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さて、もうすぐ1週間が経とうとしている。
問題のライオルは、本当に理不尽としか思えない成長を見せていて、何時レジェンドクラスに至ってもおかしくはない。
本当に天才という者はいるモノだとライオルを見ているとつくづく思う。
・・・・・・当人は、己の身の不条理を嘆いているかも知れないけど。
この1週間。俺とレオシルスはライオルを相手に実戦訓練を繰り返している。
・・・・・・全力でフルボッコにし続けているとも言う。結果、ライオルはこれ以上ない経験を積み、実力は跳ね上がっている。
それを見ていた全員が顔を真っ青にして振るえていたのは気のせいだ。
「本当に、何時レジェンドクラスに至ってもおかしくないな」
「そうなのですか? 我には判らぬのですが」
「まあ、俺もレジェンドクラスに至った時に何か自覚するような変化があったかと言えばなかったし」
自分の中で魔力と闘気が飛躍的に増大しているのは判っても、レジェンドクラスに至った瞬間に何か劇的な変化が訪れるとかそんな事はない。
Sクラスになった時もそうだったけど、それこそ気が付いたら何時の間にかなっていた程度のものだ。
ただし、レジェンドクラスの場合はなったとたんに試練が始まるんだけど・・・・・・。
「ただまあ、覚悟だけはしておいた方が良い。自分の力を完全に制御しきる。これまでとは比べ物にならない激しい戦いに身を置く覚悟を」
「判っております。それに、アベル殿とレオシルス殿に直接指導を頂き、レジェンドクラスの魔物と戦う覚悟を身に付けさせていただいたのです。このライオル。お二人の温情に恥じぬ働きを見せてご覧に入れますぞ」
どうやら、俺とレオシルスのシバキを好意的に解釈している模様。
人が良いと言うか何と言うか、元々は真っ直ぐなお人好しの好人物だったみたいだ。それが、何をどうしたらあんなバカになってしまったのか、本当に謎である。
「そろそろだと思ていたけど、本当になったな」
一晩あけてみたら、当然の様にライオルはレジェンドクラスに至っていた。本人も、昨日までとは明らかに次元の違う、自身の魔力と闘気の総量に戸惑っている模様。
「まさか、一晩でこれ程力を増す事があるとは思い増しませんでした。これは、我がレジェンドクラスに至ったと言う事なのですね」
「そういう事、それで、力の制御はキチンと出来そうか?」
「今は問題ありません。ただ、戦いとなるとどうなるか・・・・・・」
魔物との戦いの中で解放した自分の力を制御しきれるか判らないと、まあ、それでも現状問題なく力を制御できているのだから一安心だ。
「問題は、何時レジェンドクラスの魔物が現れるかだな」
確かにその通りだ。多少時間を空けてくれればその間にライオルに力の使い方を教えられるのだけども、間をおかずにど怒涛の勢いで現れて来たのしたらどうなるか・・・・・・。
「まあ、とりあえずは出現を警戒しながら、力の使い方を覚えて行こうか」
「・・・・・・・あの、それはつまり」
「勿論、俺たちと本気で戦ってもらうよ」
本気と言ってもあくまで訓練の模擬戦だ。ただまあ、力の使い方を覚えるにはこれ以上ない効果的な方法だ。
何かライオルが死んだ魚のような眼をしているが、気にしてはいけない。
これは彼の為の愛のムチなのだ。
俺の時もミミールとかが模擬戦とかしてくれていたなら、もう少し早く力を使いこなせる様になっていたと思うし。
実際に使ってみる事、そしてその力の使い方を見て学ぶ事は何よりも重要だ。
そんな訳で早速訓練と行こう。
場所は何かあっても問題ないように魔域近くの荒野にする。魔物の討伐とかで冒険者たちが居ない場所にしているよ。
その上で周囲10キロに結界を張る。
「さてと、それじゃあまずは俺とだよ」
宣言と共にライオルに拳を放つ。強力な闘気に覆われた拳は簡単にライオルの防御障壁を砕く。
ただし、ライオルの方も余りにも呆気なく障壁が砕かれた事に驚きつつもまともに受ける様なドジはしない。タイミング的に回避は不可能と即座に判断すると、同じく闘気を纏わせた両腕でガードする。
闘気と闘気がぶつかり合い。圧倒的な二つのエネルギーが相殺されていく。同時に、相殺されきれなかった力が衝撃波となって荒れ狂う。
「がはっ・・・・・・」
そして、俺の一撃を受け止めきれずにライオルが吹き飛ぶ。
音速の100倍近い速度で吹き飛んだライオルの後方に回り込んで、ケリの追撃を咥えるけど、これにも何とか対応してみせる。吹き飛ばされた勢いを利用して横にずれる。そして、そのまま逆にケリを放ってくる。
うん。反応は良いけど対応としてはまだまだだな。此処はケリじゃ何と魔法や闘気砲などを使うべきだ。肉弾戦闘に拘っていた悪癖がまだ抜けきってないな。
俺は躱されたケリでそのままライオルのケリを迎え撃つ。
これまた轟音とともに激しい衝撃波が荒れ狂い。再びライオルが吹き飛ぶ。
