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レーゼ少年視点。2回目です。
本当に此処はドコの地獄だろう。
魔域の活性化が始まって一週間。ボクたちは本当によく生き延びられたものだと思う。
10万年前の遺跡から発掘されたと言う装機竜人グングニール。この世界の巨大ロボットに乗って魔物との戦いを続けて来た。
ううん。アレは戦いなんて言葉で済むようなモノじゃあない。
見渡す限り全て魔物ばかり。365度、隙間なく魔物で覆い尽くされた中に取り残されて、死なない為に必死で魔物を倒し続けた。
倒さなければ、殺さなければ自分が殺される。
日の恐怖に突き動かされるように、必死にグングニールを駆って戦い続けた。
結果、何とか生き残れたのはボクの才能じゃなくて、グングニールの性能のおかげ。
今の技術で造られた機体とは、比較にならない程の性能を誇るそうだけど、ボクはグングニールしか装機竜人は知らないから良く判らない。
ただ、敵を示すレーダーは常に真っ赤なままで、敵の攻撃を予測する情報や、次の最適な行動パターン、更にその結果起こる変化、周辺の戦況など、溢れるような情報が頭の中に流れ込んできて、頭がパンクしてしまいそうだった。
本当に、情報に頭がついて行かずに破裂してしまうかと思ったよ。
・・・・・・それは今も変わらないか。
それでも、1週間もすれば多少は慣れてくる。
「ええぇぇい」
ボクはグングニールの主兵装のひとつ破動魔道砲を放ち、広範囲の魔物を一掃する。
ES+ランクの魔石の全魔力エネルギーを収束して撃ち出すこの兵器は、圧倒的な破壊力を誇ると同時に、とてつもなくコストパフォーマンスが悪い。だって、1回使うごとにES+ランクの魔石を空にするんだよ?
ES+ランクの魔石は1個で1億リーゼ以上する。つまり、1回撃つたびに10億円以上掛かってるんだよ。それを思うと、僕は胃が痛くて仕方がないよ。
だって、今回の戦いでボクが費やしたコスト分、いったいいくらになると思う?
このままじゃ確実に兆の単位に行くよ。
そんな大金、ボクが稼げるようになるのかも判らないし、自己負担でなんて言われたら破産しちゃうよ。
多分、そんな事にはならないと思うけど、と言うか、心の底からそう願うよ。
それとコレ、もの凄い威力で一度にたくさんの魔物を倒せるんだけど、その代わりにキチンと周りの状況を確認してから撃たないと、味方まで巻き込んでしまう、所謂フレンドリーファイアで味方を殺してしまいかねないから気を付けないといけない。
戦場では自分の事で手一杯になってしまいがちだが、それでも常に味方の状況を把握し続けなければいけない。
アベルさんにまず初めに教わった。戦場の、戦いの基本。
今になって確かにその通りだって実感できる。
自分の事しか考えてなくて、何時味方を巻き込むかも判らないような奴、ハッキリ言って敵よりもよっぽど始末に悪いよ。
それにしても、本当にどれだけの魔物が居るんだろう。
この1週間でボクが倒した魔物だけでも1000万を超えて居る。
そのほとんどが、A+ランク以下の魔物だったから何とかなったけど、これから先は、一度に何匹ものSクラスの魔物と戦わなければならなくなってくるだろう。そうしたら、ボクは生き残れるかどうか。
実際、これまでに何度となくSクラスの魔物と相対したけど、完勝できたことは一度も無い。
倒すまでに必ず、1回は攻撃を受けてしまう。
機体の防蟻フィールドのおかげでダメージを受ける事もなく、機体を壊さずに済んで入るけど、攻撃を受けてしまえば、それを防ぐために無駄なエネルギーを消費してしまうし、なによりも動きが止まってしまうので、場合によっては致命的な隙になりかねない。
回避不能であるか、回避できない理由があるのでない限り、敵の攻撃は避けるのが基本なのに、ボクはまだその基本すら満足に出来ていない。
「サナさん。戦況はどうですか?」
「順調よ。レーゼ君はそのまま西南咆哮の敵陣に向けて攻撃を続行して。それに続いて他の各機も行動を起こして一気にこの戦域の敵を殲滅します」
ボクたちの指揮は、ヒュペリオンを駆る同じ転生者のサナさんが執っている。
そのサナさんの指揮の下、ボクたちはほとんど遊軍のような形で、魔域近くで戦っている。偶にアベルさんからも指示が来るみたいだけど、それ以外は基本、好き勝手に動いている。
そんな事が出来るのも、アベルさんたちがとんでもない戦果を上げ続ているから。
本当に何かトンデモナイ事になっている。
正直、あそこにはいきたくないと言うのが本音。
サナさんも同じ思いみたいで、この1週間、1度もヒュペリオンをベルハウゼルに戻してないし。
あの戦場は異常だ。
ボクたちの戦いとは全く別の何かが行われている。
あんな所に居たら命がいくつあっても足りない所じゃない、何も出来ないどころか、自分が死んだ事も理解できないまま終わってしまう。
万の単位のSクラスの魔物が、転移と共に破動魔道砲と同レベルの攻撃を仕掛けてくる。
予想していた通りに、気が付いたら何時の間にか普通にいるレジェンドクラスの魔物が次から次へと襲い掛かってくる。
複合魔法の砲撃が驟雨の様に降り注ぐ。
いったいあそこで繰り広げられているのは何なんだろう?
