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「それで、結局これからヒューマンはどうする事になったんです?」

「結論としては、アベル殿から提案があった国連、ヒューマン国家連合が設立され、そこで国家間の取り決めなどを話し合う事になった」


 成程ね。ただし、国連は建前上何処の国にも属さない完全な独立機関だったけど、今回設立される機関はどうなる事だろう。

 正直言って、俺にはどうでも良いけどね。とりあえず、今まで各国が個別に交渉する形になっていたため、全然進展しなかった各種族との国交の回復については、国家連合が担う事が決定したそうだ。


「これで遅くても、数年後には正式に各種族との国交を再会できるだろう。それだけでも、国家連合を設立した意味は大きい。良い案を出してくれて本当にありがとう。感謝するぞアベル殿」

「別に感謝されるほどの事じゃないですよ。それに、設立してもうまく機能させていくのは相当困難だと思いますよ」

「判っている。どの国もまずは自国の利益を最優先するのは決まっているからな」


 まあ、それについては当然の事で、それについて非難する方がむしろ見当違いなんだけどね。

 ただ、場合によっては利益とかそんなものに囚われず、全体の事だけを考えて判断しなければいけない時もある事も、忘れちゃいけないけどね。

 国ではなくてヒューマン全体のためにどうするか、それを判断できる人材が集まってくれればいいんだけど。


「その辺りは、俺の管轄外だから、とりあえず目的も果たせたようだし、当初の予定通りゲヘナに活かせてもらいます」

「そうしてくれ。私としても、これ以上アベル殿を政治的な駆け引きに近付けたくはない」


 ぶっちゃけ、今回はそもそも俺が気付かなかったのが悪い。

 各種族との間の国交正常化が行われ始めて、既に2年近くになろうとしているのに、一向に何ひとつ纏まらない状況下にあるのだ、そりゃあ色々と不穏な動きとかがみられるようになっても当然だ。

 ここのところ、ヒューマンの大陸にいること自体が少なくなってきていたから忘れていたってのは、完全に言い訳だよな。

 まあ、だからと言って俺のでる幕でもないんだけどね。

 俺は単なるいち冒険者だし。


「それと、ティリアの事をどうかよろしく頼む。あの子は高魔力障害のために、ずっと友人も作れずに1人でおった。それがアベル殿と一緒に旅をするようになって、沢山の友人を得られ、これまでに体験したことのない毎日を送れている。日々の様子を楽しそうに語ってくれる娘の姿が見れたのも、全てアベル殿のおかげだ。どうか、これからも娘をよろしく頼む」


 成程ね。王族として生まれただけでなく、高魔力生涯を抱えていた彼女には、生まれてからずっと自由がなかった訳だ。まさに加護の鳥のような毎日を送ってきたティリアにとって、この1年は新鮮な驚きと興奮の連続だっただろう。

 

「それは当然ですけど。かわりに彼女はこれから先過酷な戦いを強いられる事になりますよ」

「判っておる。しかし、それはアベル殿の元におらずとも同じであろう。であれば、一番娘が幸せになれるように願うのは当然よ」


 確かに、現状の状況下じゃあ、アレの婚約者にならな勝った場合のティリアの立場はかなり厳しいモノになっていただろう。

 ぶっちゃけ、状況次第では政略結婚が組まれていた可能性が高いし、高魔力障害を克服した時点で戦いからも逃れられなかった。

 なら、俺に出来る事はどんな状況下でも彼女が生き残れる様に、力を付け戦い方を教えていく事と、彼女を幸せにしてあげる事だろう。

 なんだかんだで、俺の中でティリアの存在は結構大きなものになっている。

 

 と言うか、俺って自分で考えてみても結構どうしようもない人間だよな。

 何十人て女の子とハーレム状態だし。

 それをもう当然みたいな感じで、全員に好意を抱いているし、前世だったら大ブッシングだったよな。

 まあ、前世の常識とか気にしてても仕方ないんだけど、何時の間にかみんなの好意を当たり前の様に受け入れられているようになっている自分が、どうにも信じられない。 


「だからどうか、今のまま娘を幸せで居させてくれ」

「判ってますよ。俺もティリアを不幸にするつもりはありませんから」


 ティリア幸せを約束しあったところで、ベルゼリア王との会談は終わり。

 次はいよいよゲヘナだ。

 ティリアの誕生パーティーが終わってもそれで終わりじゃない。ヒューマン側は、本格的にヒューマン国家連合の設立に向けて動き出し、それを受けて各種族も、今後のヒューマンとの交渉のために動き始めている。

