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「それじゃあ、この子たちの指導は基本ユリィに任せるから」
「誰かに教えるのは初めてだから、少し緊張するね」
「それは仕方がないよ」
人に指導する立場と言うのは、責任がある分どうしても緊張するものだからね。むしろ、ココで緊張しないようなら、それは人に対する責任をそもそも取る気がないって事だし。
「まあ、ひとつ忠告しておくと、はじめからあまりやり過ぎない事だね」
「それをキミが言う?」
うん。当然その反応になるよね。
俺も自分でなにを言っているんだとか思うよ。
「むしろ、俺だからの忠告? とりあえず、教える立場になる事で、自分も成長していくから。頑張ってみると良いよ」
「逆に教えられる事もあるって事?」
「それもあるね」
実際、教育、指導と言うのは奥深いものだからね。人を導くと言うのは本当に難しい事なのだよ。教える側も、決して完璧な人間などではありえない訳だし。
「まあ、実際に指導をしてみれば判るよ」
「そうね。とりあえず、話を聞いてたと思うけど、貴方たちの指導は私がするから。要するに、貴方たちはこれから私の弟子になってもらうからね」
「はっ、はい。よろしくお願いします」
ポカンとしてた子たちがはっとなって慌てて頭を下げる。
そう言えば、この子たちに指導はユリィに任せるって説明してなかったよ。
「あの、ひょっとしてユリィ様も転生者なのですか?」
「私は違うよ」
「うん。多分だけど」
「転生者ではないのですか?」
その辺りは微妙なんだけど多分違うと思う。世界樹の加護とかからしても、異世界からの転生者じゃなくて、純粋にこの世界の住人だろう。
「うちには転生者以外のメンバーもたくさんいるよ。そもそも、転生者だけで戦えるほど生易しい戦い樹ないからね。これから先に待ち受けているのは」
実際の所、ジエンドクラスの魔物が次から次へと溢れ出してくる程度で済むのかも疑問なんだよ。本気で、10万年前の転生者たちが残した遺産の過激さからすると、それだけじゃすまない気がして仕方がないんだよ。
実は、記憶に残されていないだけで、ジエンドクラスよりも更に上のランクの魔物が存在して、それと戦っていたんじゃないかなとか思わなくもないし・・・・・・。
「とりあえず、転生者だって事にあまり拘らない方が良いよ。実際の所、転生者と言っても、全魔法属性以外の特典もないんだし」
「戦う為に、この世界に転生して来たのにですか?」
「うん。後は10万年前の遺跡に入れるだけ」
本当にそれについては疑問で仕方がないんだよね。どうして、世界の命運を賭けた戦いのために異世界から転生して来たはずなのに、チートな転生特典がない?
10万年前の転生者たちだって、元の世界でやってたゲームの知識があっから強くなれたんであって、転生特典があった訳じゃないし、本当にどうなっているんだろう。
「それと、戦いのために転生して来たとか気にしない方が良いよ。確かに、この世界じゃ戦いは避けられないけど、それを含めてこの世界を楽しめばいいんだからね」
「楽しむですか?」
「そう。楽しんだ方が絶対に良いからね」
人生は楽しんだモノの勝ちというやつだ。
転生者たちが残していった、日本のマンガやアニメを後で見せてあげよう。間違いなくみんな喜ぶし。
俺も、途中までしか読めなかったマンガや小説の続きがあって嬉しかったし。やっぱり、気に入った作品は最後どうなるかまで確認したいよね。
「まあ、そう気構えないで、気楽にいこうよ」
「気楽にですか」
「そう。気楽に。だって実際に、カグヤの封印が破られて、本当の戦いが始まるまで、少なくても後100年はあるんだよ? 今から気負っていたんじゃ持たないよ」
出来れば、その100年の内に、カグヤの封印が破られないで済む方法が、地獄の戦いが始まらないで済む方法が見付かると良いんだけど、多分、望み薄かな・・・・・・。
と言うか、10万年前の転生者たちはどうも、この世界の戦いそのものを終わらせようとしている気配がある。
彼らが残しているとしたら、間違いなくそれ、神の意思によって続けられていると思われる。2つの世界の戦いを終わらせるための何かじゃないかな・・・・・・。
それがなにかは想像も付かないけどね。
「それに、転生者は今の段階でもう100人以上いるんだよ。これから更に増えて行く。そう考えると、俺たちは世界を護る戦いのためにこの世界に転生したとは言っても、1人1人はそう大した存在じゃないんだよ」
