22
ユリィとケイが仲間になた翌日、何時までも留まっていても更に厄介事が舞い込んでくるだけだと、俺はマリージアを離れる事を決めた。
と言っても、すぐに旅に出れる訳じゃあない。レイルなど発つ事を告げておかないといけない相手もいるし、メリアたちにしても別れを惜しむ相手もいるだろうし、初めて国を出るのだから準備もいる。
そんな訳で出発は二日後になったが、特にトラブルに巻き込まれる事もなく無事に迎える事が出来た。
「じゃあなレイル。大変だと思うが、頑張りすぎないようにな」
大変と思うが頑張れではなく、大変だからと言って頑張りすぎない様にとレイルに別れの忠告をする。
「判っているよ。そちらも、まあ、あまり派手に動きすぎない様に・・・」
余り頑張りすぎると更に大変な事になると判っているレイルは苦笑して頷き、こちらには無茶な注文をしてくる。
言った本人も無茶だと判っているので、半ば諦め気味だが、俺としては出来るなら本当にあまり派手に動かなければいけないような事態にはなって欲しくない。
・・・望み薄だとは判っているが、本当にトラブルばかり降ってこないで欲しい。
「出来たらそうしたいところだよ。本当に、ともかく、じぉあな、気が向いたらまた会おう」
別れも済ませたので、さっさと中断していた旅を再開する。実際、会いたいと思えば俺もメリアたちも転移魔法で簡単に愛に来れるし、何か用事があれば連絡してくれればすぐに駆け付けられるのだから、別れなどとたいそうなものでもない。
飛空艇で次の国、北に位置するアスタートに向かい、魔域に接する街リスリルへと立ち寄る。そこから目的地に向かい飛行魔法でひとっ跳びで着く。
目的地は勿論、古文書に記してあった未発見と思われる遺跡。一番近いその遺跡は、十万年前には飛空船などの生産工場だったらしい。
飛空艇を造る工場なら広さは十分だし、機材も装機竜人ように簡単に流用できる。それに、十万年前の飛行船にも興味がある。
今よりもはるかに危険が高かった時代に空を飛ぶために、今よりも高度な技術がふんだんに搭載されたハイスペックに飛空艇が造られていたのは間違いない。いったい当時はどんな強力な機体が造られていたのか、実物を見るのが楽しみだ。
問題は、アスタートではどんなトラブルが待ち受けているかだろう。
マリージアでの様に、着いたと思ったら怒涛のトラブルに厄介事の嵐なのは勘弁して欲しいが、とりあえず、火山地帯の魔域に接するアスタートでは、ベルゼリアともマリージアとも違った魔物が多く出てくる。新たな美味との出会いが待ち受けているのも楽しみだ。
「私たち、マリージアを出るのは初めてだから楽しみです」
「確かにね、私も一年前まで色々な国を旅して周っていたけど、特にこれから行くアスタートなんて、南の海洋国のマリージアとは全く違うから、初めての行き先にはもってこいだと思うわ」
赤道に近いマリージアと北の火山地帯に接するアスタートでは環境がまるで違う。世界の広さを実感するにはちょうど良い場所だと、楽しそうにはしゃぐアリアにアレッサがガイドをしている。
俺も当然、初めて行く場所なので楽しみだ。灼熱のマグマが常に噴火し続けていると言う魔域はかなりの絶景だと聞いている。
同時に、難攻不落の難所でもあるとの事だが、当然だろう。魔物だけでなく絶えず続き噴火にも注意を割かなければいけないのだから、魔域の内部はかなり危険地帯になる。
まあ流石に、今回は魔域の内部、奥深くまでは要はないので関係ないが、
「アスタートは料理も美味しいから、期待していいわよ」
実際に行った事があるアレッサの情報はありがたい。
そして、料理も美味しいのは何よりの知らせだ。
この辺りは地球のヨーロッパに近い文化圏だが、当然国ごとに少しずつ文化も違う。イタリヤにスペイン。ドイツにオランダ。フランスにイギリス。それぞれが独自の文化を築いていたように、ネーゼリアでも国ごとに独自の文化を誇っている。
当然、それぞれの国の文化に合った食文化も発展していて、各国の食事を楽しむのも楽しみの一つだ。
「俺としてはいずれ、エルフやドワーフの食事も楽しみたいところだが・・・」
それも、ユリィやケイの里帰りに付き合えば楽しめる。
エルフやドワーフが築き上げた食文化がどんなものなのか期待は大きい。
「興味を持ってくれたのは嬉しいね。何だったら私たちが作っても良いけど、ここはやっぱり、実際にエルフやドワーフの国に行ってから味わった方が良いかな?」
「その通りだな。ユリィやケイの手料理も気になるけど、と言うか二人が料理できるのも驚きだけど」
「失礼だなキミは、まあ確かに、私たちの立場からすれば、料理が出来るのも不思議かも知れないけれど、美味しい者を自分でつくれるのは嬉しいからね。趣味に近いかも知れないけど、腕の方はかなりのものなんだよ」
二人の立場からすれば、それこそ料理を習っている暇などなかったハズだ。ただひたすらに強くなるための特訓を課せられていたハズで、次代の国を担う者としての責任と義務があるので、自由にできる事など限られていたハズだ。もっとも、それならどうして自由に旅が出来ていたのかと言う謎が残るのだけど、それは利害が一致した二人が組む事で可能になったと言う事だろう・・・?
