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「こちらです」
案内されたのは、防衛都市のひとつにある研究施設。
思いっきり立派な研究所だけど、個人の所有物だそうだよ。とりあえず、前世の大学の研究棟どころか、大学が丸ごとくらいの立派なものだね。
高位の研究にはこれくらいの研究施設が必要なのは判ってるけど、コレって絶対に一人じゃ管理しきれないよね。
「そう言えば、聞き忘れていたけど、依頼主ってどんな人なのかな? あう枚に多少は聞いておきたいんだけど」
「あっはい。依頼主のリリアーナ・オルフェウスト様は元はES+ランクの冒険者でして、100年前に引退したのち、魔工学師としての研究に没頭され、その当時からこの国でも屈指と言われています。以前、アベル様が発見された10万年前の装機竜人、グングニールのでしたか、アレの技術を解析果て新たなシステムを構築されるなど、この国にとってもなくてはならないお方です」
成程ね。100年前に引退したとなると、推定だけどミランダより年上と考えて良いよな。まあ、大体500歳前後くらいかな?
この研究所を個人の資産で造り上げて維持している訳だし、その資産から考えても大体そのくらいの年齢かなとか判断してみたけど、場合によっては、ミランダより年下の200歳くらいの可能性もあるから、そのあたりに注意しておかないとな。年齢の部分は結構深刻なトラブルの原因にもなり借るないから。
それにしても、さっきの話からすると、おそらくそのリリアーナ氏が開発したシステムは、現在の王人の国アシュラの竜騎士隊が駆る装機竜人に正式採用されているのだろう。
独自に研究してそこまでの成果を上げるとは、魔工学者としても錬金術師としても世界最高位と言っていい実力者なのは間違いない。これは、会うのが楽しみになってきたな。
「成程ね。でも、それほどの人物なら、研究に必要なら国からグランデューユの天核を借り受ける事も可能だと思うけど?」
「確かにそうですね。ですがすいません。詳しい経緯は判りません。どうかご本人にお聞きください」
そう言えば、ギルドでも詳しい経緯は聞いていないとか言っていたっけ?
それにしても成程、ギルドに詳しい説明もなしに指名依頼を出すなんて、無茶な事が出来るのも納得に大物だった訳だ。
「了解。それじゃあ早速、会うとしようか」
「判りました。では・・・・・・、リリアーナ様。アベル様をお連れしました」
それにしても、既に研究所の中に入って結構経つのに、誰とも追わないとはどういう事だと疑問に思っていると、案内してくれている職員が当人を呼び、その瞬間に転移して現れたよ。
何この登場?
「おお来てくれたか。イキナリ指名依頼などを出して悪かったね」
現れたのは3メートル程の身長の割とスレンダーな女性。肩の長さに切り揃えて黒髪と鋭い黒い瞳に日本人を思わせる顔付は、ひょっとしたら鬼人の血でも引いているのかな?
「それでは、私はこれで」
案内してくれた職員は、そう言ってすぐに帰っていたよ。紹介くらいはしてくれても良かったんじゃないかな。いや、この人が依頼主だって事は判りきっているけどさ。
「俺が依頼を受けたアベルだよ。それで、リリアーナさんはグランデューユの天核が欲しいって事だけど?」
「そうなんだよ。八方手をつくしても手に入れられなくてね。そんな時にキミがちょうどこの国に来ている事を聞いてね。キミなら持っているんじゃないかと思って」
「確かに持っているけど、渡すかどうかは、何に使うつもりなのか説明してもらって次第かな」
「おおっ、やっぱり持っていたか。何に使うかか、勿論説明させてもらうよ。それじゃあ、早速研究室に行こう。実際に実物を見てもらって方がはやいからね」
そう言うや否や、俺たちを転移で研究室とやらに連れて行く。
あまりに唐突だったので反応できなかったよ・・・・・・。
転移した先は確かに研究室みたいだけど、パッと見じゃ何の研究をしているのかサッパリ判らない。
「さて、どうしてグランデューユの天核が必要かと言うと、私は今、重力制御による空間跳躍システムの研究をしているのよ」
思いっきり胸を張って宣言されたけど、もっと詳しく説明してもらわないと訳が分からないんだけど?
重力制御による空間跳躍システム?
それはアレか、ひょっとして、ブラック・ホールを使った転移システムの確立を目指していると翠うのか?
「それはまさか、グランデューユの天核を使ってブラック・ホールを発生させ、されによる任意な空間跳躍を可能にするシステムを確立しようと言う事かな?」
「まさにその通り。このシステムが完成すれば、星間系の移動すら一瞬で行えるはずよ」
なんとまあ、随分ととんでもない研究をしている事で・・・・・・。
と言うか、国からグランデューユの天核を貸してもらえないハズだよ。そんな研究のために貴重な天核を無駄には出来ないよ。
「そんな事が可能だと思っているのかな?」
「私の理論は完璧よ。間違いなく成功するわ。そして、私は宇宙へと至るのよ」
何故にそんなに自信満々なのかね?