「アベル様が言いますか・・・・・・」
むしろ、俺だから言うよ。自分が特別だなんて己惚れは、実の破滅の元だからね。
「それに、これからスグにレイザラムに行って、ドワーフの転生者を受け入れるつもりだから、転生者仲間はまたすぐに増えるよ」
「えっ? もうユグドラシルを発つのですか?」
「当然。もともと、世界樹の花の探索に来たんだし、それは無事に終わったんだからね」
何気に旅を始めてからもう3年。随分時間が経っている。
と言うか、まだ全種族の国を回りきれていないし・・・・・・。
もともとの予定だととうの昔に回りきっているつもりだったんだけとね。何か厄介事に尽く巻き込まれて時間がかかりまくっているよ。
そんな訳で、出来ればコレからはもう少し効率よく回りたい所だよ。
と言う訳で、さっさと次のレイザラムに向かうとする。
みんなにヒュペリオンに乗ってもらったら、そのまま転移で一瞬で到着。船ごと転移はある意味楽でいい。
着いたらそのまま城に直行。当然だけども、事前に連絡は入れてあるのでスイスイ進む。
「ココがドワーフの国、レイザラムですか」
「レイザラムに来るのははじめてか?」
「はい。やっぱりユグドラシルとは違うんでする」
「そりゃあここはドワーフの国だし」
ユグドラシルの街を歩くのがエルフである様に、レイザラムを街を歩くのは基本ドワーフ。最高の鍛冶職人が揃うレイザラムの町並みには、その特徴も出ているし。当然、ユグドラシルの街並みとは全く別物。
「それなら、後で少し観光でもしてみると良い。転生者を迎えに来ただけだから、それ程用事はないし、代わりに多少の時間は取れるから」
「それは楽しみです」
と言うか俺も観光しようかな。冷静に考えると、しっかりレイザラムを敢行した事なかった気がするし。
「確かに特に用事はないけど、アベルはお爺様に強襲されると思う」
「確かに」
ああ、あの筋金入りの鍛冶馬鹿ね。覆いを返上した後鍛冶師となって、ドワーフの国で屈指の鍛冶師にまで登り詰めた御仁。
確かにまた強襲されそう。
「今のアベルなら、文献にだけ残る賢者の石の精製も可能だと思うから、御爺様が見逃さないと思う」
「賢者の石か、そう言えばそんなのもあったな」
賢者の石と言えば、錬金術の領域、卑金属を金に変える媒体とかのハズが、何故に鍛冶師が食い付くのかと言えば、当然使うから。と言うか、それさえあればおのれの望む好きな金属をいくらでも手に入れられる、鍛冶師にとってはまさにゆるの様な魔法の素材。
「確か、賢者の石があれば、レイザラムはムリでも、オリハルコンやミスリルならほぼ無尽蔵に造り出せるんだっけ」
「使い手の力量次第だと思うけど、それでも非常識な代物なのは間違いないと思う」
実用性の高いオリハルコンやミスリルの価値は、金やプラチナとは比べ物にならないくらい高い。そんなモノをたとえばただの鉄とかかに造り出せるのだから、もはや反則以外のなにものでもない。
そんな訳で、この世界における賢者の石のかとは、それこそ地球とは蔵へモノにならないくらいに高い訳だよ。
なのだけども、賢者の石を造り出すにはジエンドクラスに匹敵する魔力が必要とされる。
よって、かつてつくられた物がすべて失われてしまっていこう。賢者の石は伝説の存在になってしまっのだと。
それがだ、現在、ほぼジエンドクラスに匹敵する魔力を持つ俺とユリィが現れた事で、その伝説の秘宝をよみがえらせる事が可能になった訳だ。
「とは言っても、実際に作れるかは判らないけどね」
「文献に示されている材料をすべてそろえられるかも、そもそも疑問だし」
そこがネックなんだよ。
と言うか、そんなオモシロそうな、中二病を擽るようなアイテムがつくれると言うのに、今までつくてみようとしなかったのは、材料が揃えられなかったからだし。
もうチートとかそんなレベルじゃない、明らかに卑怯な代物。賢者の石。それを造り上げるために必要な素材は極めて入手困難な希少な物ばかり。
現状、3分の2までは素材を揃えられたけど、残りの3分の1を集めるのにどれだけ時間がかかる事か、いや、それどころか一生揃えられない可能性だってあるよ。
「待っておったぞアベル殿。早速、賢者の石を製作しようぞ」
なんて考えていたら、城の前で待ち構えていた爺さんに捕まってしまったよ。
早速ってね、素材がなければつくれないんだよ。その辺りのこと解っているのかな?




