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「伝説の賢者の石が復活するとは」
無事に錬成を終えた後、ケイの御祖父さんである元国王はホクホク顔でミスリルを持って姿を消した。
因みに、当然のように賢者の石も持って行こうとしたのでそれは阻止した。これは国の所有物となる。間違ってもあの御仁に持たせていい代物ではない。それなのに散々ごねたけど無視した・・・・・・。
そんな訳で、賢者の石はケイの父親の国王に無事に渡せた。
王としては父親のやりように頭が痛いだろうけど、無事に賢者の石を手にできてご機嫌だ。
「賢者の石の力がどれくらい持つのか判りませんが、その石は既に10トンのミスリルを精製しているので、それなりに力を使ってしまっているハズですよ」
「それは承知、その上で、賢者の石がどの程度の錬成が可能なのかを計る良い機会でもある」
「確かに、保管されていた素材であと4個はつくれますしね」
レイザラム王家に伝わっていた賢者の石の素材は、全部で5つの賢者の石を精製可能な量だった。本気で、良くこれだけの量を確保したものだと思うよ。
「それとおそらくですけど、賢者の石の力は、使われる龍玉の力によって決まりますから、俺たちが持つ龍玉を使えば、強力な賢者の石が生成できますよ」
「成程、賢者の石の力は龍玉によるものか」
まあ、ミスリルなら普通の銀に魔力を込めて造り出す事も可能だから、確実とは言えないけど、金属を造り替える錬成の力り源は龍玉の龍脈の力とみて良いと思う。
その上で、今回食った賢者の石に使われた龍玉の数万倍の力を宿している俺たちが持つ龍玉で賢者の石を造り出せば、当然だけどもそれは今回造り出して物の数万倍の力を持つ者となる。
まあ、確実にそうなるかどうかはまだ判らないけどね。
それと、それ程の力を持つ龍玉を使っても、今の俺に賢者の石を錬成できるのかと言う不安もあるけど。
「とは言え、そちらを使わせてもらうかは、よく考えてから決断させていただく。その龍玉は、これからの戦いにおいて切り札にもなり得るものであろうしな」
「確かに」
実際、俺たちが持つ龍玉を使えば、ヒュペリオンどころか、ベルハウゼルをもはるかに超える様な最終兵器を造り出す事すら可能だと思う。
それに、これから先に必要になる事態が起きる気がするので、迂闊に使うべきじゃないとも思っている。
「とりあえず、アベル殿には残された素材で、もう1つ賢者の石をつくっていただきたい」
「構いませんよ」
当然だけども、全部を賢者の石にしてしまう気はないみたいだね。
「そちらの方は魔力が回復したらすぐにでも取り掛からせてもらいます。それと、転生者の件ですが」
「対面は3日後を予定している。確認できただけで40人。転生者である事を隠して居る者もかなりおりそうだ」
40人か、これまでで一番多いな。
あっ、そう言え儀ヒューマンの転生者の確認をしていない・・・・・・。
ヒューマンは全種族の中でもっとも人口が多いし、かなりの数の転生者がいるハズ、少なくても、俺とザッシュたちしかいないなんて事はありうないし、でも、ヒューマンの転生者まで迎えたら、いったいどんな人数になるんだろう?
死ぬほど面倒な事になりそうだけど、まあ、ヒューマンの転生者はミランダに丸投げする手もあるし・・・・・・。
「そう言えば、転生者の中に新型の装機竜人の開発に係わった人がいると聞きましだけど?」
「ああ、メリエルの事じゃな。かの者は元々、竜騎士団の技師であったのだが、よもや転生者であったとは」
詳しく聞いてみると、年齢は150歳でES-ランクの実力者で、50年前から竜騎士団の技師として勤め始め、今では技師を纏めるトップになっているらしい。
と言うか、実質的な竜騎士団のトップだそうだ。
それはそうだ。そもそも竜騎士団に所属している竜騎士は、全員がA・Bランクで技師であるメリエルよりも格下なのだし、と言うか、ヒューマンの国と違って、こっちでは技師はそのまま装機竜人の開発者でもあるため、基本的に技師の方が騎士よりも立場は上らしい。
「生意気な口先だけの騎士どもをボコボコにして、何人もも叩き直してやっていて、それもあって騎士団の誰も頭が上がらないそうで」
「それはそれは、会うのが楽しみな人ですね」
うん。完全に技術者系の人物だね。装機竜人の新技術体系の確立とかで盛り上がれそうだよ。
このところ戦いとか指導とかに忙しくて、そっちの方の研究とか開発とかに時間をさける暇がなくて不満だったんだよ。そのたまったストレスの良い捌け口になってれそうな予感。
「それではこれで、」
「ああ、とそうだアベル殿、ケイとの間に子供が出来たらすぐにでも知らせてくれるように」
話も済んだ立ち去ろうとしたら、最後の最後にもの凄い爆弾を落とされたよ。
「今の所、そういう事をするつもりはありません」
