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「無茶を言っているのは判るけど、お願いだから諦めて」
結局ミランダに押し切られて、遺跡探索は今まで通り、俺1人でやる事になってしまった。
解せぬ。
何故に俺がやらねばならぬのだ。
「何か都合の良い様に使われている気がする」
「そっそんな事ないですよ」
アレッサ、否定する言葉がどもっているぞ?
「と言うか、気が付けば勇者とかそんな立ち位置になってるし」
「そう言えば、勇者の物語と似たような事をしてますよね」
本当に、そんなつもりなんてカケラもなかったのに、気が付けば転生勇者とか呼ばれそうな立ち位置に居るし。
ホントにどうしてこうなった?
俺は自由気ままに生きる為に冒険者になって、世界中を旅して周る予定だったのに・・・・・・。
気が付いたら何時の間にか世界の命運を決める戦いの中心にいるんだけど?
まだ戦いは始まってないけどね・・・・・・。
転生勇者とか物語の定番だけど、よくよく考えてみれば体よく利用されているだけの看板なんだよな。
で、今の俺の状況が正しくそれと・・・・・・。
考えると悲しくなってくるから止めよう。
「そんな肩書は絶対にいらないけどね。とりあえず、遺跡の場所を聞いてさっさと用事を済ませちゃおう」
さっさと済ませて魔人の国ゲヘナに行きたいのが本音だ。
行く先々でトラブルや面倒事に巻き込まれて、あまり観光できていないのが残念だけども、各種族の国はやっぱりヒューマンの国とは違っていて、それぞれの種族の特性を持った国の様子は実に面白い。
魔人の国であるゲヘナも、魔人の特性が現れた国なのだろう。早くそのゲヘナの様子を見てみたいのだ。
そんな事を考えながらとりあえず自宅に戻ったんだけども、そこで思いがけない再会をする事になった。
「お久しぶりですアベルさん」
「ニーナか、久しぶりだな」
エクズシス帝国でノインと同じく奴隷として囚われていたニーナ・リリアーナだ。
「無事にSクラスに至る事が出来ましたので、お約束通り仲間にしていただくために来ました」
「そんな事に拘らなくても、俺は何時でも大歓迎だったんだけどな」
彼女は、俺に甘えきってしまわない様にと、自分の力だけでSクラスになったら仲間にして欲しいと言っていた。その宣言通りに、自力たでSクラスにまで成ったみたいだけど。
「それに強くなり過ぎてないか? もう教える事が何もなさそうなんだけど」
「そうでしょうか?」
コテンと首を傾げてみせるけど、彼女、自力でES+ランクにまで成ってるよ。
「本当はもう少し早く来たかったんですけど、アベルさんたちは他の大陸に言ってましたから、流石にそこまで追いかけていけませんから、頑張って修行してたんですけど、そんなに強くなってますか?」
そう言えば、獣人の国に天人の国、そして竜人の国とまわっていて、ヒューマンの国に来るのも久しぶりだったな。
それに、ヒューマンと他の種族との断絶も解除されたとはいえ、未だにお互いの国を行き来し合うまでにはなってないし、流石に俺に会いに大陸を超えて来るのは無理があるよな。
これはニーナに悪い事をしたかもしれないが、だけど精々が数ヶ月くらいだろ?
そんな短期間で、SクラスになったばかりからES+ランクまで実力を上げられるか?
「強くなっているよ。今のキミは会った当時の俺と同じくらいの強さだ」
「本当ですか?」
「ウソは言わないよ。ホントに驚いたよ。自分の力だけでここまで強くなるなんて」
俺が直接指導し続けているメリアたちの成長速度を余裕でぶっちぎっているんだけど。
天才とか才能とかそんなんじゃなくて、純粋に彼女の意思が、彼女をここまで強くしたんだと思う。
「それにしても驚いたな。キミなら、いずれはレジェンドクラスにも至れるかもな」
「レジェンドクラスですか、なれたら良いですね」
訂正、彼女の場合は余裕でジエンドクラスにまで到達しそう。
なにかホントに物語の主人公みたいだな。
「それは楽しみだ。とにかく、これからよろしく」
「こちらこそよろしくお願いします」
ニーナとシッカリと握手をする。何気にこういうの初めてかも知れない。
「それじゃあ、キミの参加を盛大に祝わないとね」
うん。やっぱり俺、彼女の事気に入っているわ。
何処までも自分の意志を貫く、その気高いばかりの誇り高さは何よりも魅力的だ。
さて、そんな彼女に最大のプレゼント、目一杯驚いて貰って、楽しんでもらうとしよう。
さて、何時もの事だが歓迎の為の料理は俺がつくる。
用意するのはカオス・ドラゴンの肉。それをあえて薄切りにスライスしてから何枚も重ねていく。所謂ミルフィーユカツと同じ要領だ。ぎゅっと力を込めて形を整えたら、塩釜で包んで焼く。
焼きあがったら適当な厚さに切る。ブロックの肉でつくったモノよりも肉汁がより溢れて来るそれにソースをかけて出来上がり。塩釜焼きローストドラゴン・ミルフィーユ仕立て。
ステーキも焼く、ドラゴン・ステーキは鉄板だ。塩コショウだけのシンプルな味わいが一番。
