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「結構、難しいですね」

「その辺は慣れだな。慣れればどうという事はないよ」


 さて、実際に料理教室を開いてみた訳だけども、ニーナはどうも素材に下ごしらえが苦手なようだ。

 と言うか、基本的にエクズシスの料理は下ごしらえとかをしない割と大雑把な料理らしい。ニーナのつくる料理は基本エクズシスの料理になるので、彼女も今まで下ごしらえとかをした事がなかったみたいだ。

 しかし、この下ごしらえが料理の出来に大きく関係する。ほんのひと手間かけただけで味が全然違って来るんだ。


「この下ごしらえをシッカリやると、それだけで料理の出来が全然違ってくるからね。基礎の基礎だけど、これをシッカリ覚えればそれだけで料理の腕が全然違って来るよ」

「それは楽しみです」


 基本はシッカリできているので、後は下ごしらえのコツを覚えれば問題ないだろう。後は、それぞれの国の料理を教えていくかな。

 和食なんか覚えてくれると嬉しいかも。


「後は色々な国の料理を覚えて行こうか。鬼人の国の料理なんかもおもしろいよ」

「鬼人ですか。確か魚を生のまま食べたりするんですよね?」

「新鮮な魚を食べるのには最高だよ」


 この世界では生のままとかに忌避感とかはない、地球だと、生のまま食べるとかありえないとか色々と文化の違いがあったりしたんだけどね。ただ、生のまま食べるとかありえないとか言ってる人が、普通にステーキをレアで食べていたりしたような気がするのは気の所為かな?

 今になって思うと、アレは何だったんだろうと思う。


「とりあえず、今回はここまでだな。そろそろ本来の目的を果たさないといけないし」

「目的って、遺跡の調査でしたよね?」

「そっ、何が眠っているか判らない数十万年前の遺跡」


 発掘される事もなく今まで残っていたという事は、そもそもその遺跡自体が後世の転生者に対してまで隠されていた事になる。

 後世の為に残されたのではない。おそらくは完全に私的な目的のために残された遺跡。

 本当に何があるか判ったものじゃないのが恐ろしい。


「そのひとつがココにある訳」


 そんな災厄の種が、どうしてか俺の生まれたベルゼリアにあった。ここまで来るともう完全に仕組まれている様にしか思えない。


「それじゃあ早速行ってくるから、みんなに伝えといて」

「アベルさんお一人で行かれるんですか?」

「何があるか判らないからね」


 最悪、遺跡その物を完全に消滅させて終わりの可能性もある。

 誰かを連れて行くとか悪手でしかない。

 しかし、なんで俺だけこんな厄介事をこなさなければならんのだとも思うけど、放置しておく訳にもいかないのでさっさと向かう事にする。

 遺跡があるのは魔域の淵だ。そこの地下1万メートルの地中に埋もれている。

 文献も伝承も何も残されていないので、見付け出せたのはほぼ奇跡に近いらしいが、むしろ、情報をもとに調べ出したらアッサリと見付かった時点で、何か作為的な物を感じる。

 魔域の淵につくと早速、何時もの如くトンネル堀。遺跡に向かって地中深く掘り進む。

 1万メートル掘り進んで遺跡の入り口に。

 早速開けようとするけど、何時ものパスワードが出ない。

 これは確実に転生者も中に入れない様にしてあるな。

 まあ良いけど、それならそれで無理矢理入るだけだから。 

 入口に向かって全魔力を込めてロック解除の魔法を放つ。


「これで開いてくれると助かるんだが」


 当然だけど、そう簡単にはいかない。

 それではと、取り出したのはΩランクの魔石。遺跡の中に残されていた超貴重品。

 その魔石の魔力全てを使って解除の魔法を使う。すると今度はアッサリとロックが解除される。


「さてと、いったい何が隠されているんだか」


 出来れば、余り大したものじゃないと嬉しいんだけど、望み薄だろうな。

 転生者の私物、二次元のアイテムの封印場所とかだったら助かるんだけど。

 そんな事を考えながら中を調べていって、この遺跡がなんなのかを知った時、そのあまりの悍ましさに吐き気を覚えた。


「狂っているな。いったい何故こんな事をしようとした」


 そこにあるのは無数の培養カプセル。

 ただし、此処で造られているのはエイルの、ヴァルキュリアシリーズのような生物兵器とは根本的に否るものだ。

 それは魔物の細胞を使った人造人間。魔物と人を掛け合わせた存在の培養施設。

 それが、この遺跡の正体だ。


「何十万年もかけて研究開発を続けているっていうのかよ。何の為に・・・・・・」


 この遺跡は、誕生してから今まで、ずっと同じ狂気の研究開発を続けて来たんだ。

 いったい、これまでにどれだけの数の魔物の因子を持った人造人間が生み出され、そして破棄されていったのだろう?

