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「そういえば、冒険者ギルドに行ってないな」
「冒険者ギルドですか?」
「うんそう。俺たちは冒険者だからね。新しい街についたら、まずは冒険者ギルドに立ち寄って報告するのが基本なんだよ」
なんだけど、ここのところまず城に直行が基本になってしまっているし、ベルゼスたちを鍛えたり、ベルナデットちゃんたちと会ったりとか忙しくて、ギルドに行くのを忘れていたよ。
何時も行ってないんじゃないかって?
いや、何時もは城に行った後に行ってるんだよ。だけど、今回はベルゼスたちのシスコン狂言に振り回されて忘れてしまったんだよね。
「ちょうど時間も空いているし、今の内に行っておこうかな」
「それなら、ボクも一緒に行きたいです」
「私も、冒険者ギルドには行った事がないから」
レーゼ少年とベルナデットちゃんが同行したいと言い出した。
「それじゃあ2人も一緒に行く?」
「「はいっ」」
そんな訳で、王人の国の冒険者ギルドに3人で行く事にした。
「判っていたけどデカい」
「はい・・・・・・」
何がデカいってギルドがだよ。いや、他の何もかももデカいんだけどね。なんだか小人になった気分だよ。
「そうですね。私もはじめは驚きました。今では慣れましたけど」
そう言うベルナデットちゃんは一番年下の12歳だけど、身長は3人の中で一番高くて、既に2メートルを超えていたりする。
それでいて、子ども特有の体付きのままなので、なんと言うか違和感があるんだけどね。
「そう言えば、ベルナデットちゃんは冒険者ギルドははじめてだって言ってたけど、それじゃあ、ギルドに所属もしてないのかな?」
「あっはい。冒険者ギルドには入ってません」
「それじゃあ、良い機会だから入っちゃおうか。これから旅をするのに必要不可欠だし」
うん? ベルナデットちゃんが入ってないとなると、他の子たちも入ってないのかな?
これは一度、ギルドに連れて来ておいた方が良さそうだ。
「私が冒険者にですか・・・・・・」
「冒険者の身分は、旅をするのに便利だし、ギルドカードも持っていると何かと便利だよ」
身分証としてもそうだけど、大概の店でギルドカードで直接支払いが出来るからね。
俺たちと一緒に居る事になれば、ベルナデットちゃんもすぐに大金を手にする事になるし、持ち歩くよりもギルドカードに貯めておいた方が安心。
「この世界の冒険者がどんな存在か判っているつもりでしたけど、いざ、自分が冒険者になるとなると、なんだか不思議な気分です」
「あっ、それはボクもそうだった」
まあ、なんとなく中二病的な何かを感じてしまうんだよね。これは、確実に元日本人の弊害だよ。
「まあすぐに慣れるから、それより、早く入って用を済ませてしまおう」
何時までも入り口の前に居ても邪魔なだけだからね。
何処の国、どの種族でも変わらず役所の様なギルドの建物に入る。
ギルドの中は、王人仕様なので当然だけど、これまた大きいけれども、これまた当然ながら、エルフなドワーフなどの他の各種族、王人とは対照的に小柄な月精も利用するので、唯大きいだけじゃなくてきちんと使い易いように工夫されている。
「レジェンドクラス冒険者のアベル・ユーリア・レイベスト様で間違いございませんか?」
なんて、ギルドの様子を見ていたら、職員の方から声をかけて来たよ。いや、まあこれも当然かな。
「そうだよ。遅くなったけど到着報告と、この子の登録をしたい」
「判りました。こちらの方の登録はすぐにさせて頂きます。その間、アベル様はギルド長のお話を聞いていただけませんか」
「うん? 構わないけど、何かあった?」
「はい。アベル様に指名依頼が入っております」
指名依頼ね。これまた珍しい。
冒険者は基本的に魔物を倒して、その素材を売る事で糧を得る者だ。依頼を受けて何かをすると言う事はまずないんだけど。
「指名依頼とは珍しい」
「はい。ですがどうしてもとの事でして、どうか、ギルド長よりお話だけでもお聞きください」
「判ったよ。それじゃあ案内してくれるかな」
「はい。こちらです」
それにしても、誰からの依頼だろうね?
