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「そんな、転生者だから命懸けで戦えっていうんですか?」
この世界について、そして現状について説明し終えた後、第一声がコレだった。
気持ちは良く判る。そう叫びたくもなるのは当然だろう。だけども、実際はキミの言うほど生易しいモノじゃない。
「それは違うな。もしもカグヤの封印が破られたならば、この世界に生きる全ての人たちが命を賭けて戦わない限り、生き残る事は叶わないんだからな。ある意味では転生者だからとかは関係ないんだよ」
これは半分本当で半分ウソだ。
「まあ、転生者は転生チートの代わりなのか、全魔法属性を持っているし、強くなりやすいから中枢戦力になるけどな」
「それって、カグヤの封印が破られたら私たちが、最前線で戦うって事ですか?」
「最前線て言い方は適切じゃないな。ただ戦力の中心になるのは間違いない。10万年前の転生者たちが残した遺産の多くも、俺たちが使う事になるし」
そもそも、10万年前の転生者たちが残した遺跡、空中要塞や巨大な兵器には転生者しか使えない設定の物があるので、それらの運用のためにも戦力の中核にならざるおえなかったりする。
どうにも、自分たちと同じ苦労をしろと言う悪意を感じてしまうのは気のせいだろうか?
「それと、1つ誤解しないでもらいたいのは、まだ完全にカグヤの封印が破られると決まった訳じゃないよ。まあこのままいけば、いずれ破られるのは確定だけども、そうならない為の備えがカグヤになされている可能性も高いからね。だから、俺たちの当面の目的はカグヤに至る事だよ」
「月に辿り着く事か、それはオモシロそうだな」
うん。ヤッパリ宇宙に行くっていうのはロマンがあるよね。
それも、単なる宇宙旅行じゃない。この世界の命運を賭けた大冒険だ。
「あの、カグヤに行くのが目的なら、アベルさんたちはどうしてまだカグヤに行っていないんですか? このヒュペリオンなら宇宙にも行けるってヒルデ様が・・・・・・」
「理由は簡単。カグヤに行くにはまだ俺たちは力不足だからだよ」
不思議そうに尋ねてくるノイエに、サラッと答えたら目を見開いて驚く。
うん。まあ当然の反応だよね。現状でも俺たちは既に世界最高戦力になっている訳だし。そんな俺たちが力不足だなんて断言するなんて想像もしなかったかな。
「正直、カグヤに至ろうと思ったら、最低でもジエンドクラスの超絶者が数人はいるかな?」
「前は、少なくてもレジェンドクラスの超越者にならないと無理とか言ってなかった?」
「ああ、情報が増えて現実が見えてきたからね。その程度じゃ話にならないのが確定したんだよ」
遺跡を周る度に新たな情報が追加されて、その度に頭を抱える羽目になっている。正直、どうして本に全部情報を書いておいてくれないかなと思う。
俺がここまで強くなれた理由でもあるあの古文書は、この世界の状況の概要と、残された遺跡の位置、そして強くなるための修行方が示されているけれども、その一方で肝心の情報は意図したように省かれている。
もし、あの本に書かれている事だけを頼りにしていたなら、痛い目を見るどころか確実に終わりだ。
なんと言うか、自分たちの手で新実に辿り着けと、試されているような感じだ。
「今判っているだけでも、宇宙は信じられない魔境だから。ヒュペリオンをはじめとした遺産の兵器群を総動員してカグヤに行こうとしても、今の俺たちじゃあそれを使いこなせないし、アッサリ全滅して終わりだよ。少なくても、ヒュペリオンの本当の力を一部でも引き出せる様にならないと話に何ないね」
「ヒュペリオンの本当の力? なにそれ? 初耳だよ」
あ、説明してなかったか。これは迂闊。ヤバイな。どうしてだまってたのよってせめられても仕方がないぞコレ。
「そのままの意味だよ。確かに現状でも信じられないくらいの性能だけど、ヒュペリオンは10万年前の転生者たちが機関として使っていた戦艦だよ。現状の俺たちじゃ扱い切れてないだけで、その本当の性能は今の比じゃないんだよ」
これも、ヒュペリオンのメインシステムから完全に情報が削除されていたもので、かつての転生者の専用装機竜人。黄金の機体の中にデータが残っていたのだけども、要するに艦長の実力次第で、その性能は今の数十倍から百倍近くにまで高められるらしい。
そして、100倍の性能を引き出した時のみに仕える最強兵器も存在するらしい。どんなモノなのか詳細は記されていなかったからナゾだけども、とりあえず、Ωランクの魔物を数百匹相手に出来る程の戦力らしい。
