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「今年も上手く見つかると良いけど」
ベルゼスたちの試練が無事に終わった所で、俺たちはそのまま即座にユグドラシルへ急行する事になった。
なに、展開がいきなりすぎる?
うん。そうだね。でも、そんな事を言っている暇はないんだよ。
何故なら、既に世界樹の花が咲いているだろうからだよ・・・・・・。
世界樹の花が咲く期間は1週間。その間に、広大な世界樹のどこかに1輪だけ咲いている花を見付け出さないといけない。
見付け出せれば、最高の味わいの世界樹の蜜を取る事が出来る。
ただし、見付け出すのは極めて困難で、この前見付け出すまで、実に数百年も見付け出せずにいたほど。
そんな訳で、数百年ぶりに見付け出した俺たちは、それ以降もまた見付け出してくれることを期待されて、この時期に捜索に参加するのが確定となった訳で、しかも、去年もまた発見してみせたりしたものだから、その期待は更な高まっている訳。
そんな訳で、既に花が咲いていると思われる以上、即座に世界樹の元まで来るよりほかなかったんだよ。
別れの挨拶とかしている暇もなかったね。
「アベルなら、簡単に見つけられそうだけど」
「何を根拠に。俺より、ユリィの方が格率は高いんじゃないかな」
問題は、エルフの聖域である世界樹の領域に立ち入りが許される人数が限られている事だよな。うちのメンバーの中で入れるのは、俺とレジェンドクラスのミランダ。それに各種族の姫であるユリィたち。他のメンバーはお留守番。
で、捜索するメンバーの中で、一番見付けられる確率が高いのは、去年見付けたユリィで、その次がまあ俺になると思う。
「それは言わないで、みんなの期待が怖いんだから」
「それは俺も同じだよ」
なにか、今年も絶対に見付けてくれるみたいな期待をされてて、正直怖い。
そんなに簡単に見つけられる様な物なら、何百年も見付けられずにいたりしないよホント・・・・・・。
「まあとりあえず、出来るだけの努力はしてみようか。そんな訳だから、みんなも頑張ってね」
うん。とりあえず他に言える事がないね。
とは言え、そう簡単に見見付かったら苦労はしない訳で、初日は半日以上かけて調べ尽しても成果はなし。
うん。まあこんなものだよ。
流石に、探し始めたその日に見つかるなんてそんな都合の良い事は起きない。起きないんだけども、周りからしたらできれば明日くらいまで名は見付けて欲しいのが本音だと思う。
見付かるのが遅くなると、その分確保できる蜜の量が少なくなるからね。ある意味、切実なんだよ。
「やあアベル。今日も頼むよ」
「ここで会うとは思っていなかったよ・・・・・・」
本気で、心の底から会うと思っていなかったんだけど、何でいるの・・・・・・?
いや、世界樹の花を見付けるために召集されたのは判ってるんだけどさ・・・・・・。
にこやかに笑いかけて来るのは、ユリィの兄にして、ケイの天敵たる人物。エルフの国ユグドラシルの次期国王なんだけど、登場した瞬間、うちのメンバーの警戒態勢がマックスになっているんだけど。
「イヤイヤ、世界樹の花を探すのは、ユグドラシルにとって重要な国家行事なのだから、次期国王として参加しない訳にはいかないよ」
「そう言われれば確かに・・・・・・」
言われてみれば確かにそうで、この人物が居る事を想定してなかったこっちが迂闊だったよ。
「ついでに言えば、出来れば今年は私が見つけたいのだけども、まあムリだろうな」
「そんな風に思っているとホントに見つけられないと思うけど、次期国王として、明確な功績を示したいなら、何が何でも見付け出すんだくらいの意気込みで行くべきじゃないかな」
「確かにね。まあでも、キミたちを押しのけて見付け出せるかはかなり疑問なのは確かだよ」
「だからどうして、俺たちなら見付け出せるみたいな話になるかな」
そんなに期待されても困るんだよ。そんなに都合良く毎年見付けられるほど生易しいモノじゃないし、見付けられなかった時に勝手に失望されるのも勘弁して欲しいんだけど。
「それはアベルだからな。キミならばどうとでもなると思うし」
「そんな根拠のない事を言われても困るんだけど・・・・・・」
「出来れば、今日中に見付けたいものだよ。では」
こっちの話聞きやしないし。言いたい事を言うとサッサと捜索に行ってしまったけど、まあ、あのままここに居られても、メンバーの機嫌が悪くなるだけだったから良いんだけどね。
それにしても、ディアナなんて特に露骨に嫌っていたけど、各種族の姫に嫌われる次期国王ってどうなの?
「ようやく居なくなった」
「そこまで嫌わなくても」
「アレが今までしてきた事を思えば当然」
本当に、いったい何をやらかしたんだ次期国王?
