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さて、グレストくんたちには残念なお知らせがある。
それは、模擬戦は確かにこれで終わりだけど、修行そのものはまだ終わりじゃない事だよ。
さて、少し休んで動けるようになったら、今度は昨日と同じく俺の魔力を送り込むから、それを制御して魔法を使う訓練だ。
これは失敗しても魔力量を大幅に増幅させるからね。
頑張ってトライ。
うん。みんな泣きそうな顔をしてたよ。
それでも何とかやって、全員仲良く、途中で失敗して気を失ったよ。
いや当然なんだけどね。と言うか、気絶するって判っててやらせたし。魔力と闘気を使い果たして、精神的にも肉体的にも疲労の極致にある状況で、極限まで集中力を必要とする魔力制御の修行を無事にこなせるハズがないんだよ。そんな訳で、今回は気絶させる目的でやらせたんだなこれが。
まあ、心配しなくても今日中にっていうか、ご飯までには起きる。
何せ体がエネルギーを求めているから、無理やりにでもたたき起こしてご飯を食べさせるよ。体が本能的にね。
まあそれはさて置き、とりあえず新人くんたちの今日の修行はお終い。このままレーゼ少年たちの修行を見ても良いんだけど、てっチラッと見たら、
「アベルさん、時間が出来たのなら遺跡の調査を進めてしまったらどうですか? まだゲヘナの遺跡全てを調べられていないんですよね」
と先手を取られたよ。
とは言え、実際にさっさと遺跡の調査を終わらせたいのは事実なので、時間が出来た事だしこれから行く事になる。
「そうだね。それじゃあ行ってくるよ」
向かう先はドラグレーンとの国境近く、高い山脈の頂上。標高1万メートル。ルシフェル山脈の頂にある。
エベレストよりも余裕で高い訳だけど、この世界には標高2万メートルを超える山がざらにあるから、実はさほど高い訳じゃなかったりする。
とは言え、頂上付近はかなり酸素も薄いし、普通に上るにはかなり大変なのに変わりはないけど、いつぞやも言った様に、俺は登山家ではないので山登りなんてしない。空を飛んで悠々と山頂に到着する。
時間をかけるのもイヤだしね。
遺跡は当然ながら埋もれていてす方が見えないのでトンネルを掘る。
出て来た遺跡は天体観測所?
何かそんな感じの建物だけど、どうなんだ?
まあ入ってみれば判るのでロックを解除。
入り口から入ってみるとまずは大きなホール。
ついでにわきに情報端末が備え付けられていたので起動してみる。
「ルシフェル天文観測所か、ヤッパリ天体観測のための施設か」
とは言え、唯の天体観測のためだけの施設だったら、ワザワザ封印する必要もないだろう。問題は、どんな星を観測していたかだ。
「そう言えば、天体観測の遺跡は前にもあったな」
そこで、ネーゼリア以外にも生物が存在している星がある事が判ったんだよな。
恐らくだけと、10万年前の転生者がカグヤを造った後にそこに向かった事も。
あの時は本気で驚いたけど、ここは一体どんな天体を観測してたんだ?
いや星とは限らないか、宇宙にある何かかも知れない。
宇宙関係の事となると微妙に興味があると言うか興奮するな。
早速観測室に向かってみる。
「これはスゴイな」
観測室の中央には巨大な天体望遠鏡。その大きさは100メートルを超えているだろう。しかも各所に高度な魔法術式が組み込まれていてる。これは信じられない程に高度なマジックアイテムだ。
「こんな物を使って何を視ていたんだ?」
それが問題なのだけど、さて、観測対象は?
「宇宙の中心部か」
宇宙の中心。前世ではそこには宇宙誕生のビックバンの時に生まれたブラックホールがあると言われていたハズだ。
この世界でも、宇宙の中心にはブラックホールがあるのだろうか?
そもそも、この世界は地球のあった宇宙と同じようにして誕生したのか?
そんな疑問を抱きながら観測データを確認して行く・・・・・・。
「高位次元生命体?」
そして、その記述を目にして思わず頭が真っ白になる。
なんだそれは? そんなモノが本当に存在するのか?
いくつもの疑問が頭の中を駆け巡るけど答は出ない。答えがあるとしたら、この観測データの中だろう。そう思い読み進めて行くけれども、空なる疑問が増すばかりだ。
どうやら、この宇宙の中心には高位次元生命体が存在するらしい。
高位次元生命体。即ち神とでもいうべき存在がこの宇宙の中心に存在するらしい。
しかも、その存在はこの世界だけにあるのではないと言う。
宇宙の中心部は次元の境界が不安定になっていて、もうひとつの次元と重なり合う様にして存在し、そこな高位次元生命体もまた居るそうだ。
むしろ、高位次元生命体の存在が2つの次元を重なり合わせているのではないかと推測されるとある。
そして、宇宙の中心部でこの世界と重なり合う世界こそ、魔物の世界、魔界と言うべき世界だと予想されるそうだ。
つまり、この世界は宇宙の中心部に存在する神の手によって、魔物の侵攻を受ける事になっていると?
