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「驚いたぞ。はじめから試合は引き分けで終わらせるつもりだったが、まさか自力で引き分けにまで持ち込んで魅せるとわな」
「そうしないと死んでいたんだから当然でしょう。何度死を覚悟した事か・・・・・・、もう二度とゴメンてすよ」
レオシルスは心の底から楽しそうだけども、俺の方は何とか返事を返すだけで精一杯だ。
体を動かす気力すら残っていない。
試合が終わって、俺たちは今スピリットの王城に居る。
だが、戦いが終わると風呂に入ってそのままビールを飲んでいるレオシルスと違って、俺はソファーに横たわったまま指一本動かす気力も残ってない。
「いや、レジェンドクラスの超越者に至ってまだ1年足らずであれほど力を使いこなしておられるのだ、アベル殿才能は計り知れぬよ」
おそらくは正直な感想を口にするのはこの城の主、クリスの父である獣王レオン。
「そうは言っても、判っていても此処までの力の差を見せ付けられると」
「力の差って、自力で引き分けにまで持ち込んで魅せた奴のセリフじゃないぞ」
「そうは言っても、アナタの方はまだ全力じゃなかったでしょ」
こっちは全力以上を、120パーセントの力を使って辛うじて引き分けに持ち込めたんだ。実力以上の力を発揮できたのは限界までフル回転させた予測演算魔法のおかげ。
未来予知どころか因果律操作にまで手を出したおかげて辛うじて負けずには済んだモノの、反動でしばらくは身動き一つとれない。、
「それは当然だろ。どれだけキャリアが違うと思ってるんだ? むしろ、ココで万が一にも負けでもしたら、俺の面目が丸潰れだよ」
「アベル殿が余りの勢いで成長なさるので、レオシルス様をも必死でいらっしゃったご様子ですね」
「全くだよ。正直、カンベンしてくれって思ったぜ。天才なのは判っていたけどまさかこれ程までとわな」
なにか二人でヤレヤレみたいな感じで言っているけど、はじめから俺を鍛えるつもりでいたのは判っているだけに何を言っているんだって気になってしまう。
それでも、実際には完敗だったと言うか、そこまですら行けなかったのが判っているから、少しでも相手の予想を超えられたなら、裏切れたならばそれは結構嬉しい。
「と言うか、俺はまだしばらくは動けないし、疲れているんで話なら後にして欲しいんですけど」
疲労がそのまま睡魔に変わってきているので、このまま眠って終い所なんだが、この2人が邪魔で眠れない。
「おっと、すまない。なに、話は簡単だ。お前の指導を受けてライオルは僅かな器官で飛躍的に強くなった。これは元々、本人にそれだけの資質があったって事なんだろうけど、どうだ、お駒から見てアイツはレジェンドクラスに至れると思うか?」
「その事なら、俺よりも良く判っているんじゃないですか? このまま行けば、家具実にそう遠くなく至りますよ」
実際、既にライオルの実力はミランダをはるかに上回っている。最早レジェンドクラスと称してもおかしくない程に魔力と闘気の総量は膨れ上がっているのだ。
・・・・・・ハッキリ言って、俺なんか目じゃない程に成長率が異常だ。
あった当初は精々C-ランク程度の魔力しかなかったのが、既にSクラス、SSSランク相当にまで魔力が急成長している。この調子で成長し続けるのなら、下手をすると後1週間もしないで、あのバカはレジェンドクラスにまで至るだろう。
「そうか、お前から見ても確実か・・・・・・」
「本当に困りましたな・・・・・・・」
何か思いっきり沈痛な顔をする2人。
いや、理由は思い当たる。確かに大問題だろう。シャレにならないくらい頭の痛い事案だろうよ。
「正直、国の恥部であったあのバカがレジェンドクラスに、世界の守護者の一角になるなんて思いもしなかったんだよ・・・・・・」
「あの者もアベル殿たちに敗れ、己の未熟さを知って少しずつ人として成長しているのは確か、それでも、国を背負うとなれば最低でもあと数十年は学んでほしい」
それは心の底からの願いだろう。
多少はマシになってきているとはいえ、ライオルには前科がありすぎる。
場合によっては一週間もしないでレジェンドクラスに至ってしまうなんて彼らにとっては絶望以外の何物でもないだろう。しかも、レジェンドクラスの力を持ったことで増長し、またバカに逆戻りする可能性もある。彼らにしてみれば気が気ではないだろう。
「心配はわかりますけど、あれは一種の天才ですから、長年開花されないまま燻っていた才能が解き放たれた以上、もう止められないと思いますよ」
本当に、どうして闘気だけを鍛えるなんて理解不能な馬鹿げた真似をして、その才能を腐らせていたのか理解不能である。ごく普通に、魔力と闘気の両方を鍛えていたなら、俺よりもずっと前に彼が5人目のレジェンドクラスになっていたはずなのに。
まあ、もしも実力があっても以前のバカなままだったなら、レジェンドクラスに至る前にレオシルスに抹殺されていたと思うけど・・・・・・。
「天才か、確かにそれは認める。だが、正直アレに試練を乗り越えられると思えんのだ」
成程、確かにソッチの問題もあるな。
レジェンドクラスの超越者が誕生した時に発生する試練。家具屋による封印が突如として弱まったかの様に意図的に、レジェンドクラスの魔物が現れる。
