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01(改修版)

「・・・っはあ?」


 思わず間の抜けた声を上げてしまったのは当然だと思う。むしろ、驚くなと言う方がムリだ。

 鏡に映ったどうしても理解できない。いや、コレを当たり前の様に何の疑いもなく受け入れられたら、その方がおかしいと思う。


 鏡に映るのは五歳くらいの子供の姿。

 いや、これが鏡に映った自分の姿なんだと言う事くらいは理解している。だからこそ何が何だか全く判らない。


 判らないのだけども、自分の中に二つの記憶があると言う事実に嫌でも理解させられる。


「・・・・・・転生したのか?」


 そうとしか考えられない。そう理解した瞬間、どうしようもない激情が溢れ出してくる。

 どうして!!! 一体どうなっている!!!! 心の底から、魂が絶叫を上げそうになる。気が狂いそうになるのを何とか押さえ付ける。

 泣き叫びたいと心から思う。気が狂いそうな絶望を吐き出してしまえば、どれだけ楽だろうとも思う。

 だけども、同時にそんな事をしても意味がないと冷静に判断している自分が居る。

 五歳の自分、アベル・ユーリア・レイベストではなく、たった今記憶が戻った上条刀としての自分が当然の様に荒れ狂う激情を沈めていく。

 

 その上で、上条刀と言う前世の自分を冷静に思い返していく。

 二十世紀半ばの日本に、東京に暮らしていた二十歳の大学生。

 家族構成は両親と五歳上の双子の姉と兄。

 大学では理系、ロボット工学を専攻し研究をしていた。

 成績は上の中。大して運動についてはごく普通。

 容姿は身長が180センチ越えとやや高めなのを除けば平凡なもの、別にイケメンでもないけど不細工と言われる事もない程度。

 ついでに彼女いない歴イコール年齢。

 そして、最後の記憶が二十歳の誕生日を祝った時のモノだから、多分その後にすぐに死んでしまったのだろう。

 はじめてお酒を飲んだのを覚えているから、飲み過ぎて急性アルコール中毒になってしまった可能性もある。


 これがとりあえずの前世の自分のプロフィール。

今となって思えば、随分の感情の起伏の少ない。むしろ淡泊過ぎる、冷徹や冷淡と評して良いくらいに自分の感情を常にコントロールしていた、無機質な人物だったと思う。


 対して今の自分、アベル・ユーリア・レイベストはまだ五歳だからかもしれないけれども、活発で活動的で、感情豊かな子供だ。

 家族構成は両親に兄と姉。つまり前世と同じ。ただし十人ほどの家臣が居る。

 これはレイベスト家がベルゼリア王国の貴族だから。

 差族と言っても下から二番目の準男爵だけども、貴族籍を持って王都に屋敷を構えているのは間違いなくて、ついでに代々騎士団に所属する武系貴族でもある。

 容姿はまだ五歳になったばかりなのでハッキリと言い切れないけど、白銀のふわふわのなめらかな髪にクリッとした翡翠色の瞳、顔立ちも可愛らしくて、このまま順調に成長すれば絶世のとまではいかなくてもかなりのイケメンになりそうだ。


 そこまで冷静に考えている内に、前世の記憶が戻って慌てふためいていたのがウソのように落ち着いて、アベルと刀。二つの人格が合わさって何時の間にか一つに纏まっているのに気付く。

 前世の自分に人格を乗っ取られた訳じゃないし、かといって今までの自分、アベルそのままでもないのだけども、どこかで今の自分に納得している。

 ・・・・・・まるで初めからこうなるように決まっていたようなそんな感じがする。

 なんていうんだろう。それこそ今日、こうして前世の気を苦を取り戻した事で初めて、本当の意味でこの世界に生まれ落ちたかのような感覚。

 それが本当に正しいのかは判らないけど、どうやったってもう今更上条刀の記憶を消す事も不可能なんだから、前世の記憶を取り戻して変わった今の自分として、これからを生きて行くしかないだろう。


 と覚悟を決めた所で、改めてこれからの事、そして自分の置かれている状況を確認するとしよう。

 まず問題なのが、生まれた家。つまりは代々騎士を務める準男爵家に生まれた事。

 これは本気で最悪だ。

 こういう異世界転生物では、王族や貴族に生まれて人生勝ち組なんてパターンがあるけど、この世界においては全くの逆だ。

 

 どうしてそうなるのかを説明する前に、まずはこの世界、ネーゼリアの事を知ってもらうべきだろう。

 この世界は所謂、剣と魔法のファンタジーの世界だ。

 ただし、良くある中世ヨーロッパ風の文明の世界ではなく、その文明レベルは現代日本を遥かに超えていて、SFに近いレベルと言うかもろにSFレベルの技術がてんこ盛りの世界だ。

 そして、剣と魔法の世界にお馴染みのモンスター、魔物も存在する。

 この世界におけるモンスター、魔物の立ち位置は異世界からの侵略者。

 魔域と呼ばれる魔物に支配された地、その中心に位置する異世界と通じるゲートから無尽蔵にこちらへと溢れ出して来る生きとし生きる者の天敵。

 それが魔物であり、この世界、ネーゼリアは何十万年とそんな脅威に晒され続けている。

 まあそんな訳で、まず、何十万年という途方もなく長い歴史を持つのだから、たかだか数千年の歴史の地球よりも高度な文明を築いているのは当然で、その上で、外敵である魔物の脅威に晒され続けて来たのだから、それに対抗しうる兵器の開発が行われるのも当然で、結果として、この世界の兵器は地球のモノとは比較にもならないほどの凶悪な代物になっている。