 魔王サタンも直々にそれらの事前交渉を行っていて、昨日1日でかなりの激務をこなした模様。

 と言うか、事前交渉とはいえ1日で全て終わらせてみせるのだからスゴイ。

 それでまあ、用事も全て終わらせて今日帰国するので、俺たちも同行する訳だ。

 因みににどうやって行くかと言えば、魔王サタン陛下一向にヒュペリオンに同乗してもらって、その上で船ごと転移で竜人の国ドラグレーンに、そこからおよそ1時間の船旅で、魔人の国ゲヘナの首都マハトに到着。

 まあ、実の所を言えば、魔王サタンは自分で転移魔法を使って、一瞬で国に戻ることも出来たから、俺たちに同行して1時間無駄にした事になるんだけど、そこはそれ、魔王としての体面もあるし、まさか自分で転移して戻る訳にもいかないし、俺と一緒に国に戻るのも所謂パフォーマンスになるし。


「ではさっさく輪が城に案内しよう」


 滞在するのは当然だけど城になる。魔王城ではなく、魔天城へルクリアル。


「キミたちにはベルゼルの離宮を使ってもらう」

「それなら、私が案内しますよ」

「そうもいかんよルシリス。此処でアベル殿の案内を投げ出す訳にはいかん」


 なにか、ルシリスと魔王サタンの間で火花が飛んでる気がする。

 なに? この2人仲悪いの?


「アベル殿たちに滞在してもらうベルゼルの離宮は、へルクリアルの南西に位置する。滞在中は好きに使ってくれて構わぬ」

「因みに、魔天城へルクリアルは他とと比べて少し大きくて、40平方キロくらいあるから」


 そんなにっ? て思わず突っ込みたくなる広大さなんですけど。

 普通に都市ひとつ分の面積丸々なんですけど。

 まあ、そこまで広大なのも何か理由があるんだろう。

 そこまで広いと使いにくかったり、生活に不便だったりしそうだとか思わなくもないけどね。


 で、案内された魔天城へルクリアルは荘厳の一言。

 魔人の王、魔王の居城と言うと、前世のイメージだと禍々しい漆黒の魔城とかそんな風だが、魔天城へルクリアルはその逆で、荘厳であり同時に城塞としての武骨さをハッキリと示してもいた。

 魔人を統べる王の居城として、国と民を護ると言う意思がそのまま具現化したかのような城だ。

 そして、それはそのままの意味でもある。

 この魔人国ゲヘナの首都マハトは、魔域に接する防衛都市のひとつでもあり、魔物の脅威に対抗する中枢なのだから。

 つまり、魔天城へルクリアルは文字通り、魔人族を護るために存在する城塞なのだ。


「此処が魔人の国ゲヘナの守りの要か」


 当然だけどもおそらく魔天城へルクリアルの大半は軍事施設になるだろう。

 軍や騎士団、竜騎士団を合わせた総合司令部となる訳だ。


「私たちもはじめは驚いたよ。だけど、確かにある意味で一番合理的なんだよね」

「確かに」


 ケイの言葉に同意するしかない。

 国の中枢たる首都。王都を最前線に築くなんて、普通ならありえないと思うけれども、確かに一番効率的でもある。

 王が自ら国と民を守る事を形として宣言し、現している。ある意味で理想的な国の形なのかも知れない。


「さてと、ここの南西と言う事は」

「うむ。ベルゼルの離宮は魔域に接しておる」


 だよな。まったく、随分とおもしろい事をしてくれるよ。

 と言うか、魔域に接しているなら、色々と防衛のための設備とか万歳なんじゃないの?

 

「とっ、少し待ってくれ」


 なんて思っていると、サタンとルシリスに同時に通信が入ったみたいだ。

 このタイミングで? と確実に何か起こったなと確信する。これまでに体験からももう確定だ。


「すまんなアベル殿。魔域に異変が起きたらしい」

「数百からのヒュドラの群が、こちらに向かって侵攻してきているそうです」


 ヒュドラの群ね。しかも数百匹に及ぶ規模。

 これは大事だわ。ヒュドラはSSS+ランクの魔物だし、上位種になればES+ランクのモノもいるし、それどころか最上位種はレジェンドクラスの魔物だ。


「数百匹って、それってレジェンドクラスのカオス・ヒュドラが率いている可能性もあるんじゃ」


 実際、その規模の群を統率しているとなると、その可能性が高い。

 しかし、本来ならレジェンドクラスの魔物が現れるなんてありえない事だ。

 しかし、そのありえない事態が、実際に起きているとしたら?


「オモシロそうな事になってきたな」

「そう思うのはアベルだけよ」


 思いっきりツッコミを入れられたが気にはしない。さてさて、いったい何が起きているのかな?


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