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「あの、ヒルデ様はいったい・・・・・・?」
「ああ、気にしなくても良いよ。バカな父親に鉄槌を下しに行っただけだから」
結果、城が全壊しないか心配だけどね。
いや流石に全壊はしないか、それでも、王の脂質は跡形も無く消え去ったりくらいはするだろうけどね。
「完全に自業自得ですね」
「これに懲りて、少しは静かにると良いんですけど」
「それはムリじゃない?」
「ですよね」
「むしろいい気味?」
「私たちも、今までに散々苦労させられたしね・・・・・・」
「それを言ったら、ヒルデが一番の被害者だよ」
「ホント、怒って当然だよねアレは」
「むしろ、良く今まで我慢してたよね」
どうやら、ヒルデが起こった事に驚いていたのから立ち直って、ついに来るべき時が来たんだという結論に達したらしい。
「まあ、確か天王もES+ランクだったハズだし、死ぬ心配はないだろうから放っておくか」
「それが妥当ですね。今止めにいったりしたら、ヒルデの怒りが私たちに向いてしまいかねませんし」
確かにその可能性もあるな。出来ればそれだけは勘弁して欲しいので、やはりここは放置一択。
「いいんですか止めなくて?」
「良いの良いの。完全に自業自得なんだからね責任は自分で取らないとね」
レーゼ少年は困惑しているみたいだけど、実際問題、止めに入ってどうするって話だ。
「それとも、キミが止めに行ってみる?」
「ムリですっ。絶対にムリですよっ」
「うん。私もムリかな。そんな訳で、止めるとか無謀なこと考えるだけムダな訳」
どうやら、ミランダもあの怒りを鎮めるのはムリだと判断したみたいだ。
実際、あの怒りを止められる強者は居るのか?
俺? ムリムリ。そんな無謀な事はしないよ。
「それに、彼等の方もどうにかしないといけないし」
「あっそうでしたね。でも、完全にアベルさんに怯えてしまってますよ」
「それは仕方なだろ」
いや、流石にそこまで怯えなくても良いだろって思うけどね。
転生者候補たちは何かもう、処刑台を前にしたみたいな絶望的な顔をしているんだけど、恐怖に震えて立つこともままならない様子で、当然だけどもその恐怖の対象は俺。
「いや、そんなに怯えないでくれるんな」
「ムリに決まってるじゃないですか、この子たちの実力で、アベルさんの殺気に晒されたんですよ。ショックで死んでいないだけでも大したものですよ」
何もそこまで怯えなくても良いだろうと思っていると、呆れたようにアレッサに突っ込まれた。
いや、ショックで死んでしまわなかっただけでも大した物ってね。そもそも俺は彼らに殺気なんて向けていないよ? ホントだからね!!
これからなん間になるかも知れない相手を、いきなり襲ってきたからって殺そうとなんかする訳ないじゃないか。流石に少しムカッとしたのは事実だけどね。話を聞いてみたら天王の責任で、彼らにしてみたら王命に逆らえるはずもないんだから、彼らを責めるのは酷な話だ。
だから、俺は彼らに殺気なんて向けてないんだけど。
「俺は彼らに殺気なんて向けてないけど?」
「アレで殺気を向けていないつもりなんですか? いえ、本当に殺気を向けていない? でも、彼らに向けて少し怒って見せてましたよね? その時の気配は、今の私でも、自分に向けて放たれたら気を失ってしまってもおかしくない殺気に感じられましたよ」
アレッサがそう言うと俺以外の全員がうんうんと頷く。
え? 少し怒って見せただけでそんなになる?
「これは、どうやらアベルさんは無自覚みたいですね。気を付けないと大惨事になりそうです」
「確かに、街中でアベルが本気で怒ったりしたら、その怒りの余波だけで街中の人が死んじゃってもおかしくないかも」
メリア、良くに何でもそれはないと思うんだが、そう思うのは俺だけみたいで、他のみんなは真剣に対策を話し合い始めているんだけど・・・・・・。
えっ? なにこれ・・・・・・。何がどうしてそうなるの?
「とりあえず、アベルは自分がレジェンドクラスの超越者だって事をよく理解しておく事ね。自分ではそんなつもりはなくても、周りからしたら大災害になっちゃうことだってあるんだから」
「アベルクンは元からそんなに怒らないけど、これからはホントに気を付けないと、人の居る所で怒ったりしたら本当にどうなるか判らないよ」
「冗談抜きでねアベルの怒りで街が一つ滅びかねないから」
どうしてそうなる? と聞き返せない雰囲気なんだけど・・・・・・。
いや、実際にありえるのか・・・・・・。
ヒルデの怒りも物理的な現象を引き起こしていたし。そうなると俺の怒りや殺気が物理的な現象として街一つ壊滅させてもおかしくないと?
