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「では、次の戦いは昼食の後で」
ベルゼスら9人と戦い終えたところで昼の時間となった。
なので、戦いはいったん中止してゴハンの時間。
昼食のメニューは、宮廷料理人御手製のハンバーガーセット。
何故にこのメニューと不思議に思ったが、どうやらベルゼスたちのお気に入りらしい。訓練の合間に気軽に食べられるのが良いらしい。ハンバーガーも色々と種類があって、食べ比べが出来るので結構オモシロイ。
山盛りのポテトも、三種類の味付けに判れていてコレまた良い。普通の塩胡椒タイプと、生姜とにんにくの風味が効いたタイプ、それにピリリとスパイシーなタイプ。
「これは美味しいね」
「気に入っていただけましたか、それは私の大好物でしてな。実は私が料理人に頼んで、つくってもらったものなのですよ」
どうやら、数あるハンバーガーの中でも、特に美味い辛みの効いてソースが決め手のハンバーガーは、ベルゼスの発案による一品らしい。
そのベルゼスは、豪快に一口でそのお気に入りのハンバーガーを平らげると、豪快にビールを飲んでいる。
確かに、これはビールと良く合いそうだけどね。
酒に酔って全力が出せなかったなんて言い訳は通用しないよ?
まあ、その程度の量のビールで酔っぱらうとも思えないけどね・・・・・・。
気にしてもしょうがないので、無視して俺もハンバーガーに齧り付く。のだけども、王人サイズのため俺たちじゃ一口で平らげるなんてムリ。
普通のハンバーガーの4倍以上の大きさがあるからね。
挟んであるハンバーグだけで1キロ近くあるんじゃないかな? 因みに、ステーキがそのままサンドされているのもあるし、魚のフライや、鳥の揚げ物が挟んであるのもある。この辺は、地球のハンバーガーショップと同じかな。
とりあえず、デカすぎて俺たちじゃ片手で持って食べるのは難しいのは確か。だからと言って、切り分けて食べるつもりも無いけど。
「ハンバーガーか、昔を思い出しますね」
シミジミと呟いたのは、王人の転生者の1人ナクトロットくん。もといナクトくん
「どうかしたのかな?」
「いえ、ボク。高校の時から一人暮らしをしていたんですけど、はじめは自炊なんて出来ないし、お金もそんなに余裕がある訳じゃないから、1週間ずっと、ハンバーガーで済ましてたこともあったんですよ」
それはどうなんだろうと思わなくもないけど、まあ、1人暮らしを始めたばかりの男なんて、そんなモノなのかも知れない。
3食外食で済ますのも珍しくないだろうし。安く済ませようとすれば、それでも1日1000円くらいで何とかなるしね。
「まあ、当時食べてたハンバーガーとは、比べ物にならないくらい美味しいですけど」
「それはそうだよ。この味を再現するのは、チェーン店じゃあ絶対にムリだし、個人経営の店でもよっぽどこだわった所じゃないと」
それでも、食材の差があるからココまでの味には辿り着けないだろうけどね。
「あっ、このハンバーガーは少しタコスっぽい」
「本当だ。これも美味しい」
ほほう? タコスっぽいハンバーガーとな?
どうやら、まだ全種類制覇していなかったみたいだ。20種類くらいあると思っていたけど、更に種類が豊富だったみたいだよ。
と言うか、さっき追加が運ばれてきたのは判っていたけど、追加分てまた全部違う種類なのかな?
違うみたいだね。ワサビソースのハンバーガーはさっきはなかった。
うん。これも美味いじゃなくて、タコスっぽいハンバーガーはどれかな?
あった。これだね。うん。確かにタコスっぽい。これも美味しいね。
タコスか、本場のモノを食べた事は当然だけどないんだよね。タコス以外のメキシコ料理がどんなのがあるのかもサッパリ知らないし。
うん? タコスってメキシコ料理だったよな?
