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アレッサ視点です。

「と言う訳なので、ギルドを退職したいと思います」

「はあ?」


 私の言葉にギルド長は呆気に取られたように固まって、しばらくして頭痛を抑える様に眉間を揉みながら聞き返してきます。


「どういう事かな? もう一度説明してくれないか」


 困惑しているのは当たり前だろう。私だってまだ困惑したままなのだから、するなと言う方が無理な話だと思う。彼から、アベルさんからの提案はそれはど予想外の、思ってもいない事でした。


「はい、実は先程・・・」


  もう一度、ギルド長に説明をしながら、私自身ほんの少し前の出来事を振り返ります。


「だから、アレッサ、君も俺の弟子にならないかと言っているんだよ」


 突然の事に困惑する私にアベルさんはもう一度提案してきます。 

 弟子にならないか?

 誘われているのは判ります。判るけれども理解できません。

 私がBランクになる?


「あの私は・・・」

「アレッサは元々冒険者だっただろう? D-に上がってから二十年ちょっと努力して、C+までは上がったけど、B-にはなれないと諦めて引退した」


 私の言葉を遮って尋ねてくるアベルさんに思わず息を飲みます。

 全くその通り。それと、どうやら私の実年齢もお見通しらしいです。

   

 私は去年まで冒険者として世界中を旅していました。

 十五歳で冒険者学校を出て成人すると共に冒険者になって、一年程でE+ランクにまで上り詰め、二十歳前にD-ランクに上がる事が出来ました。

 それからも努力を続けて、十年はどでC+ランクまで上がる事は出来たけど、更に十数年努力を続けるけどB-にはなれなくて、自分の才能もここまでかと、去年冒険者を引退する事を決めました。

 四十代前半で冒険者を引退するのはまだ早いとも言われたけれど、これまでに稼いで貯蓄してきた蓄えでこれから遊んででも、暮らしていけるだけの金額はあったし、今までずっと頑張り続けてきたのだから、これからは自分の好きな事をして生きて行こうと止める事にしました。

 そして故郷のマリーレイラに戻ってきて、パン屋でも始めようかと思っていた所にギルドからのスカウトが来て、パン作りの修行の間、接客の練習も兼ねて受付嬢の仕事を受ける事になったのが去年の事。

 まさか一年も経たずに魔域の活性化なんて非常事態が起きるとは夢にも思わなかったけれど、メリアたちのような親しい友人も新しくでき、充実した毎日を送っていました。

 四十代からのセカンドライフ。何も不満なんてないと思っていたけれども・・・。

 やっぱり、自分でも知らない内に、Bランクにまで登れなかったことが突っかかっていたらしいです。

 だけど、それはもう諦めた事、私にはBランクにまでなるだけの才能と実力が無いのだから・・・。


「惜しかったね。諦めるのが早すぎたよ。そのまま冒険者を続けていれば数年後にはB-にランクアップしていたのに」

「はい・・・?」

 

 何か、さっきから間抜けな反応ばかりしているけれども、仕方ないと思う。話に全くついて行けない。

 私が数年後にはB-にランクアップしていた?


「メリアたちにも説明したけど、B-になるためには膨大な魔力と闘気が必要になる。そして、その魔力と闘気を自裁゛に操れるだけの器が必要になる。その器を造り出す為に、どうしてもBランクへアップするには時間がかかるんだ。勿論例外もいるけどね」


 その話はメリアたちからも聞いています。実際にB-にランクアップするために数十年かかる事がほとんどなのだから確かだと思うけど。今まで、それ程の理由がかかる正確な理由は知らなかったけれども、言われてみれば確かに納得の理由だと思います。

 超一流と言われるBランク以上の膨大な魔力と闘気を思えば、それを自分の中で完全に操れる器が無ければ、なれるハズが無い。もし仮になれたとしても、自分自身の力を抑えきれずに暴走させて自爆する事は目に見えているのだから・・・。

 そして、はじめからそれが出来る、Sクラスになるような本物の天才。例外が居るのも判ります。 


「自分の中で器が造られている間も魔力や闘気が上昇し続ける人もいれば、器が造られ始められると同時に上昇が止まる人もいる。その辺りは千差万別、個人差としか言いようがないけれども、上昇が止まるタイプだと、何年も努力し続けても成長しない事に才能の限界が来たんだと誤解して、諦めてしまう人がいるんだけど、アレッサがそれだね」


 言葉が無い。そんな事があるのだろうかと思うけれども、彼が、アベルさんがウソをつく理由が無い。どうしてそんな事が解るのだろうと言う疑問は残るけれども、間違いなく事実なのでしょう。


