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「色々と心配をおかけしましたけど、ようやく決心がつきました。アベルさん。私たちを弟子にしてください」
遺跡で10万年前の転生者のメッセージを聞いた翌日。どうやら彼らは覚悟を決めたらしい。
それは良いんだけども、どうも彼らの代表が最年少のノイエになっている様なのはどうなんだろう?
いや、俺たち転生者の場合、前世の分も年齢にプラスされるから、こちらでは最年少でも、前世の分をプラスしたら最年長になる可能性もあるんだけどね。
流石に実際の所、どうなのかを聞くほどバカじゃないよ。
「ああよろしく。とりあえず、キミたちにはレーゼ少年と同じメニューをこなしてもらうつもりだから」
それにしてもまた一気に人数が増えたな。
まあ、正直それでも、これからの事を考えるとまだまだ全然足りないんだけどね。
カグヤに行くには、少なくてもメンバーで20人程度のレジェンドクラスが欲しい。それだけの人数が居れば、ジエンドクラスの超絶者にまで至れなくても、10万年前の装機竜人の中でも転生者たちが使っていた特別機などを駆る事で、20人のジエンドクラスに匹敵する戦力を持てる事になる。
それだけの力があればなんとかカグヤに行く事も可能だろう。
行くだけならね・・・・・・・・・・・・・。
だけど、現実問題としてそれじゃダメだろう。
おそらくだけども、ほぼ確実に、10万年前の転生者たちが残した最後の希望。それを受け取るには少なくてもジエンドクラスの超絶者に至っている必要がある。
少なくてもそれが、残された希望を手にするための最低条件だろう。
本当に面倒臭い・・・・・・・・・・・・。
と言うか、本当にジエンドクラスの超絶者になんて成れるのか?
どうやったら成れるのか想像も付かないんだけど・・・・・・。
まあ、はじめはレジェンドクラスの超越者にだって至れる気がしなかったのが、何時の間にか当たり前みたいになっていたりするし、考えるだけ無駄なのかも知れないけだ。
「あのアベルさん。ボクと同じ特訓メニューはムリですって」
「そうか? キミは割と簡単にこなしたと思うけど」
「アレの何処が簡単にこなしたってんですかっ!!!。本当に、何度死ぬかと、殺されると思ったか」
真っ赤になって抗議して来るレーゼ少年が何かとてつもなく可愛らしいんだけど。それは置いといて、ヤッパリきつかったみたいだね。
俺自身はやった事のないメニューだから、どれくらい大変なのか判らないんだよ。
「でも効果的なやり方なのは確かだろう? それに殺されるとは人聞きの悪い。アレは魔力の制御が出来なさそうなら、すぐに送った魔力を引き戻せるから、実は制御できなくても暴走する心配はないよ。ひょっとして制御できないと魔力の暴走で死んじゃうとか思ったのかも知れないけど、そんな危険な事やらせるハズないじゃないか」
良く言うよと自分でも思うけど。
実の所デタラメでもない。実際送り込んだ魔力は制御できないようなら即座に回収できるようにしていたので、あの特訓で死ぬ事はなかったりしたんだよ。
その事をあえてレーゼ少年には伝えなかった訳だけどね。
うん。ワザとだよ。精神的に追い込むためにワザと伝えなかったんだよ。
我ながら人が悪いと思うけど、聞いて来なかったキミも悪いからね。
「ただ、自分の魔力の総量を超える魔力が体の中で暴走しかける事に変わりはないから、場合によっては数数日間気を失う事になる。早くても丸一日は目を覚まさないだろうね」
代わりに起きと多岐には一気に魔力が増大していたりするので、どちらでも問題なかったりする。
え? 自分でやった事ないのにどうしてそんなこと知っているんだって?
それは勿論、そうなると書いていたんじゃなくて、レーゼ少年に初めてやる訳じゃないからに決まっているだろう。
俺が今まで何人の弟子を育てて来ていると思っている?