いや、どうやったってムリでしょ?
今の所、魔道具、マジックアイテムを用いてブラック・ホールの完全制御が出来たなんて事はないよ。
10万年前の技術でも、動力源にしたり兵器として活用はしているけど、それでも完全に制御しきれているとは言えないし。
しかも、リリアーナさんがやろうとしているのは、ブラック・ホールを入口と出口にして、そのどちらの座標も完全に指定する事で、好きな場所に行き来できるシステムの開発って事だよね?
しかも、超重力による時間率の変動も完全に無効化した上での・・・・・・。
うん。無理だろ。
「いや、ムリだと思う」
「いいえ、大丈夫よ。魔法で何度となく実験を行って、データを集めて辿り着いた理論なのだから」
「いや、それならそのまま重力正義による空間跳躍の魔法を確立してしまえば良いだろうに、何故にマジックアイテムをつくろうとする?」
うん。なによりも理解不能なのが、何故にそれを魔法で自分でやるんじゃなくて、それが出来る道具の製作となるかなんだよ。
絶対に魔法で実現しようとした方がはやいし、確実だと思うんだよ。
いやまあ、実際の所は魔法で実現可能かと言ったら、何をどうやっても実現不可能だと思うけどね。
「魔法ではダメなのだよ。個人でブラック・ホールを精製、維持しながら、更に遥か彼方の跳躍先の座標まで正確に固定し続け、時間率すらもコントロールするのは事実上不可能だからね」
「それは判るけど、それじゃあその全てを正確に果たしえるマジックアイテムの精製が可能かと言えば、まず間違いなく不可能だよ」
「いいや、可能だよ。確かにそう簡単に実現できるものではないけど、私の理論を元につくれば、必ず完成させられるハズだ」
だからさ、どうしてそう自信満々なのかな?
「まあ、完成は300年はかかるけどね」
「「300年っ?」」
ああ、そのあたりの事はちゃんと理解してたんだと思ったけど、何かレーゼ少年とベルナデットちゃんが驚いている。どうしたのかな? ハッキリ言って実現不可能だろってレベルのマジックアイテムをつくろうっていのだから、そのくらいの時間がかかって当然だよ?
しかも、完成してもちゃんとできているかは判らないし。
と言うか、俺の予想だと300年かけて失敗作を造る事になるのが確定してるよ。
「たが、その程度の障害などないも同じだよ。何故なら、それで宇宙への道が開かれるのだからね」
「リリアーナさんは宇宙に行きたいんのかな?」
「そうさ。前世からの悲願だよ。私は宇宙飛行士になりたかったんだよ」
はい? 何か聞き捨てならない事を言いませんでしたか?
「前世って、まさか?」
「うむ。私はキミと同じ転生者なのだよ。400年ほど先輩だけどね」
ああ、リリアーナさんはどうやら400歳らしい。てっ、そんな事はどうでもよくて、本当に転生者なのか?
「どういう事ですか?」
「えっ? いったい・・・・・・・」
レーゼ少年とベルナデットちゃんが絶賛大混乱中だよ。うん。二人が思いっきり混乱しているのを見て、おかげで俺は落ち着けたかな。
「どういう事も何も、私も転生者だと言うだけの事だよ。因みに、キミたちが転生者だと言う事を調べられた時に読んた本は、私も持っている」
そう言って取り出してみせたのは、確かに俺が持っているのと同じ10万年前の転生者たちが残したあの本だ。
「この本のおかげて色々な事が知れたし、エキサイティングな人生を送れたよ」
「でしょうね。ところで、その本を持っていると言う事は、10万年前の遺跡には」
「当然行かせてもらったよ。アレは本気でシャレにならないね。まあ、おかげで研究も随分と進んだんだけどね。今の研究の基礎理論が確立できたのも、遺跡を調べていて見つけたあるモノのお陰だし」
そうですか、それは良かったですね。
「そして、理論が完成してようやく実現化しようと思ったら、肝心要の素材なくてね。自分で確保してしまえと魔域に籠っても肝心のグランデューユが出てこないし。キミが居なかったらどうなっていた事か」
「それはそれは・・・・・・。じゃなくてっ」
いけない。完全にペースを握られてしまっているよ。
「リリアーナさんは10万年周期の戦いはどうするつもりかな?」
「うん。私は当然だけどもパスさせてもらうよ。そんな事よりも、念願の空間跳躍システムの製作が忙しいからね。なんと言っても、これから休みなく政策に没頭しても、完成には300年はかかるのだから」
ああダメだ。この人は何を言っても無駄なタイプだよ。本気で、世界の存亡を賭けた戦いなんてどうでも良いと、研究・開発に没頭しそうだけど、コレって俺がどうにかしないといけないのかな?




