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ミランダ視点です。

「私がレジェンドクラスか」


 目の前に浮かぶ漆黒の筺体を見据えながら、自分の身に起きた事ながら感慨深く呟く。

 Sクラスになってから200年以上経つけど、アベルに出会うまでは自分がレジェンドクラスに至るなんて夢にも思わなかった。

 ヒューマンが到達できる最高峰ES+ランク。その頂に辿り着いて、ヒューマン最強と評される事に満足していた。


 だけど、全てがアベルに出会って変わった。


 あの子は会った時から既に私より強かった。

 そして、凄い勢いで強くなり続けて行った。

 最強の座がいともアッサリと奪われてしまったのか少し複雑だったけど、アベルはそんな事なんて些細な問題でしかない程に規格外の存在だった

 その余りのデタラメさに興味本位で仲間になったんだけども、それが私の人生の転換点だった。

 まさか、私が誰かを好きになる日が来るなんて思いもしなかったし・・・・・・。

 10万年周期で繰り返される。この世界の生末をかけた戦いについて知る事になって、10万年前にこの世界を護った転生者たちの存在も知る事になった。

 そして、今再び始まろうとしているこの世界の命運を賭けた戦いの中心にいるし・・・・・・。

 だからこそ、レジェンドクラスに至る事になったんだと思うけど。


 世界の守護者たるレジェンドクラスの超越者。その一角に至る。


 だけど、これからはレジェンドクラスの超越者もこれまでと違って、ありふれた存在になって行くと思う。

 アベルがレジェンドクラスに至ってからまだ1年くらいしか経っていないのに、新たなレジェンドクラスが私で3人目。それも、私の次にはユリィが至るのも確実。

 信じられない勢いで、新たなレジェンドクラスが誕生し続けている。

 この世界を取り巻く状況が、急速に激変している証拠なのだろうけど、これから本当にどうなるのだろう?

 少なくても、アベルは確実にジエンドクラスに至る。

 それも、下手をしたら数年もしない内に。

 実際、今のアベルの魔力と闘気の総量は、何時ジエンドクラスになってもおかしくないんじゃないかと思えるくらい、桁違いなモノになっているし。


 ・・・・・・多分、本人は望んでいないんだろうけどね。


 アベルは間違いなく、10万年周期の世界の命運を賭けた戦いの中心人物になる。だけど、間違いなく本人はそれを望んでいない。

 出来ればそんな重責やら期待やらは、他の誰かが背負ってくれればいいと思っている。

 だけど、どう考えてもアベルの代わりになるような人物なんていない。

 ここのところ、短期間で多くの転生者たちが仲間になっているけど、彼等の中にアベルに変わるだけの人材がいるかと言えば否。

 アベルが子供の頃から続けている。10万年前の転生者が残した修行法による強化を始めたばかりなのもあるけれども、全員まだアベルには遠く及ばないし、アベルがどう思っているかは判らないけど、多分、これから先もアベルよりも強くなる事はないと思う。

 確かに、転生者たちは誰も彼も、短期間で目を見張るほどの成長を見せているけれども、それでも、やっぱりアベルは別格なんだと思う。


「なんて考えている場合じゃないみたいね」


 つらつらと余計な事を考えるのはこれでお終い。

 目の前の漆黒の球体にヒビが入り始めている。これが砕け散った時、レジェンドクラスの魔物が現れる。

 それが判っているのだから先手必勝。現れた瞬間に倒させてもらう。

 発動させて待機させておく魔法はアイン・ソフ・オウル。アベルが得意とするアストラル魔法。

 10日に及ぶ対試練用の特訓の中で、遂に使えるようになった強力な魔法。

 ・・・・・・正直、この魔法は余りにも異常過ぎると、使えるようになって改めて実感した。

 他の魔法と比べて、その力が余りにも隔絶しすぎている。ある意味で、アベルがこの魔法を多用するのも当然だと思う。

 だけど、同時にこの魔法は余りにも危険すぎる。

 万が一にも跳ね返されてしまったら、防ぐ手立てもなく術者が即死する事になる魔法。それも、万が一にも蘇生が不可能な完全な死。


 正直、実戦でこの魔法を使うのは初めてだから恐怖も強い。

 だけど、だからと言って使わないなんて選択肢もない。

 私は自分の魔力の半分を使ったアイン・ソフ・オウルを展開、待機させてその時を待つ。 

 そして、漆黒の球体が粉々に砕け散り、遂に私の試練が始まり、レジェンドクラスの魔物が現れる。


 アッシュドラゴン。


 現れた魔物は、偶然にも私が出てくればいいと言った魔物。

 