メリアたちにも当然だけどこれはやってもらっている訳だよ。
でまあ、何度も繰り返している内に、当然だけども魔力をせいぎょできない時が来る訳だよ。そうなったらすぐに送り込んだ魔力を回収する訳だけど。暴走しかかった影響か気を失ってしまう訳だから、はじめはホントに驚いたってか、心配したよ。でもそれも一日経ったらちゃんと起きたし、それに目に見えて魔力量が増幅していた訳だ。
そんな訳で、この特訓は安全がばっちり確保されている上に効果も絶大なメニューとして、俺の課す修行のメインを張るようになった訳ですよ。
「そんな訳で、多少キツイかも知れないけど、安全で効率の良い特訓なのは確かだから、まずは一回やってみようか」
百聞は一見に如かずと言う事で、まずはみんなやってみよう。
そうすれば、自分たちがこれからどんな修行をしていくのか嫌でも理解する事になるから。
「・・・・・・ムリ、こんなの絶対にムリです」
実際にやってみた結果は、当然だけど死屍累々。4人が途中で魔力を暴走しかけて気絶して。残りの6人も何とか最後までついて来れたけど、もう指一本動かす気力も残ってない様子。
因みに、この特訓実は早めに魔力を暴走しかけてしまうのが一番楽だったりするんだけども、それはこっちも判っているから、予め「ワザと魔力を制御しなかった場合は、後で後悔する事になるから気を付けておくように」と釘を刺しておいたので、あえて試す勇者は居なかった。
「慣れないうちは大変だけども、本当に効果が大きい特訓だから、これはこれからも続けるよ。ほら、天獣と対面しようとした時の騒ぎの最後、500人分の全魔力の倍を込めた魔法を使ったりしてた人たちが居るだろ。あんな魔法の制御もにも、この特訓は有効なんだよ」
それと、今回はこの特訓の有用性を示す良い例があった。
あの強力な合同魔法。
ああいった強力な魔法を制御できる様になるためには必要不可欠だと説明すれば反論の余地はない。
「・・・・・・あんな非常識な魔法。使う機会があるんですか?」
その疑問は正しい。普通なら、あんな非常識な魔法を使う機会なんてあると思わないだろう。
にも拘らず、彼らは当然のように使いこなしていた訳だし、普通なら使う機会があるなんて思えないだけで、実際にはいくらでも使う機会があるのは少し裏を読んで考えれば判るハズだけども、疲れすぎててそこまで頭が回らないかな。
それは仕方がないか、むしろ、こうして普通に話せているだけでも驚きだな。
「キミたちの目からしたら非常識な魔法かも知れないけど、俺には全く効かなかった。つまりはそう言う事」
「レジェンドクラスの魔物と戦う事も想定しておけって事ですか・・・・・・」
その通りですよノイエくん。
色々と先取りして備えとかないと間に合いそうにないしね。
判る。判るよ。キミたちも前の俺と同じで、自分がレジェンドクラスの魔物を相手にする、まして自分がレジェンドクラスの超越者になるなんて想像もしてないよね。
でもね。世の中に絶対はないんだよ。
ありえないと思っていても現実に起こってしまうんだよコレがね。
全くもってこの世界は不条理だから。
「心構えの問題かな。実際に俺は既にレジェンドクラスに至っている。つまり、転生者は少なくてもレジェンドクラスの超越者くらいには、普通になるものだと思っておいた方が良いから」
これは俺の精神衛生上にも是非ね。
間違っても、俺が特別だからとかそんな理由であってもらっては困る。
「・・・・・・・アベルさんが特別なんじゃないですか?」
「まさか、それに、10万年前の転生者たちの中にはジエンドクラスの超絶者がそれこそいくらでも居たんだよ? レジェンドクラス程度はそれこそ通過点に過ぎないんだよ」
「通過点ですか・・・・・・・」
「そういう事。ついでに、もしも俺が特別なんだとしたら、それは間違いなくキミたちも特別だって証明になるから」
「・・・・・・それは嫌ですね」
そうだろう。と言うか、さっきからノイエとしか話してないんだけどって思ったら、他のなんとか無事な特訓をやり終えた5人は、もう気を失った様に寝てるし。
いや、コレが普通だな。むしろ平然と会話を続けられているノイエの方がおかしい。
うん。この子、判っているのだろうか?
この時点で既に、自分が普通じゃない、特別なんだって証明してしまっているのと同じだって。
まあいいや。
とりあえず、地獄を見た彼らには最高の天獄を、鞭に変わる飴を用意しないとな。
「とりあえず、初めての修行終了だ。全員が目を覚ましたら、みんなの歓迎会をするからお楽しみに」
途中で魔力を制御できずに暴走させそうになった4人が目を覚ますまでとりあえず残りの6人の修行もお預けだな。
やっても良いけどはじめは同じスタートの方が良いだろう。
さて、全員が目覚めるのは何日後になるかな?
それと、早く目を覚まさないと恨まれる事になるぞ。
さてさて、今回の歓迎会では何をつくろうかな?
どうでも良いけど、歓迎会で料理を作るのが俺に何時の間にか決まっているのは何故だろう?
普通にクマーラとかに作ってもらえばいいだけのハズなんだけど・・・・・・。
まあ良いか、これから一緒に旅をする。地獄の入り口をくぐった可哀想な彼らのために、最高の料理を用意するとしよう。




