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「さて、判っているとは思うが、貴公にこの子を任せる」
「それは判ってますけど、本人の気持ちはどうなんです?」
レーゼが新しい仲間になる事くらいは初めから解っている。
問題は、本人が納得しているかだ。
「えっと、どういう事でしょう?」
「つまり、キミがココに連れてこられたのは俺たちの仲間に、ついでに俺の弟子になるためなんだよ」
「仲間、それに弟子ですか?」
コテンと首を傾げるレーゼ少年。
因みに、彼は今の段階でC+ランクの実力を持っていて、もうすぐB-に上がるだろうとの事。12歳の年齢を考えれば優秀。
「正確には、その本に書かれている修行法をするだけだから、俺の弟子になる必要はないんだけどね。その代わりに仲間になるのは確定かな」
「うむ。其方にはヒルデと共にアベル殿の元で世界の守り手となってもらう」
世界の守り手とか、荷かたいそうなフレーズが出て来たな。
自分で言うのもなんだけども、世界を引っ掻き回す疫病神の間違いじゃないかって気がするよ。
「世界の守り手ですか?」
「そり本にも書いてあるけど、10万年前、当時の転生者たちが大2の月カグヤを造るまで、この世界は今とは比べ物にならないほど激しい魔物の侵攻を受けていた」
「それは知っています。カグヤは魔物の侵攻を防ぐ封印結界であると、でも、それを造ったのがボクたちと同じ転生者だったんですか」
「そう、当時の転生者たちは激しい戦いと多くの犠牲の果て、カグヤによって魔物の侵攻から世界を救ってみせた。しかし、同時にカグヤによる守りも、恒久的なモノではない事も理解していた。およそ10万年、でカグヤによる魔物の封印が破られる事が予想された」
それが幾度となく繰り返されてきた歴史だと、およそ10万年周期で封印が破られ、新たな封印が成される。そうやってこの世界は魔物の侵攻に抗い続けて来たのだと伝える。
「そんな歴史があったなんて、それに、10万年て事は・・・・・・」
「そうだ。いずれカグヤの封印が破られる可能性がある。俺たちはその時のために行動している」
具体的には、まずカグヤへ行けるように体制を整える事、10万年前の転生者たちが、封印がいずれ破られるのを予測していたのならば、更にそれに対抗する手段を残しているかも知れない。それを確認する為にも、いずれはカグヤに至るのは決定事項だ。
そして、その為でもあり、同時に封印が破られた時に対抗できる様に、まずは強くなり、そして10万前からその時のために残された遺産をいつでも使える様にして置く事も常用な役割だ。
「俺自身も参戦した2回の魔域の活性化、アレは明らかに異常だった。それを考えれば、カグヤの封印は既に破られ始めている可能性もある。それでも、まだ完全に破られるまでの猶予は100年はあるだろう。それまでにどんな事が起きても対抗できるように準備を進めないといけない」
「あの、話が重大過ぎて困るんですけど、つまり、ボクにも手伝えと?」
いきなり世界の破滅に立ち向かうんだなんて話を困るのは当然だろうけど、話はそんなに生易しくない。
「10万年前には1万人に及ぶ転生者が居たらしい。全員がジエンドクラスにまで至っていたとは思えないけど、想像を絶する戦力だった事は確かだ。そんな彼らが、死力を尽くして戦って、最終的に勝利を収めた時には、彼らの生き残りは100人ほどしかいなかったそうだ。そして、今この時代に生まれ落ちた俺たちには、彼らと同じ役割が背負わされている」
「はい?」
レーゼ少年顔面蒼白。今にも気を失って倒れてしまいそう。
それは、ザッシュやサナ、レベリアも同じで、そこまでシャレにならない事態だとは思っていなかったのがもろ判り。
「うん。実はこの世界は既に滅びに瀕しているらしいのだよ。私たちの最近になって知ったのだけどね。だからこそ、それに対抗しうる体制を少しでも早く築き上げなければならないのだよ」
貴方が言ってもイマイチ説得力がないのはどうしてかな天王。
とは言え実際その通りで、カグヤ封印が破られない様にするに対抗手段が残されていなかった場合、現状の戦力じゃあ、遺跡に残された遺産を総動員しても、圧倒的な魔物の進行に対抗するのは確実に不可能だ。
確かに強大過ぎる兵器が山のように残されてはいる。それでも、俺たち自身の力があまりにも脆弱すぎて話にならない。
カグヤの封印が破られた時、少なくても数人のジエンドクラスが居なければ、そもそも対抗する事も出来ないだろう。一方的に蹂躙されて終わりか、この世界、星ごと魔物を道連れにするくらいしか選択肢はないだろう。
「俺も含めて、最低でも4・5人はジエンドクラスが必要だろうからな」
「はい? それってどんな戦力ですか?」
「いや、最低でもそれくらいの戦力は、後100年の内に用意できないと、話しにならないから」