これで判ってなければお仕置きだな。
闘気による肉弾戦じゃあライオルに勝ち目はない。何故かなんて言うまでもなく、純粋に力が及ばないからだ。だから俺の力に耐えられずに吹き飛ばされてしまう。
少なくても、格闘戦を挑みたいのならば俺の攻撃を尽く避けられるだけの見切りが必要だ。
だが、残念な事に格闘戦の経験や技術は確かにライオルの方が上だが、速度については完全に俺の方が上だ。自分よりもはるかに速い相手の攻撃をいなすのはどれほどの技術をもってしても、事実上不可能だ。
フィクションでは、武道の達人が自分よりもはるかに強いハズの相手を、その高い技術で翻弄するなんて場面があったりするけれども、突き出した拳が生み出す衝撃波だけで鋼鉄の装甲が量子崩壊を起こすレベルの戦いにおいては、技術の差だけでは何の意味もないのだ。
「さて、次はどうする?」
そう言って俺は再び、吹き飛んだライオルの後方に回り込む。
俺に回り込まれた事を察知したライオルは、今度は範囲展開型の攻撃魔法を使う。
良い判断だ。攻撃魔法を身に纏って、そのまま自身を弾丸とする訳だ。
それに対して、俺も展開型の攻撃魔法で迎え撃つ。魔法と魔法がぶつかり合い。相殺されていく。
このままともに魔法が相殺されつつ激突するかと思ったら、ライオルが闘気砲の準備をしている。成程、本命はソッチか、中々考えている。
激突寸前でライオルが闘気砲を放ち、俺も同じく闘気砲で返す。
至近距離でぶつかり合った2つの闘気砲は、相殺される間もなく弾け飛び破裂する。その衝撃波に乗って俺もライオルも後方に飛んで距離を取る。
別にあの程度の爆発で吹き飛ばされたりはしないけど、仕切り直しに距離を取るのにはちょうど良かった。
さて、次はどうするかと思っていたら、ライオルの方から仕掛けてくる。どうやら、様子を窺っていてもどうにもならないと割り切って、一気呵成に攻め続ける事にしたようだ。
数百の魔法を撃ちこみながら一瞬で距離を詰め、連続で拳を撃ち出してくる。まさしく弾幕だ。1秒に200を超えるパンチを繰り出しながら、同時に魔法や闘気砲、或いは闘気でつくった刃、闘気刃を織り交ぜてくる。
うん。戦い方は実に正当方だ。極めて合理的で隙のない戦い方と言える。
全ての魔法を撃ち返し、嵐のようなパンチを尽くいなしながら考える。
体術も織り交ぜながら、決して隙をつくるケリなどは使わない。洗練された格闘技術の全てを費やして挑んできている。速度では絶対に敵わないと判っているからこそ、俺に攻撃の機会を与えない連続波状攻撃を続けているんだ。
実際、今のところ捌くのに手一杯で攻撃に移れない。だけども、それはあくまで今のレベルではだ。
こうして戦ってみてハッキリしたけど、当然ながらライオルはレジェンドクラスの力を使いこなせていない。
正直、宝の持ち腐れレベルだ。まあ、それについては俺も人の事をとやかく言えない。使いこなせる様になるまで随分時間がかかったし。
て言うか、万が一にもココで簡単にライオルに力を使いこなせる様になられたりしたら、俺の立場が本気でない。
それよりも、心配だった力を暴走させる様子がないのが何よりだ。
このまま経験を積んで行けば、いずれは力を使いこなせる様になるだろう。
だけど、今回はこれ以上やっても無駄だな。
そんな訳で、一気に終わらせる事にする。ライオルが纏う闘気と魔力の総量に合わせて押さえていた力をほんの少し解放する。
ライオルの闘気と魔力と比べて1、2倍程度の力にしておく、余り上げ過ぎるとライオルが耐え切れないかも知れないからな。流石に、俺の手で殺すつもりはない。
さて、俺の変化を感じたのか全力で放たれるストレートを無造作に弾き飛ばして隙をつくる。そしてポティに掌底を叩き込む。
ライオルは何とか避けようとすると同時に全力で防御障壁を展開、更の闘気の鎧を最大主力でその身に纏う。
その全てがムダだけどね。俺はバックステップで距離を取ろうとするライオルに容易く迫り、まずは防御障壁を砕く。と同時に転移魔法で離れるライオルに、同じく転移魔法で無効化する。
再び防御障壁を展開しようと汁がその時間を与えずに掌底を叩き込む。
闘気を螺旋状にして撃ち込んで掌底は、容易くライオルの闘気の鎧を砕き、その身を砕く。
「があっ・・・・・・」
うめき声をあげてその場に崩れ落ちるライオル。
全身の骨が砕け散っていて、筋肉もズタズタに引き裂かれているから、指一本動かせないだろう。
「はいお終い。まだまだだね」
そう言いながら回復魔法でライオルを癒やす。
「なにもココまでしなくても良いのではないですか・・・・・・」
「そうかな、痛みで集中力が途切れても力を暴走させずにいられるか、それを知る為にも必要だったと思うよ」
やられた本人としては堪ったモノじゃないのは判ってるけどね。
「そうだな。さて、次は俺が相手だ」
俺との戦いが終わったと思ったら、待ちかねたようにレオシルスがスタンバイしているのに、ライオルは本気で絶望して面持ちで深く溜息を付いた。