詳しく聞くと厄介な事になりそうな気が果てしなくするので、今のところ聞こうとは思わないが・・・、
「それは凄いな、これは、ユリィたちの手料理を食べれる日を楽しみにしてよさそうだ。でも、とりあえずは二人も新しく訪れる地を楽しんでくれ、マリージアとはかなり違うらしいし、料理も期待していいらしいから俺も楽しみなんだよ」
「キミの場合は、どんなトラブルが待ち受けていようと、料理だけは、美味しい物だけは絶対に楽しみそうだね。まあ、旅をする上で必要な心構えだからいいけど」
「私たちも同じ気持ちだしね。せっかく新しい場所に行けたのに、楽しめないなんて損だからね。何があっても旅は楽しまなきゃ損だし」
ユリィもケイも呆れた様にしながらも同意している。二人にしても、立場的に気軽に旅をしているつもりでも、トラブルの方がワザワザやって来る事も多かったのだろう。そのせいでせっかくの自由な旅を楽しめないなどありえないと思っているのだろう。
その意見には、俺も全面的に同意する。
「確かにその通りだよな。だからまあ、とりあえずは、アスタートの観光と料理を楽しもうか」
アスタートに着いてからやる事は決まっている。遺跡は逃げはしないのだ。まずは新たに訪れた国を精一杯楽しませてもらおう。
こちらの邪魔をするのならどんな相手であっても必ず排除する。
少なくても、マリージアの様にいきなり魔域の活性化が始まる事は確実にないので、その意味では安心できるのだが、だからと言ってないも起こらないとは限らない。平時に乱を起こすバカは何処にでもいるものだ。出来れば会いたくもないし、関わりたくも一切ないのだか、向こうがそうはさせないだろう。
「当然。マリージアでヒューマンの料理も美味しいのが解ったし、存分に楽しむんだから。これからはトラブルが起きてもキミがどうにかしてくれるし」
「うん。楽しみだよね。ヒューマンの国に来てよかったよ」
エルフやドワーフとヒューマンの感性はそう変わらないと言う事だろう。二万年も関係が断絶しているので、その間に好みなども変わって、違っていたりする可能性もあるかと思ったが、二人の様子を見る限りはそれもなさそうだ。
後なにか、非常にひどい事を言われた気がする。
やはり、ユリィとケイ旅もトラブル続きだったのは確定のようだが、これからは俺に押し付けられるから自分たちは楽が出来る。明らかにそう言っていると思うのだが・・・。
気のせいではないだろう。本人たちに悪気はないのも判っているが、多分、それも目当てで俺の所に来たのだろう。
まあ、生まれてからずっと義務や責任に縛り付けられてきたのを、ようやく抜け出して自由に旅が出来ると思ったのが、虫除けならぬトラブル避けか、いや、トラブルそのものが避けてくれる訳ではないので、この場合は本当に押し付けられる相手だな。