 完全に狂っているとしか言いようがない。


「やあ、此処に辿り着いたのは何時の時代かは知らないが、俺の後の転生者かな。キミは俺の事を狂っていると思うだろうな」


 そんな俺の想いに応えるように言葉が投げ掛けられる。

 気が付けば、目の前に一人の男のホログラムが映し出されている。


「まあ、キミに何と思われようが俺には関係ない。俺は俺のやりたい様にするだけだ」

「それなら、俺もやりたい様にさせてもらう」


 無駄だと判っているが、それでも思わず声をかけてしまう。


「此処は魔物の因子を持った人間を完成させるための施設。魔物の世界で生きていける人間をつくりだす設備た」

「なに?」

「侵攻してくる魔物の世界は、こちらとは全く異なる世界だ。そこでは人は生きてはいけない。逆侵攻をかけて魔物の世界を滅ぼそうとしても無理なんだよ」


 成程、今まで逆侵攻が行われなかったのはそう言う理由か。


「だからこそ、魔物の世界を亡ぼす為にはそこで生きていける存在が必要になる。即ち、魔物の因子を持った兵器だよ。それが此処で造られている物だ」


 成程ね。この遺跡もまた。魔物の世界を亡ぼす為に造られてモノか・・・・・・。


「完成すれば、Ωランクの力を持つ人造兵を数百万の単位で送り込む事が可能になるハズだ。そうなれば、もはやこちらに侵攻をかけている余裕はなくなるだろう。つまり、世界は救われるのだよ」


 確かに、それ程の戦力を送り込めれば、魔物の世界そのものを亡ぼす事すら可能かも知れない。


「判ったら、おかしな事をしないで立ち去りたまえ。此処こそが世界を救う叡智の結晶なのだ」

「そうか、だが断る。この遺跡は跡形も無く消し去らせてもらう」


 残念だけど、この遺跡は余りにも危険すぎる。残す訳にはいかない。

 存在が許されないとかそれ以前の問題として、この遺跡は世界を亡ぼしかねない。


「そもそも、魔物の因子を持った人造人間をつくりだして、それを人間の為の兵士、いや、兵器として操れると本当に思っているのか?」


 魔物はその存在そのものが、この世界に生きる者を抹殺する為にあると言ってもいいような存在だ。

 その因子を持った人造人間は、おそらく本能の様に人間を抹殺する意思を持って生まれて来るだろう。どんな精神操作などを行うつもりなのかは判らないが、存在自体が危険すぎる。

 間違っても、完成させていいようなモノではない。


「オマエが何を思ってこの遺跡を残したかもどうでも良い。全てを完全に消滅させる」


 俺の魔力ではこの遺跡を消し去るには足りないだろうから、さっきと同じようにΩランクの魔石の魔力を使う。

 意味の消滅。存在した事実ごと消し去る抹消魔法をもって、この遺跡を完全に消し去る。


「消えろ」


 魔法の発動と同時に全てが消滅する。遺跡は完全に消滅した。

 対抗魔法がかけられている可能背化もあったけど、どうやら大丈夫だったみたいだ。或いは、誰かに消し去ってしまってもらいたいと、あの遺跡をつくった彼自身、心の中で思っていたのかも知れない。

 それでも、女狂気の研究を始めずにはいられない何かが、彼にあったんだろう。

 何があったのかを知る術はもうない。

 遺跡と共に、彼の想いも全て跡形もなく消し飛んだのだから。

 だけどこれで良い。

 やった事を後悔するつもりはない。

 あの遺跡は絶対に存在してはいけないものだ。

 もしも、発見が遅れいてたら、或いは、既に研究開発が終わっていたら、世界は終わっていたかも知れない。

 魔物の因子を使った存在の開発とはそういうものだ。

 10万年前にも、魔物を逆にこちら側の戦力として使えないかの研究はされていたけど、その尽くが失敗している。

 魔物の因子はそれ自体が人間の敵であり、操る事は叶わない。それが結論だ。

 あの遺跡で造られていたモノは、魔物の世界ではなく、この世界を亡ぼす為の兵器でしかなかったのだ。


「それにしても、ひとつ目からこれか、先が思いやられる」


 残る遺跡は3つ。

 その遺跡にどんなものが眠っているのか、それを思うと気が重くなる。



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