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「アベル殿。我が息子たちはどうですかな?」
「ようやく、修行に慣れて来たところですよ。だけど、全員筋が良いから、この調子なら俺が師事している間に、全員レジェンドクラスに至ると思いますよ」
9人同時にレジェンドクラスに至ったらどうなるのか判らないけどね。
9人分の試練が一度に始まったら大変だと思うんだけど?
その辺りがどうなるかは未知数。
と言うか、レジェンドクラスに至るための試練そのものが、そもそも理解不能。
この試練は、間違いなく10万年前のカグヤによる封印以降に現れたシステムなので、ある意味では10万年前の転生者たちが用意し、造り出したシステムとも言えるだろうし、実際にそうである可能性も高い。
その場合、どうしてこんなシステムを造ったのかはまったく判らないけど。
「それは重畳。これで何の心配も無く、ベルゼスに王位を譲れる。その後は、我もレジェンドクラスを目指すとしよう」
ラゴルゼ王はレジェンドクラスに至るための試練について疑問に思っていないみたいだ。
と言うか、さっさと王位を息子に押し付けてしまいたいらしい。その上で、自由気ままな身分を満喫しつつ、レジェンドクラスを目指すつもりみたいだ。まあ、アナタなら確実になれると思うよ。
ベルゼスたちの才能も、キリアの才能も貴方譲りだと思うしね。
「ところで、転生者との対面なのですけど」
「おお、その事ですな。こちらでも調査が終了いたしてな。結局、15人の転生者が確認された」
15人か、これまた結構な数だよね。この調子だと、全ての種族の国を回り終わった後には、200人くらいの転生者が集まってそうだよ。
ヒューマンの転生者も俺たちしかいないとは思えないし。そちらの方の確認もしていかないといけない。
いや、ヒューマンの国の王たちがやるべきだよね。何でもかんでも俺がやらなきゃいけないなんて事はないハズだよ。
「2日後にでも引き合わせようと思うが、よろしいか?」
「それで構いませんよ」
歓迎のご馳走も用意し終わってるしね。
ただ、王人が一気に15人も増えるとなると、にぎやかになりそうだよ。なんと言っても王人は大きいし、出来れば、ベルゼスみたいな筋肉だるまは勘弁して欲しいんだけどね。暑苦しいから。
話を終えてラゴルゼ王の元を離れた後、さて、2日後に王人の転生者たちと対面する事になった訳だけど、それじゃあ、それまでどうしようかと考える。
因みに、今日はもうベルゼスたちは修行を終えて死んでいる。
心配しなくても、ゴハンの時間になれば起きだすのは判っているので気にしない。
キリアたちは、先日ベルゼスたちが根をあげていた、ただひたすら辛い修行をこなしている。これまでにない活性化の戦いを経験して、あの修行の必要性を実感したからだろう、彼女たちは真剣に取り組んでいるので、まさか邪魔する訳にもいかない。一緒に俺もやっても良いんだけどね、俺のはキリアたちのに比べてハードだからね。横でやってると彼女たちのつられて分量を激しくしてしまいかねないから止めておいた方が良い。
そうすると、俺がする事がなくて暇になるんだけど、やる事がないならさっさと遺跡に行けって話になる。
それにしても、本当に世界中にどれだけあるんだよって思う。
だって、俺が調査を終えた遺跡だけで、もう500は超えているよ?
この後調査する事になる遺跡もまだ同じくらいあるとして、それでようやく、既に発掘済みの遺跡の調査が終わる訳で、その後はまだ知られていない遺跡を調べる事になるんだけど、それを合わせると、是部で2000にはなるよね遺跡の数。
中には、遺跡と言うかベルハウゼルみたいな、残された遺産そのものの所も結構あるんだけどね。
あと、10万年前の転生者たちが使ってた娯楽施設とか。
さて、問題は次がどんな遺跡かなんだけどね。
次に行く遺跡は、王都から北に5000キロの地点にある。うん。何時もの様に湖に沈んでいるね。
このパターンも何度目だろうね。まあ良いけどね。地中に埋もれているのより掘り起こす手間がないぶん楽だし。その分、この湖は水深が1万メートルくらいあるけど。
どうでも良いけど、当然遺跡はその1万メートル下にある。何故に、狙った様に一番深い所なんだろうね?
