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「惚れ惚れする程に見事な戦いであったなアベル殿」
「あんな戦い、出来れば遠慮したいのが本音なんですけどね」
ベリアルの離宮に戻った俺を魔王サタンが出迎える。
何故にここに居るかな?
まださっきの戦いの後始末、戦後処理の最中だと思うんだが?
ルシリス達に出迎えられると思っていたのに、何故にゴツイオッサンが出迎えるかね?
命懸けの戦いから戻った疲弊した心に潤いが欲しいんだけど。
まあ、冗談はさて置き、出来ればあんな命懸けの戦いは遠慮したいのは本音だ。
勝率が低すぎるのもどうにかして欲しい。
あんな戦いを続けていたら、命がいくつあっても足りない。と言うか、本気で死ぬ。
「確かにそうであろうが、斬面ながらそれはこれからの状況次第であろう。既に魔域の調査を進めているが、その結果次第では」
「魔域の活性化ですか、しかも、全庁であんな規模の大軍が送り込まれて来るとなると・・・・・・」
少なくても、今回の戦いよりもさらに激しい激戦になる事は間違いない。
「済まぬがアベル殿の力もお借りせねばならぬだろう。到着早々、この様な事態になって申し訳ないが」
「まあ、ドラグレーンの次はゲヘナに行く事は初めから決めていましたからね。どうやっても巻き込まれる事になっていましたよ」
ティリアの誕生日に合わせて、ベルゼリアに戻っていなくても、遺跡の調査途中で巻き込まれたのは確定だ。だから、間違っても今回の出来事は俺が来たから起きたんじゃない。
俺がヒュドラの進軍を呼び起こしたなんて事は決してない
「済まぬな。もしも魔域の活性化が起こったとしたら、今回はレジェンドクラスの魔物も現れる可能性が高い。その時に対抗出来る者がいなければこの国は終わりだ」
「それならば、ライオルやファファルを呼ぶのも良いと思いますが。レジェンドクラスの力に慣れるいい機会ですし」
まあ、ファファルはドラグレーンの次期国王だから難しいもしれないけど。ライオルのバカなら喜んでくるだろう。
あんなバカでも居てくれれば俺の負担が減るし、是非とも来て欲しいものだ。
と言うか俺から声をかけるか?
流石にファファルはどうかと思うが、本当に魔域の活性化が起きたら、ミミール達にも声をかけてしまおうかな。
「うむ。場合によっては増援の要請も必要かも知れぬな。その辺りも協議せねばなるまい。とりあえずアベル殿。今回は貴殿に助けられた。心よりお礼申し上げる」
そう言い残して魔王サタンは立ち去る。
ヤマタノオロチとスサノオが出た時点で、俺が居なかったら国が壊滅してた可能性もあるからな。
しかしスサノオか、ミミール達とかならもっと簡単に倒せたのかね?
とりあえず、間違いなくライオルやファファルじゃあまだどうやっても勝てなかっただろ。今回俺が勝てたのも奇跡みたいなものだし、後、見境なしに攻撃しまくって魔力を消費しまくってくれたおかげだな。
もっと慎重に戦われたら勝てる見込みはカケラもなかった。
あのスサノオが戦略家タイプじゃなくて、力押しの脳筋タイプで本当に助かったよ。
それよりも今は癒やしだ。
早くルシリス達の所に行こう。
と言うか実は結構ギリギリなんだよな。正直言えばこのままベットにぶっ倒れてしまいたい。
戦いが終わってその場でぶっ倒れる程ではないけど、前世だったらフル・マラソンは知りきった後くらいには疲れている。
だけど、まずは美少女や美人たちに勝利の祝福を受けたい。
欲望に忠実?
変態っぽい?
知らんがな。男なんてそんなものだ。
そんな訳で意気揚々とベルゼルの離宮の奥に進んでいくと。
「あっアベルさんお帰りなさい」
「戻ったんだねアベル。私たちも見てたけど凄い戦いだっよね」
「アベルさんが負けるハズがないと判っていますが、少しハラハラしました」
先程の総指令室での続きか、みんなで優雅にお茶会をしていた。
お茶請けはクッキーからシフォンケーキになってる。
うん。見事に寛いでいらっしゃるね。
「ただいま。コッチは命懸けで戦っていたんだから、もう少し心配して欲しかったかな」
これは完全に本音だ。
そんな散歩帰りみたいな気易さの出迎えじゃなくて、もっとシッカリ出迎えて欲しかった。
「そうは言っても、私たちの中ではもう、キミが負けるなんて想像も付かないしね。どんな強敵が現れても割とアッサリ倒してしまいそうだから」
「そうですね。私たちも途中まではアベルさんの戦いを見守っていましたが、まるで危なげなく戦っていましたし」
ミランダに続いてアレッサまでそんな事を言う。いや、全然、危なげなくないから。と言うか途中までってどういう事?