・・・・・・とりあえず、殺気の方は何となくわかる。
前世に呼んでいた物語の中にも、余りにも濃密な気っ気に本能が殺されたと認識してしまって、気を失ってしまうとか言うのがあった。それと同じ事だろう。
或いは、心理学などでの有名なとある実験、目隠しした相手に、これから超高電圧を浴びせると嘘をつき、実際にその長高電圧を浴びた人たちが次々と死んで行っているように誤解させて、実際には電気を浴びせないままに超高電圧を受けたと思わせただけで、その人物は全身を電気な焼かれたと誤解して死んでしまうと言うのと同じ事だろう。
つまり、実際には何もされていなくても、脳が殺されたと判断して生命活動を停止してしまうと。
要するに、俺殺気で同じような事が起きるって訳だな。
それは判ったけど、街が壊滅するっていうのはいくらなんでも大袈裟過ぎるだろ。殺気なんて精々数十メートルから100メートルくらいの周囲程度にしか及ばないだろ。
「ああハイハイ。判ったからその話は後にして、まずは彼らの方を優先しようか」
とりあえず、このままだと俺の事に話が映ってしまったままになりそうなので、それは置いておけと話を戻す事にする。
まずはこの10人の転生者候補たちをどうにかしないとね。
「とりあえず、キミたちはどうして今日、自分たちがココに集められたのかは知っているかな?」
「えっ? あの、私たちはアベルさんの弟子として選抜されたと聞きましたが?」
俺の質問に逆に困惑してみせる。この様子だとどうやら何も知らされずにここに連れてこられたな。
本当に良い性格をしてるよあの天王。
まあ、それが災いして今ちょうど、ヒルデにフルボッコにされている所だろうけどな。
「まあ、ある意味それで正解だけど、それじゃあ、どうしてキミたちが選ばれたと思う?」
「私たちが選ばれた理由ですか?」
「知っての通り俺たちのパーティーにはこの国の姫であるヒルデと、公爵家のレーゼ少年が居る。そしてヒルデは既にES+ランクにまで至っているし、レーゼ少年も半年もせずにSクラスに至るだろう」
ココまで言えば意味は判るだろう。
つまり、ココに召集されるには相応の地位や力が求められる。当然だ、王族や公爵家の者と共に、国を代表してレジェンドクラスの超越者の指導を受けるのだ。むしろ、生半可な人選が行われたとしたら本気で驚愕だ。
「確かにそうですけど、それじゃあ、私たちは一体なんで、ココに呼ばれたんですか?」
「それは、キミたちが俺と同じ地球からの転生者候補だからだよ」
俺の言葉に反応が2つに分かれる。驚きを隠せないのと意味が判らずに首を傾げるの。
「アベルさんも、私と同じ転生者だったんですか?」
さっきから代表して話している少女が驚きから立ち直ると、興奮したように目をキラキラさせてくる。
どうやら、彼女が転生者なのは確定。既に記憶も取り戻しているみたいだ。
「そうだよ。ええっと、キミの名前は?」
「あっまだ名乗ってもいませんでしたね。すみませんでした。私はノイエ・ミカエルです。よろしくお願いします」
「ノイエね。こちらこそよろしく」
何かスゴイ名前だな。まあ、あくまで地球での意味ではだけど。
「あっあの、アベルさんは本当に転生者なんですか? あっ失礼しました。自分はユリシウス・ローラ・アプリディウスです。自分にも、前世に地球の記憶があります。日本で技術者として40歳まで働いてました」
次に名乗って来たのは20歳程の青年。確か、アプリディウス家も公爵家だった気がする
それにしても、地球で40歳まで生きていたなら、かなりの年上になるな。
「よろしくユリシウス。因みに俺は前世では日本の大学生だった」
「本当に転生者・・・・・・」
俺の言葉に誰かがゴクリと息を飲む。
「ボっ・・・ボクはセイレ・クリンローレです。あの、それじゃあ。ボクたちが集められたのって転生者だからですか?」
「まあそう言う事かな。さて、判ったら他のみんなも自己紹介をしてくれるかな」
「エリアル・モール・フレアリスです。よろしくお願いしますアベルさん」
「マーム・マリー・アリスリアです。スゴイですね。私以外にもこんなに転生者が居たんですね」
まず名乗ったのが転生者と聞いて驚いた方。彼らは既に転生者確定で、ある意味、ご愁傷さまでもある。
「ソラシス・オリエイル」
「フレア・リントリア。あの、何を仰っているのか判らないんですけど・・・・・・」
「メイス・ロンド・シルディウス。ボクも何が何だかわからない。説明して欲しい」
「リリアーナ・リントハイムです。確かに、何が何だかわからなくて混乱してしまいます」
「ルルシウス・ノイレイト。対価にまるで意味が判らないけど、心菜集められたって事は、ボクたちもその転生者なのですか?」
続いて首を傾げていたメンバー。彼らのうち何人が転生者なんだろう?
「そうだよ。もっとも、キミたちは前世の記憶を取り戻していないみたいだから、今の所は候補だけどね。さてとね、自己紹介も済んだ所で説明しようか」
まあ、キミたちにとっては不幸な話だけどね。知ってしまったからにはもう引き戻せなくなるし。残念だけど運が悪かったと思って、諦めてくれ。




