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「さてと、そろそろ次の国に行こうか」
天人の国アークセイヴァーに来た目的は全部達成された。
無事に天獣に会えたし、国内の遺跡の調査も終えた。新たに増えた11人の新メンバーの訓練も一通り済んだし、そろそろ次の国に行くとしよう。
次に行くのは、当然ながら竜人の国ドラグレーン。シャクティの国だ。
「ドラグレーンに来られるという事は、当然、神龍様にお会いするつもりなのですね」
「当然だね。天獣に会って神龍に会わない理由がない」
神龍とは、天獣と同じくこの世界の守護者だ。
その姿は、魔物のドラゴンと違い、東洋龍に似た姿をしているらしい。
当然ながら、その力は天獣と同じく隔絶したもので、ジエンドクラスを超えた力を持っていると思われる。
「止めはしませんが、絶対に無礼な真似はしないでください。神龍様の怒りに触れれば、貴方とてひとたまりもないのですから」
「それは判っているって、いざという時の協力を頼みに行くんだから、怒らせたんじゃ意味がない」
とは言うものの、相手が何に対して怒るかとは全く情報がないので、どんなに気を付けていてもいきなり怒らせてしまう可能性もあるんだけどね。
「アベルさん、くれぐれも神龍様に失礼のない様に」
「怒らせてしまうなど言語道断だし、無礼を働くのも許されない」
「キミの場合、何を仕出かすか判らないからね」
そんな事を思っていると、シャクティに続き、シオン、ルシリス、マルグリットの3人が絶対に失礼にの無いようにと注意してくる。
いやまあ気持ちは判るんだけどね。
竜人に機人、そして魔人にヴァンパイヤにとって神龍はまさしく神であり、創造主でもある。
天獣が天人や獣人、そして王人にとって神であり創造主でもあるのと同じだ。
各種族は、はるか昔それぞれ天獣より、神龍より生み出されたといわれている。
当然、エルフやドワーフ、他の各種族を生み出したとされる存在もいる。
彼らにとって、創造主、自分たちの父であり母である存在は何よりも大切な存在となる。
だからまあ、彼等の態度も当然なんだけども、
「失礼がない様にって、俺だってちゃんと失礼のないように話すつもりだけども、そもそも、何が神龍に対して失礼な行動なのかとかまるで判らないんだけど」
「それについては、国についた後でシッカリと覚えて頂きます」
シャクティの目がマジだ。これはドラゴレーンについたら徹底指導を受ける事になりそうだ。
「判ったよ。むしろよろしく頼む」
それじゃあ、天王の邪魔が入らない内に、さっさと竜人の国ドラグレーンに向かうとしますか。
「本当に挨拶もなく出てしまって良かったんですか?」
「挨拶はしたさ、ただ、天王にはしなかっただけでね」
「あの父に挨拶など不要です。母にキチンと挨拶をしてきましたから問題ありませんよ」
天王に挨拶なしで国を出たのは不味いんじゃないかとノイエは心配しているようだが、俺に言わせればそんな心配は一切無用。ヒルデも全く同意見の来たものだ。
俺たちが揃って断言するものだから、ノイエ少年は微妙な顔をするけど、あんなのの事なんか気にする必要はないぞ。
「それよりも行く先のドラグレーンの事だ。キミも公爵家の一員なんだから、シッカリと挨拶しておかないと」
「そうですね。今まで貴方は余り外交に係わって来なかったでしょうが、これからはアークセイヴァーをその背に背負っているのだと自覚してもらわないといけません」
「そんな、ボクがですか?」
俺とヒルデが脅かすとノイエ少年はタジタジになる。
まあ、実際の所はそんなに気負う必要はないんだけども、国の名を背負っているのは確かだったりする。
ドラグレーンで恥ずかしい所や醜態を晒してしまえば、それはそのままアークセイヴァーの評価に直結してしまったりする訳だ。
「そこまで気負う必要はありませんけどね。それに、父と母は今はちょうど瞑礼に入っているので、滞在中に合うかどうかも判りませんし」
瞑礼とは、竜神の王と王妃が100年に一度執り行う儀式で、その間、王と王妃は外界との関わりを一切立ち、例え魔域の活性化が起こったとしても儀式を中断する事はないそうだ。
因みに、儀式の間の国の全権は王太子に委ねられ、その間キチンと国を統治できるかどうかが、次期国王に相応しいか見極める試練でもあるそうだ。
竜王と王妃は1カ月前から瞑想礼の儀に入っていて、後3ヶ月は儀式のを続けるそうだ。
