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「どうした、そんなモノか?」

「うるさい。そもそも勝てる訳ないでしょっ!!」

「勝てとは言ってない。だけど、この程度でへばっているようじゃ試練は乗り越えられないぞ」


 さて、ベルゼリアにて俺は早速ミランダの特訓を開始している。

 アスカ・シングウジの残した遺跡の調査が先じゃないかと思われるかもしれないけど、ミランダがレジェンドクラスに至る時は刻一時と近づいてきているので、こちらの方が猶予がないんだよ。

 ここでシッカリ鍛えておかないと、ミランダが死んでしまうかもしれないからね。

 それに、みんなにしてもミランダの事が気になるらしくて、結局、遺跡に行くのは試練が終わってからと言う事になった。

 ついでに、その間にグレストくんたちに事情を説明する事にもなったんだけどね。

 うん。新人のグレストくんたちはアスカ・シングウジの残した遺跡なんて言われても、何の事かサッパリ判らなくて置いてきぼりだよね。

 10万年前の転生者が残した遺跡についてはキチンと説明してあるから大丈夫なハズ・・・・・・。


「強くなった分の力の使い方がまだ甘いよ。」

「そうは言っても、いきなりこんなに力が上がったんだから、戸惑うのも仕方ないでしょ」


 それは確かにね。

 例えるならゲームでレベル1だったのが、いきなりレベルマックスになってしまってラスボスも瞬殺するような力を得てしまったような状況だしね。


「そうは言っても、レジェンドクラスに至れば、更に力が伸びるからね。今の内にキチンと制御できていないと後で大変だよ」

「それは判ってるわよ。アベルの様子を身近で見ていたんだし」


 俺がレジェンドクラスに至る時もかなり大変だったからね。なった後になかなか力の制御が上手く出来なくて、試練が何時までも終わらなかったんだよな。

 おかげでどれだけ死ぬ思いをしたか・・・・・・。


「俺みたいに、永遠と戦い続けたくなかったら、今の内に力の制御のコツを少しでも掴んでおいた方が良いよ。今だから判るけど、既に漠然とした感覚は掴めかけてるハズだから、後はそれに気付くだけだよ」


 これはホントに今だから判るんだけど、レジェンドクラスに至る前から、俺は新たな力の使い方を感覚的に漠然と理解していたんだ。だけど、ずっとその事に気付かないまま無駄な努力ばかり続けていた。

 もっと自分自身と向き合っていたならば、あんな無駄な戦いは避けられたハズだ。


「それ本当なの?」

「ライオルとファファルで確認済みだよ」


 これについては、どうして一言アドバイスをしてくれなかったのかとミミールに文句を言いたい。そのくらいのヒントくらいあっても良いと思うよホントに。


「とりあえず、実戦の中で少しずつ掴んでいくのが一番の近道だから、ほら、もう一度行くよ。次はもうちょっと自分の中の力の流れとかを意識してみると良いよ」

「判ったわよ。でも、流石にそろそろ限界なんだけど・・・・・・」


 どうやらミランダは肉体的な疲れより、精神的な疲れの方がそろそろ限界みたいだ。

 これもまあ仕方がない。俺は力の上では彼女より少し上程度に加減しているけど、殺気やプレッシャーは一切加減していない。

 要するに、さっきからミランダはレジェンドクラスの魔物と相対したのと同じ重圧に晒され続けている訳だ。

 これも、レジェンドクラスの魔物と初めて相対した時、取り乱さずに冷静に対応できる様にするために、有効な特訓なんだけども、消耗は半端じゃなく激しくなる。


「それについてはガンバレとしか言い様がないよ。これに慣れるしかないんだから」

「それも判ってるわよ」


 うん。どうやら軽口を言い合う事で自分を鼓舞してたみたいだな。本当によく頑張るよ。それじゃあ、俺もその頑張りに応えるとしよう。

 

 瞬間、ミランダは行動を開始する。魔法弾を2発放つと同時に、全力の身体強化によって極限まで引き上げられたスピードで背後にまわり、剣による斬撃を放とうとする。

 うん。彼女は下手な弾幕なんかに何の意味もない事を良く理解している。

 そもそも、生半可な攻撃じゃあ全くダメージを与えられないし、爆炎で視界を塞いだ所で、気配で完全にこちらの動きを捉えているので意味がない上、動きを少しぐらい遮る事もムリだ。

 要するに、こちらの力を無駄に消耗してしまうだけで、何の意味もないって判っているからこそ、放つ攻撃は一撃必殺。全力でこちらを殺しに来ている。

 だからこそ、俺も全力で応える。 

 あえて同じスピードで斬撃を躱し、同時に襲い来る魔法弾をミランダに向けて跳ね返す。

 だけど、それくらいは予想していたのか慌てずに更にこちらに向けて撃ち返してくる。

 俺は更にそれを撃ち返し、2つの魔法弾が2人の間を幾度となく往復する。

 勿論、その間にも他の攻防は続いている。剣による斬撃、更なる魔法攻撃、相手のミスを誘う誘導。それらを繰り返しながら、2つの魔法弾だけを互いに跳ね返し合う。そして、その度に魔法弾はその力を少しずつ高めて行く。そして、飽和する力に耐えられなくなった魔法弾は、俺が跳ね返した瞬間に爆発する。

 いや、このタイミングで爆発するのは判っていたんだけど、ちょっと想像していた以上の大爆発だよ。

 普通に人口2000万人くらいの都市を跡形もなく消し去ってしまうくらいの威力はあったね。


「そこっ」 

「甘いって」 


 当然だけど、その隙を付いて一気にミランダが仕掛けて来るけど、それにやられるほど甘くはないよ。

 甘くはないのだけども、チョットその攻撃は容赦がなさすぎじゃないかな?