「アイン・ソフ・オウル」


 その力は強力無比。私が今まで戦った来た魔物とは比較にならない。

 少なくても、生身で戦って来た度の魔物よりもはるかに強力。

 だからこそ、相手に行動のスキを与えずに即座に葬り去る。

 私が放ったアイン・ソフ・オウルはそのままアッシュドラゴンに直撃し、断末魔の咆哮すらあげさせずにその命を刈り取る。

 勝った。

 相手に何もする暇も与えず。出てきた瞬間を仕留める事が出来た。


「やったっ」


 全身を歓喜が溢れる。

 これが試練の始まりでしかない事は判っているけど、今はとにかく喜びたい。

 それに、ゲヘナでの活性化の戦いで、装機竜人でとは言え戦っていたから、ううん、アベルとの特訓があったから、初めて生身でレジェンドクラスの魔物と相対しても、その圧倒的な圧力と殺気、膨大な魔力と闘気の暴風を前にしても平然としていられた。

 

 高位の魔物は、その存在自体が凶器に等しい。


 もしも、今のアッシュドラゴンと相対したりしたら、Sクラス以下の人たちはそれだけで命を落としてしまう。

 それ程までに他のあらゆるモノから隔絶し断絶した存在が、レジェンドクラスの魔物。


「お見事」


 何時の間にか隣に居たアベルの称賛が心地良い。


「ありがとう。今日はあれでご馳走をお願いね」

「俺がつくるの?」

「当然でしょう。 まさか、私につくれなんて言わないわよね?」

「それは流石にね」


 アベルが試練を受けている間は、私たちだって気を使ってアベルに休んでもらっていた。当然、料理も持ち回りで私たちが造っていたんだけど、どうしてもアベルのつくったのと比べて今ひとつな気がしてしまった。

 実際、私が作った料理よりもアベルのつくった料理の方が美味しいと思う。

 ともかく、今回は私が試練を受けているんだから、アベルには全力でバックアップしてもらうんだからね。


「やっぱりシチューかしら。アレがまた最高なのよね」

「ついでにテール煮込みも用意しようか?」

「うん。それも美味しそうね」


 この場合のテールは、本当に尻尾の先端の事を指すんだそうで、テール肉はドラゴンの巨大な尻尾から本の極僅かしか採れない、本当に希少な部位だとか。

それと、ドラゴンのシチューは本当に美味しい。私は個人的にステーキよりシチューの方が好み。

 テール煮込みがどのくらい美味しいのかも楽しみ、

 これから始まる試練は、僅かな気の緩みがそのまま品直結する過酷なものだと理解している。だからこそ、戦いが終わったら思いっ切り羽を伸ばしたいと思うから、アベルには思いっきり甘えさせてもらうつもり。このくらいの役得はないとね。


「それじゃあ、戻ろうか」

「ええ、楽しみにしてるから」


 こうして、試練初日は無事に切り抜けられた。


「このっ」

 

 試練が始まって1週間。そろそろ終わってくれると嬉しいと思う。

 それにこの試練、どうも受けるものの上達に合わせるように厳しくなってきている気がするんだけど。

 昨日から1度の戦いで複数のレジェンドクラスの魔物が現れる様になっているけど、何とか倒せている。

 正直、何体まで同時に出て来るんだろうと少し不安になっているんだけど・・・・・・。

 3匹までならば、事前の準備を万全にすれば辛うじて倒せる。だけど、1度に4匹以上現れたら厳しいじゃなくてまず無理だと思う。

 と言うか、一度に複数の相手を1人でしなければいけないとか、本当にカンベンして欲しんだけど・・・・・・。

 複数を相手にする以上、当然だけども現れた瞬間に倒しきるの不可能で、どうしても相手の攻撃を許してしまう。問題は、その攻撃をどうするかで、相殺するのが一番確実ではあるけれども、その分消耗が激しく、跳ね返せば攻撃に転嫁することも出来るけど、甚大な被害を出してしまいかねない諸刃の剣にもなってしまう。

 ・・・・・・レジェンドクラスの魔物の攻撃は射程が長いので、下手をするとどこかの国の領地を消し飛ばしてしまいかねなかったりするし。

 

 だから、消費が激しくても基本的には攻撃を相殺せざるおえない。

 だけど、それが本当に怖いのよ。

 展開した防御障壁で相殺しているんだけどね。相手の攻撃の出力がこれまで経験したことのない領域だし、目の前でバリバリと削られていく防御障壁を見ているだけで冷や汗もの。

 だからこそ、受けきった後にはストレス発散もかねて八つ当たり気味に倒させてもらう。


「ディメンション・ソード」


 次元断層の刃が、アグス・ヘルレゼス。獅子と鷲の2つの頭を持つ魔物を脳と心臓を、防御障壁の内側から貫く。

 一部の次元魔法は、使い方次第で防御障壁を無視してその内側に展開する事が可能だとアベルが言っていたけど、実際に試してみてもまさか本当だとは思ってもいなかった・・・・・・。


「これで今回も終わり。そろそろ試練そのものも終わって欲しいけど・・・・・・」


 心の底からの願いが思わず言葉に漏れた瞬間、バラバラに砕け散った漆黒の球体の欠片が一所に集まり、ひとつに纏まったと思ったら、まるで自分自身の中に吸い込まれるように消えて行く。


「何が起こっているの?」

「どうやら、試練が終わったみたいだよ。おめでとうミランダ」


 アベルに祝福されるけど、まるで実感が湧かない。 

 湧かないのだけど、確かに私の試練はこうして終わりを迎えた。


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