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「まず、キミたちはこの世界の真実を何処まで知っている?」
「宇宙の中心に存在する神によって、この世界と魔物の世界は繋がっていると言う事までかな。神の目的については想像は出来ても、真実までは辿り着けないからね」
そもそも、高位次元生命体、神が如何なる存在なのかがまず判らない。ただ、この世界に争いを振り撒くだけの傍観者に過ぎないのか、それとも、この世界の創造主なのか?
「成程。そこまで辿り着いたんだね。そして、全ての答えがカグヤにある事を理解しているからこそ、此処に来た訳だ」
理解不能と言えば、目の前にいる人物もそうなんだけどね。
アスカ・シングウジ。何故この人は人工冬眠なんて賭けに出てまでここに居るのか?
例え人工冬眠に失敗しても、自分が確実にこの時代に存在するように保険までかけていた。つまり、彼は何としても六万年後のこの時代に来ようとしたんだ。
そう、間違いなく今、この時代に、10万年周期の戦いの時代に彼は、恐ろしい程の執念を持って辿り着いた。
180センチを超える均等に引き締まった体付きの、外見上は20代半ばの青年。黒髪に黒い瞳の、見るからに日本人と言った容貌をしている。それと、ひょっとしたら鬼人なのかとも思ったけど、見たところ間違いなくヒューマンみたいだ。顔付は、少しベルゼリア王に似ているか?
「だけど、今のキミたちじゃあカグヤには至れないよ。あそこに辿り着く資格があるのは、ジエンドクラスの超絶者だけだからね」
ヤッパリそうか。想像はしていたから驚きはしない。
そして、もうひとつハッキリした事がある。目の前の人物から感じる圧倒的な威圧感。つまり、これがジエンドクラスの超越者と言う事か。
ヤッパリ、彼はジエンドクラスにまで至っていたんだ。
「そう言うアナタは、カグヤに行っていますよね?」
「まあね。此処に収めている戦闘要塞を使っていったよ」
戦闘要塞ね。ベルハウゼルとかと同じか、或いは更に強力な要塞だろうな。
「だから、俺はキミたちが知りたい事をほぼ全て知っているよ。だけど、それは今、此処で話すべきじゃないだろうな」
「自分たちの力でカグヤまで至って、真実に辿り着けと言う事ですか?」
「そうだね。それに、キミたちだってここまで来て、俺に全部説明されるなんて拍子抜けだろう。真実には自分たちの力で辿り着かないと」
それは確かにそうかも知れないけど、此処に来てお預けと言うのもどうだろう。
神の事とか、どうして魔物との戦いが続いているのかとか、知りたい事が山ほどあって、目の前に答えを知っているとが居るのに聞けないのもある意味拷問だと思う。
「キミたちならば、そう遠くなくカグヤに辿り着くだろうしね。それに、10万年周期の戦いが本格的に始まるまでには、まだ時間があるから」
本当に、この人はどこまで知っているのだろう?
なにか今度は、この人の掌の上で踊らされるような気がして来たよ。
「つまり、真実を話すつもりはないと言う事位ですね?」
「それがキミたちのためだからな」
「なんで俺たちのためなのか知りませんけど、判りました。自分たちの力でカグヤまで辿り着いて、真実に至ってみせます」
「それが良い」
なんだろうな。ここまで見透かされているようだと、少し見返してやりたくなってくるよ。
「それはともかく、アナタはこれからどうするつもりなんですか? それと、この子はアナタの子孫で、この国の姫ですよ」
「あの、ティリア・ユーリィ・フレア・ベルゼリアです」
「ほう。俺の子孫ね?」
「貴方の建てた国は、ベルゼリアと名を変えて今なお存続している。とりあえず、王宮に顔を出したら良いんじゃないかな?」
と言うか、このままだと俺たちに着いて来そうな気がするので、是非とも城で子孫たちと会って、眠ってい6万年の間の事でも聞いてくれると助かるよ。
こうして話をしてみて実感したよ。この人は俺の手には負えない。
ぶっちゃけ、この人なら余裕で10万年周期の戦いの中心人物となってくれそうなんだけども、だからと言って一緒に居たりしたら俺の気の休まる事がなくなってしまいそうだよ。
なんだろう?