まあ、ヒューマンの国にまで来れば、彼女たちの地位や立場の柵からくるトラブル自体もそうなくなるので、これから起こるトラブルは俺が原因か、俺が巻き込まれるトラブルなのに変わりはないのだろうけど。
「まあ、トラブルが起きるかはキミ次第かも知れないけど?」
ユニゾンで笑われてしまった。全く持ってその通りなので何も言えない。
「起きるかどうかも判らないトラブルを気にしてても無駄だ。まずは食事を楽しむ事を考えないと」
と言う訳で、さっさと話しを変える。
俺が旅をしている理由の内、美味しい物を食べると言う目的は結構な割合を占める。これは譲れない。
「と言う訳でアレッサ。アスタートはどんな料理がおいしいんだ?」
「実際に行ってから確かめるのも一興だと思いますけど、そうですね。内陸の国ですから、マリージアとは違って魚ではなく肉料理が中心になります。特に腸詰などが有名ですが、お肉料理はどれも美味しいですよ。お肉の扱いでは一番の国かも知れませんね」
腸詰が有名と聞くと前世のドイツを思い出す。肉料理に長けた国か、事前に調べた感じても、肉料理に定評があったが、実際に色々な国を旅して周っていたアレッサが一番と言うのなら、これは本当に期待できそうだ。
「ホホウ。それは楽しみだね。肉料理にはドワーフもうるさいからね。私を満足させられる肉料理を用意できるか楽しみだよ」
ヒューマンの国で一番肉料理が美味いらしいと聞くと、ケイは嬉しそうだ。確かに、ドワーフ鍛冶と共には酒とつまみの肉のイメージがあるが、どうやらネーゼリアでも同じらしい。
会ってからまだ四日しか経っていないが、彼女の酒豪ぶりはよく理解できた。なお、俺は前世の死因がアルコールだったようなのと、まだ成人していないのあって酒は飲まない。代わりにユリィとアレッサが付き合っていたが、二人もかなりの酒豪だった。
「まあ、酒は程々にしておいてくれよ。遺跡探索もあるんだから、酔いつぶれていたらおいて行くからな」
名所や料理を楽しんだらいよいよ遺跡探索だ。
遺跡自体は、これから行くリスリルの街から魔域に入って、火山地帯に入る手前の池の底にある。
元々は地上にあったモノが、十万年の間に地形が変わって池の底に沈んだらしいし、そもそも、元々は魔域の中に造られたモノでもなかったのだが、こちらも、十万年の間に魔域に飲まれたらしい。
そのおかげて未発見のまま残っているのだから、こちらとしては好都合だ。
「そちらも楽しみよね。十万年前の未発見の遺跡か、確かに魔域の中にあるのなら見つからないわよね」
「今とは比べ物にならない程の繁栄を誇ったと言うかつての遺産。カグヤを造りしものが残した遺跡なのだから、本当に楽しみよ」
「・・・えっ?」
二人とも遺跡探索を楽しみにしているようだが、それよりも今、聞き捨てならない事を言った。
カグヤの事を知っている?
まさか、二人も俺と同じ転生者だと?