「まあ良いけど、それじゃ、俺たちも捜索を始めようか」
「そうね。絶対にアイツじゃなくて私たちが見付け出す」
なんか知らないけど、やる気も出してくれたようだし良いのかな?
気にしても仕方がないから、世界樹の花の捜索を始めるとしよう。
それにしても、世界樹は本当に大きい。しかも、花の癖に咲いたのが外から解らないから始末に悪い。いや、咲く場所によっては、外から丸わかりだから、捜索する必要もなく見付かる事もあるらしいけど、それこそ1000年に1度あるかないからしい。
太いモノだと数百メートルを超える直径の世界樹の枝の間を飛び回りながら、花の捜索を続ける。世界樹の領域の中は、本当に心地よい空間なのだけども、見付ける当てもないままに捜し続ける作業を続けていると流石にイヤになってくる。
それでも、昨日捜したところをまた探し回るような事はしていないし、駆り出されている人員も100人を超えているのだから、昨日と今日でかなりの範囲を捜索できるのだけど、それで見付け出せるかはまた別の問題。
「魔法で見付けられたら楽なんだけどな」
既に、世界樹の花は一度見付けているのだし、その時に特徴は覚えているから、それを基に捜索系の魔法で見付け出せれば本当に楽なんだけども、何故かできないんだよね。
その理由は全くもって不明なんだけども、まあ、世界樹からの、自分たちの力で見付け出してみせろって試練なんだと思う。
試練を受ける側としてはたまったものじゃないんだけど・・・・・・。
「このまま闇雲に探していても見付からないよな」
もう探し始めて3時間が過ぎている、3時間もただひたすら探し回って見付からない苛立ちの所為で、独り言が多くなってしまう。
そして、このまま探し続けても無駄なのも事実だと思う。
それじゃあどうするのかと言えば、なんとなくこの辺にあるんじゃないかなと思う所に行ってみる事にする。要するにカン頼り。いい加減過ぎるのだけども、こういう探し方のほうが見付けやすかったりもするんだよ。
とりあえず、なんとなくそうした方が良い気がするから、世界樹の一番上まで行く事にする。
世界樹を見下ろす位置にまで来る。そこは上空200キロを超える高さの領域。
一番高い所に生える世界樹の葉は、太陽と月の魔力を影響を受け、他の葉とは違うモノとなっている。
聖燐の葉と呼ばれるそれらは、それだけで霊薬と同じ力を持つと言う。
その聖燐の葉の狭間に・・・・・・。あったよ。
上空から見える訳じゃないけど、少し分け入った所にひっそりと咲いていたよ。
何かこの辺りにありそうな気がするって探してみたら、アッサリ見付かったよ。
「世界樹の花が見付かったよ」
とりあえずサッサと連絡する。
これで10分もしない内に、みんな来るだろう。蜜の採取用の道具を万全にそろえてね。
「それにしても、まさか本気でカンで見付けられるとは、思ってなかったんだけど・・・・・・」
これはいったい何の冗談だろうと言うのが、正直な所なんだよね。
「やっぱりアベルが見つけたね」
「うん。予想通り」
ユリィにケイよ。そんな当然みたいに言われても・・・・・・。
「まさか、本当に見つけられるとは思ってなかったんだけどね」
「それでも、見付けちゃうのがアベルよね」
返す言葉がないのが困った所だよ。
「それにしても、本当にキレイな花」
「それには、全面的に同意だよ」
本当に、この世界樹の花はありえないくらいに綺麗だ。一種の芸術、しかもその極みと言って良い美しさで、これを超える美しさを誇る花はほかに存在しえないと思う。
「蜜の収穫が終わっら、花びらの1枚だけで良いから欲しいかも」
ソレは俺も欲しいかも、なんて思いながら、ユリィが世界樹の花をそっと撫でるのを見ていたんだけど、アレ?
世界樹からユリィに何か流れ込んでない?
そう思ったらイキナリ、ユリィの体が光り出したよ。
そして、光が収まったと思ったらユリィが倒れるので慌てて支える。どうやら気絶したみたいだ。
「どうしたの。何があったの?」
「世界樹から、ユリィに何か送り込まれたみたいだよ」
何があったのかは正直判りません。
何が送り込まれたのか、正直判りようもないし。
「でも、これってキッカケになる気がする」
「キッカケ?」
「そう、ユリィがレジェンドクラスに至るキッカケ」
それこそただの勘だけどね。間違いない気がするよ。
そうなると、ユリィが目覚めたらすぐに試練かな・・・・・・。
「それだけじゃすまない気がするのは何故なんだろ・・・・・・」
準備期間もなくいきなり試練なだけでも大変なのに、それだけじゃすまない気がするのは何故なんだろう。
どうか、何事も起きないでくれると助かるんだけど、多分、祈るだけムダなんだろうな・・・・・・。
勘弁してください・・・・・・。