「そうか、確かにキミもまだ成人を迎えたばかりだし、正式な結婚もまだであるから。しかし、これから先は更に忙しくなってそれどころではなくなってしまいかねないのでは? であれば、今の内に子をなしてもらいたいのだが」
「一応、助言として聞いておきます。ただし、その話はケイにはしない方が良いかと」
「それは勿論。命は惜しいので・・・・・・」
命が惜しいのなら俺にもするなと言いたい・・・・・・。
まあ、娘にこの手の話をしたらどうなるかは、恐らくは万国共通だと思う。
まあ、王としても孫の顔が見たいのは確かだろうし、それに、戦力的な意味でも期待していたりするんだろうけどね。遺伝で才能の全てが決まる訳ではないのは判っていても、俺とケイの子供なら優れた才能を持っいるだろうってね。
何処の王家も、国の存続の為に優れた才能を必要としているので、こればかりは仕方がない。
仕方がないのは判っているけど、今のところそのつもりはないのでさっさと立ち去る。
売り言葉に買い言葉で言い合ったりしても碌な事にはならないのは、判りきっているしね。
「それにしても、子供はともかく結婚か・・・・・・」
俺が成人して、結婚できるようになったので周りも放っておないだろう。
結婚の方は間違いなく逃れられない。と言うか、俺の知らない内に着々と準備が進められていそうな気がする。
気が付けば、俺の知らない内に結婚式当日でしたとかなりかねない。
「結婚がどうしたの?」
「いや、俺が成人した以上、周りはすぐにでも結婚と迫ってきそうだなって」
別に嫌な訳じゃないんだけどねと、何時の間にか隣を歩くケイに言い訳もしておく。
本当にイヤな訳じゃないんだけども、なんとなくまだ実感が湧かない。俺の場合、結婚するとなると一度に10人も奥さんが出来る訳だし・・・・・・。
「うーん。でも難しいかもね。私にユリィにティアナ。姫君が3人もいる訳だから、会場を何処にするかも問題になるし」
「その問題があったね・・・・・・」
「それに、出来る事ならシャクティたちも一緒にって思惑もあるし」
「いや、それはどうかと思うよ・・・・・・」
そうなると全ての種族の姫君を迎え入れる事になるんだけど・・・・・・。
「まあみんなの気持ちもあるしね。だから、心配しなくても結婚の話はまだ先になると思うよ」
「別に心配している訳じゃないんだけど」
なんて言ってみても、これは完全な言い訳だよ。
そのくらいの自覚はあるんだけど、なんていうかね・・・・・・。
「大丈夫。私はアベルのそう言うところも含めて好きだから」
「嬉しいんだけど、もの凄く不甲斐ない感じがするよ」
間違いなく思いっ切り不甲斐ないよねコレ・・・・・・。
もういいや、気にしていても仕方がないと諦めよう。だって、まだ心の整理がついていないんだし仕方がない。
・・・・・・本当にヘタレだな俺。
自覚すると更に情けなくなるので、この話はこれまでとして、なんとなくこのままケイと一緒に王都を散策してみる事にする。
そう言えば、ここのところこうやって2人で一緒に出掛けたりとか出来ていなかった。
どうでも良いけど、レイザラムの街並みはどことなくドイツ風を思わせる。
「さてと何処に行こうか?」
前に来た時は魔道具屋とかを除いたけど、今回はどうするかな?
「行きたい所があるの」
「それなら御伴いますよお姫様」
さてさて、ケイの行きたい所とはどこかな?
と思ってついて行ったら、そこは広大な地下空間だった。王都の地下にこんな場所があったとは知らなかった。
「ココは?」
「レイザラムの初代国王。建国王の霊廟」
それはまた驚きだ。
「建国王と言う事は、この地を覆っていた瘴気を祓って、国を築いた人物の」
「そう。同時に、ここかこの国を瘴気から守るもうひとつの要でもあるって聞いた」
この地を覆っていた瘴気は、まだ完全に払拭できた訳じゃない。それはこの前来た時に知った。そして、聖域が瘴気を浄化する地である事も。そして、ここがそれと同様の場所であると・・・・・・。
「此処の事は王家の中でも機密にされていて、私も今回帰ってきて初めて知った」
「まあ、国を覆っていた瘴気が実は、まだ消えていないなんて秘密にするしかないし」
勿論、それだけじゃないのも判っている。ここがもうひとつの要と言うのなら、ここにも瘴気を抑え込み、浄化する為の何かがあると言う事。
「それで、何でここに来たのかな?」
「試練を受ける為」
試練? いったい何の試練だ。
「この霊廟は、正気を浄化する地であると共に、王族がこの国を背負う力があるかを示す為の試練の場でもあるの、この霊廟は、正気を集め魔物に似た物に作り変えるシステムを持っているから」
はい? つまり、それを倒す事で瘴気は浄化され、また、倒す事で王族としての力を示す場でもあると?
「私はこれから試練を望むから、アベルに見守って欲しいの」
「判ったよ。キミの事を見守らせてもらうから」
場合によっては介入するとは言わないルケイなら、きっとどんな試練ども乗り越えてみせるから。