少なくても、ボクたちが今、命を賭けて戦っているこの戦場とは全く別の何かだ。
ボクたちだって、一瞬のスキが、ほんの僅かな判断ミスが生死を分けるギリギリの命懸けの戦場に居る事に間違いない。
正しく地獄と言って良いような死戦場だよ。
そして、そんな中で平然と戦い抜いているアベルさんはやっぱり怪物だと思う。
本人は、自分たちの力が足りなくて、ベルハウゼルの力を引き出しきれていないから、この程度の戦いで追い込まれてしまっているとか言っているらしいけど・・・・・・。
この程度の戦いって何?
アベルさんはいったい何処に行こうとしているんだろう?
勿論、ボクだってこれから先、魔物の侵攻がこれまでとは比較にならない程に激しさを増して来る事くらいは理解している。
ボクたちがこうして旅をしているのは、それに対抗する為なんだから・・・・・・。
だから、この程度で泣き言をいっていられないのは理解していたつもりだったけど、うん。全然わかってなかったのを実感したよ。
いずれ、ボクたちもあんな戦いを強いられる事になるんだろうか?
戦いが始まったと思った瞬間に死ぬ未来しか見えないよ・・・・・・。
まあ、少しづつ強くなっていくしかないって事は判っているけどね。
少なくても、グングニールに乗っているのに、ワイパーン程度も簡単に倒せない様じゃ話にならない。
なんて言っても、この機体は本来、レジェンドクラスの魔物を相手にする為に造られた機体なんだから。
まだA+ランクのボクじゃ性能を活かしきれないのは当然でも、ワイパーンくらいは簡単に倒せなきゃ話にならない。
現に、ゲヘナの竜騎士団は、ボクと同じA+ランクで構成されているハズで、搭乗する機体はボクのグングニールよりも性能は劣るハズなのに、ワイパーンはおろか、上位種のワイパーンロードだっていとも簡単に倒していた。
少なくても、ボクだってアレくらいにならないといけない。
なんて思っていたらワイパーンが来た。
こちらを捉えるとすぐにブレスを吐く体制に入る。
させない。
グングニールの圧倒的な速度で一気に距離を詰めて、相手がブレスを放つ前に倒す。
機体の右手に装備した大剣を振るう。
強力な魔力を込めた一閃がワイパーンの防御障壁を砕く。
続いて、左手に装備した重破砕砲でワイパーンの首を撃ち抜く。
ヒュドラならともかく、ワイパーンなら首がちぎれて、胴体と頭が別れれば終わり。
よし。初めてキチンと勝てた。
だけど、此処で油断しちゃあいけない。
キレイに残ったワイパーンを回収すると同時に、続いてボクに襲い掛かってこようとしている魔物を確認と共に迎撃を開始する。
現れたのはエイビクスト・キマイラ。100を超える獣が入り混じった姿をしていて、正直、何とも形容しがたい、と言うよりも端的に、生理的な嫌悪感を覚えずにはいられない。
まあ、アベルさんたちが遭遇したと言う、巨大なGの魔物よりはマシだろうけど・・・・・・。
内心でそう言い聞かせて、心を落ち着かせて迎撃する。
こちらに突っ込んで来るのをあえて避けず、防御障壁同士のぶつかり合いから、相手の防御障壁が砕けた瞬間を狙って大剣で切り裂く。
「まだまだ」
続いて、こちらに殺到して来ているA+ランク以下の魔物を、広域殲滅兵装ラグドメデギスで一掃する。
「良いわよレーゼ君。これでこの戦域の魔物はほぼ殲滅完了。増援が来る前に次ぎに行きます」
局所的に一時魔物が居ない領域をつくっても意味がないんじゃと思ったら、どうやらそうでもないらしくて、開いた空間に魔物が殺到して来るので、それを利用して更に一気に殲滅したりできるし、人界、守るべき国の人の領域へ向けての魔物の侵攻を多少は鈍らせる事が出来たりと、戦略的に見てもかなり有効な戦法らしい。
ボクも、いずれはそう言う戦術とか戦略とかも覚えないといけないのかな?
今はそんなこと考えている暇なんてない。
今はただ生き残る事。
絶対に、この地獄の様な戦場から生きて帰って見せるんだから。




