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予想はしていたけども、俺たちが天獣に謁見しようとしている事が知られると共に大変に騒ぎが起きた。
いや、まさかこんな事になるとは思わなかったんだけど・・・・・・。
情報が出回ると共に、まず国中のSクラスが全員俺に挑んで来た。
全員合わせても500人程度しか居ないヒューマンと違って天人のSクラスはそれこそ何十万人といる。その全員と戦うとか面倒以外のなにものでもない。
1人で何十万人と戦うのだから面倒じゃすまない?
そんな事はない。そもそも、流石に全員が一度に襲って来る訳じゃないので、1回の戦闘で相手をするのは多くても1000人程度だ。
その程度の数なら何の問題もない。ただ、全員殺さない様にするのがメンドクサイだけだ。
「それで、キミたちで最後だけども、引く気はないのかな?」
「当然だ。天獣様に謁見しようと言うのなら、まずは我らにそれに相応しい力を見せてもらおう」
このやり取りも何度目か、要するに、天獣に会いたいならばまず自分たちをその力で納得させてみろと言う事らしい。
何故にそうなる? て言うのが正直な所だ。
まあ、1回俺に倒されれば素直に退いてくれるのでいいが、正直意味が判らん。
次から次へと休む事なく襲い掛かって来るので、ここ1週間ほどは魔域の活性化の時よりも激しい戦いをしている気がする。て言うか、殺さないように注意しなければいけない分、コッチの輪うが更に厄介だし。
まあ、それもこれで終わりだ。
こいつらを倒せば、天人のSクラスを全員叩きのめした事になる。
その後、どうなるかは判らないけど、流石にA・Bランクが襲って来る事はないだろう。そうなった場合、流石にどれだけ手加減しても、全員殺さずに終わらせるのはまず無理だ。
「はいはい。判ったよ。殺さない様に手加減するのが面倒だったけど、これも良い経験だと思っておこう」
俺がさっさと来いと手招きすると、500人ほどのSクラスが一斉に魔法を掃射してくる。
500人分の魔法は途中で1つに纏まり、圧倒的な力を持つ。成程。合同魔法か。バラバラに攻撃してくるように見せて、実は全員で1つの魔法を使っている訳だ。
500人のSクラスがその全魔力の半分近くを込めて放った魔法は、レジェンドクラスにも確かに届く力を持つ。
「オモシロイものを見せてもらったな」
素直にそう思うので、相応の対応をさせてもらう。防御障壁で受けるのではなく、同等の魔法で相殺する。
必殺の一撃を簡単に相殺された事に驚いたみたいだけども、動揺を押し殺して即座に残りの魔力で同様の魔法を撃ってくる。
それは良いけれども、惜しいな。最所の一撃で、魔力の半分ではなく、全てを込めるべきだった。500人の全魔力を集中させた魔法だと、制御できないので半分にしたのかも知れないが、どうせやるなら全力で臨むべきだ。
「さて、もう魔力が尽きたみたいだがまだやるか?」
2発目の魔法も同じように相殺して聞いてみる。まあ、答えは判りきっているけど。
「当然だ」
そう言って魔晶石で魔力を回復させる。
まあそうだよね。魔力が切れただけで力尽きた訳でもないし、魔力を回復させてまだ挑んでくるのは当然だ。当然ではあるけれども。
「それならかかって来ると良い。だけど、さっきと同じ攻撃じゃあ俺には届かない。それは判っているな」
諦めないのは良いけれども、諦めなければ勝てる訳でもない。合同魔法が彼らの切り札だったのなら、それが破られた以上は彼らに打つ手はない。
そのくらいは彼等だって理解しているハズだ。その上でどうする?