スープも作る。脂身の部分を角切りにして軽く焼いてから煮込む。大きめに切った玉ねぎも加えて、赤ワインを1樽丸ごと入れる。いくつものハーブで味を調えてドラゴンスープの出来上がり。どれだけ作ったかは想像にお任せする。
それと唐揚げも用意する。ドラゴンの唐揚げ。これが美味い。味付けに使う醤油や塩も、最高の物を用意しないとドラゴンの肉に負けてしまうけど、素材に見合う調味料でシッカリと味付けをするともう最高。
醤油味と塩味の2つを用意する。一部、これらでひたすら飲みまくるメンバーが居るなと思い浮かべるが、まあ別に良いや。俺も少しは飲むつもりだし。
さて、ドラゴン料理が続いた所で次は海鮮の一品を、ヘル・ポセイドンの肉を薄切りにしてマリネにする。
それから骨の周りからこそぎ落とした肉を纏めて団子にする。それを揚げてチリソースを纏わせる。変化球な海鮮チリソース。これがまた美味かったりする。
鍋も用意する。海鮮鍋とドラゴン鍋。それとシャブシャブも、シメは雑炊と麺の両方で。
フライも揚げる。ソースはタルタルで。
そんな感じで思い付くままに料理を作っていく。
つくり過ぎとかそんな事は考えない。むしろそんな事はありえない。どれだけつくっても全て消えてなくなる。
確実にだ。むしろ余る光景の方が想像できない。
でもまあ、なんとか十分な量をつくれたところで、ここからが本命だ。
最高のスイーツ作り。
正直お菓子作りとかは苦手だ。
当然だけども、前世では一度も経験していない。クッキーとか自分で焼くとかそんな事したはずがない。
ケーキを焼けなんて言われても困る。
なんだけどもねニーナを喜ばせるにはやっぱりスイーツだろう。
考えに考え抜いて、ニーナは砂漠の国の出身だから、今回は冷たいスイーツにする事にした。まずはいくつかの果汁を凍らせて、それでかき氷をつくる。かき氷と言ってもシャリシャリした食感じゃなくてふわりと口の中で溶けるなめらかな食感に凍った果汁を削っていく。
それに色々な果物を加えた練乳の様なシロップをかけて完成。因みに凍らせた果汁には酸味の強い物を選んでみた。
これでスイーツも完成だが、1つだけなのもどうか、という事でもう一品つくる。
つくるのはパイにした。今回はベリーパイにする。パイ生地にクリームと一緒に様々なベリーを乗せていく。
うん。美味そうだ。
思いっきり時間がかかったけど完成だ。
それでは、ニーナの歓迎パーティーを始めるとしよう。
「美味しいですぅぅぅぅぅ」
「本当にアベルの料理は最高。料理人泣かせ」
ニーナは気に入ってくれたようだが、横でノインがおかしな事を言う。
何が料理人泣かせなのか?
まあ良いけどね。俺は気にせずに唐揚げと一緒にビールを飲む。
うん。美味い。噛んだ瞬間に溢れ出す肉汁が最高だよ。アツアツの肉汁でやけどしそうになった口の中に、キンキンに冷えたビールを流し込むともう最高。
ご飯と一緒に食べても最高だよ。
ロースト・ドラゴンにはビールじゃなくてワインだな。パンに挟んでサンドイッチにしても最高だけど。
口にした瞬間に肉汁と一緒にほぐれる肉がもう最高。
「アベルさんてこんなに料理が得意だったんですね」
「得意と言う程でもないよ。どれも素人料理だし」
「そんな事ありません。私も結構料理は得意なつもりだったんですけど、完敗です」
そうか?
俺としては是非ともニーナの手料理を食べたい所なんだけど。
「それにしてもアベルさん、そんなにキレイで料理も得意だなんて、ちょっと酷いです」
「それに私も思う」
「何の話かな?」
おかしな方向に話が行ってないか?
「だってアベルさん私よりもずっと美人ですし、その上料理まで得意だなんて、女して悔しいですよ」
「そう。ある意味アベルは女の敵」
「本気で何の話かな?」
女の敵とは失礼な。
まあ、言いたい事は何となくわかるけどね。男のくせに自分よりキレイとか嫌味でしかないだろうし。
俺からしたらニーナの方がよっぽど美人なんだけどね。
だけど、客観的に見て俺は美少女なのも間違いない。
それも最高の美少女。声だって未だに透き通るようなソプラノだ。何をどうやっても女の子にしか見えない可憐な容姿をしている。
もう、この体は成長の仕方を根本的に間違っているとしか思えない。何故に、歳を重ねるごとに女らしくなっていくかな?
体毛なんて生えても来ないし、胸板は薄いしお腹周りはくびれてすらいやがる。お尻はプリッとしていて手足も細いしもう何が何だか・・・・・・。
スカートをはいても何の違和感もないよ。
むしろ、今の格好の方が男装している様にしか見えないよ。
そんな、男の癖に誰よりも女の子らしい可愛らしい姿をしていて、しかも料理まで得意なんだから、確かにある意味おんなの敵だよ。
でも俺だって好きでこんな姿なんじゃない。
何故に男らしくならないかね?
自分の容姿が自分でも一番の謎だよ。
「俺の料理が気に入ってくれたなら、今度教えても良いが?」
「あっそれ良いですね。それじゃあ、アベルさんは私の料理の先生ですね」
まあそんな話をしてもむなしいので、話を変える。
料理教室と言うのも楽しいかも知れないし、我ながら良いアイデアだと思う。
そんな訳で、ニーナは別の意味で新たに俺の弟子になった。




