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「これは完全に想定外なんだけど・・・・・・」


 目覚めたユリィを前にして、俺は頭を抱えずにはいられないんだけど・・・・・・。

 どうしてこうなるの?

 本気で勘弁してくださいっていうのが偽りのない本音だよ。


「どうしたのアベル?」

「うん。気付いてないみたいだねユリィ」


 本人は一切自覚が無いみたいでキョトンとしているよ。

 いや、ユリィが悪い訳じゃないのは判っているよ。悪いとしたら世界樹だから。


「あのねユリィ。今の自分の魔力と闘気について、把握できてる?」

「うん。世界樹から何かが流れ込んできて、一気に魔力と闘気の総量が膨れ上がったのは判ってるよ。私もレジェンドクラスに至ったんだね。これから試練か」


 実に感慨深そうなユリィなんだけど、そうじゃないんだよ。


「そうなんだけどね。その、どれくらい魔力と闘気が増大したか判ってる?」

「どのくらいって、レジェンドクラスのレベルでしょ?」

「そうなんだけど、ぶっちゃけ、今のユリィの魔力と闘気は、俺とほぼ同じくらいなんだよ」

「はい?」


 そこで完全に凍り付くユリィ。

 どうやら本人も理解してくれたみたいだよ。


「本当に? 冗談じゃなくて?」

「こんな冗談つかないから・・・・・・」


 冗談だったらよかったのにって俺も思うけどね・・・・・・。


「それじゃあ、私はレジェンドクラスになった瞬間に、ジエンドクラス一歩手前にもなっちゃったの?」

「そうなるね」


 今のユリィは、ほぼすべてのレジェンドクラスの魔物を容易く倒せるだけの力がある。勿論、力を使いこなせればの前提付きだけども。


「それでユリィ。問題は力を使い越せるかなんだけど」

「それは大丈夫だと思う。なにか、自然とどう使えばいいのかが判るから」

「それは、世界樹が教えてくれたって事?」

「多分そう」


 とりあえず、ユリィは世界樹の意思でパワーアップしたのが確定。


「何がしたいのかな世界樹・・・・・・」

「・・・・・・さあ?」


 うん。これについては答は出ないよね。ユリィも本気で困ってるし。


「まあ良いか。気にしても仕方ないし。それよりユリィ。キミの試練がもうすぐ始まると思うから、その前に腹ごしらえしておこうか」

「うん。今まで気が付かなかったけど、もの凄くお腹がすいてるかも」


 うんそうだろうね。一日でありえない程パワーアップした訳だし。体がエネルギーの補給を訴えているだろうよ。


「そう思って、食事の準備は出来ているよ」

「ありがとう」


 それじゃあ早速と移動する。因みに、どうでも良い事だけど、俺とユリィはほぼ同じ身長なので、歩幅もほとんど一緒。だから、自然と同じ速さで歩く事が出来る。

 そんなどうでも良い事御考えながら食堂に向かうと・・・・・・。


「おおユリィ。起きたか」


この国の次期国王が、平然とユリィのために用意した料理を食べていた。


「アナタは何をしているのかな?」

「丸一日起きないとなると流石に心配だからな。妹の見舞いに来たところだ」


 へーそうなんだ。でも、それなら何故に、ユリィのために用意して料理を食べているのかな?

 と言うか、隣のユリィの顔が能面みたいになっているんだけど。自分がやらかしている事に気付いてないのかな?


「うむ。元気そうで何よりだユリィ。それにしても、このシチューは実に美味いな」


 ああそれは、ユリィの好物だよ。ダーク・フェニックスの肉を使ったクリームシチュー。エシャロットの香りが隠し味になっているんだよ。

 と言うか、さっきからユリィが一言も話さないのが怖いんだけど・・・・・・。

 これは、確実に怒っているよな。

 うん。むしろ、怒らない理由がないよ。

 なんて思っていたら、ユリィがおもむろに動き出したよ。


 ガツンッ!!!


