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 さて、魔人の国ゲヘナに到着したと思ったら、いきなり数百匹ものヒュドラの進行に遭遇した訳だが、ここでいきなり俺が出る訳にはいかない。

 現在、魔王サタンが直接、ヒュドラの討伐にあたっており、魔天城へルクリアルでは王太子であり、次期魔王のルシフェルが討伐の総指揮を執っている。

 そんな訳で、俺たちは今は総司令部でその様子を見守っている状況だ。

 単なる物見遊山ともいう。

 さて、ヒュドラとの戦いのほうは、魔王サタンとその直属である、魔天12将が中心となって討伐を進めている。流石はES+ランクの尖鋭部隊。一匹ずつ確実に仕留めて行き、順調にその数を減らしていっている。


「問題はココからだな」


 今まで討伐したのは通常のSSS+ランクのヒュドラに過ぎない。

 つまりは格下の相手だ。しかし、これから相手にするのはES+ランクのアビス・ヒュドラやライグ・ヒュドラなど、その数は目算でも300を超える。


「それに想像以上の数です。数百どころか1000に届くかもしれません」

「確かに、既に討伐したヒュドラも300匹は超えて居るし」


 ちょっとシャレにならない大軍だ。


「この数となると、本当にレジェンドクラスの個体が率いている可能性があるな」

「確かに、でもありえるんですか? 何の前触れもなく、レジェンドクラスの魔物が現れるなんて」

「確かに恐ろしい事態ですが、過去に前例が無い訳ではありません」


 ルシリスは淡々と説明してくれる。

 それによると、新たなレジェンドクラスの超越者が誕生した時以外にも、レジェンドクラスの魔物が現れる事がごく稀に起きるそうだ。

 ヒューマンの大陸では過去一度たりとも起きた事のない事態だけども、他の各種族の国々ではそれほど珍しい事態でもないらしい。

 要するに、魔域そのものの力がヒューマンの太刀陸の者とは、比較にならない程に強大なのが原因だろう。

 それは判ったが、何故にこのタイミングでかね。


「そうなると、やはり俺も出た方が良いと思うが」

「はい。間違いなくアベルさんの力をお借りする事になると思います。ですが、今はお父様たちにお任せください」

「初めからアベルさん任せてしまえれば、被害も出ないでしょうが、国の体面とメンツのためにもそうはいかないのです」

「そう言うのに拘らない方もいますが、サタン様も、初めて訪れられたアベル様に丸投げするよ訳にもいかないでしょうから」


 俺の言葉にルシリスに続いて、シャクティとヒルデが補足する。

 まあ、自国に招待した相手に、いきなり国の守りを丸投げするような事は出来ないよな。


 しかし、本当に見事な戦いぷりだな。

 魔王サタン率いる討伐軍は、50人ほどで編成された尖鋭部隊だ。

 確かに尖鋭ではあるが、相手は1000に近い数の大軍。数の上では圧倒的な劣勢にあるにも拘らず。常に戦局を有利に進め続けている。

 しかも全員が見事に連携して戦っており、未だに脱落者が出ていない。 

 この規模の戦いなら、どれだけ善戦したとしても、10人以上の犠牲者を出してもおかしくはないんだけどね。


「だがそろそろ限界が近いようだけど。魔晶石による魔力の回復にも限界がある。既に800を超えるヒュドラを討伐しているけど、サタン陛下もそろそろ限界だろう」


 実際、1人で既に40匹近くを討伐している魔王サタンの消耗はかなり激しい。

 魔晶石による回復にも限度があるし、そもそも、魔力は回復できても、死闘おぐり抜ける中で消耗した精神力までは回復できない。戦いが始まって既に1時間、流石にそろそろ集中力の方が限界に近いだろう。


「あらアベルさん。それはお父様の事を見縊り過ぎですよ」

「サタン様はこの程度で音をあげる方ではありませんよ」


 どうやら、魔王をよく知る娘たちからしたら、この程度はまだまだ序の口らしい。

 そうは言うが、何かヒュドラの数が明らかに増えているんだけど?

 100メートルを超える上位種のヒュドラが魔域から続く草原に溢れかえっている。その数は、明らかに今まで討伐した数を上回っている。


「そうは言うけど、ヒュドラの数が明らかな数百どころか、数千の単位になってるよね?」

「ひょっとしたら、万の単位にまで行きそうですね」


 本当に数えるのもバカらしいほどの数が溢れかえっているんだけど・・・・・。

 ルシフェル総司令も、既に増援を出撃させている。300からなる竜騎士団。彼らは魔王の者に救援に向かうのではなく、逆に魔王を囮にする形でヒュドラの大軍の足背を突き、一気に切り崩していっている。

 うん。実に見事に指揮なんだけど、数が違い過ぎて切り崩しきれずにいるぞ。 

 と思ったら、またまた逆方向からの魔法砲撃が開始される。Sクラスの魔法砲撃隊か、500キロ近い距離を取って遠距離砲撃の集中砲火を浴びせて側面を切り崩す。


「うん見事だね。だけど、それでも討伐数が敵の増援に追いついてないよ」


 魔王サタンたちの本陣も、先程までよりもさらに激しく戦場を駆け巡り、次々とヒュドラを討伐して行くんだけども、その討伐数を上回る勢いで新たなヒュドラが溢れ出してくる。


