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「もう勘弁してください。こんなにボロボロになって、もしもレジェンドクラスの魔物が現れたらどうするんですか・・・・・・」

「その時は、当然キミが1人で討伐するんだよ」


 何を当然の事を、そもそも、レジェンドクラスに至った者に課せられる試練なんだから、他の誰かの手助けなんてあるハズがない。


「本当に、御2人ともオニですね」

「この程度で根をあげる方が悪い」


 恨みがましいライオルをレオシルスがず一刀両断。


「大丈夫、大丈夫。俺たち相手にソコソコ戦えたんだから」

「ソコソコって、手加減された上で一方的にボコボコにされただけじゃないですか・・・・・・」


 嘆かない嘆かない。ある程度はこっちの動きに対応できてただけで十分なんだよ。

 まあレジェンドクラスに、同じ高みに至ったと思ったら、全然足元にも及ばないってハッキリ理解させられたんだからへこむのも当たり前かも知れないけど。


「それはそうだよ。キミはまだレジェンドクラスに至ったばかりで、自分の力も満足に使いこなせていない。要するに仮面談会なんだから俺たちはまだまだ及ばないよ」

「そういう事だ。悔しいなら早く力を使いこなせる様になってみせるんだな」


 逆に、もしもライオルが俺たちに対抗できるようだったら、本気で俺たちの方が立場がなかったのだよキミ。


「自分では良く判らないのですが、やはり、我はまだ己の力を使いこなせていないのですね」

「当然。レジェンドクラスの力はSクラスまでとは次元が違うからね。今までと同じやり方で使いこなせるモノじゃないんだよ。その辺りは、すぐに実感する事になるハズだよ」


 俺自身、散々それで苦労したからな。後で聞いたけど、ミミールやレオシルスも同じだったそうだ。

 と言うか、そもそもレジェンドクラスになって、力を使いこなせる様になるのに苦労しなかった人物なんか歴史上居ないんじゃないかって話らしい。

 うん。俺としては、10万年前の超絶チート転生者とか、一部例外はあるんじゃないかなって思うけど、基本的には同意見だ。


「先は果てしなく遠いと言う事ですね」

「そういう事。それに、この前の試合を見て、俺とレオシルスにも純然たる力の差がある事はハッキリしたろ? 上には上が居るんだよ」


 実際問題として、あれから俺も多少は強くなったけど、それでもレオシルスには遠く及ばない。試練が終わる時にはレジェンドクラスでも最上位の魔物を仕留められたし、つまり、レジェンドクラス最上位の力は持っているハズなのに、全く力が及ばないのだから本当に理不尽だ。


「それはそうさ。何と言っても年季が違うからな。そうそうヒヨッコに負けられやしないさ」


 俺にも立場があるからなとの言葉は正しくその通りだろう。ある意味で、彼も必死だったのかも知れない。

 メンツとか面倒くさい話ではあるけど、新参者に負ける訳にはいかないのも確かなんだし・・・・・・。

 と言うか、俺にとってももう人事じゃない。これからライオルが力を使いこなせる様になった後に、万が一にも負ける様な事があったらシャレにならない。


「まあとにかく、そろそろ戻ろうか、どうやら今日は試練も始まりそうにないし」

「そうだな。一応は警戒してたが、初日からはないみたいだな」

「本当ですか、家に戻って一息ついた所で、イキナリなんて事はないのですね?」


 今更な話であるけど、ライオルは当然だけども獣人の国スピリットに自分の家を構えている。いくつかの防衛都市と王都に屋敷がある訳だ。

 これまた今更だけども、ライオルは俺より年上なのは当然だけど、実はミランダよりも更に年上であったりする。と言うか、実は400歳ちょうどで、かなりブッチギリの年上だったりする。

 それで、そんなライオルがSクラスになったのは100歳の時で、以降、300年もSクラスとして魔物の討伐に明け暮れていた訳だから、彼の総資産は当然だけどもとんでもない額になる。

 その上、普通のSクラスは錬金術や魔工学を専攻して、自分専用の装機竜人を造り上げるのにかなりの額を散財するのに、この脳筋はソッチ方面に一切興味がないから資産は貯まる一方。そんな資産総額を示すような大豪邸を、防衛都市や王都にいくつも構えている訳だ。

 後、この脳筋、実は結婚している。その上、子どもがいるどころか孫やひ孫、玄孫までいる。

 それと、今現在、奥さんは5人いるらしい。

 実はリア充だったりするのだこの脳筋。

 そんな勝ち組だったのに、どうしてあんなバカのままだったのかが本気で疑問である。と言うか、家族の誰かが説得できなかったのか?

