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「それでは、我らが勝利を祝して乾杯」


 乾杯とともに始まった祝賀会は本気で贅の限りを尽くしたものだった。

 前哨戦の相手であるヒュドラやヤマタノオロチ・スサノオの肉を使った料理から、俺から依然買い取った遺跡で見つかったジエンドクラス食材まで使われたご馳走が所狭しと並べられている。


「まさかココまでするとわね」

「国の予算は大丈夫なのでしょうか、少し心配になってしまいます」


 ここは予算をこれでもかと使っても、盛大な祝賀会をするべきだと判断したんだろうよ。

 それは正しいと俺も思うよ。ファファルたちへの牽制にもなるし、これからの交渉のための布石のひとつだな。

 勿論、それだけじゃない。今回の活性化はこれまでにない激戦だった。その割には死者は驚くほどに少なく済み、ほぼ完勝に近いとは言え、兵たちの間に動揺が無いハズもない。

 それを沈め、戦意を高揚させ、国の為に一丸となる意思を高める。これからを見据えての団結の儀式としての一面が最も大きいだろう。

 後まあ、俺たちレジェンドクラスが3人もいるんだから、それに見合う祝賀会にしなければいけないってのもあるんだろうけど。


「まあ俺たち、特にドラグレーンの王太子のファファルが参加するんだから、国の威信をかけて盛大な祝賀会を開く必要があったんだろうけど」

「まったく、サタン殿の思惑通りと判っていても、ここまで盛大な祝賀会に圧倒されてしまいますよ」

「だろうな。とは言え、あれだけの異常事態が起きたあとなんだ。それを無事に乗り越えたんだとアピールして、国の団結を高める意味の方が大きいだろうから、文句も言えない」

「判っていますよ。私としても人事ではありませんし」


 それはそうだ。ドラグレーンでも何時同様の規模の活性化が起こるか判らない。

 今回の一件は、全ての国、全ての人にとってもはや他人事ではないのだ。


「確かに、私や父上がサタン殿の立場でも、同じ事をしたでしょうし、それでもここまで盛大に出来たかは判りませんが」


 ファファルの言う通り、今回の祝賀会は盛大と言うレベルを超えているかも知れない。残りの国家予算を全て注ぎ込んで開いたと言われても納得してしまいそうな程だ。

 そんな豪華な祝賀会なのだし、俺たちとしても出来れば純粋に楽しみたいのだけども、当然だけどそうはいかない。

 まずはコレは何処でも同じだけども、俺たちと縁を結びたいゲヘナの貴族や有力商人たちの相手をしなければならない。これは何度経験しても慣れないし面倒だ。

 それでも、貴族の方は魔王サタンが予め不用意な真似をするなと言明しているらしく、次から次へと立て続けに挨拶に来るような事はないのだけども、問題は商人たちの方で、彼らはなんとか俺と商談を持ちたいとしつこく言い寄ってくる。

 まあ、彼らからしたら喉から手が出る様なものを俺が多数手にしている事はもう常識みたいなモノらしいから、必死になるのも当然らしいんだけどね。

 こちらについては相手をする気もないので適当にあしらっている。


「まあ、その辺は経験や場数の差だろう」

「ですね。その意味でもこれからのことを考えると憂鬱です」


 経験が違いすぎるからな、交渉で対等に渡り合うのは無理だろう。すでに魔王にイニシアチブを握られているようなものだし。


「気持ちは判るけど、今は純粋に祝賀会を楽しんだら。このスサノオの生ハムなんて絶品だよ」

「そうですね。私も今回はアベル殿ほどではないとはいえ、重責を背負いながら戦い抜いたのです。正直精神的にこれまでになく疲れましたからね。ここで英気を養いたいところです」


 そういうとファファルは手にしたグラスのワインを一気にあおる。因みに既にボトル10本以上空けているが、まったく酔った様子がない。

 ファファルにいわせると、ワイン程度は水と同じようなものらしい。

 因みに、妹であるシャクティはブランデーを2本空けているけど、こちらも酔った様子はない。


「ふむ。このローストはワインと良く合いますね」

「それはウロボロスのローストだな。確かにこれは良い組み合わせだ」

 

 少し酸味のあるソースが肉の味を際立たせ、ワインとの相性も抜群だ。

 しかし、この組み合わせでいくらになるんだろう? とふと思う。

 ジエンドクラス魔物の肉であるウロボロスのローストは当然シャレにならない金額になるし、このワインだって最高級品だろう。一口で10万リーゼくらいすると言っても驚かない。

 まあそれでも、ウロボロスの素材は通常の1000分の1以下の値段で卸したので本来よりは安く収まっているんだろうけど。

 

