233
「さてと、それじゃあ早速修業を始めるんだけど、あの本はシッカリ読んだかな?」
レーゼ少年が仲間にななった次の日、早速彼の強化を始めるわけだけども、どうすれば良いのかは彼自身の持つ本にシッカリと書かれている。昨日のうちにチャンと読んでおくように伝えてあるので、修行方法とかは既に判っているハズだ。
「はい。昨日読んで少し試してみたんですけど、あの方法、少し無茶過ぎませんか」
「気持ちは判るけど、効果的なのは確かだからね。とりあえずは、キミの魔力と闘気の循環を見せてもらおうか」
魔力と闘気の循環。つまりは自らの体の中にどれだけスムーズに魔力と闘気を巡らせるかの確認。これで、今の彼の実力がハッキリと解る。
実力はC+ランクで、もうすぐB-ランクに上がるんだろって突っ込まれそうだけど、それはあくまで魔力と闘気の総量から見た実力。これから見るのは、彼が自分の力をどれだけ使いこなせているかの部分だ。
でその結果は、うん。見事だね。滞りなく全身に魔力と闘気を循環させられている。これなら、次のステップにはいっても大丈夫だろ。
「うん。それじゃあ次は俺の魔力と闘気をキミの中に流し込むから、上手く制御してみようか」
「だからイキナリ過ぎですって」
「問答無用」
とりあえずは、彼自身の魔力や闘気の総量の倍くらいを送り込んでみる。イキナリ倍かよとか思われるかも知れないけど、B-ランクの魔力と闘気を送り込んだりする様な無茶はしてないんだから大丈夫。
と言うか、倍程度ならば失敗しても危険はないし、その程度はこなしてくれないと困る。
「本当に、イキナリなんだから・・・・・・」
ぶつくさと文句を言いながらも、実感苦しそうだけどもキチンと制御できている。
「うん。制御できたようだね。それじゃあ今度はその力を使ってみようか。俺に向かって攻撃魔法と闘気砲を撃ってみて」
「良いんですか?」
「問題ないよ。そもそも、その程度の力で俺の防御障壁が破られると思う?」
「いえ、まったく。」
「そんな訳だから、キミの得意技を見せてよ」
どんな魔法や戦い方を得意としているのかも、キチンと知っておかないといけないからな。
さて、彼はどんな手を見せてくれるかな?
気軽に早くと急かす俺の様子に、諦めたのかレーゼ少年は一つ溜息を付くと、気を引き締めて集中する。
そして、まずは魔力を魔法に変える。これは高度に圧縮されたプラズマ。圧縮されたプラズマを放つプラズマレーザーを俺に向けて放ち。同時に横に回り込みながら一気に距離を詰める。そして、プラズマレーザーが俺の防御障壁に当たると同時に、全闘気を剣に集中させ、闘気剣。オーラブレードと成して斬りかかる。その一閃は見事と言って良い。どうやら、彼は剣術を取り入れた近接戦闘と魔法を合わせた戦い方を得意としているようだ。
「当然ですけど、まったく相手になりませんね」
「いや、結構良い攻撃だったよ」
そう言って、掴んでいた剣を放す。力を見るついでに少し驚かせようと思って、剣は防御障壁で受けずに2本指で挟んで受け止めてみた。
勿論、闘気剣の力と同等以上の闘気をまとってだ。そうしないと指が吹き飛んでしまう。
それにしても、どちらも良い攻撃だった。
魔法も闘気剣も、力を無駄に拡散させる事なく、シッカリと力を集中させ、出来る限り圧縮させていた。
結果、通常の倍近い威力を出していたのだ。これは純粋に彼の才能だ。
「どうやら、魔法や闘気の使い方については、特に教える必要はなさそうだな。後は、自分の魔力と闘気の総量を上げていけば、キミは確実に強くなれるよ」
なんと言うか、この年でここまで完璧に戦い方が、戦闘技術が身についているとは驚きだ。彼の才能なのか天人が超スパルタなのか、おそらくは両方だな。
「それじゃあ、次は3倍の魔力と闘気でやってみよう」
「ちょっと待ってくださいよ。少しは休ませてくださいよ」
「問答無用」
「・・・・・・いくらなんでも、スパルタ過ぎると思うんですけど」
もう心身共に疲れ切ったとばかりに倒れこんだレーゼが、息も絶え絶えになんとか恨み言を漏らして見せる。だけどそれは悪手だ。
「うん。無駄口をたたく余裕があるなら、これからの修行も大丈夫そうだね」
「これからのって、まだ終わりじゃないんですか?」
冗談じゃないとばかりにがばっと起きだすけど、だからそれも悪手だって。
「ほら、まだまだ動けるじゃないか。はじめに限界を見極めておきたいからね。今日は動けなくなるまでトコトンやるよ」
「そんな・・・・・・。カンベンしてくださいよ・・・・・・」
そう言いたくなる気持ちは判るけどね、
「この程度で音をあげていたんじゃ、とてもじゃないけど魔域の活性化を生き残れないぞ」
「活性化はしばらくは起きないんじゃ?」