気持ちは判るけどね。もう、これまでの常識なんて通用しない世界に、キミはもう片足を突っ込んでいるんだよ。天王ゲーテムンデの策略の所為だと思って諦めてくれ。
「その上、そんなシャレにならない時代に転生してしまった俺たちは、当然の様に、最前線で戦い続けないといけない運命にある訳だ。と言うか、その為にこの世界に転生させられた感じだな」
自分たちの運命を知って転生者4人の顔が真っ青になる。
「あの、それっていくら何でも酷すぎませんか・・・・・・?」
「俺もそう思うけど、どの道、死にたくなかったら戦うしかないんだよ。封印が破られれば、何処に居たって安全なんてないんだから」
それこそ、現れた瞬間に抹殺しなければ星ごと破壊されかねない様な凶悪な魔物が次から次へと現れて来る事になるんだから、何処に居たって安全なんて皆無だ。
最前線に居ようが、シェルターでふるえていようが、どの道、死ぬ時には死ぬ。
「・・・・・・・恐ろしすぎる。なんでこんな世界に転生しちゃったんだろう」
それは多分、このネーゼリアに転生した全員が、一度は思う事だと思うぞ。
「まあ、嘆いても現実は変わらないから、生き残る可能性を少しでも上げるために、努力するしか道はないかだよ」
「生き残るためじゃなくて、生き残る可能性を少しでも上げるためなんですね・・・・・・」
「それについては、取繕っても仕方がないからな」
現実問題として、今のままじゃあ生き残る事なんてどう足掻いても不可能。
10万年前には、ジエンドクラス級が1万人以上いてなんとか対抗出来たのだから、実際の所、ジエンドクラスが数人いたくらいでどうにか出来るかもはなはだ疑問。
要するに、カグヤにこの事態に対抗しうる手段が、封印が破られる事を防ぐ方法が残されていなかった場合、ほぼ確実に終わりなのだ。
「まあ、本当に絶望的な状況なのは確かだけども、それでもこの世界は、同じ危機的状況を永遠と、幾度となく繰り返しながら乗り越え続けて来たんだ。俺たちでもなんとかできる可能性はあるさ」
「そんな事言ったって・・・・・・」
まあ、慰めにもならないのは事実だよな。だけど、彼だけが不幸な訳じゃない。要するに、こんな滅びの危機と常に隣り合わせな世界に生まれた全員が不幸なのだ。
「まあ、この世界に産まれてしまった時点で逃れられない運命だったと諦める事だよ」
何か転生者が4人揃って、本当に絶望の底に突き落されたような顔をしているけど、まあ頑張ってくれ。
「それで、見付けられた転生者は彼だけなんですか?」
「フフ、鋭いの。確定したのはレーゼだけだが、若にも可能性がある者は数人おる」
無事に? レーゼも仲間になり、一先ず解散となった所で、俺はゲーテムンデ天王を呼び止め、2人で話したいことがあると2人だけになってすぐに切り出してみると、悪びれもなくサラッと白状してみせた。
ヤッパリな。どうも怪しいと思ったら、当たり前のように転生者らしき人物をほかにも隠していやがった。
「ほぼ確実に転生者と思われるのが後2人、残りは3人は確定が持てず、後の5人は、君がさっき言ったように前世の記憶を取り戻していないと思われる」
後10人、転生者候補がいるのかよ。何をどうやったらいきなりそんなに出てくるんだよ。
これまでに会った転生者はレーゼを合わせても4人だけだぞ。
まあ、実は気付いてないだけでこれまであった人たちの中にも転生者がいたのかも知れないけど・・・・・・。
今になって考えると、ライオルとか実はそうなんじゃないかとか思えてくる。
魔力と魔法を無視して、陶器と肉体だけを鍛えるとか信じられないバカなこと、よく考えてみると実に転生者らしいんじゃないだろうか・・・・・・。
考えてみるとありえそうで怖い。まあ、今度会った時にでも聞いてみよう。
「どうやって見つけ出したのが非常に気になるんですけど」
それより問題は、探せばこうやって転生者と思われる人物が相当数見つかることだ。それはつまり。
「フフフ。良い反応を見れたことだしそろそろネタ晴らしをしよう。ヒルデはまだ知らないが、我が天王家には転生者の血が流れているのだよ。4万年近く前の天王が転生者であったそうだ。レーゼに渡したかの本もその方が残された物。そして、我が天王家には、いずれ来る時のために転生者を探し出す方法が伝えられている」
そう来たか・・・・・・。
となると、残りの10人もほとんど確実に転生者な訳だ。
ついでに、その方法を使えば俺たちの中にほかに転生者がいるのかいないのかもハッキリするな。
それはともかく、問題なのは見つけ出す方法さえあれば、簡単にそれだけの数の転生者を見付けられた事。つまりは・・・・・・。
「しかし、実際に使ってみて愕然とした。まさかこれほど簡単に、10人以上も見付かるとは」
「それはそのまま、時が近いことの証拠ですからね」
勿論、絶対じゃあない、それでもこの状況は、カグヤの封印が破られる時が近い証でもある。