「その程度の事言われずとも」
そう言って、今度は魔力の全てを込めた合同魔法を放ってくる。
Sクラス500人の全魔力込められた魔法。それでも俺には届かない。三度相殺する。
さて、この上どうするかと思っていると、また魔晶石で魔力を回復し、即座にまた魔法を放ってくる。それも、今度は途中で魔晶石による魔力の回復を挟んで、全魔力の倍の魔力を込めた魔法だ。
成程、これが本当の切り札かと思わず感心する。
魔力の半分を込めた合同魔法も、全魔力での合同魔法も、俺を油断させるためのモノに過ぎなかったんだ。
本命はこの全魔力の倍の魔力を込めた魔法。
そして、その前の魔法を受けさせることで少しでも俺の魔力を消耗させる狙いがあったんだ。
これまでの魔法を相殺した事で俺は彼らの全魔力の倍、およそ1000人分のSクラスの魔力を消費した事になる。その上で、更にこの魔法に対抗するためには、今まで消費した魔力と同じだけの魔力が必要になる。
いかにレジェンドクラスの超越者といっても、流石にそれだけの魔力は持っていないだろうと判断したのか、いずれにしても見事な作戦だけども、残念だけども考えが甘い。
俺はその圧倒的な破壊の力を持つ魔法を、これまでと同じようにいとも容易く相殺する。
「なっバカな・・・・・・」
いとも容易く、自分たちの切り札を無効化した俺に、流石に今回は動揺を抑えきれないみたいだ。
「残念だったね。だけど、俺の魔力がキミたち全員の魔力の4倍もないと思っていたのかな? だとしたら、随分と見縊られたものだな」
彼らにしてみれば誤算も良い所だろうけれども、俺の魔力量をよく計ってみれば計ったハズだ。俺と彼ら1人1人の間には数万倍近い魔力量の差があると。もしも、この魔話腕俺を倒そうと思うのならば、少なくても万の単位の人数でこなければ話にならない。500人程度では始めから勝機なんてなかったんだ。
「さてと、これでいくらやっても無駄だって事は理解しただろうけど、どうする? それでもまだやるかな」
「無論だ。ならばキサマの魔力が切れるまで繰り返せばいいだけの事」
「俺の魔力が切れるまでね。でも、キミたちが魔称せ派で魔力を回復できるのは、精々後6回位が限界だろう。それまでに俺の魔力を消費しきれるかな? それに、忘れているみたいだけども、俺だって当然魔晶石は持っているよ」
今の俺の全魔力を回復できる魔晶石を100こ個近く持ってる。
まだまだレジェンドクラスになってから日が浅いので、十分に数を確保できていないのだけども、それでも魔力切れを起こすなんて事はありえない。
「判ったかな、キミたちの作戦はそもそも通用しないって、まあそれでも、今までの連中は俺に魔晶石を使わせることも出来なかったし、もしも使う事になったら誇って良いと思うよ」
「その言葉忘れるなよ」
そうして、同じ応酬が繰り返される。
そして、回を重ねるごとに彼らは目に見えて疲弊して行く。
当然だ、彼等の使っている魔法の魔力の総量は、自分たちの全魔力の倍。しかも500人分の魔力を使って1つの魔法を生み出しているのだ。その制御の困難さは想像を絶するだろう。むしろ、こうして何度も放てていること自体が称賛に値する。
「さて、次が最後かな」
「そうだな」
そして、最後の応酬。放たれた魔法を相殺して、結局俺の魔力を削りきる事は出来なかった。
「残念。届かなかったな」
「そうか、それは少し残念だな」
「だけども悔いはない。貴方の力をハッキリと理解しましたから」
「レジェンドクラスの超越者、その力を目の当たりに出来て光栄です」
「我らの我儘に付き合っていただき、感謝します」
そして彼らは、口々に感想を言って気絶していった。
魔力の使い過ぎ、それに精神的な疲労だな。少なくても3日は目を覚まさないだろう。
とりあえずお疲れさま。いや、本当に疲れたのは俺なんだけどね。
しかし、今回は最後の最後で珍しくと言うかはじめて穏便に終わったな。
なかなかオモシロかったし。殺さないように気を使わなくて済んだから楽だった。
さてと、これからどうなるかな?
問題はそこなんだよな。これでとりあえず騒ぎも終わってくれると嬉しいんだけども、そう簡単に終わるかハナハダ疑問だ。
因みに、気絶した人たちは既に戦いの様子を中継で見ていた騎士団のメンバーが回収、保護している。
これも毎度おなじみの光景だ。だって、どれだけの数を相手にして来たと思っている?
結局、この1週間で50万人を超える人数と戦って来たんだぞ。その全員の介抱を俺がしていたら時間がいくらあっても足りやしない
そんな訳で、負傷者の治療や回収、保護は騎士団が責任を持って行う事になっていた。どうやら天王が事前に用意していたようだ。
つまり、はじめからこうなると判っていたと・・・・・・。それならそれで初めから家とも思うが、間違いなく判っていなかった俺が悪い。
「とりあえず戻るか」
騎士団が気絶した500人を回収し終えたのを確認して、俺も王宮に戻る。
毎度の事だけども、俺たちは今は天人の王宮、アヴァロンの一角にあるレザイアの離宮を借り受けて滞在している。
離宮と言っても、これ1つで伯爵家の屋敷よりもはるかに大きい豪華絢爛なんだけどね。
「お疲れさま。見てたけどこれまでにないオモシロイ展開だったわね」
「500人もの人数での合同魔法なんて初めて見ました」
「それも、自分たちの魔力の倍の力を込めているんですからすご過ぎます」
毎度のことながら、呑気に中継を観戦していたメンバーは、今までにない展開にやや興奮気味。
「それはどうも、楽しめて貰えて良かったよ。それよりもヒルデ、あのオッサンは何か言ってたか?」
「愚父なら、これで話も進めやすくなるって言っていましたよ。それと、しばらくは何も起きないとの事です」
最早天王などオッサンで十分だ。ヒルデまで愚父とか言ってるし、もう敬意を示す必要すら感じない。
しかし、とりあえずこれで落ち着くののか、それは良かった。
もっとも、しばらくはと言う事は、この後また何かあるんだろうけど、天獣に会うまでに後どれくらいの厄介事が待っているのやら、本当に勘弁して欲しんだけどね。