「これは、初訪問なのにタイミングが悪かったかな」
「逆にベストタイミング。瞑礼の儀は竜人にとって重要な儀式だから、この期間に訪れたのが最適な判断
「ただし、ファファル殿にとっては最悪のタイミングでありましょうね。まさか神龍様との対面の許可をご自分が出さなくてはいけないとは」
どうやら、訪れるにはちょうど良いベストタイミングだったらしい。
ただし、国を預かる王太子にとっては最悪のタイミングと・・・・・・。
うん。それはそうだろうな。
なんでこんな時に来るんだよと、苦虫をかみ殺したような顔で出迎えて来るのが目に浮かぶよ。
「兄にとっては良い経験だと思いますよ」
シャクティさんなかなか厳しい。
「確かに、あの人には良い薬かもしれませんね」
と思ったら幼馴染のメンバーみんなして同意している。
アレ? これはひょっとしてユリィの兄と同じでなかなか癖のある人物なのかな? そのファファルとかいう王太子は。
「あの人は、一度本気で痛い目にあった方が良いんです」
「全くもって同感」
「その意味では、今回の件は本当に良い機会ですね」
「アベルの非常識さに、思いっ切り振り回されると良い」
「そうそう、それくらい耐えられなきゃ次期龍王になんかなれないし」
「あの人が慌てふためいて、どうしようもないと頭を抱える姿を想像するだけで良い気味」
「確実にそうなるしね」
何かスゴイ言われようだな。
ここまで嫌われるとは一体何をしたんだそのファファルとやらは?
「随分な言われようだけど、いったいどんな人なんだ? そのファファルって人は」
「兄ですか。あえば解りますよ。私が話すより実際会ってみた方がはやいですね」
確かに、もうヒュペリオンはドラグレーン国内に入っていて、あと少しで王との空港に到着する。
空港には間違いなく、ファファル王太子が待ち受けているので、対面はもうすぐだ。
しかし、ここまでシャクティたちに嫌われるとは、本当にそのファファルて王太子はどんな人物なんだ?
王太子として正式に擁立されているのだから、実力は間違いないし、国を率いる器や能力にも問題はないハズなんだけど、人間性に問題があるのか?
そんな事を考えている内に、空港に到着した。ヒュペリオンを降りたら、早速対面だ。
「ようこそいらっしゃいましたアベル殿。そして久しぶりだな、息災で何よりたシャクティ」
俺たちを出迎えたのは、2メートルを超える偉丈夫だった。鋭い威圧感を放つ法堂的な眼光に、根源的な恐怖を呼び起こす殺人鬼顔、鋼のように鍛え上げられた分厚い胸板と、もはやどこの魔王だと言いたくなるような風貌だ。
「キミが王太子ファファルか」
そして魔王と言っても良いくらいに強いなコイツ。ES+ランク、ひょっとしたら今のミランダより強いかも知れない。
レジェンドクラス候補の実力を持っているな。
俺はそんな感想を抱いたけど、ノイエ少年ら新メンバーはそんな余裕はないみたいだ。いきなり目の前に現れた魔王に完全に怯えてしまっている。
本当にムリはないと思うけどね。街を歩いていたら、いきなりヤクザに因縁つけにれて裏路地に連れ込まれてしまった心境かな。
「はい。お会いできて光栄ですアベル殿。早速ですが、神龍様との対面との事ですが、どうしてもそれなりの時間がかかる事をご了承いただきたい」
「それは理解しているよ」
天獣の時と同じだ。
因みに、神龍はドラグレーンの中心に位置する龍牙霊峰に居る。当然だけども聖域として立ち入り禁止の区域だ。
つまりはこのドラグレーンの国土は龍牙霊峰を中心にドーナッツ状になっている訳だ。
「それと滞在中は応龍の離宮をご利用ください」
「応龍の離宮とは思い切ったわね兄様」
「アベル殿に対してだ当然だろう」
どうやら、応龍の離宮とはこの国でも特別な場所のようだ。
「では参りましょう。我ら竜人が城ラグドメデギスにご案内いたします」
「ああ頼む」
しかし、声まで恐ろしいまでに恐怖を掻き立てるように聞こえるな。
本当にどこの魔王だ。竜人じゃなくて、魔人の次期国王。次期魔王だって言われた方が違和感がないんだけどね。
「それとアベル殿、失礼ですが貴方に一つお願いした事があるのです」
「お願いね。引き受けるかどうかは内容によるけど」
「当然ですね。願いとは、どうかわたしを貴方の弟子にして欲しいというものです」
「「「「「「「はっ???」」」」」」」
俺以外の全員のマヌケな声が重なった。
しかし俺もみんなと気持ちは同じだと思う。どうやらかなり物好きな人物のようだ。




