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「アベル殿よ。どうして我をレーゼの歓迎会に招かなかったのだっ?」
「一国の王手もあろう人物がウソはいけないな。俺は、ちゃんと出席するなら他の転生者候補たちも連れてくるようにと言っておいたハズだ」
それをのうのうと一人だけで来やがったから、力ずくで締め出しただけだ。
そもそも、歓迎会はパーティーメンバーだけでやるものだ。関係ない天皇が参加しようとするなら、当然だけどもそれ相応のモノを持ってくるべきだ。
手ぶらでやってきて勝手に参加しようなんて片腹痛い。
因みに、女王の方は娘のヒルデに話を付けていて、さり気なく自分の分だけ料理を確保していたりする。夫の分を確保しようとはしない所が本気で良い性格をしているよ。
「そうは言ってもな。まだ候補に過ぎぬのだ。本当に其方と同じ転生者である保証はない」
「それは会ってみれば判るでしょ。本当に転生者だったなら、早く修行をした方が良いのは判っているハズだけど」
あと数年の猶予しかない訳じゃないけれども、状況を考えればできるだけはなく強くなった方が良いに決まっている。天皇っていうか、このオッサンはできるなら自分の手駒として何人か残したいのが丸見えだけども、手駒にするにしても強くなれれば意味がないだろうに・・・・・・。
と言うか、世界の命運が係った状況で、搦め手で臨んでこないで欲しい。まあ、一国を、1つの種族を統べる王であるのだから、その繁栄のために手段を択ばないのも当然なんだけども、どう見自分の趣味のための気がしてならないんだよな。
「そうは言うが、転生者だとしてもそれだけで力を付けさせる訳にも行くまい。過去の転生者の中には、それだけの凶事を引き起こして物もおるのだからな」
「それについては、俺が責任を持って抹殺するつもりだけど」
まあ、24時間、365日つきっきりで監視する訳にもいかないし、これから先、何百人、何千人と転生者が現れれば、その中にはおかしな事を考えたりやらかしたりするのも当然出て来るだろう。
3万前や2万年前の様な大惨事を引き起こす奴だって出て来るかも知れないし、その責任を全て俺にとれとか言われたら堪ったものじゃないのも事実。
「だが、今は確定と候補を合わせても15人程度だが、これから先、人数が増えていけば、其方一人で鍛える事も無理があろう」
これも事実だからメンドクサイんだよな。
と言うか、俺的には自由気ままな異世界ライフを満喫したいだけなのに、状況がそれを許さないんだよ。
どうして、世界の滅びに立ち向かうとか、そんな時に転生するかな?
これが10000年前だったらホントにただ単に気ままにいられたのに・・・・・・。
「確かに、これから先全ての転生者を俺が引き受けるなんて無理だけど、少なくても今回は、全員に会わせてもらわないと、状況を把握してもらわないと困るんで」
記憶を取り戻して、異世界転生、俺チートで浮かれて好き勝手やられても困るんだよ。
少なくても、100年後にはこの世界が滅びに瀕する事になるだろう事を伝えて、死にたくなかったら対抗できるくらい強くならないとと発破をかけて、過去の転生者の何人が救いようのないバカを散々やらかしているから、同じ様に歴史に悪名を刻まない様にと釘を刺しておくくらいはしておかないと。
「それに、どの道これから先も、天人の中から転生者は出て来るから。今回は素直に全員此方に引き渡しくれると助かるんだけど」
と言うか、これから行く他の種族の国でも転生者と遭遇しそうだな。
旅を始めて約2年。これまではそうそう転生者と遭遇しなかったのに、レーゼ少年を仲間に加えたと思ったら更に候補が残り10人。
これって、要するに自体が刻一刻と動いているッて事なのかな・・・・・・?
これから、わらわらと転生者が現れてきそうだけども、そいつらが何かやらかしたとして、俺が責任を取らないといけないなんてないよね?