 何をするつもりかなと思ったら、兄の顔に蹴りを入れたね。それも全力で、手加減なしで。

 蹴られた兄はそのまま吹き飛んで、10メートル先の壁に激突して落ちたよ。うん。俺は本気で痛いね。完全な自業自得だけど。

 ピクピクと痙攣したまま起きてこないのは、どうやら気絶しているらしい。うん。起こすと面倒だからこのままで良いね。


「それじゃあユリィ。用意しなおすから、少し待ってて」

「うん」


 ユリィは何事もなかったかのように適当な席に座り、俺も何事もなかったかのようにキッチンに向かう。

 当然だけども、ユリィが必要としているエネルギー量はトンデモナイ数値になるから、それを満たすために料理は大量に、それこそ山のように用意してある。だから、実際テーブルに並べておいたのを食べられたくらい問題はないんだよ。

 ないんだけど、アレはいったい何をやっているのかね。あんなのが次期国王とかホントどうなんだろ?


「はい、お待たせ」

「ありがとう。それじゃあ、いただきます」


 やっぱり相当お腹がすいていたみたいで、料理を持って行くとスゴイ勢いで食べはじめるユリィ。


「やっぱり美味しい」


 お気に入りのシチューを食べてご機嫌そうだね。うん。

 だけど、ここまで美味しそうに食べているのを見ているとこっちもお腹がすいて来るね。お昼を食べたばかりなんだけど、俺も少し食べようかな?

 そんな訳で、俺も一緒に少し食べる事にする。

 と言っても、軽くサンドイッチと後は当然だけども、ユリィがさっきから美味しそうに食べ続けているシチューを一杯くらいにしておくけど。

 そんな訳で二人の食事をする事にする。どうでも良いけど、どうして誰も来ないかね?

 他の誰かが通りかかっても良さそうなんだけど、どうしてか誰も来ない。魔力反応で誰がどこに居るかとかなんて丸わかりなんだし、ユリィが起きたのが判った時点で、ケイが飛んできそうなものなんだけど。


「随分と食べたね」

「アハハっ、こんなに食べたのはじめてかも」


 だろうね。明らかに何時もの10倍以上は食べてるし。まさかシチューを食べ尽すとは思わなかったよ。3メートル以上ある大鍋一杯につくったんだけどね。 

 うん。物理的にどこに行ったんだって不思議なくらい食べたね。


「その様子だと、試練も余裕そうだね」

「多分だけどね。正直、負ける気がしないから」


 だろうね。


「だけど、油断は禁物だよ。そこまでの力で試練に挑むんだから、下手をしたらスサノオとかが出て来るかも知れないし」

「判ってるよ。でも、油断さえしなければ、出て来たところをアイン・ソフ・オウルで一撃」


 うんそうだね。と言うか、スサノオ相手の場合は、基本戦術がそれ一択だからね。


「そうだね。それじゃあ、試練が始まるまでケイの所にでも行こうか?」

「うん。全く気を使っているつもりなのかも知れないけど、来ないなんて」


 どうやら、ユリィとしては起きたのに気付いてすぐにケイが来てくれなかったのがおかんむりのようだ。

 そのケイの方としては、俺と2人っきりになるように気を使ったつもりなんだけども、イヤイヤ、キミがいてこそだよ。


「ちょうど部屋に1人でいるみたいだし、転移で突撃しちゃおうか」

「賛成。驚かしてあげちゃうんだから」


 そんな訳で、転移でケイの部屋に突撃。とは言え、着替え中とかだったりしたら困るので、その前に何をしているか確認。

 うん。どうも、早くユリィの所に行きたいけどでもとか、ぐるぐると悩んでいるみたいだね。

 悩んでいるならちょうど良いよ。こっちから行ってしまうから。


「やあケイ。失礼するよ」

「ケイ。私が起きたのに気付いていて、来てくれないなんてひどいよ」

「ひゃっ!! アベルにユリィ???」


 うん。驚いてくれたみたいだね。


「見ての通り、ケイが目を覚ましたよ。予想通り、レジェンドクラスになってね」

「うん。おめでとうユリィ」

「それがおめでとうとも言い切れないんだけどね」

「えっ? どういう事?」

「そのあたりは、ユリィ本人に聞いて。それじゃあ、俺はこれで、また後でねユリィ」


 混乱しているケイを放置して、俺はここで退散する事にする。

 後は2人で話し合えば良い。


「ありがとう。アベル」


 小さく呟いたユリィの言葉を受けながら、俺はケイの部屋を後にする。



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