答えは決まっているけど・・・・・・。
とりあえず、さっさと魔法で結界を張って湖の底を目指す。
「しかし、本当に透明度が高いな」
水中に居る事を忘れてしまいそうなくらいに透明度が高い。本来、透明度が高いと言う事は、水に栄養度が含まれていないハズなんだけども、この湖には多くの魚がいる。水鳥の姿も多く、生態系は豊かで、時々見た事もない魚が姿を現して楽しませてくれる。
それは良いんだけども、いくら水の透明度が高くても、3000メートルも潜れば、地上からの光はほとんど届かなくなってくる。
生態系も大きく変わって、淡水魚なハズなのに、深海に居る様な魚たちが姿を現し始めてくる。
いや、コレは本当に魚なのか怪しいようなのもチラホラと・・・・・・。
更に潜って行き、8000メートルを超えてそろそろ目的地が近くなってきた頃には、地上からの光は完全に遮断されていて、完全な闇の世界になってきているんだけども、何故か、発光している魚がいくつか見られる。
アレは、いったい何のために発光しているんだろう?
中には、月の光程の光量を持つ魚すらいる。普段は岩場の洞窟の様な場所に隠れているみたいだけども、その魚が姿を現した瞬間。あたりの様子が一変してしまう程だよ。
本当に興味深い。いくつかサンプルに捕獲してみたいくらいだよ。
なんて思っている内に、目的の遺跡に到着。水中にあるので沈められた当時のままの姿。
なんだけども、何故に?
何故に日本の城があるかね?
その遺跡は、歴史資料などからこうだっただろうと、CGで復元された安土城に似ている。
明らかに戦いのための城塞として造られていない城なんだけど、どうしてこんな形をしているのかな、この遺跡はさ?
本気で謎でしかないのだけども、とりあえず、正面の大門から中に入る。
朱色の門の脇に、ロック解除のためのパネルがあるのにもの凄く違和感がある。まあでも、この大きさの城だと、エレベーターがないと使いにくそうだし、多分、それも設置されているだろうから、違和感とか言ってても仕方がないだけどね。
そもそも、外見は完全に安土城を再現して建てられているけど、仲間で同じとは限らないし。
逆に、本当に中まで再現していたら驚きだよ。何の為に造ったのか完全に理解不能な遺跡になるね。
正面の門から中に入ると、天守閣までの間に見事な日本庭園がある。
当然だけども、城壁の内側は結界が張られているので水中にあっても水は入ってこない。
「此処がなんの遺跡か調べるには、やっぱり天守閣に行かないといけないよね」
他にココの詳細が判りそうな場所もないのでまず天守閣に向かう。
遺跡の中に入った瞬間、辺りが明るくなって全容がハッキリしけど、しかし本当にどこからどう見ても安土城だよ。絢爛豪華と言えばいいのかな?
ある意味、見る者を圧倒する城だね。
その想いは、城の中を見て更に強くなったよ。それと、この遺跡がなんなのかの謎が深まったよ。
城の中にはエレベーターとかは一切なくて、完全に安土城が再現されていた。つまり、此処は完全に日本の城と同じ物だったんだけども、それじゃあ此処は一体何なのか全く判らない。
と思って地下を調べてみたら、ようやくエレベーターがあったので乗ってみると、一気にこの遺跡の中枢に直行した。
それで判ったのは、この遺跡が鬼人用の空中城塞である事。
上層部分は完全に戦闘とは無関係で、地下部分に全ての機能が集中しているらしい。その上で、上層部分は戦闘から離れた日常空間として使われていたようだ。
それは判ったけど、どうして鬼人用の空中城塞が王人の国にあるのかが判らない。普通に、鬼人の国に残せば良いと思うんだけど?
まあ、そこは考えても答えは出ないのでスルー。
それよりも問題は、これの戦闘力だよ。
この空中城塞自体にも、相当な戦闘能力が備わっているのは確実だよね。普通に、ベルハウゼルとかと同等の性能を持っている可能性もあるし。
その意味では、結構メンドクサイ遺跡、遺産と言えるかもしれないけど・・・・・・。
「固有の戦闘兵器はほぼ皆無?」
どうだろうと思いながら調べてみたら、何故かこの空中城塞には固有兵装が取り付けられていなかったよ。その代わりに、ベルハウゼルを大きく上回る防御機関が搭載されていて、正直、理解不能なくらいな鉄壁さを誇るみたいだ。
と言うか、この防蟻機関を搭載する為にスペースをほとんど使いきってしまって、兵器を内蔵する余裕がなかったらしい。
なにそれ?
しかし、無害な遺跡で良かったよ。
鉄壁の防蟻機関はある意味で問題かもしれないけど、これはこのまま浮上させて活用しても問題ないね。
と言うか、鬼人国へのお土産にするべきだろう。当然だけども、ラゴルゼ王たちとキッチリ話してからだけどね。
「しかし、突き抜けた物を造るな」
戦闘に何の関係もない城を乗せた、防御特化の空中城塞。
だけど、10万年前の転生者たちがワザワザ残したのだから、きっと何か意味があるんだろう。果たしてこの城、空中城塞<隼人>の本当の在り方は一体どんなのなんだろう?




