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「兄様。おめでとうございます」
「ありがとうシャクティ。私も感無量だよ」
どうも、ファファルが俺の修行を受けている間に、兄弟間の確執も解けたみたいだ。他のみんなの態度も柔らかくなっている。
一部、未だに本能的な恐怖を感じてしまうメンバーもいるようだが・・・・・・。
それはさて置き、ある程度予想はしていたが、本当にアッサリレジェンドクラスには至ってくれたよこの天才は。
「とりあえずは修行はこれでお終いだ。まずは試練が何時始まっても良い様に、ゆっくりと身を休めると良い」
試練が始まったら、身も心も休まる暇もないからね。今の内にシッカリと休んで、気力を充実させておくと良い。
「ありがとうございまう。今日はお言葉に甘えさせていただきます」
「それにしても兄様、瞑礼の儀から戻られたら、お父様もお母様も驚かれるでしょうね」
「はは、今からその時が待ち遠しいよ」
フム。本人は試練を前にしても平常運転だな。
むしろ、百年も続いた重圧から解放されてより自然体になっている気がする。
この様子なら問題なさそうだな。
「それじぁあシッカリ休むと良い。キミなら試練問題なさそうだし。俺は高みの見物をさせてもらうから」
「はい。どうか私の勇姿をご覧ください」
「うん。出来によっては、試練が終わった後の、レジェンドクラス至ったのを祝うパーティーに最高の一品を送らせてもらうから」
新たなレジェンドクラスが試練の中で討伐した魔物を豪快に食べて祝う記念パーティーを彩る最高の一品を送らせてもらおうじゃないかね。
「それは楽しみですね。これ以上ない励みになります」
ファファルは気合を入れるように豪快に笑う。
その笑みは見慣れたが相変わらず凶悪で、魔王の嘲笑の様にしか見えない。
実際には極めて善良で、次期龍王としてシッカリと民を思う責任感の強い人物なんだけどね。どうにも外見と中身が一致しない。
外見は殺人者顔の極悪人にしか見えない、まさしく邪悪な魔王の風貌だからな。
どう考えても外見で損をしているタイプで、まったく逆方向だけどもある意味では俺と同じだ。
それにしても、どうしたものかね・・・・・・。
丁重に別れの挨拶をして自室に戻って行くファファルを見送りながら、そんな事を思う。
俺がレジェンドクラスに至るまで、1000年以上新たなレジェンドクラスが生まれない時が続いていた。
それが、気が付けばあっと言う間に新たに2人のレジェンドクラスが誕生し、最低でも2人のレジェンドクラス候補が存在する。
異常と言えば、異常としか言いようがない勢いで戦力が生まれ、育って行っている。
それでも、万が一の時には全く力不足なのは変わらない。このペースで戦力が育って行ったとして、カグヤの封印が破られるまでに必要な戦力を整える事は不可能だ。
つまり、現状世界は、更に大きな変革を迎えようとしているのは確定。
そして、その変革に俺が巻き込まれる事になるのも確定・・・・・・。
というよりも、俺を中心にする形で巻き起こって行くようになるんだろうなともう半分諦めている。
数百年から数千年に1度の脅威であった、レジェンドクラスの魔物による侵攻が起こる非常事態、新たなレジェンドクラスの試練もこれからは日常茶飯事になって行くんだろうな。
「あの様子だと、試練も本当に問題なさそうね」
「まあね。ミランダもユリィと一緒にシッカリ見ておくと良いよ。いずれ自分も挑戦する試練をね」
「その話題は止めてくれない・・・・・・」
「いい加減に諦めて受け入れた方が良いと思うけどね」
実は、ミランダはいまだに自分がいずれはレジェンドクラスに至る事を受け入れていない。
どうも、その所為でライオルたちに先を越されたけど、いい加減に諦めて自分がレジェンドクラスに至るんだと認めれば、多分ミランダはすぐにでもレジェンドクラスに至ると思う。
全く諦めの悪い・・・・・・。
ユリィの方はもうすんなりと受け入れている模様。この調子だと割とすぐに彼女もレジェンドクラスに至りそう。
1人だけ先に進んでしまおうとしている親友に、ケイの方は何とも寂しそうにしているけれども、同時に自分も必ず至るんだと張り切っている。
そんな2人の様子に、他の幼馴染のメンバーも感化されたようで、各種族のお姫様たちはみんな頑張っているんだけども、どうにもココに諦めの悪い人物がいる。
「何度も言っているけど、キミがレジェンドクラスに至るのは既に確定しているんだ。はやくその事実を受け入れた方が建設的だよ」
「そんな簡単にいく訳ないでしょ。だって今まで全く意識した事すらなかったのよ? 自分がレジェンドクラスに至るなんて」
「それは俺も同じだよ」
「どの口が言うのよ・・・・・・」
なんだろうな、このハーティーの最年長で、ある意味最も常識的で良識的なハズのミランダが、何故に此処まで頑なになるかね?