「全ては神の掌の上、これがこの世界の真実か」
まさか、今更神なんてモノが出て来るとは思わなかった。
恐らくは、これで全てが繋がって行くんだろう、
何故、何十万年、或いは何百万年とこの世界に魔物が侵攻を続けているのか?
何故、この世界から魔物の世界に逆侵攻をかけて滅ぼしてしまわないのか?
10万年前の転生者が成し得なかった真の終焉への道とは何か?
そもそも、神獣や神龍とはどのような存在なのか?
全ての答えが、この高位次元生命体の元にあるだろう。
或いは、何故、この世界に地球からの転生者が現れ続けるのかの答えもそこにはあるだろう。
恐らく、地球から俺たちを転生させているのこそが、その高位次元生命体、すなわち神なのだから。
「或いは、10万年前の転生者たちは神に挑もうと、神を殺そうとしたのか?」
自分たちの運命を弄んだ存在を討ち果たそうとした・・・・・・。
可能性としてはあるのかも知れない、だけども、実際にどうだったのかはまるで判らない。知る手段は、前に見付けて遺跡のタイムマシンで、10万年前に時を遡るしかないだろう。
或いは、カグヤに辿り着くか・・・・・・。
それとも、ベルゼリアの元となった国を築いた6万年前の転生者が残した遺跡に答えがあるか?
いずれにしても、ようやくこれまで知る事もなかったこの世界の全容が少しずつ露わになってきた。
神の存在、これまでもずっと疑ってきてはいた、だけど実際に存在するかどうかまでは確信が持てなかった。だけど、想いもしない形で存在する事が明らかになった。
まさか、宇宙の中心でこの世界と魔物の世界を繋げ合わせていたとはな・・・・・・。
魔物との戦いも転生者がこの世界に現れるのも、全て神によって仕組まれたモノに過ぎない訳だ。
そう、恐らくは今の俺の状況すらも・・・・・・。
「これが真実の一端か」
正直、これはみんなに伝えて良いもか悩む。悩むけれども、伝えない訳にはいかないだろう。
「これは荒れるな」
そうは言っても話さない訳にはいかないので転移して即座にみんなの元に戻る。
「アベルさんお帰りなさい」
「遺跡の方はどうだった?」
「その事で、みんなに話があるから集まってくれ」
俺の言葉に、10分もしないで全員が集まる。グレストくんたちももう既にちゃんと起きたみたいだ。もりもりと食事中だけど、そこは仕方がない。それよりも、何故に魔王サタンにファファルとライオルの2人までいるかな?
「何故にその3人がいるかな」
「呼んではいないのですけど、当然のように来まして」
「当然であろう、直感が聞いておくべきだと告げるのでな」
直感かよ。まあこの国にある遺跡の事だから、魔王として聞いておくべきだと判断してもおかしくはないんだけども、問題は後の2人だ。と言うか、ライオルはともかくファファルは帰らなくて良いのか?
「まあ良い。今回の遺跡は天文観測所だった。そこで宇宙の中心部を観測していたようだ」
「宇宙の中心部ですか」
「そうだ、そして、その観測データから、宇宙の中心に高位次元生命体、神と呼ばれる存在が居る事が判った」
「「「「「「は?」」」」」」
全員の疑問が一致したようだ。
「神ですか?」
「ああ、恐らくはそう呼んで差し支えない存在だ。実際にこの世界を創造したモノなのかは判らないけどな」
とは言え、俺としてはその可能性も高いと思う。
もっとも、世界の創造者なら何故、自らが生み出した世界を滅ぼそうと知るようなマネをするのか判らないけど。この世界を想像したのが宇宙の中心に存在する高位次元生命体なのなら、魔物の世界を想像したのもおそらくは・・・・・・。
そう考えると、2つの世界を競わせてどちらかが勝のを待っているとでもいうのだろうか?
「そして、その高位次元生命体によって、この世界は魔物の世界と繋がっているようだ」
「「「「「「なっ?」」」」」」
当たり前ではあるけど、今度の驚愕はさっきの比じゃ無いようだ。
「高位次元生命体、宇宙の中心に存在するその者によって、この果てない戦いは繰り返されていると?」
「そうなるね。恐らく、神獣や神龍はその存在を知っているだろう」
或いは、彼らは高位次元生命体によって直接生み出された守護者である可能性すらある。
だけど、今はまだ彼らは尋ねた所で真実を答えてはくれないだろう。
彼らが、何処までの真実を知っているかも判らないけれども・・・・・・。
それに、真実を知っても何が出来るかは判らない。少なくても、高位次元生命体がジエンドクラスの魔物なんて比較対象にもならないくらい強いのは確定だろう。
そんな相手にいったい何が出来ると?
そもそも、どうにか出来るならこれまでの転生者とか、神獣や神龍たちとかがどうにかしただろうし。
本当に、真実に一歩近づいて更に面倒臭い事になってきたみたいだ。




