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「頑張っているな」
どうも、その動機が不純な気もするんだけどね・・・・・・。
ベルゼスたちのレジェンドクラスに至る試練は順調に進んでいる。
と言うか、順調だからこそ逆に怖いんだけど・・・・・・。
既に9人全員が試練を受けている。
当然だけども、まずはじめにベルゼスの試練が始まり、それから立て続けに、残りの8人の試練も始まった。問題は、まだ3週間しか経っていなためか、誰ね試練を終えていない事だろうか。
いや、ベルゼスは既に力の制御を完全にこなせる様になり、試練を終えていると思うのだけども、問題はそれを証明できない事。
レジェンドクラスの魔物が現れる試練自体が、他の8人がまだ力の制御が出来ていないため続いているため、ベルゼス自信の分の試練が終わっていると断言できなかったりする訳なんだよね・・・・・・。
だから、ベルゼスなんかは既に自分の試練が終わっているのに、弟たちの試練に干渉しているかも知れない訳で、それが、これから先に何らかの影響を与えないか怖いんだよ。
「それより。明日はアベルの誕生日でしょ。そちらの方を考えたら?」
「いや、自分の誕生日の事を考えろと言われてもね」
確かに気が付けば春。ついでに明日は俺の誕生日なのだけとも、俺からしたら、それがどうしたでしかないんだよね。
まあ、15歳になり、この世界における成人を迎える事の意味は大きいんだけどさ・・・・・・。
結婚も出来るようになる訳だしね。
「当然だけど、この国に居る以上は、父様たちが盛大に祝うよ」
「それも勘弁して欲しいんだけどね。試練の途中なんだし・・・・・・」
自分の息子たちが、命を賭けた試練に臨んでいるのだから自重しようと言っても、絶対に聞き届けられないだろうな・・・・・・。
「むしろ、試練の途中だからこそ、盛大にっていうと思うけど・・・・・・。あっ、終わった」
だろうね。それと、キリアの言う通りベルゼスたちが戦い終えたみたいだ。今回も無事に勝てたのだし、これで全員の試練が終わってくれると助かるんだけどね。
そう都合良くはいかないよな・・・・・・。
「アベル様、誕生日おめでとうございます」
「ありがとうティリア」
開けて翌日。
現在王人の王族主催による、俺の誕生パーティーの最中なのだけども、正直、メンドクサイ。
「主役がそんな顔しててどうするの」
「そうは言うが、面倒なモノは面倒だし」
そもそも、俺はこういうパーティーとかに係わりたくないんだよ。
「それは知ってるけど、一通り挨拶が終わったら、後はボクと一緒に居ればいいだけだし」
「それは判っているよ。だからこそ、こうして我慢しているんだしね」
これが、本当の意味でのパーティーだったら俺は真っ先に逃げているよ。ベルゼスたちの試練を見守るっていう言い訳もあるし。
「誕生日おめでとうございます。アベル殿。どうも、窮屈な様子ですが」
「ありがとう。俺はこういうのあまり好きじゃないんだよ。肩が凝ると言うか」
その言い訳に居ようとしていたベルゼスたちが祝いに来た。
どうでも良いけど、4メートルを超える筋肉だるまが、キチンと清掃をしているのには、正直かなり違和感がある。と言うか、その凶悪な顔つきからして完全にヤクザのトップにしか見えない。
10万の配下を持つ裏組織のトップとか。
とりあえず、子どもが見たら怯えて泣き出すレベルだよね・・・・・・。
「実は、我らも同じなのですよ。どうも、こういう場は苦手でして。とは言え、立場上そうも言ってられないのが困ったモノです」
「まあ、社交の場はどうしても必要だしね」
「そういう事ですな」
そう言うとサッサと立ち去ってく。
なんと言うか、見た目によらず本当に気が利くと言うか弁えてるよ。
この国の王子であり、レジェンドクラスに至ろうとしているベルゼスたちが、祝いの言葉と簡単な挨拶をしただけで、離れて行ったのだから、これ以降、出来れば俺と顔を繋げたいと思っている参加者も、長々と話をする訳にはいかない。
そんな訳で、その後の祝いの挨拶も実にスムーズに終わってくれて、後は好きにご馳走を食べて良いだけになってくれたよ。
「パーティは面倒だけど、これは確かに楽しみだよ」
「ボクも久しぶりだし。思いっきり楽しむよ」
面倒事も終わった事だし。さっさくこれでもかとばかりに用意されている料理を、思いっきり楽しませてもらうとしよう。
それにしても、この料理を用意するだけでいくらかかったんだろう?
今回、俺は食材の提供をしていない。
なんで、祝う相手から材料の提供を受けなければならないのかと言う、もっともな理由で断られたからだけど、こうして目の前の料理を見ると、どれだけの費用をかけたんだと少し不安になる。
まあ、隣で美味しそうに食べているシオンがから、食材が提供された可能性は高いけど、それでも数百億かかっているんじゃないかな?
「それにしても、これはステーキと言うより肉塊・・・・・・」
「でも、そのサイズだからこそ出せる味だよ」
「それは確かにね」
確かに、このサイズだからこそのこの深く、野趣溢れる味わいなんだろう。
だけど、それにしたって大きい。4キロはある肉の塊だよ。それを豪快に焼いたものだけど、コレって見た目はローストビーフとかだよね。薄切りにしてソースをかけて食べるとかじゃないのかね。
牛刀のような巨大なナイフで切り分けて、そのまま齧り付くんだけども、シッカリと火が通っていながらも柔らかな肉は容易く噛み切れて、肉の味がこれでもかと口の中に広がる。味付けは塩コショウと、ガーリックとジンジャーのみ。シンプルな味付けが肉のウマさを最大限に引き立てている。
だからじゃないけど、あっと言う間に食べ尽したよ。4キロの肉を食べ尽しても、当然まだまだ腹ごなし程度。
「次はこれがお勧め」
そうキリアが進めて来たのは、30センチはあるコロッケ。揚げたてらしくアツアツ。
「ソースは?」
「なしで。これはそのままが美味しいから」
では早速食べるとしよう。勿論、これは切り分けたりしないでそのまま齧り付く。
うん。美味い。中身はシンプルな、ジャガイモのコロッケなんだけど、ここまで美味しいコロッケを食べたのは初めてだよ。そして、これは確かにソースはいらないね。
あと、これはビールが欲しくなるかも。
「それにはコレがないと」
思ったところで、ディアナがジョッキでビールを持ってくる。
受け取ってコロッケを飲み込んだところにすかさずビールを流し込む。うん。本当に完璧な組み合わせだよ。
「それと、私もご一緒させてもらうから」
「はいはい」
断れないでしょそれ。
キリアも嬉しそうにしているしね。当然のようにディアナはキリアの肩に居るし。
「キミたちは本当仲が良いね」
「当然。それにここしばらく一緒に居られなかったから。キリア成分が不足しているし」
「ボクからそんな成分は出てないと思うけど」
ああ、なにか良いなこの感じ。なんとも言えないゆるい空気が心地良い。
「ううん出でる。私には必要不可欠。だから、アベルはキリアを取っちゃダメ」
「ソッチに話がいく?」
「と言うか、ボクとアベルはそんな関係じゃないの判ってるでしょ」
なんだろうな、このふざけたやり取りは・・・・・・。
もの凄く楽しいんだけど。
まあ、年に1度の誕生日なんだし、こんなのも悪くないかな。今日だけの特別と言う事で。
ベルゼスたちの試練とか、このまま何事もなく終わるとも思えないし、波乱の前の一時の休息と言う事で。