それはそうと、全種類3個くらいずつ食べて、とりあえず満足。
1個当たり、普通のハンバーガーの4倍はあるハンバーガーを計40種、3個ずつで合わせて120個も、普通のハンバーガー500個分以上も食べておいて、とりあえず満足なのかよっとかの突っ込みは受け付けない。
こっちだって驚いていたりするんだよ。なにか、最近また食欲が増している気がするんだよね。
それにしても、それだけの量を1時間もかけずに、会話をしながらで、しかも山盛りのポテトも合わせて食べきってしまうんだから、我ながらむしろその食べる速さの方が驚き。
実質、ハンバーガーを1個食べるのに30秒かかってない様な計算だからね。
「さて、腹ごなしも済んだ所で、そろそろ本番と行こうか」
「判っています」
「勝てぬまでも、一太刀あびせてみせますぞ」
個人では、誰一人俺に攻撃が届かなかったからな。
いや、前だったら防御障壁で防いだりしていた攻撃も、アスカ氏との戦い以降は避けるか無効かするかが基本になってしまってさ。
だけど、防御障壁を使うまでもないって態度は、彼らにしてみれば屈辱だよね。正直ゴメン。恨むならアスカ氏を恨んでくれ。
「良い心掛けだね。なら、俺も相応の対応をさせてもらうよ。なにせ」
はじめは余りの暑苦しさに、勝手に苦手意識を持っていたが、接してみると極めて善良で、体育会系に暑苦しさはあるがサッパリとした気持ちのいい青年たちだ。
200歳のベルゼスを青年と評して良いのかは知らないけど。
とりあえず、彼等には本物の殺気と魔力と闘気の重圧を経験してもらおう。
なに、死にはしないさ。気を失ってしまう可能性はあるレベルの濃度で叩き込むつもりだけどね。だって、
「こうして実際に戦ってハッキリした。、キミたちにもレジェンドクラスに至り得る才能がある。だからこそ、此処で俺がキミたちに試練を課すよ」
彼らにはそれが必要だからね。
と言うか、この後彼らは俺の弟子になって、ブードキャンプに強制参加するのが決定済みだよ。
そんな訳で、これからが地獄の修行の始まりだからね?
「そんな訳だから行くよ。まずはコレくらいには耐えられなきゃ話にならないからね」
そんな軽口と同時に、強烈に死の気配が修練場を覆う。
俺の殺気と魔力と闘気の重圧に、ベルゼスたちは顔を青くし、全身を震わせて膝をつくが、それでも1人も気絶していない。
「うん。シッカリ耐えたね」
「・・・・・・アベル殿、・・・・・・これは?」
「レジェンドクラスの殺気だよ。いずれ、キミたちも相対する魔物たちが放つものだよ」
何度でも同じ事を言うけれど、まずはこの殺気に耐えられないとどうしようもない。
今のベルゼスたちみたいに、辛うじて耐えられてはいても、体が満足に動かせない様じゃあ、一瞬で殺されてお終い。
「でも、まずはこの重圧の中でごく普通に動ける様にならないと話にならないよ」
「無茶を仰らないでください・・・・・・」
「ムチャじゃないさ。むしろその程度の覚悟もないで、レジェンドクラスの俺に挑んで来たのかな?」
そう揶揄うとベルゼスたちは黙り込む。
考えが甘いよキミたち。レジェンドクラスに挑むのがどんな意味を持つか、理解しきれていなかったのかな?
「これまでの戦いで、キミたちの力はおおよそ掴めた。だから、これからはキミたちにに合わせた指導をしてあげるよ。この模擬戦で、キミたちを一回り大きく成長させてみせるよ」
因みに拒否権はない。模擬戦を望んだのはベルゼスたち自身なので、完全な自業自得。
だけど、今回の事は俺にとっても良い収穫だった。ベルゼスたち、キリアの兄たちの人柄を知れたし、彼ら才能にも気付けた。
彼らには是非とも頑張って欲しいものだ。
「さてと、言ったとおり、まずは普通に動けないと話にならないからね。そこから始めようか」
そういってベルゼス他の戦いでも使った蛍火の炸裂魔法を周囲に浮かべる。
「アベル殿、まさか・・・・・・?」
「そのまま震えていたんじゃ、これの餌食だよ。さあ頑張って」
俺は無情にも、魔法をベルゼスたちに向けて放つ。速さはそれ程でもないけど、散弾のように1000に近い蛍火が隙間なく襲いかかていくので、どうにかできなければそこで終わり。
それが判ったのか、ベルゼスたちはすぐに迎撃を始める。
当然だけども、自分たちの命がかかっているので彼らも必死だ。
1000個近い炸裂魔法を1つ1つ破壊して行ったんじゃあ間に合うはずがない、それが判っているから彼らは範囲魔法を使って一気に数を減らしていく。
うん。どうやらキチンと頭も動くようになったようだね。
だけど、全部撃ち落とすまで油断は禁物だよ?
それと、誰もさっき出したので終わりとは言ってないからね?
「良い反応と判断だね。だけど、油断していると危ないよ」
次に放つのは光魔法のライトニング・アロー。この魔法は要するにレーザーやビームで攻撃する魔法。3000程のビームのシャワーを受けてもらうよ。これは、さっきのと違って速さはシャレらならないから、行動が遅れたり、判断を間違えたらアウトだからかガンバって。
「「「「なっ!!!」」」」
ライトニングアローに気付くと同時に、驚愕しながらもデメンション・シールドを展開してみせる。
うん。その魔法ならば防げるね。咄嗟にどの魔法を使うのが一番有効かシッカリと判断出来ている証拠。
良い判断だよ。
でも、まだ終わりじゃないから、ガンバって。
ベルゼスたちの悲鳴を聞きながら、俺は彼らを徹底的にシゴキ倒した。




