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「さてと、今日はいよいよ実戦な訳だけど。相手としてはオーガの群にしようかと思う」


 あれから1週間が経ち、ノイエたちの実力は既にAランク上位にまで伸びている。初の実戦の相手としては、Bランクのオーガは最適だろう。

 数百匹程度の群と戦ってもらうつもりなので、Aランクの上位種も相当数いるだろうし、Sクラスの上位種は俺の方でか片付けてしまうつもりだけども、そのついでにSクラスの力を目の当たりにしてもらうつもりだ。


「オーガですか、定番ですけど、はじめはゴブリンからじゃないんですか?」

「キミたちね、自分の力を理解しているのかな? 今更ゴブリンなんて相手にしてどうすると?」

「えっとどういう?」

 

 どうにも、本当に理解してないらしい。


「ゴブリン相手じゃそもそも先頭にすらならないって事。一方的な虐殺にしかならないって、オークでも同じだな。今のキミたちの戦闘訓練の相手としてはオーガが妥当なんだよ」

「えっ? でもオーガって戦車部隊でやっと討伐するような魔物ですよね?」

「むしろその程度の力を身に付けられていないとでも思った?」


 俺の問いに無言になるのは何故だ。

 ノイエたちは本気で困惑した様子。


「あの、失礼ですが私たちは本当にそんな力を?」

「当然」


 ユリシウスの疑問にキッパリと応えてみせるけど、それでもまだ信じきれない模様。

 まあ当然か、転生者は前世の常識があるからな、余計にいきなり戦車部隊を余裕で壊滅できる超人に自分がなっているなんて思いもしないだろう。


「・・・・・・冗談じゃないんですね?」

「そんな冗談を言って何になる。それよりもう行くぞ」


 何かこのまま話してても平行線のままの気がするので、さっさと魔域に向かう事にする。転移で強制連行。次の瞬間には魔物の脅威の満ちた魔域の淵だ。

 

「うん。ちょうど良い事のオーガの群がすぐそこにいるな。群の規模は400程度か、うん。初戦の相手にピッタリだな。それじゃあ頑張って、俺は邪魔が入らない様に、適当に周りの魔物を討伐してあくから」

「てっ、アベルさんも一緒じゃないんですかっ?」

「俺が一緒じゃ訓練にならないでしょ。それじゃあ頑張って」


 そう言い残して、俺はノイエたちを残して周りの魔物の討伐に向かった。



「さて、どうするかな?」


 当然だけども、周りで魔物の討伐をしながらも、ノイエたちの様子はキッチリと把握している。

 その彼女たちだけど、どうやらオーガの群へ向かっていくようだ。

 此処でぼさっとしていても鹿田がない。生き残るためにも何としてもオーガの群を倒さないといけないと判断したようだ。

 全員言い付け通りにきちんと防御障壁を展開して、戦闘準備に入ってから行動を開始する。

 これは本当に基本だからな。

 若手の冒険者にの死亡率が高い原因は、ルーキーの中には戦いの基本を理解しないままに特攻するバカが一定数居るのが理由に挙げられる。

 その基本の中でも最も重要なのが、戦闘中は常に防御障壁を展開し続ける事だ。身を護るなら装甲服などよりもなによりも、まずは防御障壁の展開。これは鉄則だ。

 ついで、自分の力量に会った魔物を相手にするだけども、これも理解できないバカがどうしても一定数居る。

 Cランクの実力しかないのに、Bランクの魔物に挑んでも勝てるハズがない。

 何をどうやった所で、万が一の勝機すらないのだ。

 本気で、格上の魔物に挑むなんて自殺行為以外のなにものでもない。

 自分の今の実力と、魔物の情報を徹底的に頭の中に叩き込んで、勝てる魔物にだけ挑むのは、戦いの中に身を置く以上は常識以前の鉄則だ。 

 この世界にはジャイアントキリングなんてものは存在しえない。

 どれだけ確実に、堅実に戦えるかだけが勝敗と生死を分ける。

 それが判らなければ死ぬだけだ。そして、冒険者の中で死んでいく者の多くはそれを理解していなかっただけの事となる。


「さてと、今のキミたちならばオーガを相手にしても確実に勝てる。しかし、群れの中にSクラスの上位種が居た場合は話は別だ。キミたちは、自分と相手の力量を正確に把握して戦えるかな?」


 ノイエたちは既にオーガの群を捉えている。

 天人である彼女たちは、魔法を使わなくても自身の翼で空を飛べる。それに対して、オーガは基本、大地を踏みしめて行動し、空は飛べない。この差は大きい。

 