流石にそれはムリだ。
まあ、俺が持つのと同じ、10万年前の転生者たちが残した本も世界中に点在しているらしいし、自分で勝手にひょっとしたら俺より強くなって、遺跡の探索とかもし始める転生者も出て来てもおかしくはない。
そんな転生者が現れたら、老いに言って情報交換でもすれば、これから先の行動もやりやすくなるだろう。なによりも、俺1人で責任を負わなくて良くなるし。
出来るなら、割とはやくに現れてくれると嬉しいんだけどね。
「判った。判った。今回は全員を其方に預けよう。しかし、余り責任を自分で背負い過ぎない事だ。いくら其方でもいずれ押し潰されてしまうぞ」
「判っているよ。その内、俺よりも強い転生者もワラワラと出て来るだろ。そうなったらそいつらに責任を押し付けてやるさ」
本気で出来るだけ早く出て来てくんないかな。このままだと、俺がカグヤの封印が破られた時の戦いの総司令官に仕立て上げられかねないんだけど・・・・・・。
何時の間にか、面倒な責任やら義務やらを山のように押し付けられているんだよな。
そもそもの原因は、俺にある気もしないでもないけど・・・・・・。
興味本位で遺跡の発掘なんてしたのが運の尽き。
「それはどうかに、結局は其方が転生者を束ねる立場になると思うが」
「俺より強くなる奴なんか現れないって? それはない思うよ」
現に、レーゼ少年の成長スピードは俺よりもはるかに高い。この様子だと、半年後にはSクラスになってる気がする。
俺がSクラスになるのに何年かかった事か・・・・・・。
て言うか、冷静に考えたらみんな1年や2年程度で余裕でSクラスになってるし、これは、俺の教え方が良いと思うべきなのか? それともみんなの才能が俺よりもずっと上だからか?
後者だとしたらかなり凹むんだけど・・・・・・。
「そういう事ではないのだがな。まあ良い。残りの転生者候補たちは明日には其方の元に送り届けよう」
「ああ、よろしく」
さてと、それじゃあ歓迎の準備でもしておくかな。
「天人は激烈な者が多いのは判っていたが、まさかいきなり襲い掛かって来るとはな」
天王の言った通り、転生者候補が10人全員俺たちの所に来たんだけども、修行のために人気のない草原に来ているのを良い事に、挨拶もしないでいきなり襲い掛かって来やがった。しかも10人全員
こいつら本当に転生者か?
なにか戦闘狂の天人にしか思えないんだけど・・・・・・。
「それで、キミたちはどうしていきなり襲ってきたのかな? 出会ったらまずは、挨拶をするのが円滑な人間関係を構築する基本だと思うんだけど」
「・・・・・・・・・・・・あの、天王様が、これからしばらくは一緒に居る事になるるのだから、まずはシッカリと実力を測る事だって、自分の力を見せ付けて、相手の力を計る。それがまずは基本だって」
「つまり、襲い掛かって自分たちの力をしらしめて、同時に俺の実力も知ると良いと天王に言われたと?」
「・・・・・・・・・はい」
チョット本気の怒りを込めて聞いてみると、全員ふるえあがって声も出ない様子だったけど、一番小さな女の子が勇気を振り絞ってって感じで話してくれる。
しかし成程、天王の仕業か・・・・・・。
「何をしてくれるかなあのオッサンは・・・・・・」
て言うかそれって確実に王命だよね?
出会い頭で一発かませって命令しているよなあのオッサン。
「父の暴走ですか・・・・・・」
瞬間、辺りの空気がが一気に凍り付いた。
ヒルデが俯いてふるえている。それは良いんだけども、明らかに背後に黒いオーラを纏っている。いや、アレは怒りだ。怒りが物理的に形になって溢れ出ている。
空気が凍り付いたのも比喩じゃなくて、実際に気温がどんどん下がって行ってる。これ既に氷点下五十℃近くにまで下がってないか?
「なあ、俺、ヒルデがあんなに怒るところ見たのはじめてなんだけど」
「わたしたちだってはじめてみたよ。ヒルデがあんなに怒るなんて・・・・・・」
「ヒルデはどんな時でも優しくて、穏やかで怒る事なんて全然なかったから」
「悪い奴やバカは嫌いだから、あの聖域の管理者の時には怒っていたけど、それで当然だし、こんなんじゃなかったしね」
「何かもう、怒ってるなんて言い方じゃすまないよね?」
「うん。アレもう激怒してるよ」
「怒り狂っているよね」
「うん。さっきから寒さの所為じゃなくて震えが止まらないよ」
「うん。ヒルデちゃんが怖くて・・・・・・」
「これってアレだよね。普段怒らない人ほど起こると怖いってヤツ・・・・・・」
「うん。ヒルデは絶対に怒らしちゃいけないんだ」
「でも今怒っているよ」
「大丈夫。怒っていても、それはボクたちにじゃないから」
「はい。バカな事をした天王様をお怒りです」
ヒルデの事をよく知る幼馴染のメンバーも、こんな彼女ははじめてみたいだ。
「ゴメンねみんな。少しお父様とお話をしてくるから」
そう言うと返事も待たずに転移でいなくなる。
物理的に気温を下げていた張本人が居なくなって、ようやく寒さが和らぐんだけどもそれどころじゃない。
「いや、ここは天王の冥福を祈るか」
「「「「そうね」」」」
ないハズだけども、みんなの想いが一致した。
自業自得だ。おとなしく娘の鉄槌を受けると良い。
本気で死にかねないけどまあ頑張ってくれ・・・・・・・。
俺たちは俺たちで、完全に呆けてる転生者候補たちの相手をしないといけないし。