「本当ですか?」

「本当だよ。嘘をついても仕方がない。そんな訳で、アレッサはメリアたちと一緒に俺の弟子になれば、B-にランクアップ確実たけどどうする?」

「アレッサ、一緒に頑張りましょう」

「私たちの同じ経験したから、混乱するのは判るけど、こんなチャンスを逃す手はないよ」

「アレッサさんと一緒ですか、嬉しいです。皆で頑張りましょうね」

「まあ、アベルが言い出した時点で弟子になるのは確定なので、諦めた方が良いですよ」

「アレッサさん頑張りましょう。みんなで一緒に特訓です」


 それでも信じきれずに尋ねた私に、アベルは当然と答え、メリアたちは嬉しそうにしています。 

 私も、メリアたちと一緒にB-ヘランクアップを目指せるのなら嬉しい。

 嬉しいのだけど、


「あの、少し待ってもらえますか? すぐには決められませんので」


 とりあえず、少し考えさせてもらうことにしました。



「と言う訳でして、私としては、突然の魔域の活性化に驚いたのと同時に、力があればと強く想った事もありまして、アベルさんの弟子になりたいと」

「成程、そう言う事でしたか・・・。何とも予想外と言うか、規格外と言うか・・・。とにかく事情は分かりました。そう言う事であれば私たちも引き留めはしません。彼の元で存分に力を付けてください」


 そうなるだろうと判っていたけれども、ギルド長はアッサリと私の退職を認めます。

 アベルさんの弟子になる以上、ギルドの職員のままではいられない。冒険者に戻って共に戦う仲間になる。・・・力の差がありすぎて、とても仲間とは言えないけれども、


「それと、出来れば貴方以外にも、B-にランクアップ出来る実力がありながら、諦めてしまった人がいるならば教えて欲しいと、彼に伝えてくれる? どうやったらそんな事が解るのか本当に謎だけど」


 これも当然でしょう。もしも、本当にBランクに上がれるだけの力を持ちながら諦めてしまった人がいるのなら、その人に事情を説明してもう一度目指してもらって、本当にランクアップしたのなら、こんなに凄い事はないのですから。

 Bランク以上の、竜騎士になれる人が一人増えるだけで計り知れない価値を持ちます。

 潜在的にBランクになれる人を見つけ出し、国かギルドが育てていく。確実な戦力確保としてこれ程に魅力的なものはないでしょう。


「はい伝えておきます。ただ、ギルドなどの思惑なども当然理解しているでしょうから、実際に教えてくれるかは判りませんが」

「構いませんよ。戦力の確保が出来るのならそれに越した事はありませんが、実力を開花できずに諦めてしまった人たちを呼び戻せるだけでも十分です」


 ギルド長としても、あえて欲をかくまでもなく、確実にBランク以上の実力者が増えるだけで十分と判断したようです。

 当然でしょう。此処で強引な事をして彼の機嫌を損ねてしまう様な事になったら、それこそ最悪です。

 私やメリアたちを通して、彼と十分な繋がりを持てたのですから、マリージアの国とギルドとしては十分な成果ですし。


「規格外の怪物。千年ぶりに現れたレジェンドクラスにまで至る可能性を秘めた新星。判っていたつもりでもやはり想像を絶しますね」


 ギルド長は疲れたように深い溜息をつきますが、これから弟子として一緒に居る事になる私の方がよっぽど深刻です。正直、ついて行けるのでしょうか?

 メリアたちも今まで頑張ってきたのですから、年上として、先輩として弱音を吐いてもいられませんし、負けてはいられません。


「多分、彼としては普通にしているだけのつもりだと思いますけど、Sクラスの最高位と言うだけで、私たちには未知の領域ですから、・・・それでは私はこれで失礼します。今までありがとうございました」


 ギルド長の激励を受けながら、私は一年働いたマリーレイラの冒険者ギルドを音にして、アベルさんの元へ弟子になるために向かいます。

 どんな特訓が待っているのか、正直に言えば少し不安です。

 それでも、こんな機会はもう二度とない事も判っていますし、Bランク以上になれるのは正直嬉しいです。

 私は今でもC+ランク。後百年以上普通に生きる事が出来ますが、B-にランクアップできればさらに百年以上寿命が延びます。当然、親しかった人たちとの別れも多く経験する事になりますが、同時に、愛する人や心からの親友とと長く共に生きることも出来ます。

 強くなる程に寿命が延びる。世界が強い者に長く戦わせるために造り出したのでは? などとも言われること世界の摂理ですが、確かに残酷であり、けれども優しいあり方だとも思います。

 

 彼は、アベルさんはこれからどれだけの時を生きるのでしょう?

 少なくても、今の時点で七・八百年は確実に、千年近い時を生きるのは確実です。そして、もしもレジェンドクラスへと至ったのならば、千年以上、数千年の時を生きる事になります。

 それは、ある意味でどれほど残酷な事なのでしょう・・・。

 私には彼と同じ時を生きる事は出来ません。メリアたちも同じでしょう。

 それでも、今はまだ年若い彼の傍らに寄り添う言葉出来るハズです。力以外の面で彼の支えになる事も出来るでしょう。

 何時の間にか、私自身信じられない程に彼にひかれている事に思わず苦笑しながら、彼と共に歩む為に、彼の、アベルさんの元に向かいます。

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