「ちょっと待った。ユリィ、キミはカグヤが十万年前に造られたモノだと知っているのか?」
「私としては、キミが知っている方が余程驚きだけど、知っているわよ。私やケイの家には代々受け継がれてきた伝承があるの〝異界より来たりし超越者、魔の脅威より世界を救う救世主にして、偉大なる統治者なり。かの者、その技術と知識の粋を集め、異界の法すら駆使し、天に世界を魔の脅威から守りし守護星を造り出さん。第二の月カグヤ。そは偉大なる王たちが造り出しし守り星なり〟てね。他にも色々と残っているけど、本当の事かどうかも判らない程の、お伽噺のような英雄譚よ」
「それで? キミの方はどうしてカグヤの事を知っているのかな?」
絶対に逃がさないぞと詰め寄ってくる。ユリィとケイだけでなく、話を聞いていたメリアたちも興味津々と言った様子でこちらを囲んでいるので、誤魔化すのは無理だろう。
「俺の方はこれ、偶然見つけたその時代の、どうやらその超越者と呼ばれていた本人が書いたらしい古文書に掛かれていたんだよ。これから行く遺跡の場所なんかと一緒にね」
俺は例の遺産である書物を取り出す。ちなみに本物だ。誰にも読む事が出来ないのでから死蔵していた本で、歴史的価値があるので破棄されずに残っていただけなので、研究したいと言ったら普通にもらう事が出来た。
「読んでみるか? ただし、読めるかは判らないけど、超越所と呼ばれた者が使っていたらしい言語で書かれているから普通には読めないよ」
ウソは言っていない。日本語で書からた書物は、ネーゼリアでは未知の言語で書かれた謎の書物だ。
ユリィが手に取ってページを開いてみるが、どうやら彼女にも、一緒に覗き込んでいるケイたちにも読めない様だ。日本語と言う呟きも漏れてこないし、本当に不思議そうにしているので、どうやら彼女たちが転生者と言う事はないようだ。
「これなんて書いてあるのか全然わからないけど、キミは読めるんだ?」
「かつての超越者が使っていた言語を、どうしてキミが解るのか不思議なんだけど?」
じっとこちらを見詰めて来るが、流石に同じ地球から来た転生者だとは言えない。
言ったところで信じてもらえるような内容でもないけど、だからこそ、不審に思われるだけの事をワザワザ言う必要もないだろう。
「どうしてと言われても俺にだって判らないさ、はじめから普通に読めていたんだし、ただ、俺がレジェンドクラス候補と言われるほどの力、正確には才能を持っていた事と関係してるのかも知れないけど」
真実は語らずにウソはついていない。
どうして、彼らと同じこの世界に転生したのかなんて全く分からないし、転生者だからこそ才能に恵まれていたのだろう事も確かだ。
「ちなみに、俺が強くなれた、メリアたちが実践して狩る訓練法もその本の中に記されていた、かつて超越者たち自身が、実際にやって強くなった方法だ」
その上で、疑問に思われない様に更に爆弾を落とす。
これもウソではない。紛れもない事実だ。
「もっとも、流石に超越者と呼ばれた彼らと同じ強さに辿り着けるとは思わないけど」
これも事実だ。チート中のチート。間違いなくネーゼリアの歴史上最強の存在である十万年前の転生者の事を知らないメリアたちは首を捻っているが、伝承に伝わるデタラメな武勇の数々を思い浮かべたのだろうユリィとケイは大きく頷いている。
「まあそれでも、強くなるのは確実だからキミたちも期待していいよ。勿論、ユリィとケイの二人もね」
実際どこまで強くなれるかは本人の才能次第だが、このチート法ならば確実に限界まで強くなれるのも確かだ。勿論、ゲームだから可能だった様な無茶苦茶な、それこそ現実で出来るハズもない方法も多いので、完全に同じ事が出来る訳でもないけれども、後に続く俺にとっては何よりの助けなのは間違いない。
「あれ? ひょっとして私たちもキミの弟子になる事になってる?」
「それは勿論。キミたちならすぐにSクラスに成れるよ」
元々、数年後にはSクラスになるのも確実な二人だ。少しだけなるのが早くなるだけに過ぎない。
せっかく知り合えたのだから、何か柵や厄介事がますます増えると確定していても逃がすつもりは無い。勿論、死んでもらうつもりも無いので、メリアたちと一緒に出来る限り強くなってもらう。
俺の我儘だが、気にするつもりは無い。彼女たちは元々強くならないといけない立場にあったのだ。
それを後押しするだけなのだから、何ら問題も無い。
なんだかんだ言い訳をしながら、俺は結構独占欲が強いのかも知れない。
メリアたちにしろ、アレッサも、ユリィとケイも、会って間もないのにすぐに離れて欲しくないと思い、師弟として繋がりをつくって、離さないようにしている。
彼女たちが自分の意思では慣れていくのなら、無理やり邪魔をするつもりは、離さないつもりは無いが、何と言うか自分でせっせとハーレムを造ろうと頑張っている様にしか、冷静になってみると俺にも思えない。一体何をしているんだろうと自分でも思うが、自分でも困惑し様が何だろうが、好きに生きているんだからそれでいいだろう。
そう自分を納得させる俺を、八人とも不思議そうに見ているのにようやく気付いた。