と思ったら、どうやらスサノオとの戦いはもにたー出来なかったようだ。
当然か、戦闘空間全体を常軌が逸したエネルギーで溢れかえっていたからな。衛星からの監視モニターも役に立たなかっただろう。
と言うか、今の技術であの戦いをキチンと映像に捉えられるカメラとかあるのか?
遺跡からの発掘品ならどうにかなりそうだけど。
「まあ良いけどね。判ってるだろうけど、キミたちも場合によってはそんなに寛いでる余裕はないよ」
「魔域の活性化ですか?」
「どうなるかは判らないけど、備えておいた方が良いだろう」
て言うか、俺の場合、今回の戦いで魔晶石をかなり使ってしまったので、補充の間もなく魔域の活性化が起きたりするとかなり困るんだけど。
戦力として当てにされても、期待されるほど戦えないかも知れないし。
「俺としては、今回使った魔晶石の回復が出来るまでは待って欲しいんだけど、そうもいかないだろうし」
「状況が確定するまで遅くとも数日ね」
今回の戦いが魔域の活性化の予兆だったのなら、実際に活性化が始まるまでにそう時間は残されていないだろう。
数日でも時間が空いてくれれば、それこそ幸運だ。
「そんな訳で、レーゼ少年たちも頑張れよ」
「あっ、やっぱりボクたちも戦うんですね」
「当然だろう。みんな既にA+ランクまで成ってるんだから、活性化が起きた現場に居合わせて、戦わないでいるなんて選択肢はないよ」
残念だけど諦めろ。或いは、魔域の活性化が起きない事を祈ってろ。
「だけど、それほど悲観する事はないと思うよ。グングニールもあるし、むしろちょうど良い経験だよ」
実際、危険度で言ったらメリアたちの時の方がはるかに高い。
あの時は、まともに鍛え上げる時間もなかったし、パワードスーツは用意できたけど、個人の特性に合わせたチェーンアップまでは完全に出来なかったからな。
「それに、この世界で生きていく以上、魔域の活性化からはどの道、逃れられないし」
「それは判っていますよ。アークセイヴァーでも、何時魔域の活性化が起こるか判らない訳ですし。その時は公爵家に名をつなれる者として、ボクも戦う事になったのは当然なんですから」
「そう言う問題じゃなくて、カグヤの封印が破られる時が近付くと共に、魔物の活動も活発になる。活性化もこれまでにない頻度で起こる事になるって事」
これまでは、一度活性化が起こった魔域は、数十年から数百年は再び活性化が起こる事はなかったが、これからはその常識も通用しなくなる可能性がある。
例えば、このゲヘナの接する魔域が今回、活性化を起こしたなら、これまでなら最低でも数十年はしないと再び活性化が起こるような事はなかったが、これからは下手をしたら数年も経たないうちにまた送る可能性もある訳だ。
「正直、これからどうなるか全く予測がつかないからね。だからこそ、最悪の事態も想定して備えておいた方が良いだろうよ」
「命が惜しければ頑張れって事ですか・・・・・・」
まあ、そういう事だな。
悪いけど俺だってイッパイイッパイなんだから、助けを求められても困るよ。
まあ、本当にどうにもならなそうだったら助けるけど、それだって確実とは言えない。
俺の方が死ぬ可能性だってあるしね。
「まあ、結局、魔域の活性化が起きない可能性もあるし、こればっかりは状況次第だよ」
「できれば起きないでくれるのを、心から願いますよ」
それは俺も同じだよ。
実際、俺が2回経験した魔域の活性化とは比べ物にならない規模と脅威になるのは確定なんだし。
て言うか、ヒューマンの国の活性化なんてコッチのと比べればまるで大した事ないんだろうし。
「まあ、起きないならそれに越したことはないんだけどね。それよりも俺にもお茶を、疲れたからまずはゆっくりと休みたいよ」
何よりそのシフォンケーキものすごく美味しそうなんだよね。俺の甘い物センサーがこれは絶品だって言ってるよ。
さっきのクッキーといい、実は魔人って甘い物大好きだったりするのかね。
そう言えば、魔王サタンは討伐したヒュドラを数千匹分は持ち帰っているはずだけど、何事もなければ、今日はその肉で戦勝会でもするのかね?
魔人の宴も見てみたいものなんだが、その時は、俺もヤマタノオロチの肉でも提供しようかね。
ホント、出来れば魔人の街を探索したりとか、観光名所を回ったりとかして気楽に観光を楽しみたかったんだけど、それも難しそうだし、それなら、ありのままの姿の魔人と接してみたいんだけどな。
それも、魔王と毎期の動向次第か、本当に、どうなる事やら。