「本当に異常。いったい何が起きているの?」

「判らない。魔域の活性化とは違うし」


 ユリィとケイの疑問は当然だ。実際、現状の脅威は既に魔域の活性化時と大差ない。いや、むしろ上回る脅威が発生していると言って良いだろう。

 既にヒュドラの数は1万を大きく超え、その数は更に際限なく増加をし続けている。

 このまま行くと、普通に数万の単位まで膨れ上がるどころか、下手をすると数十万の単位にまで溢れかえるかも知れない。

 更に300の竜騎士隊が増員され、波状攻撃が仕掛けられるけれども、凄まじい勢いで数を増やしていくヒュドラを抑えきれないでいる。


「正直、ゲヘナの全戦力を上げても、この大増殖を抑えきれるか判りませんね」

「これはムリ、と言うか見ているだけで気持ち悪い」


 とか言いながら、ポリポリとクッキーを齧るディアナ。

 まあ、そう言う俺もさっきからクッキーを食べているけどね。

 いや。美味いんだよこのクッキー。相指令室に案内されたかと思ったらそのままとア全の様にお茶と一緒に出されてさ。どうしたものかと思ったけど、ルシリス達なんかは平然とお茶を楽しんでいるし、まあ良いかと開き直って俺もさっきから優雅にお茶を楽しみながら観戦しているんだけどね。


「流石にこれ程の短時間で数十万ものSクラスが現れたのでは対抗しきれなくなるか」

「敗れる事はありませんけどね。危険な状況なのは確かです」


 そう言いながらも美味しそうにクッキーを頬張るルシリス。その様子には全く危機感が感じられないよ。

 でもホントに美味しんだよなこのクッキー。普通のバニラとかチョコチップとか、ココアとか抹茶とか、ジンジャーとかラムレーズンとかいろいろな種類があるんだけど、俺のお気に入りはジンジャー風味とラムレーズン。どちらもただ甘いだけじゃないのが良い。

 それでいてクッキーとして味わいを損なう事は決してないのがスゴイ。

 出来ればこのレシピ欲しいんだけど。


「と言うか、これって魔域の活性化の前兆なだけどかそんなのはないよね?」

「そう言われると、その可能性も否定できないかも知れません」


 ウソ。止めて、またしても魔域の活性化とか勘弁して欲しいんだけど。しかも、今回は魔人の国ゲヘナの魔域だ。もしも本当に魔域の活性化が起きたなら、その規模はかつて俺がヒューマンの大陸で経験した者とは比較にならない、桁外れの規模になる。

 まあ、俺も前回、魔域の活性化を戦い抜いた時よりもはるかに強く放っているけど、出来れば遠慮したいよ。


「それは、出来れば遠慮したいんだけどね」


 そんな事になったら観光どころの騒ぎじゃなくなってしまう。いったいどれだけの期間になるかは判らないが、もしも魔域の活性化が起これば、それに対抗している間は遺跡の調査だってしている暇はない。

 それに、あの来る日も来る日もただひたすら、永遠と魔物の討伐を続けるだけの日々は精神的に堪えるんだよ。


「まあ、レーゼ少年たちを鍛えるには、良い機会かもしれないけど」

「ええっ? いきなり魔域の活性化で実戦なんて無理ですよ」

「何を言う。メリアたちはまさにそんな状況を見事に切り抜けたぞ」


 うん。本当にあの時は良く生き延びたものだよ。

 それに比べれば、レーゼ少年たちは既にA+ランクまでの実力をつけているんだし、グングニールとかもあるんだから大丈夫だろ。


「まあまだ可能性の話だよ。実際に魔域の活性化が起こるかどうかは判らないし」

「ですよね」

 

 俺の見立てでは、ほぼ確実に起きそうだけどな。

 そんな事をは増している内に、状況が動いた。大地を埋め尽くさんばかりに溢れかえるヒュドラの大軍。

 それが突如二つに分かれる。

 それは上位者に対して道を譲るもの。

 そして出てきたのは、今までその存在に気付かずにいたのが不思議でならない程に、なぜ今までその存在に気付かなかったのか理解不能な程に巨大なヒュドラ。

 その巨体は優に3キロを超えて居るだろう。まさしく山のように巨大な生命体。ヤマタノオロチ。

 日本神話に登場する伝説の龍と同じ名を持つレジェンドクラスの魔物。

 しかし、ヒュドラの上位種。レジェンドクラスが居る可能性も考えていたが、よりによってコイツが現れるとはな。

 ヒュドラの最上位種はレジェンドクラスになるが、それでも普通はEXランク程度だ。その中でこのヤマタノオロチだけが桁が違う。

 XYランク。即ちレジェンドクラスの最上位の魔物。それがヤマタノオロチだ。


「まさかあんなのが出て来るとはね。此処からは俺の出番だな」


 悠然と、まるで自分が現れるに相応しい舞台が整おのを待っていたかのようなヤマタノオロチには悪いが、手で来て早々消えてもらうよ。



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