 左目に一直線で放たれる圧縮された闘気を纏った全力の突き。その一撃は流石にほんの少し回避が遅れただけでヤバい事になると思うんだけど・・・・・・。

 あの闘気の量と圧縮濃度からして、今纏っている防御障壁じゃ防ぎきれなかったし。何度も言うけど、流石にアレを喰らったら俺でも無事じゃすまなかったよ?

 

 どうにもその辺を全く理解していないか、完全に無視しているのか、さっきから殺す気の攻撃を立て続けに仕掛けて来るし、本当に困ったものだよ。


「そんなに殺気をみなぎらせた攻撃じゃ、逆に相手に察知してくれって言っている様なモノだよ」

「判ってるわよ」

「判っているならもっと冷静に。戦う時は無の境地でね」


 悟りを開いた僧侶の様な穏やかさで、躊躇う事なく、一切の無駄もなく魔物を仕留めて行く。それが理想だ。

 もっとも、俺だって戦闘中に熱くなってしまう事だってあるし、人の事をとやかく言えなかったりするんだけどね。


「殺気はもっと研ぎ澄まして、それでいて自然体で、相手の全てを射抜くように発するんだ。そうすれば殺気や視線から攻撃を予測される事もなくなる」

「判ってるわよ。そんな基本っ」


 基本中の基本で、判っていてもなかなか難しいんだよね。人間は自分自身の事が、一番儘ならないって事さ。


「集中力を乱さない。そんな簡単に集中力を途切れさせてしまったら、実戦じゃ致命的だよ」

「ワザとコッチの集中力を乱すような事しておいて、良く言う」

「これも訓練の内だからね」

 

 そう、俺はさっきからワザとミランダの集中力を掻き乱す様にしている。ミランダが感情的になってしまっているのはその所為だ。感情的と言うよりもムキになってるが正しいかな。

 もうとっくに、コッチの思惑なんて判っているハズなんだから、落ち着いて逆に冷静になればいいのに、どうにもムキになってしまっているようだ。


「シッ」

「攻撃の時に声を出すのもどうかと思うけどね。攻撃のタイミングを自分でばらしてしまっているんだから」


 マンガやアニメでは技の名前をワザワザ叫んだりするけど、アレも理解不能だよな。技に全てを集中するのならば、技の名前なんて叫んでいる余裕なんて無いハズだし、そもそも、コンマ1秒の瞬間に放たれる技の最中に、技の名前を叫びきるなんて不可能だし。

 とりあえず、ネーゼリアで戦い続けて来て得た結論としては、攻撃の瞬間こそ静かにだ。

 それこそ無音の暗殺者の様にが理想。


「それも、言われなくても判ってるわよ」


 うーん。どうにもムキになっているな。

 と言うか、ちゃんと自分の中の力の流れに意識を向けられているのか不安なんだけど・・・・・・。

 まあ、出来てなかったらそれは自業自得と言う事で、その時は明日の修行が更にハードになるから気を付けてね。

 なん考えていたら、何か不穏な気配を感じたのか、一瞬身をぶるっと震わした後、一気に攻勢を仕掛けてくる。

 まずは2発の魔法球。そしてその2発を囮とした死角からの闘気弾。そして、手にした剣を槍に持ち替えてミランダ自身も突っ込んでくる

 魔法球と闘気弾は即座に相殺。俺自身もミランダに向かい距離を詰め、ぶつかり合おうとした瞬間、ミランダは転移を使って距離を取る。そして、アイテムボックスから20本の槍を取り出してこちらに投げ付けてくる。

 アレは魔槍だな。槍事態に魔晶石が込められていて、強力な魔力を有している。そしてその魔力を持って高い攻撃力を誇り、同時に使い手の意のままに自在に動き、敵を自動追尾する。

 要するに、アレは何時までも追いかけて来る追尾弾と言う訳だ。

 切り札を出してきたな。アレは下手をしたらミランダ自身に匹敵する魔力が1本1本に込められている。

 勝負をかけるつもりなら、こちらも正面から受けよう。

 亜光速に及ぶ速度で飛来する魔槍を防御障壁でうける。これまでとは比較にならい強度で展開した防御障壁がスゴイ勢いで削られていき、当然だけども貫く前に魔槍の魔力が尽きる

 これで切り札を失った事になるけれども、ミランダは動じない。

 そのままこちらに向かってきながら、今度は剣を取り出す。20本の魔剣。さっきの魔槍と同じ物だな。

 魔剣が放たれ、こちらに向かってくる。

 成程ね。なんと自信と同等の魔力を誇る魔剣と魔槍をここまでの数揃えていたか。随分長い付き合いなのに、今まで知らなかった彼女の奥の手と言う訳だ。

 魔剣は俺の防御障壁と激突し、同時にミランダの渾身の一撃も放たれる。

 この一撃は、防御障壁でうけるのは野暮かな。

 俺もまた手にしていた剣をしまい、槍を手にする。そして魔剣の魔力が尽きると共に、ミランダの一撃に合わせて俺も槍を繰り出す。

 穂先と穂先がぶつかり合い、力と力が激しく衝突しあう。

 そして、どちら魔技も完全に相殺される。


「これで今日はお終いだね」

「判っていたけど、切り札を切っても届きもしないのね」

「まだレジェンドクラスになる前なんだから、今の段階で届からたりしたら、コッチの立場がないよ」


 まあ、経験ではミランダの方がはるかに上なんだから、レジェンドクラスに至ったらあっと言う間に追い抜かされそうなんだけどね。


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