それを打ち倒し、自らの得た力を使いこなせるようになる事こそ、新たなレジェンドクラスの使命な訳だけども、正直、ライオルに果たせるかはかなり疑問だ。
「・・・・・・そう言われると、俺も自分の力を制御できずに暴走させてしまいそうな気が」
「・・・・・・流石にそれはないだろうと言いきれないのが怖い」
「そんな事になったら、下手をすれば国が滅びますよ・・・・・・」
俺もレオシルスもレオン王も、ライオルがレジェンドクラスになった時の危険際に慄く。
まさかとは思うが、そのまさかを実際にやってしまうのがライオルだと思う。
「まあ、もしもの時は俺がどうにかする予定だが、アベルにも手伝って欲しいのだ」
「それは、構いませんよ。俺にも責任がありますし」
ライオルがレジェンドクラスに至るなんて危険な非常事態を引き起こしたのは間違いなく俺たちの責任だ。ならばその後始末までシッカリと責任を持って全うしなければいけない。
「それにしても、クリスからアベル殿が来れば必ず国を揺るがす事件が起きると言われましたが、確かに起こりましたがこれは我らの墜ち度ですな」
「あのバカを何とかできずにいたのが原因だからな。あのままバカのままでいて貰っても困ったし、ようやくバカじゃなくなっても手をかけやがる」
「いやまあ、俺たちが心配し過ぎっていうか、全く信用してないからですけど」
「「アレを信用しろと言う方がムリだ」」
まあそうだよな。
信頼がないのは完全にライオルの自業自得。むしろ、これまでの所業からして信用しろと言う方がムリな話だ。
・・・・・・その辺りの事は、流石に本人も自覚しているらしい。「これからは皆に信頼され、心から頼られる強者になるべく努力していく所存です」とか弟子入りし眼の時に言ってたし。
「まあ、本人もこれからは人から信頼される人物になりたいらしいですから、その内こんな心配をする必要もなくなると思いますよ」
「だと良いんだけどな。だとしても、今はまだ早々簡単に信用できんよ」
「それは確かに、て言うか俺もまだ信用しきれてないし、だからこそ、俺もアイツがキチンとレジェンドクラスになるまでは一緒に居るつもりですよ」
キチンと見届けるとなると2・3ヶ月くらいはかかるかな?
まあ、ユグドラシルでもレイザラムでもそのくらい滞在したし問題はない。後は・・・・・・。
「後は他に問題が起きないといいんですけど」
「「・・・・・・・・・・・・」」
2人とも沈黙してしまうのは、何事も起きないと言い切れないからだろう。
と言うか、ライオルは色々とバカをやらかしていて、結構恨みとかも勝っているらしいので、その辺りからまた余計なトラブルとかが起きるのも確実らしい。
いや、既にいくつか諍いは起きているんだけども、かつての自分の身勝手さを理解したライオルが相手に素直に謝罪していたりするから、今のところ特に問題になっていないんだけど、このままで済むとも思えないんだよな。
「と言うか、ライオル関係で問題が起きそうなのもほとんど確定なんですけどね」
「「・・・・・・はあ」」
俺がライオルが昔やらかしたバカの関係で、何回か騒ぎになりかけた事を話すと2人は揃って溜息を付く。
過去の自分の失態をきちんと謝罪できるようになっている事には驚いたと言うより感心したみたいだ。
「それと、こういう話は本人も交えた方が良いのでは?」
「そうだな、話を聞いた限り、今のアイツならこの場に呼んでも良いだろう」
本当に信用がないな。まあ、彼らにしたら信用する要素がカケラもないのも当然だろうけど。
そんな訳で、早速ライオルが、問題の張本人が呼ばれる。
「我をお呼びとの事ですが?」
「ああ、今ちょうどキミの事を話しててね。一緒に話を聞いてもらった方が良いだろうと思って」
「我の事をですか?」
ライオルは困惑したと言うより、あまり良い話をされてはいなかったんだろうと本能的に気付いた様子だ。
「そう、キミはこのまま成長し続けるなら、早ければ1週間後にはレジェンドクラスに至る」
「まことですかっ?!!!」
「ウソを言っても仕方ないだろ。でだ、問題はレジェンドクラスに至った後、キミが自分の力をキチンと使いこなせるか、試練を無事に終えられるかなんだよ」
力を使いこなせずに暴走させてしまったり、レジェンドクラスの魔物の討伐に失敗してしまったりすればそれこそ国が崩壊するレベルの甚大な被害が出てしまう。ついでに、バカをやって他ライオルの被害者による報復などで面倒事が起きそうだとも説明する。
「普通はこんな心配はしないんだろうけど、キミの場合は色々と前科が多いから」
「申し訳ございません」
「謝らなくても良いよ。これから気を付けられるならね。それよりもまあ、そんな訳で色々と不安だから、俺とレオシルスが万が一の時にはサポートに入るって話をしていた訳」
「そういう事でしたか。ご面倒をおかけして誠に申し訳ございません」
激高する事もなく、深々と頭を下げて謝罪してくる。本当に、変わればば変わるモノだ。
レオシルスとレオン王も、殊勝なライオルの態度に驚くと共に、これなら大丈夫そうだと胸を撫で下ろしている。
「本当に、何事もなく無事に終わってくれれば、それに越した事はないんだけどね」
自分で言ってて、絶対に無理だろと確信しているけど・・・・・・。




