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「長かったと言うべきなのか、あっと言う間だったのかどっちなんだろうね」
「私からしたらあっと言う間よ。アベルたちに合うまでSクラスになって200年以上。レジェンドクラスに至るなんて考えてもみなかったのが・・・・・・」
ミランダの訓練を始めて10日、遂にミランダはレジェンドクラスとなった。
「アベルさんの仲間になったのが運の尽きですね」
「ミランダさんは自分から仲間になりましたし」
「ある意味、自業自得ですか?」
さっきからメリアたちが好き勝手言っているんだけど。
「それも判っているわよ。好奇心に負けて、アベルについて行ったのがそもそもの原因よね」
「それは私も。次は我が身だし」
と思ってたらミランダにユリィが普通に同意しているし。
「そんな事より。準備は大丈夫か? 早ければ今日中にも試練が始まるけど」
「それこそ今更よ。この10日間。散々しごかれてきたんだから」
どうやら心の準備。レジェンドクラスの魔物と戦う心構えはとっくに出来ているようだ。
「それなら、今の内に少し自分の魔力に慣れておくと良い。レジェンドクラスになって飛躍的に魔力量も増えているしな」
毎度の事ながら、これが意味不明なんだよな。なんで1日で、一晩寝ただけでイキナリ魔力や闘気の総量が何倍にもなるかね?
まあ、これについてはいちいち疑問に思っても仕方がないんだろうけどね。
E+ランクからD-ランクになる時も、C+ランクからB-ランクになる時も、A+ランクからS-ランクになる時も、要するにクラスが上がる時には必ず魔力や闘気が一気に何倍にも膨れ上がる。
もうそう言う仕様だと思うしかないだろう。
「確かに、昨日までとは比較にならない魔力と闘気だわ。こんなに膨れ上がるとは思ってなかったんだけど」
「防御障壁とかで感覚を掴んでおくと良い。ウッカリ強力な魔法とかを使ったりすると、シャレにならない事になりかねないから」
今までの感覚で魔法を使ったら、それこそどんな惨事になるか・・・・・・。
これも良くある事なんだよな、クラスアップしたのに気付かないまま戦ったりした時とかね。
実際、旅に出る前、修行中なんかに良く合った。
自分でも気付かない内にSクラスになった後だったんだろうけど、A+ランクの魔物ヘル・ハウンドを昨日までと同じ要領で倒そうと思ったら、放たれた魔法の威力が想像以上に強過ぎて完全に消し炭にしてしまった事とか・・・・・・。
この前もうっかりミスをしてしまったけど、自分の力が今どの程度かキチンと自覚できていないと本気で危険なんだよな。
「因みに、アベルさんが試練を見届けるんですよね?」
「当然そうなるよ。大丈夫。俺はミミールと違って役割を放棄したりしないから」
あのエルフは、俺が試練に臨んでいる間、見届ける役割をキレイに放棄してみせたからな。
「それよりもまずは朝ごはんにしようか、ミランダもお腹が減ってるだろうし」
「「「賛成」」」
「そうですね。私もお腹がすきました」
「否定できないわね。此処までの空腹を覚えたのは久しぶりかも」
実は今はまだ朝起き出したばかりで、朝食も食べていない。ミランダは魔力と闘気が一気に膨れ上がった反動で、体がエルネギーの補充を求めている。ここはガッツリと食べてもらって、英気を養って試練に供えてもらおう。
そんな訳で今日はガッツリと精のつく物を朝から食べる。
メニューはサンドイッチ。ただし、カツサンドにクラブサンドにステーキサンド。それに薄切りにしたハムを何枚も挟んだハムサンドやチーズたっぷりのオムレツを挟んだ卵サンドなどなど。朝からガッツリいかせてらいます。
飲み物は、ミルクや野菜ジュース、コーヒーや紅茶など色々と用意してありますからお好きにどうぞ。
「このハムチーズサンド美味しい」
「ホント、このハム何のハムなのかな? 普通のと違ってやら意味があるよ」
ユリィとケイはハムサンドが気に入ったみたいだ。
因みに、そのハムは減るフレイム・ベアーと言うSSランクのクマの魔物の肉でつくったクマハム。20メートルを超えるクマは凶悪そのモノなんだけども、肉は実に美味い。
「それにしても、アベルさん奮発し過ぎじゃないですか? このステーキサンドのステーキ、ドラゴンのですよね?」
「正解。アッシュドラゴンの肉だよ。アッシュドラゴンなら、これからミランダが討伐するかもしれないし、ちょうど良いと思ってね」
まあ、出でこなければ討伐のしようもないんだけどね。
「と言っても、レジェンドクラスの素材の価値もかなり下がっているけど」
「まあ、活性化でジエンドクラスの魔物まで出てきたしね。と言うか、冷静に考えるとミランダの場合は、レジェンドクラスの魔物と戦うのはじめてじゃなかったような」
「アレ? そう言えば・・・・・・」
ゲヘナでの活性化の戦いの折、ミランダも10万年前の遺産の装機竜人、グングニールの上位機に乗って溢れる程に湧いて来るレジェンドクラスの魔物と戦っていたような?
