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「幸せです。此処は天国ですか・・・・・・・」
歓迎の料理を食べたノイエは感動に打ち震えているようだ。
うむ。気に入ってもらえてなにより。
「気に入ってくれたようでなにより。俺も腕によりをかけたかいがあるってものだ」
「えっ? これアベルさんがつくったんですか?」
「歓迎会の料理は何故か俺がつくる事になっている。ハーティーというかクラウンの専属料理人もいるんだから、彼らにつくらせれば良いと思うんだがな」
あと、レジェンドクラスの超越者や各国の王に料理を振る舞うのも何故か俺だ。
本職のクマーラたちの方が余程美味くつくれるハズなのに、何故に俺の素人料理を振る舞う事にになるのか?
「これが素人料理ですか?」
などと疑問を口にしたら、何故かノイエに呆れられてしまった。
と言うか、新たなメンバーである10人の中で、未だにこのノイエとしか距離を詰められていない気がするのは気の所為か?
他の9人は何とも微妙に距離を置いて接して来るので、こちらとしてもどうして良いのか判らないんだよ。
原因は間違いなく俺にあるけどな。
いきなり地獄の苦しみを味わさせられてどう接しろと言う所だろう。
ノイエの方は、もうこれがこれからの日常なんだと割り切っているようだけど、うん。やっぱりこの子は普通じゃないと思う。
なんでそこまで達観できると思うぞ。
はじめはいきなり自分の身に起きた出来事にとまだってたと思うんだけどな・・・・・・。
「本当にアベルさんは常識が通用しませんね」
「それは別に俺だけな限った事じゃないな。このパーティーが既に常識から逸脱している」
「それって、絶対にアベルさんの所為だと思いますけど」
「失礼な」
それについては断固として反論させてもらう。
ここに居るメンバーは全員、はじめから普通じゃなかっただけだ。
何をどうやったら全員が当たり前の様にSクラスになる?
当たり前の様に既にレジェンドクラスの超越者に至る事が確定しているのまで2人いるし、何をどう考えてもおかしい。何かもう、初めから全て仕組まれていたんじゃないかってくらい、人材が次から次へと当然のように集まってくる。
「つまり、俺の仲間になった時点で、常識から逸脱した人物なのは確定なんだよ」
「なんと言う暴論。でも、反論の余地もないかも・・・・・・」
当然。これについては本当に一切の反論を受け付けない。
自分が既に非常識の塊なのだと理解するがよい。
「当然。と言うかあの訓練に平然とついて来れる時点で、キミも既に普通じゃないから」
「全然平然とついて行けてなんかないんですけど・・・・・・・」
ノイエは不服そうだが、俺の中では既にキミは非常識の塊だよ。
「まあ実際の所、修行で根をあげている様じゃあ実戦なんて無理なんだけどね」
「実戦ですか。当たり前ですけど私たち魔物と戦うんですよね」
「それこそ当然だな。1週間後には実戦訓練もするつもりだし」
「1週間後てっ、早過ぎないですか?」
「そうか? 1週間のすれば、キミたちも十分な力が付いているし、むしろ、実戦を経験するのを遅らせる方がどうかと思うが」
「戦いの空気を知らないまま訓練だけ続けても、何の意味もないって事ですか?」
「意味がないとまではいわないけどな」
ただ、戦いを知った上で、どうやれば生き残れるかを自分自身で模索しながらこなす修行とは比べ物にならないのも確かだろう。
「まあ、今はキミたちの歓迎会なんだから、余計な事は考えないで、存分に楽しむと良いよ」
そう言ってノイエの口に特製のプチシュークリームを放り込む。
「キャッ。何するんですかって、美味しい」
「孫文に食べると良い。この世界じゃあ太る心配をしなくて良いからな。食べたいものを好きなだけ食べると良い」
「そうします」
宣言と共にノイエはスイーツコーナーに飛んでいく。
山のように用意したはずのスイーツがすでに半分近くなくなっているのは気の所為かな?