「それはないね。カグヤの封印が弱まっていると予想される以上。これからはむしろこれまでより発生確率が高まるだろうよ」
まだまだ認識が甘いみたいだな。
これも現状を把握するための重要な要素なのだけども、本当にカグヤの封印が弱まっているなら、これからはむしろ頻繁に魔域の活性化が起こるだろう。
だけど、それはそれで都合が良い。
本当にカグヤの封印が破られた時のための練習になるからだ。
封印が破られれば、魔域の活性化など比較にならない激しい戦いが永遠と続くことになる。何の心構えもできていないままにそんな激しい戦いに駆り出たされたのでは、混乱と恐怖で満足に戦えないまま甚大に被害が出てしまうのが目に見えている。
だから、短期間で何度となく起きる魔域の活性化は、人々に異常事態が起きているという緊張感を持たせる事ができるし、実際に激しい戦いを幾度とな潜り抜けていけば、経験を積んだことで実力も上がり、戦力も充実してその時を迎えることができる。
そんな訳で、カグヤの封印が破られた時の事を想定して考えれば、魔域の活性化が頻繁に起こるようになるのは別に悪い事じゃあない。
「それに、キミは転生者だ。しかもこの非常時に転生してきた。だからまあ、俺と同じようにレジェンドクラスに至るのも確実。そうなると、レジェンドクラスの魔物を相手にした試練を受ける事になるんだけど、アレはこんなに生易しいモノじゃないよ」
「ホントに地獄じゃないですか。うう。どうしてこんな世界に転生しちゃったんだろう・・・・・・」
本当に気持ちは判るけど諦めろ。
既に転生しちゃってる以上は、どれだけ嘆いてもどうにもならん。
そんなキミに、俺が出来るのはせめて生き残る確率が高くなるように、スパルタで鍛える事だけだ。
そんな訳でバリバリ行く。
因みに、この修行法は、使うのはあくまで俺の魔力と闘気で、自分の力を使い果たす事がないから、精神的にどれだけ疲労困憊していても、実際には疲れている訳じゃないのが鬼畜な所。
最後の最後まで精神的に追い詰めて、もう限界と言う所まで削りきった後に、自分の魔力と闘気を使い果たさせて修行終了となる。
そんな訳だから、残念ながらまだまだ終わりは遠いのだよレーゼ君。
「流石に初日から飛ばし過ぎだと思うけど・・・・・・」
修行終了後、力尽きてピクリとも動かないレーゼ君を、ヒルデが引き攣ったように見ながら言ってくる。
うん。確かに初日からスパルタの鬼畜仕様だったとは思うよ。
「初日だからこそだよ。はじめに限界を知っておかないと危険だからね。それに、最初に限界まで厳しくしておけば、後で変にムリをする事がなくなるから」
何事にも言える事だけども、本人が自覚もないままに無理を続けてしまうのが一番危険だ。取り返しのつかない最悪の事態に陥ってしまう可能性が一番高い。
それを防ぐためにも、まずは自分の限界を知ってもらうのが何よりも重要だと思う。
「色々と考えているんだ」
「まあ、俺もだてに何人も鍛えてきた訳じゃないから」
なんて説明をするとヒルデは感心してみせるけど、キミは俺の事をどう思っているのかな?
一応。キミの師匠なんだけど?
まあ、キミは仲間になった時にはもうSクラスに成っていたから、実感があまりないのかも知れないけどね。
「それにしても、キミのあの鬼の修行に最後までついて行くなんて、この子凄い。うかうかしていたら追い越されてしまいそう」
「この子もレジェンドクラス候補の1人だからね」
実の所、彼女もその候補の1人なんだけどね。
「そう思うなら、明日からキミも参加すればいい。この子もその方が安心するだろうし、キミにとっても得るモノは大きいと思うよ」
「それは、考えておくね。流石にすぐには決められないよ」
まあ、今日の惨劇を見ていたんだからそうなるよな。
自分で自分のやった修行を惨劇と言い切ってるよ・・・・・・・。
実際、そうとしか言い切れないんだから仕方がないけどね。それにしても、この子は本当に最後までよくついて来たものだよ。
実際の所、俺はこの修行法を試した事がないからどれだけ大変か判らないんだよね・・・・・・。
えっ? 無責任だって?
仕方がないじゃないか、そもそも、俺より魔力と闘気の総量が多い人が居ないと、この修行法は出来ないんだから。
気が付いたらES+ランクにまでなっていた俺には、そもそも、この方法をしてくれる相手が居なかったんだよ。
「さてと、今日の所はこれで終わり。明日はどうなるかな?」
出来ればヒルデも一緒に参加して欲しいのだけど、今はまだレーゼの力不足かな。
でも、この調子なら数日後には彼はB-ランクになっている。
そうなればヒルデと一緒に修行するのに問題はなくなる。ハテサテ本当にどうなるか、今から楽しみだ。




