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「・・・・・・ほっ、本当にコレに意味があるのですか、殺気と重圧に慣れるための訓練なら、これまでも十分受けていますが・・・・・・」
「あっ気付いた? うーんと、意味があると言えばあるし、ないと言えばないかな」
「やはり・・・・・・」
実戦訓練を終えて、息も絶え絶えと言った様子のベルゼスが聞いて来るので、素直に教えたらがっくりと力尽きてしまったみたいだ。
うん。実際。これまでに殺気と重圧に耐えるための訓練は散々して来たから、今さら追加でする必要がないと言えばないんだよ。
でも、良い経験だったと思うよ。それに、いくら訓練をしていても、実戦で動けなかったら意味はないからね。実戦を想定した訓練を受けておくに越した事はないから、その意味では確かに意味はあるしね。
「まあでも、とりあえずこれで、事前に備えておくべき事は全部やったから、後はキミたちが実際にレジェンドクラスに至るのを待つだけかな」
「正直、未だに半信半疑なのですが。我らがレジェンドクラスに至るなど・・・・・・」
その辺の気持ちは判るけど、この手のやり取りもいい加減飽きたので放置。
「試練も問題ないと思うし。なんと言っても俺が直々に鍛えたんだから。まさかとは思うけど、レジェンドクラスの魔物相手に負けて、試練に失敗したりしたらどうなるか判っているよね?」
「「「「「それは勿論っ」」」」」
まあ、失敗したら跡形もなく消し飛んで、生き返る事も不可能な即死なんだけどね。
どうやら、それ以上に俺からの制裁が怖いみたいなんだけど・・・・・・。まあ良いか。
実戦訓練がやらなくても良いものだったと気付いちゃったみたいだし、それならとりあえず、これでベルゼスたちを鍛えるのは終わり。後は、何時レジェンドクラスに至るかだから、それを待つ間に遺跡探索を進めてしまおう。
「それなら良いけど、ひとつだけ忠告。レジェンドクラスに至るのが何時になるかは判らないけど、決して油断しない様に」
間が開くと気が抜けてしまう可能性が飴からね。その時は、もう一度しごく事にするとしよう。
「まあそれはともかく、まずは昼にしようか、ちょうど来たみたいだし」
王人のやり方なのか、訓練中はここまで運ばれて来る昼食をみんなで食べるていて、今ではすっすり慣れて当たり前になっている。
と言うか、シオンたちがいち早く食べ始めているんだけど。
食べているのは、ホットドッグか。これまた、王人用のとんでもない大きさのホットドッグは見るからに美味しそうだ。
挟んであるソーセージがこれまたすごい大きさで、食べ応えがありそうだし。
あと、骨付きのフライドチキンもあるみたいだな。
骨付きのもも肉なんだけど、あの王木佐はいったい何の鳥の魔物の肉だろう?
間違いなく、ダチョウの足くらいの大きさがあるけど。こちらの常識だと、その程度の大きさじゃあ大したランクの魔物じゃないから、味も大した事ないハズなんだけども、その程度の素材が、王宮で出される料理に使われるハズもないし・・・・・・。
うん。結構気になるね。
そんなな訳で、まずはホットドッグじゃなくてフライドチキンからいこう。
「キミたちも早くしないと、なくなってしまうよ」
「そうですな。正直腹が減って仕方ありませんし」
初日は息も絶え絶えで、しばらく休まないとゴハンを食べる余裕もなかったんだけどね。本当に逞しくなってモノだよ。
そんな事を思いながらアツアツのフライドチキンを手に取る。
揚げたてで本当なら手に持てないくらい熱いけど、まあこの世界じゃそんな事今更、全身を覆っている魔力と闘気の膜が熱を指弾してくれるので、火傷する事もないんだよ。
まあ、この熱さのまま食べたら、口の中を火傷しそうだけどね。
全身を覆っている魔力と闘気の膜が厚さを遮断するんじゃないのかって?
