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 天獣と会ってから1週間。1週間してようやくまた遺跡に行けるようになった。

 その1週間の間に何があったって?

 ・・・・・・・・・・・・聞くな。そう、何もなかったんだよ何もな・・・・・・。


 行き先は前回はいらなかったあの遺跡。

 この遺跡の中には、新たな転生者たちに見せるのにちょうど良いものが眠っている。

 

「この遺跡は魔物の世界についての研究施設だ」


 人類が誕生する以前からこの世界への侵攻を続けている魔物。

 いったい彼らは何なのか?

 何処から何の目的で来るのか?

 それを知る為の研究施設。それがこの遺跡だ。


「未だに何一つとして判らない魔物の事、ここにはその真実があるんですか?」

「真実と言えるほどのモノはないよ。もしも何故魔物がこの世界に侵攻して来るのか、その理由が判ったならば、進行そのものを食い止める事も可能なハズだから」


 実際、この遺跡にはさほど重要な情報は残されていない。

 だけども、天獣の言葉からして、おそらくは10万年前の転生者たちはこの世界の全てを知っている。

 何故魔物が進行して来るのかも、魔物の世界、この世界に侵攻して来るの世界の事も、そして、その情報は全てカグヤに残されているだろう。


 それは良いとして、魔物の世界について大した情報が残されていないなら、いったいこの遺跡に新たな転生者たちに見せる何が眠っているんだと言うと、それは10万年前の転生者たちからのメッセージだ。


「その代わりに、この遺跡には10万年前の転生者たちから俺たちに向けたメッセージが残されている」

「メッセージ」

「そう、10万年後の、自分たちと同じ立場の転生者に向けて残された言葉だ」


 同じ立場の転生者から残されて言葉、これを聞いて彼らが何を思うか、それは判らないけれども、未だに自分たちの置かれた状況に悩み続けている彼らこそがこれを聞くべきだろう。


「それじゃあ再生するよ」


 多分、この遺跡は今この時のために残されたんだ。10万年前の転生者たちの想いを残す為に。



「やあ、はじめましてと言うべきかな。ボクはキミたちから見て10万年前にこの世界に転生した者だ。世界を救うために戦う事を定められてね」


 声と共に彼の姿が映し出される。見た目は20歳くらいの青年。その姿は日本人そのもの。おそらく、魔法で転生前の姿に自分の体をしたんだと思う。


「そして、ボクの言葉を聞いているキミたちも同じ定めを背負わされている。キミたちが僕たちの残した遺跡を巡っているのだとしたら、キミたち自身、その事実をもう理解しているハズだ。だからこそ、絶望的な、残酷な現実に抗う為に力を求めているだろう」


 淡々と、何の感情も込める事なく彼は言葉を続けていく。だけども、その瞳には激しいばかりの激情が確かに宿っている。


「だけど、この世界の現実は今キミたちが知っているよりもはるかに残酷だ。そして、キミたちは戦いから決して逃れられない。理としてそう定められているからね」


 理として戦う事が定められていると来たか、そうすると、カグヤに辿り着けば全て上手くいくのは望み薄だな。


「ただ、諦めないで欲しい。キミたちが諦めず、全てに打ち勝つために力を付けカグヤに辿り着いたなら、ボクたちが残した最後の希望を持って理を超える事も可能だろう。残酷な現実を打ち破る事も出来るハズだ」


 と思ったらそうでもないみたいだ。最後の希望か。いったい何を残しているんだろう。


「本当ならば僕たちの手で全てを終わらせるハズだった。こうしてキミたちに希望を残し、託すのではなくて僕たちの手で全てを撃ち破るハズだった。だけども、ボクたちは驕りと油断からそのチャンスを自ら失ってしまった。そして、出さなくても良い多くの犠牲を出してしまった」


 犠牲か、10万年前、転生者は1万人以上もいたけど、最後まで生き延びられたのは100人程度に過ぎなかった事を指しているんだろう。


「少しボクたちの話をしよう。ボクたちは生前に自分たちがやっていたVRMMOの世界に、使っていたキャラクターとして転生した。そう、この世界、ネーゼリアはボクたちにとっては見知ったゲームの世界だったんだ」


 その事は知っている。彼らが残した本の中にも書かれていた事だ。


「ボクたちはゲームの中で所謂トッププレイヤーといわれる実力者だった。そして自分の使っていたキャラクターに転生したのだから、当然のようにゲームの時と同じ力を使えた。その力は、この世界の常識を覆すほどに圧倒的なものだ。それに、ボクたちはゲームの知識を持っていた。ゲーム内でのアイテム制作のレシピや魔物の弱点や嵌め技などの情報もすべて持っていたんだボクたちはその事に有頂天になってしまったんだ。結果として、ゲームの通りなら、この世界がどんなものなのかを知っていたのに、ボクたちはそれを止められなかった」