「そう言えば、私たちのほとんどが既にレジェンドクラスの魔物との戦闘経験があるような・・・・・・」
「確かに・・・・・・」
なにか、今更な事実に気が付いたんだけど・・・・・・。
「まあ、戦ったと言っても、装機竜人でだけど」
「確かに、生身で戦った訳じゃないからね」
「うん。でも・・・・・・」
そうなんだよな。それでも実際に戦いを経験している事に変わりはないんだよ。
「そう思うと、この数日間の私の努力ってムダ?」
「そんな事はないですよ。力の制御が飛躍的に高まったのは事実なんですから」
何か愕然としているミランダをアレッサが必死に慰めている。
うん。俺としても無駄だったとは思いたくないんだけど・・・・・・。
「何か、思ったよりも簡単に終わりそうな気がするんだけど、今回の試練」
「「「「「確かに・・・・・・」」」」」
なにかもう、心配するだけムダな気さえしてくるよ。
「でも、どんな魔物が出て来るか判りませんし。ひょっとしたら、あのG・・・・・・」
「それは発言禁止」
メリアがココで不必要な発言。想像してしまったのだろう、事情を知っているメンバーが揃って青くなる。
逆に何の事か知らないメンバーはキョトンとしているけど、うん。そのまま知らない方が良いと思うよ。
うん。発言には気を付けようね。メリア自身、自分の発言に真っ青になっているから、完全に後悔しているんだろうけど、チョットその発言はシャレになってなかったから。
「出てこない。うん。あんなのは絶対に出てこないわよ」
「そうですよ。実際に出てきたのはアベルの時だけで、ライオルさんの時もファファルさんの時も出て来ませんでしたし」
ミランダは何か必死に祈っているみたいだし、ユリィも必死になって否定している。
うん。あんなのが出てきたらキミたちにとっては本気で死活問題だよね。目の前に現れた瞬間に正気を失ってしまうかも知れないし。
でも、実際にあれが出て来る可能性もあるんだな。レジェンドクラスのGの魔物が。
うん。あれだけは本気で俺もカンベンして欲しいな。俺が見届け役として、ミランダの戦いを見守るから、万が一にもアレが出てきたりした時には、俺もその姿を直視するハメになるんだよ。
なんと言うか、それだけでもうただの拷問だ。
「まあアレだな、出て来て欲しくなかったら、俺の時みたいに試練を長引かせてしまわないで、すぐに終わらせてしまう事だよ」
「ええ、一瞬で終わらせるわ・・・・・・」
なんだろう、ミランダがこれまでにないくらいに燃えているよ。
俺としても、万が一の悲劇が起きない様に速攻で終わらせてくれた方が助かるんだけどね。
・・・・・・あんなのはもう2度と見たくないよ。
「そうは言っても、これから先、当たり前の様に活性化にレジェンドクラスの魔物が現れる様になれば、確実に再び現れる事煮るだろうけどね」
「「「「「それは言わないでっ!!!」」」」」
「「「「「「それは言わないでくださいっ!!!」」」」」」
モノの見事にみんなに猛反発されてしまったよ。単に現実を述べただけなんだけどね。
いや、気持ちは判るしヤッパリ、今のは俺が悪かったね。
しかし、そうは言ってもいずれあのGと再戦する時が来るのも確実なんだよな。本気で勘弁して欲しいよ。なんであんな魔物がいるかね?
嫌がらせとしか思えないんだけど・・・・・・。
いや、魔物はそもそも生きとし生きる全ての者の天敵だから、嫌がらせどころの話じゃないんだけどね。
なによりの問題が、ひょっとしたらあのGの更に上の、ジエンドクラスのGがいる可能性もある事なんだよな。
本気で、そんなのが出てきたらどうしよう?
Gに食い殺されるのなんて絶対にイヤだし、Gに滅ぼされる世界ってのもどうなんだ?
「全く、人が緊張している時におかしな事言わないでよね。まあ、おかげで緊張も吹き飛んだけど」
呆れたように笑いながら、ミランダはステーキサンドを豪快に頬張る。
「私としても、出来ればコレとかが出て来てくれると嬉しいんだけどね」
コレとは言うまでもなくねステーキサンドに使われているアッシュドラゴン。
「ドラゴンは当然だけど、かなりの強敵だぞ」
「判ってるわよ」
ドラゴンは同ランクの魔物と比べても強さの格が1つ飛び抜けている。その分オイシイ相手なんだけどね。肉だけじゃなくて全身隈なく素材として使えるし、どれもこれも最高の素材だから。
「なんて話している内に始まったみたいだな」
「できれば食後の一休みをしたかったんだけど、しょうがないわね。食後の運動と行きましょう」
ミランダは意気揚々とレジェンドクラスの魔物の出現反応が出た魔域へと向かい。俺もその後を追う。こうして試練が始まった。