「私は貴方みたいな凶悪な怪物でもなければ、ファファルみたいなレジェンドクラス候補なんて呼ばれる実力者でもなかったのよ」
自分はごくありふれたES+クラスの1人に過ぎなかったとミランダは主張するけど、その主張には流石にメンバー全員が白い目を向ける。
その主張はないな。
「そこまでにしましょうアベルさん。ミランダさんもいずれは自分の立場を自覚します。今はまだもう少し時間が必要なだけですから」
なんて思ってたらアレッサが仲裁に入ってきた。
うん。今メンバーで一番シッカリしているのは彼女だな。
「それよりも、今はファファルさんの試練の事です。どうですか、あの人は試練を乗り越えられそうですか?」
「ソッチは何の問題もないな。ライオルのバカの時と違って、不安要素は既にすべて塗りつぶし終えてあるから」
そもそも修行事態が試練対策そのものだった訳だし。圧倒的な意地と執念で素を乗り越えてみせた時点で、アイツについては何の心配も無い。
「と言うか、彼の場合試練が始まる前から、既に自分の力を使いこなせる様になっている節があるんだけどね」
「そんな事がありえるのですか?」
「さあ? どうだろうね。今日会ってそう感じただけで、実際に使いこなせているかは判らないし」
ただ、今日起きたらレジェンドクラスに至っていた彼は、自分の力を完全に掌握しきっているとしか思えない重厚感を既に持っていた。
これで本当に使いこなせる様になっていたりしたら、ほんの一握りの天才中の天才。なんてレベルじゃない、人外中の人外のありえない才能なんだけどね。
「ただ、試練が終わったら彼、多分、俺より強くなってるよ」
「アベルさんよりもですか?」
「彼は場数が違うからね。おそらく、そう遠くなくミミールとかと同格の力を持つと思うよ」
対して、今の俺はライオル以外の他のレジェンドクラスには及ばない。
この前の獣人の国での試合でも明らかだけど、未だ明らかな力の差がある。
自分の力を使いこなせる様になるのは最低条件で、そこからが真の始まりな訳だけども、どうもファファルはその先に既に進もうとしている気がする。
「俺としては助かるけどね。無駄に俺に期待される事もなくなるだろうし」
「それはどうかと思いますが・・・・・・」
「まあ、全部ファファルが試練に臨めば判るさ」
なんて事を言っておいてなんだけど、実際に使いこなしてるだろこれっていう安定感抜群の戦いっぷりを目の当たりにすると思う者があるよ。
「完璧だね。しかし、初戦からデス・ドラゴンが相手とは」
俺の初戦の相手よりはるかに格上なんだけど、ものの見事に危なげなく勝利を収めてみせたぞ。
と思ったら、立て続けに第2戦が始まるみたいだ。続いての相手はフレイム・ドラゴン。またドラゴンかい。
「どうでも良いけど、この様子じゃあ下手をしたら今日中に試練が終わりそうなんだけど」
「流石にそれはないと思いますけど・・・・・・」
そうか? 此処まで非常識だと普通にありそうだぞ。
「やっぱり、既に俺より強くないか?」
「えっとそれは、ないとも言い切れない様な・・・・・・」
「正直、私たちじゃあレベルが違い過ぎて、判りません・・・・・・」
あっ逃げたな。美味い逃げ方だと思うけど。
「無事に1日目の試練を乗り越えられ、ホッとしております」
「ご苦労さん。明日に備えてシッカリ英気を養っておく事だね」
なんて事を話してたらアッサリとファファルが戻って来たよ。
余りにも簡単すぎないと思うけど、突っ込んでも無駄、いや、突っ込んだら負けだ。
本気で1日で終わるんじゃないかって思うけど、それは明日どうなるか次第だな。
でその翌日。ファファルは10匹近いレジェンドクラスの魔物と相対している。
これが間違いなくラストだな。
ハッキリとそう理解できる凶悪な布陣を相手に、ファファルは1人で悠然と戦っている。
「これは、助けに行く必要もなさそうだな」
はじめは10匹近くいた魔物も、今や半数以下にまで数を減らしている。
ファファルの戦い方は何処までも堅実で、無駄がなくそれ故に危険性も少ない。
驕らず、決して油断せず。ただ確実に敵を仕留めていく姿勢は称賛に値する。
「完璧ですね。兄様これ程とは・・・・・・」
教本の様に完璧な戦いにシャクティも釘付けになっている。
そして、危なげもなく試練の最後の戦いをファファルは勝利してみせた。
「終わった。これで後は神龍に会うだけだけどねいったい何時になったら会えるのやら」
問題はソッチなんだよな。
神龍に会う許可はいったい何時になったら下りるのやら。