 ヤッパリ、彼らはゲームの中でこの世界の真実を知っていたらしい。おそらくは魔物の世界の事も。


「本当なら、ボクたちは多くの犠牲を払う事も無く、この世界を覆う果てなき争いを、魔物の侵攻を終わらせられるハズだった。仕組まれた理を破壊して、太極の檻から抜け出すハズだった。だけど、実際には今までと同じようにカグヤを造り封印する程度の事しか出来なかった。全てはボクたちが愚かだったからだ」


 自分たちを愚かだと断言しながら、その顔には嘆きも悔いも見えない。本当にただ事実だけを淡々と話しているようだ。


「だからこそ、君たちにはボクたちのようにはならないで欲しい。待ち受ける果て無き魔物との戦いから目をそらさず。残酷な現実に負けず抗って欲しい。そうすれば、ボクたちとは違い。君たちはすべてを手に入れられるハズだ。そのための希望は、ボクたちが残した。これは、自分たちの愚かさに負けたボクたちの最後の足掻きだ」


 最後の希望最後の足掻き。10万年後に残した彼らの反抗。


「ボクたちは、ボクたちの出来る限りの形でキミたちの助けをこの世界に残す。ボクたちの遺産は斬ってキミたちを護る大きな助けになるハズだ。だけども、それらに頼るだけでは君たちは生き残る事も、望みを叶える事もできない」


 それは判っている。それに、残された遺産にだって限りがある。アレは10万年前の戦いののちに残った物。装機竜人などの兵器も、遺跡の残されている数の何十倍、何百倍という数が戦いの中で破壊されていっただろう。

 つまり、残された遺産も、10万年前の戦いを凝りぬけた総戦力から見ればほんの一部でしかない訳だ。


「だから願う。キミたちが真にこの世界の救い手となる事を、そのための努力を惜しまぬ事を、そして、簿記たちのように愚かな失敗を繰り返さない事を」


 彼はここで言葉を切るとゆっくりと立ち上がった。


「そして、僕たちのように公開と自責の念に捕らわれる事がない様に願っている。コレが、ボクたちからキミたちに贈る言葉だ。それじゃあこれで、次にカグヤでまた君たちと出会える事を願っている」


 その言葉と同時に姿も消える。


「これがこの遺跡に残されたメッセージだよ」

「正直、良く分からなかったのですけど」


 ノイエが困惑しているのも当然かな。


「此処ってゲームの世界なんですか? 私たち、ゲームの中にいるんですか?」

「それは違うな。偶々、この世界を題材にしたゲームがあっただけだ」


 現実問題として、地球から多くの転生者がネーゼリアに来ているのだから、ネーゼリアから地球に転生した人がいたとしてもおかしくはない。

 というか普通にいくらでも居そうだ。

 そんな彼らがネーゼリアを舞台にしたゲームを作れば当然、それはこの世界を舞台にしたゲームになる。

 ただそれだけの事だ。

 勿論、そうじゃない可能性もあるが。


「この世界から地球へ転生した人ですか、そうですね。こうして私たちがこの世界に転生しているんですし、その逆だってありますよね」

「他にもいくつか可能性はあるけど、少なくても転生したと思ったら実はゲームの中に取り込まれてしまっていたなんて事はないから」


 この世界については判らない事だらけだけどね。

 それにしても、魔物の事も魔物の世界の事も、ゲームの知識として全て知っていながら、こんな研究施設を造って、おまけにココのメッセージを残すなんて、彼はいったい何を思ってしたのだろう。


「このメッセージをキミたちに見せたのは、彼らのように後悔して欲しくないからだこれからどうするかはキミたち次第。だからこそ、後悔しないように選択して欲しい」


 これもホントに狡いやり方だけどね。

 ただ、このままじゃあ彼は絶対に後悔する。力を持たない事の意味を理解した時にはすでに遅いんだ。


「戦う覚悟を持てって事ですか、でも、戦えば死んじゃうかも知れない」

「それは逆だな。そもそも、戦わなければ死なない訳じゃない。戦う力を持つのは生きる為、そして大切な人やモノを守るためだよ」


 これについては一切の嘘偽りもなく本当だ。力がなければ誰も何も、それこそ自分自身すら守れない。


「この世界は、日本とは比べ物にならないくらいに厳しい世界だからね」


 いや、日本が平和だったのだって、それを守るために多くの人たちが力を尽くしていたからだ。

 そして、多くの人たちが平和であることを望んでいたからこそ平和が保たれていた。

 ある意味ではそれと同じだ。

 ただ、大切な人たちを守るためにより強大な力が必要とされるだけ。


「すぐに答えを出せとは言わないよ。ただ、真実を知って考えて欲しいんだキミたちが、自分たちが何をするべきかを」


 これでこの世界の現実はすべて伝えた。後は、彼ら自身がどう判断するかだ。



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