「追加で用意しないといけなくなりそうだな・・・・・・」
まさか用意した料理が足りなくなるなんて事態は想定していなかったんだが・・・・・・。
このままだと普通にありそうだ。
「それはそうでしょう。私も公爵家に生まれ、前世とは比較にならない程の美食を楽しんできましたが、貴方がつくられた料理は、それらが霞んでしまう程の美味ですから」
「簡単な素人料理難だがな」
「ご冗談を、世の料理人たちが聞けば、絶望で首を括ってしまいのすよ」
ユリシウスはそう言って肩を竦めてみせるけど、実際、クマーラたち本職の料理人には及ばないんだけどな。
「それにしても、そっちから声をかけて来るとは思わなかった」
「確かに、いきなりあんな地獄を見せられましたからね。あのような悪魔の所業を平然とこなす人物にどう接していいのか判りませんでしたよ」
悪魔の所業とは随分な言い草だ。
「十分に悪魔の所業かと、実際に命の危険はないそうですが、だからこそ逆に死にたくても死ねない地獄の苦しみでしたよ」
「大袈裟だな。あの程度はまだまだ序の口なんだけど」
実際。俺がやった修行法はあんな命の危険もない生易しいレベルのものじゃなかった。
一歩間違えれば即死亡の、これはもう修行なんて生易しいモノじゃないだろって鍛錬法のオンパレード。
我ながらなんであんな地獄の日々を自ら選んだのか、今更ながら本気で理解不能である。
「自分はもっと地獄の様な修行を続けて来たと・・・・・・。何が貴方をそこまで突き動かしたんですかね」
「それは俺も知りたいわ・・・・・・」
本当に、俺は何故にあんな地獄を自分で選んだんだか・・・・・・。
その結果が今な訳だし、もう面倒臭い柵やら責任やらを背負わされたのも、完全に自業自得に近い。いや、本気で自業自得かもしれない。
「おかげでただ自由に生きるつもりが、面倒な事に巻き込まれているし」
「自由に生きるも何も、この時代に生まれた時点で巻き込まれるのは確定だったのでは?」
それもそうなんだよな。何故にこのタイミングて言いたくなるよ。
「ソッチの方は覚悟はできたのか?」
「私ですか? そうですね。もう諦めましたよ」
「諦めたって」
「変な意味じゃないですよ。ただ、この世界に生まれた時点で戦いからは逃れられなかったんだって理解しましたから。技術屋なんでなんて言い訳はもうしないって意味ですよ」
今まで、自分は技術屋なんだからと公爵家に生まれた時点で背負っている責務からも逃れていた。そんな自分が恥ずかしいとの事。
「前世を含めともう60になろうというのに、本当に情けない限りです」
「その辺は仕方がないと思うけどね」
40代にもなれば、剣と魔法の世界に転生したとはしゃぐこともまずないだろうし、転生した事を冷静に受け止めた結果、前世と同じ技術者になろうとしただけだろう。
「いえ、現実が見えていなかっただけですよ。この世界では、技術者にも相応の力が求められる。装機竜人や空中戦艦。それらの物を造るためには相応の魔力が必要になる訳ですから」
「ああ、やっぱり興味がありますか」
「当然ですよ。構造を一から徹底的に調べ上げて、自分の手で造り上げる。技術者としてこれ程興奮する事はありません」
その気持ちは良く判る。
と言うか、この世界に転生した男なら絶対に同じ思いを抱くだろう。
自分の出で自由自在に動かしたい。
自分の手で、自分の好きな様に造り上げたい。
「俺もだよ。だから装機竜人を造り上げるには、Sクラスの力が必要と知った時の落胆はどうしようもなかったね」
ある意味、あの落胆が俺を地獄の修行へと駆り立てたのかも知れない。
「私もです。私は諦めてしまって、単に整備するだけの技術者で良いと思ってしまいましたが、貴方に出会って夢を諦めてどうすると思いました。どの道、戦いが避けられず。生き延びる為に強くなるしかないのなら、私は自分の野望のために何処までも強くなっていくつもりです」
「それで良いと思うよ。別に世界のためとか考える必要はない。自分のためにやるべき事をやればいいだけさ」
転生者だから世界のために戦え何て不条理を押し付けられているんだ。それなら、こちらも好きにさせてもらうだけ。
結果、世界が救われていればそれで文句は無いハズだ。
「結果、世界が救われていれば良いですか、なんとも剛毅ですが、確かにその通りですな」
「別に神様から世界を救う勇者に選ばれた訳でもなし、世界のためになんて気負う必要はないからね」
状況的に、自分たちが生き残るために世界を救わなければいけないだけだ。
本当になんでこんな時期に生まれてしまったんだろう。
「10万年周期の世界の命運を賭けた戦い。それがは始まろうとしている時に生まれてしまった時点で、もうこれ以上ないくらい不幸だし、差の上世界のために奉仕しろなんて強制されたら暴れるよ」
あくまでも自分のために、精神衛生的にもそれが良いとこぼすと、ユリシウスは声をあげて笑った。