 言うまでもないけど俺も既に飲んでいる。

 飲まずにやってられるかって話でもある。

 と言うかファファルよ、オマエがここに居るのがいけないんだよ。俺を巻き込むた。

  

 ライオルの方は、割と簡単に討伐した2匹のジエンドクラスの魔物の内、1匹をゲヘナの引き渡し、もう1匹は自分でと決めたようだけど、スピリットに帰った後、獣王や一緒に来た研究者から譲る様に言われるのは目に見えているな。

 まあ、そっちは良いんだよ。問題はファファルの方で、こっちは倒したジエンドクラスの魔物を全部持ち帰りたいらしい。

 気持ちは判るんだけど、それは流石にムリだろと思う。

 ゲヘナにしてみたら、今回の活性化での損害額の補填や、これからのための軍事強化の費用の確保などのために、なんとしてもジエンドクラスの魔物の素材を少しでも多く手に入れたい訳だし、格安で手に入れられる今回の機会をミスミス逃すハズもない。

 だからこそ、サタンとファファルの間に熾烈なやり取りが水面下で続いている訳だけども、俺は全部引き渡すってもう言ってあるんだから、関係ない俺を巻き込むんじゃないよ。


「うん。今は祝賀会を楽しまないとな。交渉については俺は知らないから、精々頑張ってくれよ」

「助けてはくれないのですか?」

「俺が仲立ちする方がおかしいって、今こうして間に入る形をしているのだってどうかって話だし」

「それは、自覚しています」


 祝賀会始まってからずっと俺たちと一緒に居るのは、完全な逃げなんだよ。

 それが判っているからファファルはバツの悪そうな顔をするんだけども、離れて行こうともしない。


「お兄様らしくありませんね。随分と弱気です」

「私もレジェンドクラスの1人となり、王太子に正式に任命されたからには、それなりの成果を出したい。活性化での戦いでは十分な戦果を上げられたつもりだけど、この後の交渉に惨敗してしまったら、初外交で大失敗してしまう事になるからね。私としてもそれは避けたいんだよ」


 ついでに言うと、ファファルは戦闘司令官としての経験は豊富だが、内政や外交についてはこれまであまり係わっていないので、完全に畑違いだとの事。


「王太子となった以上は、それらもこなさなければ成らないとは言え、今はまだ基礎の基礎を学び始めた程度ですので」

「それは仕方がありません。お兄様は国防の要でしたから、今まではそれに徹していたのですから」


 そもそもファファルが正式に王太子になったのはつい最近の事だ。とは言え、まあ事実上次期国王と認定されていたの場事実だからこそ、まずは国の守りとして、支持と基盤をつくる事が優先されていたとの事。

 その上で、不動の支持と基盤をもって王太子となり、内政や外交などについて学ぶ予定だったらしい。

 だからまあ、レジェンドクラスにならなくても、ファファルは予定調和で王太子になるのは決まっていたんだけども、レジェンドクラスに至った事で更に箔が付いた訳だ。

 だけど今回は、その箔が付いてしまったのが問題になる。

 ドラグレーンの希望ともいえね次期国王だ。

 そのファファルが初外交で失敗してしまう訳にはいかないと・・・・・・。

 外交のガの字も知らないど素人である事は関係ない。王太子として、外交を、交渉を成功させなければならないと。


「十分過ぎる戦果を上げたんだから、そんなに気にする必要はないと思うがな」

「そうかも知れませんが・・・・・・」


 色々と考え過ぎだと正直思う。


「万能な人間なんて居やしない。少しぐらいの失敗を恐れていたら何も出来ないぞ」

「そうですね。お父様も何の失敗もなく、国を統治してこれた訳ではないのですし、それにお兄様はまだ王太子の身、ならばこそ王となる前に、失敗も経験と割り切って思い切って行動するべきでは」

「そうかも知れませんね」

「それに、別にキミだけで交渉する訳じゃない。キミの周りにも支えてくれる人たちが多く居るはずだろう。彼らを信じてどっしりと構えていたらいい」


 ドラグレーンの方にも状況は伝わっているハズなので、竜王が何も手を打たないハズがない。

 むしろ、竜王としてはファファルに経験を積ませる良い機会だと考えているんじゃないかな?


「そうですね。周りを頼る事もまた、統治者に必要な資質なのですから」


 どうやらヘンな気負いから抜け出せたみたいだ。

 それにしても、完璧主義者と言うか、何事も上手くやらないと言う強迫観念にとらわれていたと言うか、元々の脳筋な戦闘スタイルと言う、ファファルはどうもメンドクサイ性格をしているな。

 ジエンドクラスの魔物の素材だって3匹分あるのだから、1匹分くらい引き渡しても問題ないだろうに、気負いすぎてその程度の事にも頭が回らなくなっていたのか?

 まったく、本当に面倒な奴だ。


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