「判っていたつもりだったけど、想像以上にとんでもないのねヒュペリオンて」
「あの、そのヒュペリオンと言う戦艦がスゴイのは判ったんですが、そんなに凄い戦艦があっても、カグヤに行けないんですか?」
思わずといった具合に呆れたミランダと、話を聞いてとんでもない兵器を俺たちが持っているのにそれでもいけないのかと不思議そうなノイエ。
「絶対にムリだね。今のまま言ったとしたら、カグヤに辿り着く以前に終わりだよ」
どのくらいムリかといえば、おそらくは宇宙に上がった事を知られた時点で終わりだ。
ヒュペリオンごと塵ひとつ残さず消し去れらて、その余波で地上、ネーゼリアそのものも消し飛ばされかねない。
「そんな訳で、迂闊に宇宙に上がるなんて言語道断な訳。行くとしたら相応の力が必要になるんだよ」
「想像も出来ません・・・・・・」
「だろうね。流石に話の規模がデカすぎて過ぎに理解しろって方がムリだと思うし、まあ、とりあえずは今はカグヤに行くために強くなろうとしているって理解してくれていればいいから」
「・・・・・・はい」
まあ、いきなりこの世界が滅びの危機を迎えるから、それに対抗するために戦わなければならないなんて、どこぞの勇者ストーリーかって話を聞かされて、すぐに全部を理解しろって方がムリだ。
あの、ちょっと待ってください。それってアベルさんたち転生者の話ですよね? あの、ボクたちはまだ転生者候補のハズですけど」
そして、話に納得できていない転生者候補の5人。彼らはまだ転生者だと確定していないので、どこかで自分たちには関係ないって思っているのかも知れない。
「違うよ。さっき言っただろう? 転生者皆にも関係ない。この世界に生きる全ての人が命を賭けて戦う事になるってね」
だけども、そんな甘えは通用しない。
「でもっ・・・・・・・」
「それに、俺たちの中で転生者は5人だけだよ。他のメンバーは、ヒルデたちを含めて全員転生者じゃない。それでも彼女たちはこの世界を、大切な者を護るために戦う事を厭わない」
まだ何か言いたそうな様子なのを遮って言葉を続けるけど、どうにも覚悟が足りないように見えるのは気のせいかな?
「ルルシウス。キミは戦いたくないのかな?」
「はい。ボクは書士志望で、出来れば戦いたくはありません」
成程ね。彼は元々貴族でもない一般人だし、戦闘職希望でもない。ただ平和に暮らしていきたいと思っていた所を強制的に戦えなんて話をされたら、取り乱すのも当然か。
相手の都合もないも一切お構いなしに、転生者候補だってだけで連れて来やがったなあのオッサン。いや、コレについては俺も悪いかも知れないけどね・・・・・・。
「成程ね。他に戦いたくない人はいるかな?」
「できれば自分も戦いは避けたいですね。勿論、公爵家に生まれたのですからその責務は理解しています。ですが出来れば技術者として貢献できればと」
成程ね。彼の場合は20年近くも技術者として働いて居た記憶馬ある訳だし、平和な日本で暮らしていた記憶があるからこそ、戦いを忌避してしまうんだろう。
「私も出来れば戦いたくない。私はハティシエール志望。だけど、話を聞いてそんな事言ってられないのかも知れないって思ってる」
ソラシスは菓子職人になりたいのね。
「あの、私は既にデザイナーの仕事についているので、いきなりそれを止めて戦えと言われても困ります」
リリアーナはデザイナーとして働いているのか、そりゃあいきなり呼び出されて弟子になれなんて言われても困るわな。
とりあえず、10人中4人は戦いたくないらしい。
他の6人も、イキナリの展開について来れていないだけの可能性も高いか・・・・・・。
「戦いたくないのに、いきなりアベルに襲い掛かったの?」
「イヤそれは王命だったんだからね。彼らに拒否権はなかったんだよ」
理解できないと言いだけのリリアだけども、その辺は察してあげようよ。イキナリ王に呼び出されてレジェンドクラスの超越者に会うように言われて、しかも、どうせ打から襲い掛かって力を見せてやれとか命令されたんだよ彼らは・・・・・・。
むしろ、不憫すぎてこっちがいたたまれないよ。
「まあそれは置いといて、残念だけどもキミたちが俺たちに同行するのはもう確定だよ。既に王命として受理されているのと同じだからね。覆しようがない」
ホントに申し訳ないんだけどね。これは完全に俺の不注意が原因だわ。
もっと言葉を選ぶべきだった。あのオッサン。ヒルデにフルボッコにされるだけじゃ足りないな。本気で俺の手で叩きのめしてやろうか・・・・・・。
とりあえず、レーゼ少年に続いて、不幸な転生者候補10人に対しては俺が責任を持たないといけなそうだ。