 オーガの姿を捉えたノイエたちは、間髪入れずに魔法による遠距離攻撃を開始する。

 正しい戦術だ。通常のオーガは魔法を使えないため、上空からの攻撃に対しては、弓や槍投げ程度でしか対抗できない。

 その一つ一つが、大砲の様な破壊力を持っている訳だけども、届かなければ何と言う事はない。

 ノイエたちは2キロ近い距離を置いて、1000メートル近い上空から攻撃しているので、オーガの矢も槍も届かない

 まさしく一方的な虐殺。

 だけどもこれで良い。正面から戦うなんてバカのする事だ。魔物との戦いは生存を賭けた死闘。そこに正々堂々なんて言葉は何の意味もない。

 生き延びた者が正義。勝った者こそが正しいのだ。

 その真実をそのまま実践している見事な戦いだけども、このまま終わるほど戦いは甘くない。何匹かのオーガが空を飛んでノイエたちの元に急行する。地上に残ったオーガたちも、魔法による攻撃を防ぎながら距離を詰めていく。

 距離を詰められれば、大砲の様に強力なオーガの放つ矢や槍はノイエたちの元に届く。集中砲火を受ければ防御障壁を破られかねない。

 さてどうするか?

 此処で冷静に対処できるかどうかが1つの分かれ目だ。

 

 興味深く見守っていると、ノイエたちは更に高度を上げる。

 2000メートル。3000メートル近い上空で飛んでくるオーガの上位種を迎え撃つ。

 うん。正解だ。

 なにも飛行する上位種と地上のオーガを同時に相手にする事はない。

 どちらか一方ずつ確実に撃破していけばいいだけだ。

 そして、攻撃の届かない上空に行けば地上のオーガは簡単に無力化できる。


 それにしても早い。

 

 飛行するオーガの上位種だが、その速度は明らかに音速を超えている。ただし、自在に飛び回れる訳ではないらしく、急な方向転換などは出来ない様だが、それでも、あの速度は脅威だろう。

 だが、その速度が逆に命取りになる。

 ノイエたちは慌てずに自分たちの前に雷の壁をつくる。

 ノイエたちに向かって一直線に向かっていたオーガは、展開された雷の壁を避けられずにそのまま突っ込む。

 結果、全員が強力な雷に撃たれて動きを止める事になる。無論、それだけで倒せはしない、だが雷はオーガの動きを止めると共に、防御障壁を砕いており、続けて放たけた魔法がオーガの上位種を一瞬で仕留める。


「お見事」


 上位種さえ倒してしまえば、後は会い他の攻撃が届かない上空から一方的な殲滅戦を展開できる。

 初陣は見事な勝利で決まりだ。

 実際、その後何の苦もなん残りのオーガを殲滅してみせた。

 うん。見事なんだけどちょっと強くしすぎたかな?

 まあ良いや、実戦訓練はまだ終わってないし。


 完勝と言って良い勝利に、ノイエたちは喜んでいるようだけども、魔域の中で気を抜いてはダメだよ?

 

 瞬間、彼方から放たれてきたブレスを、彼女たちの前に転移して防ぐ。


「初めての実戦に勝利して浮かれるのは良いけど、魔域に居る間は決して油断しない。周りをよく観察して、警戒と索敵を怠らない」

「アッアベルさん、・・・・・・今のは?」


 自分たちが死ぬ寸前だったのを理解したのだろう、震える声で尋ねてくる。


「ブレスだね。これはワイパーンか?」

「・・・・・・ワイパーンて飛竜?」

「10メートル程の飛びトカゲで、SSランクの魔物だね」


 なんともまあ、ちょうどいいタイミングで出て来てくれたもんだ


「SSランクって、そんな攻撃、いくら警戒していても私たちでは反応も回避も出来ませんよ」

「それは確かにね。でも嬉しいからって気を緩めちゃダメなのは事実だよ」


 うむ。ユリシウスの言う通り、今の攻撃は例え失火家と警戒していてもどうにも出来なかったかもね。

 しかし、Sクラスが出て来てくれないかなとか思っていたら都合良く出て来るとはな。


「それよりもみんな、アレがSクラスの魔物だよ」


 ブレスを防がれたのを理解したか、すぐさまこちらに向かってきていたワイパーンの姿が見える。

 全長50メートル。ES+ランクのサンダー・ワイパーン・ロードだ


「あれがSクラスの魔物・・・・・・・」

「オーガとはケタが違う。ボクたちじゃ相手にならない・・・・・・」

「戦うどころか、逃げる事だって出来ない」

「ここまで次元が違うのか・・・・・・」


 どうやらその力の差をハッキリと理解してくれたようだ。


「うん。どうやらSクラスの力を感じてくれたようだね。それじゃあ、初戦を見事に勝利した記念に、キミたちの目指す先を御覧に入れよう」


 その言葉と共に、俺はアイン・ソフ・オウルを撃ち放つ。


「アストラル魔法アイン・ソフ・オウル。キミたちが覚えるべき魔法だよ」




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