王族からって事はない。何か頼みがあるなら直接言ってくるハズだし。でもそうすると、はじめて来るこの国に知り合いは居ないし、いったい誰からの依頼なのか全く判らない。
「ギルド長。アベルさをお連れしました」
「おお、入ってくれ」
なんて考えている内に着いたようだね。
案内してくれた職員が開けたドアをくぐって室内に入ると、如何にも執務室と言った部屋の中にギルド長が居た。
3メートルの長身で抜群のプロポーションの20代前半くらいに見える女性。腰に届く長い黒髪を一つに纏めていて、正直、かなりの美人さんだよ。
ついでに言えば、かなりの実力者でもあるね。間違いなく、ES+ランクだよ。見たところ、まだ100歳程度だと思うけど、もう冒険者を引退して裏方のギルドの仕事に係わっているとは意外だよ。
「よく来てくれたねアベル殿。私はこのギルドを預かるミレイユ。まずは話を聞いて欲しい」
仕事用のデスクから立ち上がって、来客との対面用のソファーに座り直すミレイユの向かいに座る。うん。このソファーも王人用の大きさだけど、他の種族でも使い易くなっているね。
「すでに話は聞いているだろうけど、アベル殿に指定依頼が入ってね。グランデューユの天核を卸して欲しいというものなんだ」
「これまた、随分と貴重なモノを」
「うん。貴重過ぎてどうやっても入手できなかったので、最後の望みをかけてと言う事らしい。アベル殿なら、世界中を旅して、活性化などで多くの魔物を倒しているので、もしかしたら持っているのではないかと」
成程ね。確かに普通に探してもまず手に入れられないしなだからね。
さてと、まずはグランデューユの天核について説明するべきかな。グランデューユとはES+ランクの魔物で、重力の支配者とも言われる、超重力などの凶悪な攻撃をしてくる魔物の事。と言うか、マイクロブラック・ホールさえ生み出して来るので始末に負えない魔物。
そして、この魔物の素材のひとつである天核と呼ばれる物は、その重力制御の性質を持った魔工学や錬金術において極めて重要な素材のひとつとなる。
天核は、空中戦艦や空中要塞の重力制御ユニットとして使われる。
これは当然だけども極めて重要な気管で、巨大で莫大な質量の空中戦艦や空中要塞が常に安定して浮遊し続けさせる心臓部と言っても良い機関。これがなければ、そもそもどちらも運用不可能。
つまり、グランデューユの天核は、新たに空中戦艦や空中要塞を造る上で必要不可欠な、超重要戦略物資。
なのだけども、肝心のグランデューユの出現率が極端に低くて、討伐されるのも下手をしたら年に数匹と言う有様だったりするんだよね。
詰まる所、需要と供給のバランスが全く取れていないんだよね。
しかも、なんとか手に入れようと思っても、そもそもグランデューユが出現しない事には話にならないしね。
「それにしても、どうしてそんな物を欲しがるかね? 個人で空中戦艦でも造るつもり?」
「理由までは判りかねます。依頼人は、この国でも有数な魔工学者なのですが、何しろ偏屈でして」
自分の研究以外に興味がない研究バカの類かな?
それにしても、魔工学の権威か、となるとその人も確実にES+ランクだよね。研究バカとなるとうちの姉みたいなのかね?
「ただ、彼女は最近新しい研究にかかりきりだと聞きますから、その為に必要なのは間違いないかと」
「新しい研究か、オモシロそうだね」
俄然、興味が湧いて来たよ。それに、王人の研究家にも興味があるよね。魔工学者や錬金術師はそもそも技術者でもあるので、白衣を着てるよりつなぎを着ている方が正しかったりもするんだけどね。はてさて、どんな格好をしたどんな人なんだろう?
「それでは、依頼を受けてお会いいただけますか?」
「うん。実は、グランデューユの天核もしっかり持ってるしね」
と言うか、手元にまだ10個近くある。
これは、どういう訳か100匹近いグランデューユの群と遭遇した事があるからなんだけど、あの時は驚いたよ。と言うか、マジでヤバかった。
数が多いとその脅威が想像を絶する程に増大するタイプだねアレは・・・・・・。
同数のカオス・ヒュドラとかを相手にするよりもよほど脅威だよ。冗談抜きで、ザッシュは死にかけていたしね。
要するに、このありえない大軍を見付けたのがザッシュだったんだけどね。Sクラスになってしばらくした頃、そろそろ魔域内部での戦いも慣れないといけないって、単独での魔域内部の巡回を貸した事があったんだけども、その時にどういう偶然か遭遇したんだよね。
あの時は、ザッシュの狂運を本気で感じたね。それと、死ななかったのは本当に奇跡だったね。
「それでは、職員に案内させますので、よろしくお願いします」
「了解。それじゃあこれで」
おもしろそうだから、このまま行くとしよう。多分、さっきの職員さん当りが案内してくれるだろうし。
そんな訳で、まずは既に発行されているだろうベルナデットちゃんのギルドカードを受け取りに行くとしよう。という訳で、さっきのホールに向かうと居たね。
「お待たせしました。こちらがベルナデットさんのギルドカードです」
ベルナデットちゃん、現在のギルドランクはI-。本人の実力はB+ランクなんだけどね。これは、ギルドカードが倒した魔物の暮らすから実力を算出するシステムだから仕方がない。
つまり、レジェンドクラス冒険者の超越者でも、I+ランクから始めるって事だし、アスカ氏とかも、6万年前のギルドカードが使えるか判らないから、今頃は冒険者ランクI-から始めているかも知れない。
「依頼を受けて頂けると言う事ですが、これからすぐにご案内しても大丈夫ですか?」
「うん。問題ないからよろしく」
さてと、随分と偏屈な研究者と聞いたけど、いったいどんな人物なのかな?
それに、新しい研究がどんなものなのか、結構楽しみだよ。
そんな訳だから、張り切って行ってみるとしよう。