持って生まれたトラブル・メーカーとは違うけど、周りの人を翻弄する自由気侭な嵐の様な人だ。
「王都か、6万年前から変わらず、この上にあるのかな?」
「はい。あの、ご先祖様がこの地を王都と定められたと聞いていますが」
「ご先祖様は止めてくれ、アスカで良い」
「ではアスカ様。どうか私と共に城においで下さい」
「そうだな、しばらく厄介になろう」
見た感じ様も要らないと言いたそうだけども、そこは言っても無駄だと思ったようだ。
まあ、自分たちの遠い先祖、建国王を敬うのは当然なので、ティリアとしても呼び捨てやさん付けとはいかないだろうしね。
「そう言えば、この地に王都を定めたのは、やはりこの遺跡のためですか?」
「そうとも言えるし、そうではないとも言えるな。この遺跡は、上の王都を護る役割も担っているんだよ。だから国を、王都を護るためにあえてこの地にこの遺跡を造ったとも言える」
どうやら、この遺跡は地上の王都を護る役割も果たしているみたいだ。どんな風に守っているのかは判らないけどね。
「さてと、それじゃあ早速6万年ぶりの地上に行こうか。キミたちの事も知りたいし」
どうでも良いけど、何か俺たちアスカ氏に標的にされてないか?
「まさか、始祖の建国王にこうしてお目にかかれるとは・・・・・・」
王をはじめとしたベルゼリア王族が勢ぞろいして、アスカ氏に膝をついて深々と頭を下げている。
「そう畏まる必要はない。俺は既に王ではないのだからな」
「そうは参りません。始祖たる貴方様を敬わぬなど言語道断。それに、ジエンドクラスであられるアスカ様は、この世界でもっとも尊きお方ですので」
そう言われると、アスカ氏にしても返す言葉がない。
魔物の脅威に晒され続けているこの世界では力こそすべてだからね。
基本、メンドクサイから誰もやらないけど、ヒューマンの国じゃSクラスの実力者なら、やろうと思えばその日のうちに国家元首の座をもぎ取れるし。
ジエンドクラスのアスカ氏の場合は、それこそ、ヒューマン国家すべてが、頭を下げてどうか統治してくださいって願いに来るレベルだからね。
その気になれば1日で大陸を統一できるよ。
「おいアベル。笑ってないで助けろ」
「助けろと言われても、どうしろと? アスカさんだって、目覚めたらこうなる事は予想していたのでしょう?」
と言うか、俺としては注目が一気にアスカ氏に集中してくれると本気で助かる。今までは俺に注目が集まっていて、動き辛かったんだよ。
それが、6万年の時を超えて、世界の命運を賭けた戦いに望むべく現れたジエンドクラスの超絶者にして、かつてベルゼリアを建国した王なんて、これ以上ない話題の人物が現れたんだ。これからはみんなの注目はまずアスカ氏に向くだろう。俺なんか精々オマケ扱いだ。
うん。そうなってくれると本当に助かるよ。
「多分、カグヤによる封印が成されて以降、ジエンドクラスに至ったのはアスカさんだけです。それだけ特別なんですよアナタは」
「ぬかせ。オマエだってすぐにジエンドクラスに至るだろうがよ」
「それは仕方がないですよ。この時代の転生者にはそれだけの力が求められますから、でも、アナタはその必要がない6万年前に、ジエンドクラスに至って見せた。その時点で、俺たちとは次元が違うんですよ」
これは本気で掛け値なしでの事実。
そもそも、アスカ氏はどうやって6万年も前にジエンドクラスにまで至ったんだろう?
まず間違いなく、10万年前の転生者が残した修行法で、俺たちと同じように鍛えたのは間違いないんだけども、必要性もないのにどうやってジエンドクラスにまで登り詰められたのやら?
「オマエたちだって別に必要に迫られたから、ジエンドクラスに至るんじゃないと思うがね」
「それはないですね。既にジエンドクラスの魔物が現れるような状況で、早々にジエンドクラスに至れなければ話にならないだけですよ」
「はあっ? もうジエンドクラスの魔物が手で来るってなんだよ?」
どうやら驚かせられたようだ。
「つい先日、魔人国ゲヘナで起きた活性化の戦いで、多くのジエンドクラスの魔物が現れたんですよ」
「・・・・・・良く勝てたな?」
「ベルハウゼルとラグナメヒル。10万年前の空中要塞をを2基使って、辛うじて勝てましたよ」
後、特別製の装機竜人とヒュペリオンもね。本当に勝てたのが奇跡としか思えないギリギリの戦いだったよ。
「俺もかぐやに辿り着くまでに、何度か戦ったけど、アレはシャレにならないだろ。しかもお前たちはまだレジェンドクラスなんだし・・・・・・。なあ、普通に俺よりオマエたちの方がスゴクねえか?」
「そんな訳ないでしょう」
まったく、そんな事あるハズないのに、いきなり現れたと思ったら、ようやく明らかになると思っていた真実を先延ばしにしてくれて、コッチとしても文句のひとつも言いたい所なんだから、ココはひとつ、素直に人身御供になって欲しいモノだ。
出来れば、このまま10万年周期の戦いでも、中心にいてくれると助かるんだけどね。その戦いに参加する為に、ワザワザ6万年の時を超えて来たみたいなんだしさ。
そう都合良くいかない気もするけどね。