 更に言えば、この世界が剣と魔法の世界だといった通り、そんな凶悪な兵器を更に上回る。想像を絶するような圧倒的な魔法や剣技なんかが当然の様に存在したりする。

 どれくらいとんでもないレベルかといえば、それこそ一撃で地球を跡形も無く消し飛ばしてしまう様なシャレや冗談じゃすまない破壊力。

 でだ、そんなもう想像を絶するような、それこそ地球を侵略に行けばものの一時間も経たずに地球を征服できるような戦力をもって魔物の侵攻に挑んでいる訳だけど、それだけの戦力を用意ても何とか互角に渡り合うのが精一杯。

 正直、特撮の怪獣かSFの宇宙怪獣かと言うレベルの、前世の地球の物語、ゲームや漫画、アニメなどに出てくる魔物とは比べ物にならないくらいシャレにならない怪物、化け物のオンパレードなのがこの世界の魔物だ。

 ・・・・・・いや、一部にそんなバランス・ブレイカーなモンスターが出てくる様なゲームとかもあったけどそれは置いといて。

 問題なのはそんな想像を絶する化け物たちと戦う騎士団に代々所属してきた武系の貴族家に生まれたと言う事。

 言うまでもなく、この時点で既にいずれは、そんな怪物たちとの命懸けの戦いに参加する事は決定事項。

 剣と魔法の世界に転生したんだから、魔法を覚えて、或いは剣で必殺技を編み出して魔物を倒してみたいと思わないでもなかったけど、いくらなんでも相手がシャレにならなすぎる。

 しかも、もしも騎士団に入るような事になったらそれこそ、毎日の様にそんな怪物を相手に、命懸けの戦いに駆り出され続ける事になるんだ。

 そんなのは絶対にゴメンだ。

 て言うか、そんな事になったら絶対に前世と同じように早死にするのが確定だろう。

 せっかく二度目の人生を送れるようになったんだから、今度こそは長生きしたいと言うのが本音。

 なのに生まれた家柄の所為でそれも難しい。

 王族や貴族に生まれて人生勝ち組どころか、完全にその逆と言うのはつまりそう言う事。

 

 ぶっちゃけて言ってしまえば、高度な文明を誇るこのネーゼリアの国々が、封建制の国家体制を引いているのは、魔物との戦いの為に必要不可欠だからで、更に言ってしまえば、王族や貴族なんて魔物との戦いの最前線に駆り出させられる生贄の様な物だ。

 要するに、王族や貴族は特権階級として君臨する代わりに、国と民を護るために最前線で魔物と戦い続ける義務があるのだ。

 つまるところ、封建制度で王族や貴族が居るのは、実際は魔物と戦う為の戦力を確実に確保する為だったりする。

 王族や貴族の家に生まれた者は絶対に魔物との戦いから逃れられない使命を持っているのだから、確かにある意味でこれ程効率の良いシステムもないかも知れない。


 ・・・・・・効率は良いかも知れないし、世界を護るためには、魔物の侵攻に対抗するためには確かに必要なのかも知れないけど、じゃあ、実際にその立場になって納得できるかと言えばそれは別問題。

 このままいくと確実に魔物との戦いの果てに死ぬのが確定。

 所謂、転生特典をもらっていて、チート無双とかが出来たら死なずに済みそうだけど、それはそれで逆に面倒な事になるのも確定している気がする。、 


「・・・・・・本当にどうしよう。て言うか、生まれた時からもうつんでないかこれ」


 本当にどうしようか・・・。


 実は、命懸けだし、確実に死ぬの確定だけども、騎士団入りに興味がないと言えばウソになる。

 この世界の騎士は騎馬を駆る者では無く、パワードスーツや装機人や装機竜、或いはその上位機種である装機竜人と呼ばれる巨大ロボットを使い魔物の脅威から人々を護る者の事を指す。

 正確には、パワードスーツを纏って戦う者たちを騎士。巨大ロボットを自在に操って戦う者たちを竜騎士と言うのだけど、前世でロボット工学を専攻してたのだから、それらに興味を持つなと言う方がムリがある。

 正直、自分もそれらを思うが儘に使ってみたいと思う。どんな風に造られているのか研究したいし、自分の手で造ってみたいとも思う。

 思うのだけども、その欲望のままに騎士団に入るのは絶対に危険だと制止できるだけの冷静さはある。

 だから、本当にどうしようと思う。

 これからの人生を決める重要な選択だ。

 これを誤ると本気で取り返しのつかない事になる。

 いずれにしても情報が足りない。5歳児の知っている情報なんてたかが知れているんだから当然で、むしろ我ながら良くここまで知っていたなと思うくらいの情報量だった気もするが、それでも足りない事は確か。

 幸い、下級とはいえ貴族家の特権階級だし、王都に居を構えているから王立図書館を自由に利用できるし、ネーゼリアでもネットによる情報収集が出来る。

 これらを駆使して出来るだけの情報を集めて、これからどうするかを決めよう。

 先行きは本当に厳しそうだけど頑張るしかない。

 

「はあ・・・・・・」


 前世も含めてこれまでで一番深い溜息を付いて、これからどうなるか判らないこれからの人生の為に、頑張る事を決めた。

 ・・・本当に、これからどうなるんだろう。


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