 自分の夫や父親が国の恥部とされているなんて耐えられないだろ、俺だったら最終手段として抹殺する事すら視野に入れて全力で説得するけどな。


「そちらの方は心配ないから、帰って奥さんの手料理でも食べて明日の英気を養っておくんだな」

「おおっ、では我はこれで失礼いたします」


 そう言い残すと、嬉しそうに転移魔法でサッサといなくなるライオル。


「アイツ判ってるのかね。明日以降は試練が始まるかも知れないって」

「判ってないと思いますよ」


 本当に判ってないだろうな。今日の調子のままじゃ試練を乗り越えられないって事。

 どの程度のランクの魔物が現れるか次第だけども、今のままじゃあ、力を使いこなせる様になる前にVXランク以上の魔物が現れたなら、その時点で終わりだ。

 実質、今のライオルにVXランクの魔物を倒せる力はない。EXランクの魔物を倒せるかすら怪しい。


「実際の所、この試練は本当に命懸けの、乗り越えられる可能性の方が少ない厳しいモノだ」

「それは身をもって理解してますよ。だからこそ、こうして少しでも乗り越えられる確率を上げようとしているんでしょう」

 

 Sクラスとは次元の違う圧倒的な力、しかし、それを使いこなせなければ宝の持ち腐れに過ぎない。そして、力を使いこなせないままで戦い討伐するのは余りにも強大過ぎる敵なのだレジェンドクラスの魔物は。

 俺の時も本当に良く生き延びられたモノだと思う。

 いくら試行錯誤を繰り返しても、一向に力を使いこなせる様になる気配すらないし、レジェンドクラスの魔物の出現は激しさを増す一方。

 それをどうにかするのに必死で、どうすれば力を使いこなせる様になれるか考える余裕すらなかった。

 実際、あの日々は魔域の活性化なんて比べ物にならない地獄だった・・・・・・。


「試練が始まるまでの間に、少しでもならせられればいいんですけどね」


 俺たちがライオルをしごいているのは、別にイジメている訳じゃない。試練が始まった時、レジェンドクラスの魔物を前にしてキチンと何時も通りに動けるように、下地を作っているのだ。

 レジェンドクラスの魔物と相対した時、まずはじめに感じるのはその圧倒的なプレッシャー。威圧感だ。純然たる殺気と言い換えても良い。

 あまねく全ての者を殺し尽す。

 あまねく全てを破壊し尽す。

 自らすらも滅ぼし尽そうとするかのような、その狂気に包まれた純然たる殺意を前にして、心を乱す事なく平然と受け流し、相対する事が出来るか否か。それでまず、全てが決まる。

 もしも殺気に呑まれて自分を保てなければ、その時点で死が確定する。

 そして、なんとか自分を保ち、戦いに挑めたとしても、その勝算は限りなく低い。

 最善を尽くして、1つのミスもなく全てを出し切って辛うじて勝利をもぎ取れるか否か、そこまで熾烈な戦いを強いられる。

 だからこそ、俺たちはこれから始まる試練はどういうモノなのかを、ライオルに叩き込んでいるのだ。


「まあ、ここまでやってダメなら、アイツはそれまでのヤツだったってだけだがな」


 冷たいようだけども、レオシルスの言う通り、この試練を乗り越えられないのならライオルはそれまでと言う事だ。

 俺たちの出来る事はあくまでも彼に本番を想定して訓練をするところまで、試練が始まったならば俺たちの出来る事はない。例え、俺たちが手を課さなければ死ぬ事になったとしても、その時はその時だ。

 ライオルが死んだ後に残された魔物を倒すだけであって、彼を助けは決してしない。

 厳しいようだけども、それがこの試練の決まりなのだ。生き残られないようなら意味はないとまでに、どこまでも残酷なこの試練の決まり。

 

 出来れば生き延びて欲しいモノだけどな。

 一緒に居る内に情が湧いて来たのか、そんな事を思いながらも、俺は明日はどうなるかなと思った。

 


 幸いと言うべきだろうか、それから3日の内はレジェンドクラスの魔物が現れる事は、試練が始まる事はなかった。

 その間に俺とレオシルスはライオルを徹底的な鍛え上げた。

 そして、遂に運命の時が始まった。


「いよいよですか・・・・・・」


 緊張しているのだろう、ライオルの表情は珍しく固い。


「戦いが始まれば俺たちの支援は期待しない事。この試練はキミ自身の力だけで乗り越えなければいけないのだから」

「判っています。ここまでして頂いて、更に求める様な恥知らずなマネは致しません。御2人に鍛え上げて頂いた我が力、御覧いただきます」


 だけども、声をかければリラックスした表情を見せる。どこまでも自然体で、無理をしている様子はない。


「それじゃあ、シッカリと勇姿を見せてもらおう。オマエは既に俺たちの弟子なんだ。無様な姿を晒すなよ」

「当然です。では、行ってまいります」


 レオシルスにそう応えて、ライオルは悠然と進む。

 その先で漆黒の球体にヒビが入り、空間と次元を切り裂いてレジェンドクラスの魔物が現れる。

 そして、戦いが始まった。



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