「これでっ」


 先程よりも強力な浄化魔法が放たれる。

 確実を期して、ケイ自身の総魔力の2倍近い魔力を込められた魔法は、サイコロプスの胸に突き刺さり、浄化して完全に打ち倒す。


「お見事」


 明確に弱点があるとはいえ、今の刑よりも明らかに格上の相手に完勝してみせたんだ。見事としか言いようがない。

 さて、それよりも、ケイの方はまだ警戒を解いていないけど、試練はこれで終了かな、それともまだ続くのかな?


『挑みし者、ケイレーンの王者の資格を認める』


 気が付けば、霊廟の中心に人影があった。

 だけども、アレは実体のない幻影にすぎない。当然だろう。ここは建国王の霊廟。ならば、ここで行われる試練の終わりを告げたこの人物は。


「貴方が、私たちの御先祖様なのですか?」

『作用。我はこの地にドワーフの国を築きし者。この地を覆っていた瘴気を打ち消すため。浄化システムの一部となり存在し続ける者でもある』


 システムの一部と来たよ。

 つまりこの人は、何十万年、下手をしたら何百万年も前からこの地で瘴気を浄化し続けているんだ。恐らくは、自らの造り出したシステムに自分自身を組み込む事で。


『この地を覆いし瘴気は、我らドワーフの過ちの証でもある。だからこそ、我らは命を賭してこの地の汚れを祓わねばならぬ。それは我らが責務故』

「私たちドワーフの過ちの証とは、どういうことなのですか?」


 ケイの疑問も最もだ。広大なレイザラムの大地を生き物が生存不可能な、瘴気に侵された穢れた大地にしてしまったのが、かつてのドワーフだったと?


『長い年月を経て、真実は忘れ去られてしまった。だが、どうやってもこの地が瘴気で穢されてしまったのは、我らドワーフの責任であると言う事実は変わらん』

「そうであるなら、私は更なる試練を望みます。そうすれば、ほんの少しであっても瘴気の汚れを浄化できるハズです」


 試練はこの国の瘴気によって行われている。だからこそ、試練をクリアすればするほど、多少なりともこの国の瘴気を浄化できると言う訳だ。

 何処までも純粋に、真っ直ぐな瞳でケイは宣言する。

 うん。ソレでこそキミだよね。


『其方の意思は確かに受け取った。だがそれには及ばん。其方の試練は既に終わっているのだからな。それに、この地を覆いし瘴気は、未だに浄化しきれぬほどに膨大であり、同時に、一度に余りに大量の瘴気を浄化してしまうと、逆に大地を傷付けてしまう。だからこそ、少しずつ浄化して行くしかないのだ』


 成程ね。それがレイザラムで瘴気の浄化がまだ続いている理由か。それにしても、今更だけどそれだけの瘴気を完全に封印しきっているんだから、信じられない程に高度なシステムだよな。

 

「それで、後どのくらいで瘴気の浄化が終わるんです?」


 本当は口を挟むつもりはなかったんだけど、気になったので思わず聞いてしまった。


『其方は、10万年周期の戦いのために呼ばれし転生者か。瘴気の浄化は、後1万年ほどで終わるハズ。それを持って、我はようやくその使命を終える事が出来る』


 1万年後なら、浄化が終わる瞬間に立ち会えるかもしれないな。まあ、ジエンドクラスの最高位にまで登り詰めたらの話だけど。


「それならば、その時は見送らせていただきますよ」

『1万年後、我が役割を果たし終える時を見届けると言うか・・・・・・。しかし、今の其方の力では、これから先の戦いを生き残る事は叶わぬぞ』

「それなら、何処までも強くなればいいだけの事。俺もケイもね」


 死にたくなければ強くなるしかないんだから、もう強くなるためにはナリフリ構ってられない状況だ。

 戦いの中心に何時の間にか居る事になるのが嫌だとかそんな事言ってられない。まずは、何がなんでも強くならないと話にならないと、この前の、ゲヘナでの活性化の戦いで痛感した。

 と言うか、そう遠くなくまた同じような事態に巻き込まれる気がするんだよ。


『そうか、であるならば龍穴に触れるがよい。龍穴は龍脈の流れが集う場所。そして、龍脈の力はこの世界の意思を体現している。龍穴に触れれば、この星の意思と対話する事が叶おう。そして、この星に認められれば力を貸してもらえよう』


 何か話が大きくなって来たな。いや今更か、神なんて存在まで出て来たんだから、星の意思でってありだろうよ。


『そしてケイレーンよ。この地の龍穴に触れるが良い。ここは我らドワーフの地、その中枢たる龍穴なればこそ、其方は此処で星の意思に、世界を護らんとするその覚悟と決意を示すと良い』


「ケイだけなのか、俺は?」

『其方はヒューマンであろう。ならばヒューマンの収める地で触れるべきだ』


 まあ、それが道理かな。それに、実際問題として此処で龍穴に触れたら大変な事になりそうな気がするし。


「龍穴に触れるですか」

『左様。龍穴はこの霊廟の中心に位置する。そこにて、母なる星の意思に触れるが良い』

「判りました。アベル。しっかり見守っていてね」

「当然だよ」


 俺はシッカリと頷いて、決意を込めて龍穴に触れようとするケイを見守った。


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