イヤイヤ、口の中まで覆ってしまったら、せっかく出来立てのアツアツを食べたのに、その温かさも感じなくなってしまって、味もそっけもなくなってしまうよ。
そんな無粋と言うか、せっかくの美味しさを半減させてしまう様なバカなマネはしないよ。
とそんな事はどうでも良いんだよ。良いんだけど、くだらない事を考えている内に口の中を火傷しないで済むくらいになったみたいだから急いで食べよう。
これ以上、熱が下がったら美味しかが損なわれてしまうよ。
王人サイズなので、俺が持つと冗談みたいな大きさのフライドチキンに齧り付くと、薄く邪魔にならないように計算されたころもと脂の乗った皮、そして肉汁の溢れる肉の味が口いっぱいに広がる。
「美味しい」
うわっ。これは本当に見事だよ。
なにより驚いたのは、コレ、ころもの部分よりも肉の部分の方が味がシッカリしているよ。
この大きさだと、食べ進めている内に衣を先に食べ尽してしまって、味の染み込んでいない肉の中心部分だけが残ってしまうんじゃないかって思ったんだけど、どうやらそんな初歩的なミスなんか犯しはしない様だよ。
食べ進めてみるとハッキリ判る。どうやってかは知らないけど、このフライドチキンには肉の、それも外がはじゃなくて内側に程なる深い味付けがしてある。だから、衣がなくなってしまっても深い味わいを楽しめる。
これは、もうフライドチキンとは違う、別の料理なんじゃないかって思える完成度だよ。
一気に1本目を平らげて、2本目、3本目と平らげて行く。10本を平らげたところで、何の肉か気になっていた事を思い出す。
「これは美味しいね。気にいったけど、何のフライドチキンなのかな?」
「これはサンダーバードよ。王人のフライドチキンはサンダーバードと決まっているの」
サンダーバード。雷鳥と。
アレ? でもサンダーバードはA+ランクの魔物で、その大きさは体長5メートル。翼を広げれば20メートル近くにもなる大きさじゃなかったっけ?
この骨付きモモ肉は確かに大きいけど、サンダーバードの巨体を考えるとサイズがおかしいような?
うん? アレ? 俺ってサンダーバードを倒したことあったっけ?
そう言えば、これまで3年近くも世界中を旅しているのに、まだサンダーバードとお目にかかった事なかったよ。これはつまり、その巨体の大半は羽で出来ていて、実際の身はこの大きさと言う事なのかな?
ついでに食べるのも初めてだけど、こんなに美味しかったとは驚きだ。
と言うか、王人風のこのフライドチキンの調理法が、サンダーバードの肉と最高の調和をしている。まさにこの肉の美味さを最大限引き立てるための料理法だよ。
それにしても、A+ランクの魔物の肉でつくるのが基本となると、フライドチキンは王人の中でかなりのご馳走なのかな?
多分、日本での和牛ステーキくらいの位置取りにはなると思うんだけど。
「とっ、なくなる前に、ホットドッグの方も食べておかないと」
気が付けば、山のようにあったホットドッグも後3分の1くらいしかなくなっている。すぐに追加が来るだろうけど、この調子だとそれより前に食べ尽されるのは目に見えているし、その前に1本くらいは食べとおこうかな。
それにしてもデカい。フランスパン1本くらいの大きさがある。このサイズは、月精には辛いんじゃないかと思ったら、シオンと変わらないペースで食べてるし。どうも、ディアナは王人の料理が割と好みみたいだ。
ただし、飲み物は炭酸ジュースでもビール度もない、発酵ワインみたいだけど。
それにしても、シオンのビールと同じでスゴイ勢いで飲んでいるよ。
シオンが飲むビールのジョッキは、3リットルは入りそうな特大の王人サイズで、彼女は一口でそれを半分近く空けているんだけど・・・・・・。
まだお昼だよ。流石にペースが早過ぎない?
ビールくらいじゃ水と同じだから、全く問題ないって言っていたけど・・・・・・。
と思ったら、ベルゼスたちは更にその倍は飲んでいるよ。まあ、フライドチキンはビールと合うし、て俺も飲みたくなって来たな。
でも止めておこう、今日はグレープソーダで。
うん。このグレープソーダも美味い。サッパリとした味わいながら強烈な炭酸で、口の中の油を一気に取り除いてくれる。
さてと、口の中がリセットされたところで、早速ホットドッグを味わおう。いくら大きすぎるからって、切り分けて食べるなんて無粋な真似はしない。当然、そのまま齧り付く。
「っ!!!」
口の中一杯に頬張っているので声は出せないけどこれも本気で美味しい。
パンの甘さにソーセージの肉の旨み、ケチャップとマスタードも絶妙だけど、なによりもコレは、口にした瞬間に感じる強烈なニンニクの風味が最高。
「これは強烈な。でも、これはガーリックソーセージな訳じゃない様だけど」
その、このホットドッグの味の決め手であるニンニクの味は、ソーセージからはしていないし、パンでもない。これはパンに塗ってあるバターから、しかし、こんな強烈なガーリックバターがあるモノなのかな?
「気に入ってもらえたようでなにより。これはどうも、好き嫌いがハッキリと分れるようで」
「それはそうだろうよ」
だけど、これは気にいったらやみつきになる味だよ。
どうも、王人の料理はジャンクフード系が多いけど、どれも信じられないくらい美味しい。
「それにしても、キミたちは随分と余裕だけど、試練の方は大丈夫なのかな?」
「それは今更ですね。さっきの実戦訓練でもう腹は決まりましたよ」
それは良かった。コイツらの場合、シオンに無様な姿は見せられないとかも思ってそうだけど。
それにしても、9人が試練に臨むか、何事も起きなければ良いんだけど・・・・・・。




